スポンサーリンク 世界で1番美しい谷 2017/6/5 2017/05/18~ オーストリア③ 2017年5月19日(金曜日)【オーストリア】 クレムス ~ シュピッツ丘を越えるとブドウ畑が広がった。美しい谷に緑が輝き、どこまでもブドウの木々が整然と並んでいる。そんなブドウ畑に埋もれるように散らばる集落の民家は、中世から何も変わらない素朴な姿のまま。トラクターがトコトコと走り、細い路地を抜けていく。ワイナリーの看板があちこちに見られ、そんなワイナリーの前に藁で編まれた丸い舵のようなものが吊り下げられている。おれはホイリゲの印だ。ワイナリーが経営するワイン居酒屋であるホイリゲが期間限定でオープンする時に軒先に飾るもの。あれが出てるお店に地元の人たちが集まり、それぞれの白ワインを楽しむ。懐かしい、季節の風物詩。ああ、バッハウに戻ってきたんだ。クレムスの町を通り過ぎて行くと、大きな川沿いの一本道になる。雄大にたゆたうドナウ川。深い緑色のドナウの上を、大きな遊覧船が行き交っている。あれは有名なドナウクルーズの船だ。前回俺たちが結婚式をした時はすでにシーズンオフであのクルーズ船は運行していなかったけど、もう5月も後半のバッハウは夏のシーズンに入っているんだな。道路にはたくさんのサイクリストたちがカッコいいサイクリングファッションで走っている。バッハウはサイクリストたちにとってとても有名な場所で、シーズンには多くのサイクリングを楽しむ人たちで溢れる。どこのカフェの前にも休憩する人たちの自転車が並んでいて、忙しそうだ。ワイン畑に囲まれたドナウ沿いの一本道を自転車で走るなんて最高に気持ちいいだろうな。古城と青い教会のドュリュンシュタイン、小さな町々を過ぎていくと、向こうに古いお城の廃墟が見えてくる。そのお城の足元を山側に入り、坂道を登っていく。アクセルを踏みながら少しドキドキしている。久しぶりに実家に帰るような、そんな緊張感。ブドウ畑の隙間を縫うように走り、やがて見慣れた家の前に着いた。車を止めると窓から元気な声が聞こえた。「フミー!!ナオー!!」すぐに玄関から出てきたおばちゃんが、大きな体でカンちゃんのことを抱きしめた。イングリッドおばちゃん、無事帰ってきたよ!!!!「あああ、2人ともちゃんと帰ってきたのね。無事ね?無事なのね!!本当によかった!!ここはあなたたちの家よ!!!」おばちゃんの体に抱きしめられると小さい俺たちは埋もれてしまう。埋もれながらすごく安らいだ。おばちゃんの服や髪の毛から匂う清潔な洗剤の香りに心から安堵した。「イングランドはどうだった?人々は優しかった?アフリカは?病気は大丈夫?怪我はない?あー、もう話すことがたくさんあるわ!!アッハッハッハ!!」半年離れていたイングリッドおばちゃんの家はあの頃と何も変わっていなかった。いつも通り清潔で、埃一つなく、きれい好きなおばちゃんがいつも掃除してるのがわかる。棚のところどころに俺たちがプレゼントしたものが並んでいる。フクロウの置物、急須と湯飲み。ラルフの写真に手を合わせ、いつもの俺たちがお世話になってる部屋に荷物を置かせてもらった。するとベッドの上にプリングルスが置いてあった。あれ?これどうしたんだろ?「アッハッハッハ!!フミはプリングルスとビールが好きだものね!!冷蔵庫にビールも冷やしてるからいつでも飲むのよ!!食材も、ほら、こっちにも、ここにもなんでも入ってるから好きに使うのよ!!いっぱいあるから!!前回みたいに自分たちでスーパーで買ってきたらダメよ!!お金を使っちゃダメだからね!!ここはあなたたちの家なんだから!!」冷蔵庫を開けて食べ物を見せてくれるイングリッドおばちゃん。相変わらずパワフルで、元気で、愛に溢れてて、嬉しくて涙が出そうになる。ああ、実家に帰ってきたみたいだよ。レイモンドパパはお仕事で家におらず、3人で紅茶を飲みながらおしゃべりした。久しぶりなのでどんな空気感で話せばいいかちょっと心配だったけど、イングリッドおばちゃんの半年分のマシンガントークですぐに馴染むことができた。やっぱりおばちゃんは居心地がいいなぁ。相変わらず音楽が大好きで、今度はこのライブに行くのよ!!とチケットを見せてくれた。おお!!おばちゃんキッスのライブ行くの!!!すげぇ!!羨ましい!!!あ、そういえば昨日ウィーンの街を走っている時、街のあちこちにローリングストーンズの看板が出ていた。