2017年5月12日(金曜日)
【南アフリカ】 ブルームフォンテーン
~ 【レソト】 山の中
~ 【南アフリカ】 クロコラン
朝7時にブルームフォンテーンのバスターミナルに着いた。
頭がぼんやりする。
どんなに快適な夜行バスでもやっぱり夜行は夜行だ。疲れる。
「朝ごはん食べようかー。どっか開いてるかなー。」
「美味しいご飯食べたいねー。あ、あそこケンタッキーあるね。」
まだ動き出す前の静かなブルームフォンテーンの町。
車も少なく、店もほとんど閉まっている。
ケープタウンに比べると、どこか建物も古びており地面も割れたアスファルトが多くて、地方都市っぽい寂れた感じだ。
ケンタッキーに近づいていくと向かいに美味しそうなお店を見つけた。
ここ。
なんだかいい感じのお店だったのでオープンまで30分待って8時にお店に入った。
たくさんメニューがあるんだけど選んだのはライズアップっていうイングリッシュブレックファースト。
めっちゃ美味しい。
いや激ウマ!!!
こんなに盛りだくさんでなんと23ランド!!!190円!!!
コーヒーも美味しかったし、朝からスーパー大満足。
お店の中はこれから仕事に行くという人たちですぐに満員になり、かなりの人気店みたい。
いやー、ここマジでオススメだ。
さてさて、めっちゃ満足したところであそこに向かいましょうか。
あそこです。
え?レソトに行くためのバス乗り場なんじゃないかって?
違いますねー。
ブルームフォンテーンからレソトって、まずバスターミナルからミニバン乗り場までタクシーで行って、そこから乗り換えとかそんな面倒くさいアレなんですよ。
しかも客が集まるのを待つパターンのミニバンなので、中には4時間待ったなんて旅人さんもいます。
面倒くさいですねー。
というわけでウヒョウ!!!レンタカー!!!!
いい車ああああああああ!!!!!!
あ、こっちですか。
そうですよね身の程知らずですみません。
もはやレンタカーの申し子ですね。
もうレンタカーやりすぎなんじゃないか?って感じですけど、使わない手はないです。
日本のレンタカーめっちゃ高いですけど、だいたいの先進国はレンタカーってめっちゃ安いです。
面倒くさいバスの乗り換え、長い長い待ち時間、チケットの予約、重い荷物を引きずり、雨の中をバスターミナルを探してびしょ濡れで歩く、
あの苦労が全部なしです。
そして行きたいところに行きたいタイミングで好きなだけ行ける。
ただの旅行先だったのが、一気に距離が縮まっていろんなものが見えてくる。
レソトを横断したら今度はスワジランドまで走り、さらに南アフリカの国立公園周辺を動物を探して回り、1週間かけてヨハネスブルグです。
ここも大事なんだけど、だいたいのバスはヨハネスブルグの最も危険といわれるダウンタウンのど真ん中に着きます。
すでにこの時点で命の危険にさらされてます。
みんなそこから急いで空港に向かうわけだけど、レンタカーだったらダウンタウンに行かないで直で空港に行き、そこでレンタカーをドロップオフ。
そのままフライトという完璧すぎる流れ。
完璧。
というわけでレソト、スワジランド、南アフリカ東部のレンタカー旅、楽しく行ってみるぞおおあお!!
レンタカーはいつものバジェット。
値段は5日間で9000円。
保険が6000円。
ブルームフォンテーンからヨハネスブルグ空港乗り捨ては追加料金なし。
ただ気をつけないといけないのは国境を越えるためには1ヶ国につき500ランドの保険手数料がかかる。4200円。
手数料を払わなくても国境を越えることはできるけど、そうなると南アフリカ外での事故に対して保険が適用されないのでちゃんと追加しておきましょう。
よっしゃレンタカー旅スタートコノヤロフォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!
新しい車に乗るとテンション上がりますよね。
ていうかこの車クオリティ高っ!!!
ヒュンダイの車なんだけど、この前ケープタウンで借りたようなオンボロ車じゃなくて、ギアもクラッチもすごくスムーズ、車内は綺麗だしかなり最新式だ。
アクセルを踏めばエンジン音ほぼなしでスンションスンション走ってくれる。
やっぱりレンタカーは当たり外れあるね!!!
こいつは最高!!
