朝10時に本部港を出港したフェリーの中には、沖縄の高校のバスケ部員がわんさかいた。
修学旅行生もいる。
そんな学生たちに混じってシャワーを浴び、奄美大島に到着したころには夜21時になっていた。
っていうか寒っ!寒すぎる!!
改めて沖縄の四季の無さを感じる。
沖縄暖かかったんだなぁ。
内地の冬の感覚を思い出す。
奄美大島周辺には徳之島、沖永良部島、喜界島、与論島なんて島々があり、さらにトカラ列島なんていうエリアもあり、沖縄を出たといってもまだまだここから先にも無数の有人島が海に散らばっている。
だいぶ北上してきた感覚だけど、ここ奄美大島はちょうど内地と沖縄の真ん中のあたり。
まだ内地から400km近く離れている。
改めて沖縄ってめっちゃ遠い。
そりゃあんなに異文化だったのも納得だ。
さーてどうしようかねーと、とりあえず大島最大の街、名瀬市に向かった。
尾仁川通りという繁華街にたどり着き、そのまま歌い始める。
まぁまぁネオンの数は多いけど、なにしろ火曜の夜。
人がいない。
でも1曲目の「遠くで汽笛を聞きながら」を歌い終えると、早速おっちゃんが話しかけてきた。
「お兄さん気に入った!!お兄さん今日の宿は?」
「いや、野宿ですけど…………」
「よし。うちのホテルにタダで泊めてあげる!!」
マジかよー!!ラッキーすぎるぜ!!
名刺をもらうと、「ホテルビッグマリン奄美」ってところの常務さんだった。
いきなりすごすぎる!!!
俺が次は宝島に行きたいんですよと話すと、
「よし!!じゃあ僕が全部調べといてあげるから、明日起きたら僕を呼び出して。」
…………なんていい人なんだ。
それから10曲ほど歌い、2000円ほど入ったところで常務がタクシーを止め、俺を乗せてくれた。
ホテルにたどり着くと、そこは立派なビジネスホテル。
「すみませーん、金丸という者ですが。」
「あ、お待ちしておりました。どうぞー。」
もう深夜の1時だぞ…………?
お待ちしすぎ。
部屋に入り、シャワーを浴び、エアコンをガンガンきかせて裸で布団にもぐりこんだ。
ノリの効いたシーツ。
最高だああああああ…………
奄美大島、幸先いいわぁぁぁ…………
死んだように眠って、翌日目が覚めると10時5分だった。
やばっ!!
チェックアウトは10時。
ダッシュでフロントに行くと、
「おはようございます。あ、金丸様でございますね。今から常務を呼びますので、少々お待ちください。」
ロビーにボンヤリ座ってると、コーヒーが出てきた。
俺、ただのしがない歌うたいなんですけど…………
常務がやってきて、色々とフェリーの情報を教えてくれた。
路上で出会ったやつにこんなに親身に優しくしてくれて、常務さん本当にありがとうございます。
何度もお礼を言い、ホテルを後にした。
奄美を出るフェリーは土曜の朝方に出港ということなので、あと4日間この島を出ることはできない。
そういうことならヒッチハイクでぐるっと島を回ってやろうと、早速北に向けて親指を立てた。
西郷隆盛が鹿児島から奄美に流されたときに、3年ほど住んでいたという家を見学し、そこから隣の集落まで歩き、西郷松という立派な松をパシャパシャカメラにおさめ、さらにヒッチハイクで北上。
奄美大島では高校生たちが学校帰りによくヒッチハイクしてるくらいヒッチハイクが一般的みたいなんだけど、逆になかなか乗せてくれない。
沖縄では10分以上待つことなんてなかったけど、ここでは20分、30分なんて当たり前だ。
時間がもったいない。
奄美の人、冷たいいいいいい!!!
