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スロットの嘘







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豚の餌やりバイトは全部で7日間だった。

















何頭のブタにローキックをキメたっけ?

何頭のブタにショートアッパーをキメたっけ??



最後の日はエサをあげながらいっぱいお腹をなでてあげた。


動物っていうのは、人間も含め、それぞれの環境に合わせて色んな進化を遂げている。


キリンは高い木の葉っぱを食うために首が長くて、カメは外敵から身を守るために甲羅がある。


ブタはどうしてあんなに太ってるんだろう?


人間に食われるため?


そうじゃないよな。

人間がブタを食うためにあんなに太らせてるんだよな。


鼻がかわいい。















無事、地獄の豚の餌やりバイトが終わり、派遣会社の兄さんが俺たちを救出しにやってきた。


やっとこのジャングルともオサラバだ。


宿の荷物をまとめ、車に乗り込んだ。




帰る途中で「カヤ打バンタ」という場所に寄ってもらった。


切立った断崖絶壁の名前で、カヤの草を投げても上昇気流によって落ちずに舞い上がるので「カヤ打バンタ」というらしい。



すぐこういうとこに立つ。




すぐこういうポーズをする。







それから岬のほうにも寄ってもらった。


柵を乗り越え、せりだした先端から下を覗くと荒波が岩壁に砕けしぶきを上げている。












手すりも何もない、強風が吹いたら即死亡の先端で、沖縄本島の海岸線とわずかに丸みを帯びた水平線が夕日に照らされ涙が出そうなほど綺麗だった。


というわけで絶壁へ。





親不孝の図。






逆巻く波と轟音。


俺はいま、遠く離れた島でこんなことをしている。

地元のみんなは今何をしてるんだろう?





















「明日から石垣島で仕事があって、誰か1人用意しろって言われて困ってるんですよねー。」



那覇に向けて車を走らせていると会社の人がそうぼやいている。


え!?な、なにそれ!?!?


ソッコーで行きますと言った。



ちょうど水曜日から石垣島に行く予定を立てていたのだ。


もちろん自腹で行くつもりだったのに、なんと交通費、宿代、食事代…………全て会社が負担してくれるらしい。



ラッキーすぎる!!!!!



しかも石垣島に行ってくれるんなら豚エサのバイト代も今日払いますと言われた。



マジかよ…………


ほんと、どう転がるかわからない…………

ラッキーすぎる…………











那覇に帰り着くと、ネオンというか、文明が嬉しかった。


1週間、ブタと従業員と弁当屋のおばちゃんしか見てなかったので、あわただしい都会がほんの少し懐かしく思えた。




チャーリーさんの知っている千円宿に泊まることになり、荷物を置いて、もらったばかりの給料を持ってご飯を食べに出かけた。



テキトーに定食屋に入ると、汚いところだったけど、そういうお店こそおいしい沖縄料理が食べられるだろうと、座ってテレビを見ているおばちゃんに野菜チャンプルーとポークたまごを注文。



「は~い」と立ち上がるおばちゃん。1人で全部やりくりしてるらしい。





できあがるまで店の隅にある古ぼけたスロットマシーンで暇をつぶした。


まぁ当然のごとくちっともかからない。



最後の1枚賭けで斜めに「7」がそろったのを口惜しそうにしていたチャーリさん。


斜めが当たりになるには3枚賭けてないといけない。




「こんなもんですね。大人しくしてましょう。」



そう言ったんだけど、彼は何を思ったのか千円札を取り出し、スロットに入れてMAXBETボタンを押した。


斜めにライトがつく。


その瞬間、何を思ったか、



「あー!!そろったでー!!」



と踊りまわりながら大声で叫んだ。



「おばちゃーん!!そろったのにコイン出ーへんがー!!これどないなっとんねーん!!壊れとんちゃうかー!!」



出ないのは当たり前だ。


スロットしたことのある人ならわかると思うけど、ハッタリとかそんなレベルの話じゃない。

ただのバカだ。



“そんなの通じるかよ…………”



と思っていると、「あら、そーねー。」とおばちゃんも納得している。



「何でこれ出ーへんのや!!サギかいなこれ、ホンマに。ちょっと詳しい人呼んでくれやー!!」



叫ぶチャーリーさんの声に、人の良さそうなおばちゃんはおろおろしながらスロットの仕入先に電話をかけ始めた。



「詳しい人が高速に乗ってあと40分くらいで来るはずだから、待っといて。」



「おぅ!!いくらでも待ったるわー!!」




戸惑いながらもちゃんと料理を出してくれるおばちゃん。


良心が痛んで痛んでしょうがなかった。


何度「もうやめましょうよ」と言いかけただろう。


でもチャーリーさんの勢いに押されて何も言えない。


すでに共犯者なのでバレるのが怖いのもあった。


野菜チャンプルーはすごくうまかったけど思うように喉を通らない。



「ホンマ腹立つわー。なんでワシらが待たされなアカンねや。」



と言いながら俺に目配せをするチャーリーさんに押され、俺も心なしか不安げな表情を作っていた。









1時間ほどすると茶髪の50代くらいの太ったおっちゃんが勢いよく店に入ってきた。



「あーこれね。フーン。でもおかしいねー。クレジットが表示されてないねー。…………あんたウソついてるんじゃないの?」



「何言うてんねや!!おばちゃん確認してんのやぞ!!ワシら内地からやってきてそこのホテルに泊まってんのやけど、メシができるまでの間暇つぶそうとしたらこれや!!なめとんやないぞー!!」



「いや、だからね…………」




押し問答を繰り返す2人の横で、相変わらず納得いかないって顔を作る俺。







30分くらい言い合いをしていた2人にやっと決着がついた。


「本当はアンタらの言ってることは通用しないんだよ、ここにクレジットが表示されてないからね。ただ、アンタたちは内地から来てるってことだから私の気持ちで払うから。本当は絶対ダメなんだよ。」



「いや、ほんますんません。わざわざ遠いとこからきてもらって。」



急に腰が低くなったチャーリーさんの両手いっぱいに百円玉が60枚。



「ほんますんませんでした。ごちそうさんでしたぁー。」



と、その百円玉でメシ代を払い、店を出た。




100mくらい「腹立つわー。最悪やわー。」と言ってたチャーリーさん。


しかし店が見えなくなった途端、




「へっ!!ちょろいもんや。メシ食いに行って金増えてもうた。」



ボーゼンとした。


何て悪人なんだと思いながらも、自分も同じだと気付き、さっきまでのウキウキがずーんと沈んでしまった。












宿に戻り、寝る前に美香に電話した。



「一緒に懺悔してあげるね」



今まで散々ワルさをした。

人を裏切ったり傷つけたり…………



過去の過ちを消すことはできないけど、旅に出てからは心が風のように穏やかになってることを実感していた。



それがどうだ。


またもやゴミを撒き散らす暴風が吹いてる。


俺はなんて弱い人間だ。

まだまだ俺はダメな人間だ。



「もうしちゃだめだよ」



美香の言葉が心に突きささる。

もう絶対こんなマネはしない。



自分の心に正直に行動する。

触れあう人たちへの思いやり。


こんな当たり前の文句、子供の頃から言われ続けてきた。


簡単なことなんだ。


こんな簡単なことなのに、俺は何も言わなかった。



新たな決意を自分自身に誓った夜。






【沖縄、旅立ち編】










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