2段ベッドの上で目を覚ました。
時間はもうお昼。
こんな汚い安宿のベッドでも、今までずっと野宿してた俺にとっては天国みたいに気持ちよかった。
寝ぼけながら外に出て、道路に向かう。
今日は前々から目をつけていた観光地に行くことにしていた。
お金がないのでもちろん無料の場所なんだけど、世界遺産にも指定されてる所らしく、ウキウキしながら道路脇で親指を立てた。
気のいいお姉さんが乗せてくれ、一緒に観光地巡りに付き合ってくれた。
最初にやってきたのはセーファーウタキと呼ばれる場所で、巨岩が滑り落ちて出来たような三角形の穴がポッカリと空いており、そこを通り抜けると、木々の間から琉球を創造したといわれる祖神アマミキヨが降り立ったとされる久高島を望むことができた。
他にも琉球王国時代に神官たちが神事の時に利用したとされる数々の巨岩やいびつな鍾乳石を見ることができ、その時代の名残を今に伝えていた。
すぐ近くの海から届く潮風にゆっくりと流れる時間を感じ、シャッターを何度も押した。
最後まで付き合ってくれたお姉さんに別れを告げ、もう1台乗り継いで那覇に戻った。
翌日は宿でボーッとしていた。
日雇いの仕事の連絡が一向に来ず心配してたけど、昨日の夜に電話があり、火曜からいよいよ仕事をさせてもらえることになった。
それまでなにしよう。
なんか宿にどっかの社長の息子という金持ちのボンボンがいたので、ショータ君と、あと千葉から来てるマイクベルナルド似のイヌイ君と3人でソーキそばを食べにいった。
そのボンボンは親に金をたかりながら色々と旅をしているらしいが、今朝も電話で、「ごめん、15万でいいから振り込んどいて」と話していた。
飯をおごってもらうと、ボンボンは早速そのお金でパチンコ屋にスロットを打ちに行った。
信じらんねぇやつだ。
夜になるとボンボンが宿に帰ってきた。
「いやー、爆発しちゃったよー。」
と言いながら得意げにスロットの仕組みやコツを喋ってくる。
ウザいので、じゃあ晩ご飯おごってよ、と言い、戸惑うボンボンを群馬から来てるタカシ君と一緒に無理矢理外に連れ出した。
街に向かう途中でもボンボンの自慢話は止まらない。
女の口説きかただの、ナンパのコツ、俺は博打の天才だとかなんだとか。
タカシ君とウゼー……と思いつつもこっちには金がない。
「へー。」
「ふーん。」
とテキトーに相槌を打ちながら定食屋に入った。
「ビール頼んでいい?」
と聞くと明らかに嫌そうな顔をするボンボン。
「パチンコで勝ったんやろ?俺らの間じゃあパチンコで勝ったらラウンジでみんなに奢らないといけないって掟だったぜ。」
「あぶく銭はパーッと使わないと男じゃないぜ。」
そんなことを言ってビールとラフテーと高い定食をそれぞれ頼んだ。
ボンボンは戸惑いながら喋り続ける。
「僕は食には金に糸目をつけないからね。昨日もそこのステーキ屋さんに行ったし、一晩に飯だけで10万なんて当たり前さ。セコい人間ってカッコ悪いよね。僕はそれだけは嫌なんだ。困ってる人がいたら僕にも慈悲の心があるからね。あ、でも女に金を使っちゃいけないよ。女に金を使ったら負け組だよ。」
「へー。」
「ふーん。」
この上なく心のない相槌を打ちながらご飯をたいらげた。
食事を終えて外に出ると、さすが那覇は観光地。
ナイチャー(内地の人)の女の子がたくさん歩いている。
ボンボンは昔アクターズスクールやジャニーズJr.にも通っていたというかなりの勘違い野郎。
いつも鏡やガラスの前を通ると覗き込んで髪をいじるようなやつなので、面白がってはやしたてた。
「さっきのナンパテク、実践してよ。」
「プロの腕見たいなー。」
「ホラ、あの子たちなんていいんじゃない?」
戸惑うボンボン。
「いやー、あの子たちはちょっと…………」
「えっ?ほんとにー?」
とか言っていつまで経っても声をかけない。
「ていうかナンパとかできないんじゃないの?」
「いやぁ、今日はちょっとねー。あ、トイレ行きたいな。ちょっとここで待っててよ。」
そう言ってどこかに行ってしまったので、ほったらかして宿に帰ってとっとと寝た。
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