この夏にストーンズのヨーロッパツアーがあることは聞いていたけど、ウィーンにも来るなんて身近すぎてビビる!!!!ああ、今回の南ヨーロッパ旅の間にどっかのライブで出待ちでもしようかなぁ。行きたいけどチケット高いだろうなぁ。話はいつまでも尽きないんだけど、この辺でちょっとお出かけすることに。まだヨーロッパに戻ってきたばっかりで俺たちは全然お金を持っていない。早速路上に出ないと。今回の南ヨーロッパ旅はもちろん行きたかった国を回りまくるってのもあるけど、金を貯めるってのも大事な大事な目的。イギリスとアフリカに行けたのは最高だったけど、おかげで持ち金がヤバいくらいほぼゼロになってしまっている。これはもう仕方ない。後悔は1ミリもない。今回の南ヨーロッパできっちり稼いで日本に帰ってからの資金にしないとな。というわけで車を飛ばしてやってきたのはクレムスの町。もはやホームグラウンドなので、半年ぶりでも地図なしでいつもの駐車場にスムーズにパーキング完了!!地元感半端ない!!!ぐおおおおおおおおおおお!!!!!クレムスの町だアアアアアアアアアアア!!!!!!町の入り口にある大きな塔をくぐるとそこから伸びる中世の町並み。たくさんの人たちが歩き、優雅な空気が流れ、ゴミひとつない清潔な石畳の上を天使みたいな子供たちがはしゃぎ回っている。可愛い犬を連れたおばちゃん、モデルみたいにオシャレなおじさん、セクシーなブロンドの女の子、タトゥーがいかつい兄ちゃん。治安の良さがほとばしってる。何この安心感。ナミビアや南アフリカでホコ天の通りを見つけて、あ、ここって路上できるかもって思いながらもあまりにも怖くてできなかったのが、ここならなんの心配もない。iPhoneをベンチに置いてトイレに行ったとしても、まず手元に帰ってくる。そしてオーストリアのいいところは、こんなに先進国ではあってもモダンすぎないところ。人々は洗練されているし、何もかもが綺麗ではあるけど、なんかこう文明に毒されてないアナログなところが残っているんだよな。歴史のカビ臭さがいい感じでミックスされてる。人々の中に暖かい触れ合いがあり、隣人愛で繋がっていて、それでいて気品がある。山々と湖に囲まれ、歴史的な建物や町がそのまま残っており、伝統衣装を着た人が普通に歩いている。ヨーロッパの中では小さな小国であるけど、かつてハプスブルグ家が築いた大国の誇りがそこはかとなく漂っている。そんな町の中を歩いて一直線に向かった場所は……………はぁはぁ……………ついに……………ついに食べられる……………………ついにバブる時がきてしまった………………「か、神田さん…………やらかしてしまいましょうか……………」「いってしまいましょう……………この日をどれほど待ち焦がれましたでしょうね……………」「はぁはぁ…………ちょっと値上がりしてますよ…………20セント値上がりしてる…………」「ま、まぁいいんじゃないでしょうか…………アフリカなんてなんでもすっごい値上がりしてるんで20セントくらい許しましょう…………」目の前に出てきた神の食事。その名も、KEBABU。ついに食べる時がきてしまった………………「そ、それじゃあイカせていただきます!!!金丸文武!!漢にならせていただきます!!!突撃!!!……………」「フミ君………どう?久しぶりのケバブは?」「いやぁ、まぁこんなもんですよ。うん、別にそんなに大したことないよね。期待通りってやつ?ところでカンちゃんトイレに行ってきていいかな?ウンコがすごく漏れた模様です。」マジで美味しい。ケバブでこんなに感動できる俺たち幸せです。だってイギリスのケバブ美味しくなかったもん…………イギリスのケバブってビーフが基本で、しかも激高いから超贅沢品な上に全然美味しくなかったんだよなぁ。大好きな大好きなケバブ、今回の南ヨーロッパ旅でも食べまくるだろうなぁ。美味しいお店見つけるぞ!!「さて、腹ごしらえしたら家に帰りましょうかね。」「フミ君、路上しないの?」「きゃああああああああああ!!!!怖い!!!あまりにも路上してなさすぎて怖い!!!」え?なに?路上でいきなりギター取り出して行き交う人たちに演奏を聴かせる?なにそれなんか意味あるの?頭あかしい人なの?それでお金がもらえる?!まさかー、そんなんでお金もらえるとかありえないよね!!