やっとこさ止まってくれた車に乗り込んで、奄美最北の用岬に行きたいですと言うと、ドライバーさんが今日のうちに行くのはやめといたほうがいいと言った。
「今日はもう用岬には行かない方がいいよ。あそこは周りに何も無いから、夕方行ったら帰れなくなるよ。君、今日泊まるところは?」
「いや、野宿ですけど…………」
「よし、いいとこ紹介してやる。」
さっきの言葉、ものすごい勢いで撤回。
奄美の人、いい人ばっか。
ドライバーさんは笠利という町の前肥田という場所に連れて行ってくれた。
たどり着いたのは海岸沿いにある郷土料理屋「島ジュウリ」。
庭にいたご主人に運転手のおっちゃんが話しかける。
「彼ね、旅してるんだけど金が無いから泊めてやって。」
「いいよ。」
こんなどこぞの旅人だというのに二つ返事のご主人。
聞くと、ご主人の藤井さんはいつも旅人たちをタダで泊まらせてあげ、その上ご飯まで食べさせてくれるような人なんだそう。
今まで100人近い旅人たちを泊めてきたとのこと。
ありがたく泊まらせてもらうことにして、客間の奥の部屋に転がり込ませてもらった。
やがて夜になり、奥の部屋で本を読んでいると、お店のお客さんが来たらしく笑い声が聞こえてきた。
しばらくすると藤井さんがドアを開けた。
「おぅ。ちょっと2~3曲歌ってくれ。」
「あ、はい。」
7人ほどのお客さんたちを前に2曲歌った。
藤井さんの友達で、ジャンベという太鼓を叩く旅人さんや、三線を弾いて民謡を歌う旅人さんも来ており、賑やかな演奏が続く。
この太鼓のお兄さんは今まで何度も日本一周してる人で、この前までインドの山奥で小屋を作り、言葉の通じない人たちと3年ほど毎日滝つぼで泳いだり、山を走り回ったりしてたという強者で、今はこの奄美で太鼓を作ったりして生活している。
彼の話を聞くと、日本にはあらゆる山にヒッピー達が暮らしてるという。
山にこもり、完全自炊で音楽をしながら暮らしている人たち。
そういえば宮崎の山にも1人こもって彫刻を創ってる人がいたな。
「宮崎には、幸島にジャンベ作りの達人がいるから、そこ行ってみなよ。」
よし。車を取りに宮崎に帰ったときに、幸島に行って自分のジャンベをひとつ作って旅に持っていこう。
宴会が終わったのは深夜1:00ごろだった。
食器を片付け布団に入ると、さっきまで外を走り回ってた犬のブルとチンが俺の体に寄り添って丸くなった。
…………犬と寝るなんて初めてだよ。
結局、翌日も、翌々日も藤井さんの家に泊まらせてもらった。
地元の人たちの公民館の集まりで歌わせてもらったり、山の中で自分で家を作って暮らしてる男の人のとこに遊びに行かしてもらったりしているうちに、奄美大島を一周する気なんてどっか言っていた。
こっちのほうがよっぽど刺激的だ。
夜になると藤井さんと2人で黒砂糖焼酎を飲んだ。
BGMはもちろん元ちとせ。
藤井さんは酔っ払うと自慢話が止まらなかった。
でも彼が寝ると言うまで、彼の自慢話を真剣に受け止めた。
相手をするというと言葉が悪いが、今夜一晩だけでも彼の寂しさを紛らわしてあげることができただけで嬉しかった。
「あー牧口さんですか、藤井ですけれども。あのね、今日本一周してるやつが僕のところに来てるんだけど、明日のフェリーでそっちに行くらしいんだ。面倒見てやってもらえません?」
藤井さんは俺が次に行く島に住んでる知人にそう電話してくれていた。
朝起きると、朝ごはんができていた。
「ほら早く食え。名瀬まで送ってってやる。」
一緒に納豆を食べ、名瀬まで送り届けてもらった。
藤井さん、ありがとうございました。
どうかお元気で。
名瀬までやってきたけどまだ時間があるので、落ちてるダンボールに瀬戸内と書き、親指を立てる。
