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うすらさびれた港に着き、フェリー待合所を覗いてみた。
ひと気もなく、閑散とした建物の壁には色褪せたポスターが何枚も貼ってある。
ここは本部という、沖縄の北にある港。
メインの港である那覇港まで行くのよりもこの本部港行きのほうが断然安かったのでここまでにしたんだけど、ほとんど誰もここでは降りないみたいだ。
外に出て、駐車場の縁石のところに砂をかぶった段ボールがあったので、拾い上げてマジックで「那覇」と書き、近くの大きな道まで歩いて行って親指を立てた。
ほとんど交通量のない道だったけど、3台目で車は止まり、市街地へ向け動き始めた。
走りながら、地元民であるお兄さんに沖縄の話を聞かせてもらった。
全長およそ120kmの沖縄本島には、那覇の他に名護、北谷なんかの大きな街がある。
路上で歌を歌ってる人がいるのはだいたいこの3つらしい。
教科書で見たコンクリート造りの平たい民家には、家が隠れてしまいそうな高い塀と庭木が生い茂り、門のとこや屋根でシーサーが睨みをきかしている。
「メシは食ったのか?」
「いえ、フェリーでカップラーメンを食べてから何も。」
「よし、キンタコ行くか!!」
30歳くらいの日焼けした体にタンクトップの似合う兄さんが言ったキンタコとは、キングタコスという有名なお店のことらしい。
沖縄にはタコライスという食べ物があるみたいで、タコスの中の具がご飯の上に乗ったものなんだそう。
キンタコに着き、食券を買おうとポケットからお金を取り出すと、あと2千円しかないという衝撃の事実。
だけどここで「やっぱり僕いらないです」なんてとてもじゃないけど言えないので、震える手で600円の【タコライス、チーズ、野菜】を押した。
出てきたのは、ご飯の上に甘辛く味付けした細切れ肉と、溶かしたチーズ、千切りキャベツとスライスしたトマトが乗っている食べ物。
これにピリ辛のトマトソースをかけて食べるみたい。
久しぶりの米を詰め込み、美味しいと俺が言うとお兄さんは嬉しそうに笑った。
店を出てまた車を走らせている間、兄さんは色んな話を聞かせてくれた。
「沖縄の昔ながらの町並みを見たければ竹富島。石垣島がその近くにあるからダイビングしていくといい。綺麗な自然や歴史的な建物とかは、本島よりも離島のほうにたくさんあるよ。」
そのほか、交通手段やオススメの料理とか色んなことを教えてくれた兄さん。
「ごめんな、ここからはバスで行ってくれよ。」
兄さんの車を見送り、そのままバスに乗って国際通りに向かった。
土産物屋や洋服屋、南国の雰囲気漂うカフェが立ち並ぶ国際通りには、紙袋をいくつも抱えた観光客が歩道から溢れていた。
よし!!ここで稼ぐぞ!!とギターを取り出して歌う。
しかし2時間ほど歌ったが、またもや1円も入らずげんなり。
もうそろそろ眠るところを探そうかと考えていると、目の前を通り過ぎた1台の車が脇に停車し、運転手が降りてきてこちらに小走りにやってきた。
「1曲お願いします。」
よし、最後の曲にしようと歌ったのはオリジナルのsingin’ to the rainbow。
歌い終えるとその男性はすぐに切り出した。
「いい歌ですね。実はちょっと向こうにアコースティックのライブバーがあるんですけど、もし良かったら歌っていただけないですか?」
「は、はい、全然構わないですけど。」
「そうですか。それでしたら明日か明後日には連絡しますので電話番号いいですか?」
意外な展開になったな、初日からこんな話が来るなんて。
ウキウキしながら電話番号を教えると、男性は「それじゃあ連絡します」とそそくさに車に戻り、タクシーの流れに加わっていった。
ちょっと軽率だったかなとふと思ったが、そんな考えはすぐに打ち消した。
近くにデカい郵便局があったので、その軒下で日記を書いた。
コンクリートの建物に寄りかかって書いているのでお尻と背中が痛い。
もう深夜なので街も静まりかえっていて、その片隅でノートにボールペンを走らせる。
するとそこに、べべべべ…………とスクーターに乗ったヤンキーの女の子2人が現れた。
ぺちゃくちゃと何か喋っている。
しばらくするとまた他のヤンキーの女の子がやってきて、そこに軽自動車に乗った男4人が現れ、ナンパしてどこかに連れて行った。
それをなんとなく眺める。
誰もいなくなるとまたシーンと静まり返り、表の道路には車もあまり通らない。
ゴロンと横になり、建物の間から見える沖縄の空を見上げた。
明日はバイトの面接に行こう。
でも後は何もすることがない。
何をしよう。
何をしてもいい。
どこに行ってもいい。
全ては自分で決めなければいけない。
何をすればいいか教えてくれていた人たちはもういない。