南アフリカでそんなことやろうもんなら、ギターケースにコインが投げ込まれた瞬間、コインがギターケースに着地する前に空中で奪われますよ。ていうかもうイマジンの、イマ、と時点で車が突っ込んできてギッタンギッタンにハネ殺されて身ぐるみ剥がされて顔の上にウンコされて終了です。きゃあああああああああああ!!!!!!2ヶ月も路上してなかったから路上がどんなのだったかも覚えてねえええええあえ!!!!!!で、でも………やんなきゃ…………あれ?俺って路上ミュージシャンなんだっけ?このブログ、アフリカ編から読み始めた人にとったら、ただ写真撮影のためにギター持ち歩いてるホーケーっていうイメージなんでしょうね。え?路上演奏?ちょ、ホーケーなのにそんなことするの?無理しちゃダメだよ!!ウケる!!って思われてるかもしれない。僕もやり方忘れてます………………とりあえずやってみたいとな……………えーっと…………路上に立って、ギターを置いて、楽譜を立てて……………ハッ!!!楽譜がない!!!!キイイイエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!楽譜知り合いの家えええええええええええええええええええええ!!!!!!!アフリカ仕様にするために楽譜と譜面台をオーストリアの知り合いの家に送らせてもらってたんだ!!!!2ヶ月歌ってないのに楽譜なしスタートとかレベル高いことやめてゲボオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!ち、チクショウ!!でももうやるしかない!!歌ってなさすぎて歌詞飛ぶかもしれねぇけどやるしかねぇ!!え?俺って歌う人なの?俺が歌う?た、多分歌う人!!!ギター取り出して、看板立てて、チューニングして、ハーモニカ首にかけて、よ、よーし、気合いだぞ…………気合い入れて歌うんだぞ…………指先がフニャチンになってるけど根性で弦抑えろよ……………ううう……………緊張する……………路上演奏って人々に受け入れてもらえるものなんだっけか?大丈夫!!自分を信じて歌うぞ!!!気合いでレットイットビーからスタート!!!!よ、よし!!な、なんとか声も出るぞ!!コードもギリいけてる!!歌詞もなんとか間違わずに2番まで歌えた!!!あと少し!!!「wake up in the morning~」キョッ!!!!ぎゃあああああああああ!!!!!なにそれウケる!!!!!wake up in the sound of musicのところを、歌詞が飛んで、朝起きたら~、とか歌ってましまった!!!恥ずかしい!!!恥ずかしすぎる!!!!前で心配そうに見ていたカンちゃんが爆笑してる!!!!ひいいいいいいいいいいいい!!!!えーっと宮崎帰らせてもらっていいですか?すると小さな小学生くらいの女の子がタッタッタと走ってきて、ギターケースに1ユーロコインをポトリと入れてくれた。ダ、ダンケシューンと笑顔で言うと、すっごい可愛い顔でニコッと笑ってビッテって言って歩いて行った。ま、眩しい!!!存在が眩しすぎる!!!汚れがなさすぎてぎゃあああ!!って消滅してしまいそう!!!うわああああ…………これがヨーロッパだよ………あんな小さな子供が笑顔で路上パフォーマーに1ユーロを入れる。親に言われたんじゃなくて、自分の意思で。すげぇ、あんな小さな頃から路上に対する理解があるなんて、やっぱりヨーロッパだよ。それからもなんとか歌詞を間違わないでいける曲を歌った。声はだいぶなまってる。あまりにもなまってて喉がすぐに枯れてきてしまった。息の使いかたも下手くそになってる。ギターはまだ大丈夫だけど、この声は早いとこなんとかしないとなぁ。暖かい風がふわりと吹く。風の中に花の香りがする。太陽が輝き、新緑がきらめく。小鳥がさえずり、犬がペタンと寝転がる。可愛いお婆ちゃん、紳士なおじさんが笑顔でコインを入れてくれる。少しずつ声が出てくる。石の町に声が響き、それを聞きながら演奏の音量を調整していると感覚が戻ってきた。もちろんまだまだ。でもなんか、町に歌を響かせる雰囲気作りを肌が覚えている。瞬間、あ、楽しいって思った。うん、楽しい。そうだよなぁ、俺って歌が好きなんだよなぁ。まだカチッとはまらない。でもこの路上が俺のカチッとはまる場所であることは間違いない。ちゃんと戻していこう。カチッとハマったら、きっともっとたくさんの人に演奏を楽しんでもらえるはずだ。