瀬戸内は奄美大島の下のほうの町で、大島海峡をはさみ、目と鼻の先に加計呂麻島を望むことのできる美しい港町。
元ちとせの出身地でもあり、いたるところに、
「元ちとせ、紅白ねらえ、神の声」
とか、そんなのぼりを何度か見かけた。
一通り町をまわり、名瀬に戻った。
宝島行きのフェリー「フェリーとしま」は明朝4時出港。
今日の夕方には名瀬旧港に入るが、なぜか乗船は21時から~22時までの間だけらしい。
その時間内に船内にいなければ明朝3時まで乗れない。
それまでの時間、路上に歌いに行くか悩んだ。
21時に乗ってしまえば船の中でゆっくりできる。
歌いに行ったら夜中の3時まで乗れない。
俺は喘息持ちなので、喉の調子が悪いときはなるべく負担をかけないようにしている。
今日も、微妙に風邪の病み上がりなので歌うかどうか悩んだ。
今日も自分との戦い。
明日やればいいか、次頑張ろうって考えてしまうことが俺はよくある。
そんな時いつも自分に言い聞かせる言葉。
「今日頑張らないヤツに明日は来ない」
よし!!行こう!!
フェリーに荷物だけ積み、ギターを持って街に出た。
ジョイフルで腹ごしらえして、名瀬の繁華街、尾仁川通りにやってきた。
今日は土曜の夜。
人出もまぁまぁ。
よっしゃ、やったるぜー!!と気合いは充分だけど病み上がりで声が出るか心配だ。
っていう心配をよそに喉の調子良すぎ!!!!
いくらでも高音が伸びる無敵状態に突入。
声出る出る。
千円舞う舞う。
20人ぐらい集まって俺の歌をみんな真剣に聴いてくれた。
11時から始めて3時までだから、4時間も声持つかなーと思ってたんだけど、もー絶好調。
いくらでもかかってこいや!!!
外人さんと一緒にクラプトンの『Wonderful Tonight』やったり、レゲエのラッパーとセッションしたり、聞いてくれてた人たちが大量にビールを買ってきてくれてみんなで輪になって飲んだり。
その中の一組のカップルが近々結婚するというので、腕に覚えのある人たちが交代々々ギターを弾いて祝いの歌を歌ったり。
俺もボズの『We’re All Alone』を歌った。
騒ぎ続けてるうちにフェリーの時間が近づき、最後の1曲アンコール。
みんな知っててサイコーにイカす曲…………これかな。
「今まで~、好きなこともしたし~、たまに我慢もしてきた~」
B’zの『相変わらずなぼくら』が名瀬の街に響く。
若者も中年も男も女も大合唱。
通り過ぎる人たちは立ち止まって手拍子。
「奄美サイコーーー!!」
「胴上げ!!胴上げ!!」
道の真ん中を占拠し、胴上げされた。
胴上げなんて初めてだ。
「マジで頑張ってくれよ!!」
「俺らがいるからよ!!」
マグロ漁師のカズ君がネックレスのトップをブチッと引きちぎり、俺に渡した。
「これは俺がすごく大切にしてるもんだ。つらいことがあったら、これ見て俺ら思い出せよ!!」
みんなと別れてフェリーに戻り、稼ぎを数えてみると19126円もあった。
それにペットボトルのお茶が4本、とんがりコーン2箱、みかん6個、ミルクパン2個…………
あああ、ビールを一気したのが効いてる。
船の揺れで吐きそう。
でも最高の気分だ。
見知らぬ人間同士が音楽を通じて仲良くなり、肩組み合って一緒に歌を歌う。
今のこの気分を、きっと幸せと呼ぶんだろうな。
人と人が出会い、仲良くなる。
それだけで幸せだと思う気持ちがなんとなく分かった気がする。
フェリーがゆっくりと動き出したみたいだ。
あああああああ!!!眠い!!!!
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