2ヶ月ぶりの路上。あがりは2時間やらないくらいで153ユーロ、19000円。ぐおおおおおおおおおおお!!!!!!1万稼ぐのに吐くほど苦労してたイギリスなんだったのおおおおおおおおおおおおおたおおお!!!!!!!オーストリア大好きいいいいいいいいいい!!!!!!というわけですぐ調子乗ってH&M。「ウオらああああ!!!好きなもん買えやああああああああああ!!!」「いよっ!!この大黒柱!!あ!!このキャミ可愛い!!」いやぁ、ザラ大好きだけどH&Mもやっぱりいいもんありますね。アフリカ帰りのボロい服をゴミ箱にダンクシュートしてシャツとズボン購入!!50ユーロくらいだったかな?6200円。久しぶりの路上でほどよく疲れてシュピッツに帰ってきた。「ちょっと寄ってく?」「うん、行ってみよ。」メイン道路からシュピッツの脇道に入り、路地を抜けて町の中心広場にやってきた。噴水があるこの小さな広場。シーズンオフはゴーストタウンみたいにひと気がなくて枯れていたけど、今はもうすでに観光客が訪れており、車が何台も止まっている。1軒だけあるレストランもすでにオープンしている。そんな広場の一角に、シュピッツのシンボルである教会がたっている。歴史ある古い古いこの教会。全然有名じゃなくて、観光客もあまり訪れないこの教会だけど、重い鉄の扉を押して中に入るとすごい。豪壮な装飾、いくつもの味わいある聖像、ひんやりとした堂内は静寂に沈んでいる。通路が横と斜めに伸び、少し変わった形をしているこの教会。ステンドグラスから薄暗い光が差し込んでいる。ここで結婚式したんだなぁ。ニューシネマパラダイスの音楽を流して、両親と友達たちの間をカンちゃんと歩いたんだよなぁ。結構信じられないシチュエーションだった。こんな美しい田舎町の、歴史ある小さな教会で結婚式をしたなんて、本当にニューシネマパラダイスの中みたいな、切ない物語の1ページだった。あまりも天気が良かったし、それから町を見渡す丘にも登った。シュピッツの町の真ん中にある小高い里山。この町に最初に訪れた時にイングリッドおばちゃんとレイモンドパパが連れてきてくれた場所だ。車を止め、坂を登っていくと、目の前にドナウが横たわっている。山々の間を雄大に流れるドナウ、その両側に山の斜面が広がり、すべてがブドウ畑だ。シュピッツの小さな町。対岸にもささやかな集落が見える。古城と教会の塔が時代をタイムスリップさせる。この景色を見て、ここで結婚式する?ってカンちゃんと話し始めたんだよな。あまりにも美しい。世界のどこが綺麗だった?と聞かれたら、迷わずシュピッツ、バッハウと答える。目立つ建造物があるわけでもないし、壮麗な街並みがあるわけでもないけど、こここそがヨーロッパの原風景なんだと思う。田舎の飾らない人々の暮らし、歴史を止めた風景、雄大な自然、バッハウに出会えて、イングリッドおばちゃんとレイモンドパパに出会えて本当に良かった。本当に旅してて良かった。家に帰るとイングリッドおばちゃんとレイモンドパパが忙しく出かける支度をしていた。今日もウィーンのほうに音楽のイベントに行って踊ってくるんだそうだ。いつまでも仲のいい2人。イングリッドおばちゃんとレイモンドパパも、数十年前にあの教会で結婚式をしたんだよな。「私たちは夜中に帰ってくるから、今日は2人きりで過ごしてね!!2人で大丈夫?ご飯はここにあるからね、好きに食べていいからね。なんでも使うのよー!!」オーブンの中にはおばちゃんが作ってくれたチキンのグリルがあった。おばちゃんが作ってくれたチキンとスープを食べたら、近所のホイリゲに出かけた。俺たちが結婚式の二次会をやったホイリゲは今はオープンしてなかったので他のところに行ってみたんだけど、そこもたくさんのお客さんで賑わっており、みんな楽しそうに笑いながら白ワインの入ったグラスを傾けていた。どうやらここはアットホームな地元のホイリゲっていうよりかは、観光客向けのところみたいだ。でもまぁいいか。俺たちも外のテラスに座り、ハウスワインを頼んだ。このホイリゲのオススメワインがわずかに1.7ユーロ、210円。カンちゃんとグラスを合わせ口に含むと、新鮮な苦味とスッキリした甘みがスッと消えていく。かすかなスパークリング。よく冷えた爽やかさ。ああ、オーストリアに戻ってきたんだなぁ。バッハウの谷に夕闇が訪れ、冷たい風が吹いた。