ブルームフォンテーンの町を抜けていくと、すぐになんにもない荒野の中の一本道になった。
乾いた茶色い草原が広がり、所々にテーブルマウンテンが見える。
上部がスパッと切り取られた切り株みたいな山で、その斜面を見てみると山がかつての大地だったことを想像させる。
様々な層が色や地質を変えてグラデーションになっており、まるでケーキみたいだ。
昔はここが全てこのテーブルマウンテンの高さで、長い年月をかけて水が地面を削り、今の荒野を作り出したのかな。
人口の多い先進国である南アフリカも、こうして田舎に来ればこれまでのアフリカと同じく大自然が支配する国土だ。
そんな一本道を走っていると、たまにやってくる対向車がこっちに向けてパッシングをしてくる。
何台も同じようにパッシングしてくる。
最初は何か俺たちが変な運転をしてることに対しての注意か何かかと思ったんだけど、別にイカれた運転をしてるわけではない。
いたって普通だ。
そしてアッと気づいた。
これってもしかしてこの先に何か注意すべきものがあるってことなんじゃないか?
そう思って注意して走っていると、しばらくして道路脇の木陰にパトカーが止まっているのが見えた。
なるほどー、みんなこの先にスピード違反のネズミ捕りがいるぞーってのを対向車に教えてくれていたのか。
俺たちは制限速度の120キロを守ってたっていうか100キロくらいしか出さないので問題なくネズミ捕りを通過。
現地の人たちは150キロくらいでバンバン飛ばしているので、もし捕まったらなかなかの罰金が待っている。
こうやってみんなで協力し合ってるんだなぁ。
いいなぁ、微笑ましいなぁ。
俺たちもそれにならって対向車に向かってパッシングをした。
するとすれ違いざまに運転手の黒人さんが笑顔でサンキューと手を挙げた。
運転を通じて見る南アフリカの人たちのフレンドリーさに胸が温かくなる。
ブルームフォンテーンから2時間くらいそんな荒野を走っていくと、しばらくして山並みが険しくなっていき、坂道が増えてき始める。
そんな荒い山並みの中にいくつかの建物が見えて来た。
あれがレソトの国境か。
あ!!あれ!!
早速毛布着てる人たちがいる!!!
レソトでは毛布を体に巻きつけたスタイルが伝統的な服装だとは聞いていたけど、確かに 婆ちゃんの家の押入れに入ってるようなゴワゴワの毛布をマントみたいに羽織っている!!!
あの地味なやつ!!!
おおお…………冬場に布団から出るのが嫌で毛布かぶって出てくるズボラな人みたいやん…………
でもそんなズボラなのも、こうして見ると渋い。
ちなみに日本に1軒だけこのレソト毛布を販売してるお店が埼玉あたりにあるらしいんだけど、日本の人からしたら、え?それただの婆ちゃんちの毛布じゃねぇ?って感じになりそう…………
国境越えはいたって簡単で、ビザ代もなくササっとカスタムを通過。
モホケア川という一瞬目を疑う名前の川を渡り、レソトに入国だ。
この時、橋の通行料かなんかで30ランド、250円がかかる。
レソトの通貨はロチってやつだけど、普通に南アフリカランドが使えるので換金する必要はない。
等価で使用されているので、30ランドも30ロチも一緒だ。
ただ注意しないといけないのは、レソトではランドが使えても、南アフリカではロチは使えないので、お釣りとかでもらったロチはちゃんと使い切って出ないとな。
ていうかこれ渋い。
キングダムインザスカイ。
天空の王国、ってただ旅行者が勝手につけた呼び名なのかと思ってたら、堂々とレソトが名乗ってるものなんだ。
レソトの最高標高は3482メートル、
最低標高でも1500メートル。
この最低標高が世界で1番高い国なんだそう。
国土のほとんどが山岳地帯のまさに天空の王国だ。
そんな天空の王国の歓迎はなかなか手荒だった。
マジで入国した瞬間にガンガンガンガン!!と車の中にすごい音が鳴り響いた。
なんだなんだ!!??!
窓ガラスを見てみると、そこに叩きつけている白い塊。
雹やし!!!
さっきまで普通に春くらいの気候だったのに、レソトに入った瞬間、気候が急激に変わった。
そろりそろりと走っていくんだけど、雹はすぐに地面を覆い、アスファルトが白くなっていく。
雹だけじゃなく大雨も叩きつけ、ワイパーを早めても見えにくい。
窓の外、そんな雨と雹の下を普通に歩いてる毛布の民が見えるんだけど、毛布濡れたらめっちゃ乾きにくそうで心配!!!
ていうかナンバーのない車が多い!!
いやぁ、ゆるいなぁ……………
って、ん?
あれ?
マルキヤ醤油さん、お車元気に天空の王国を走っています!!
なんとか気をつけて嵐の中を抜け、ぼちぼちと走っていく。
国境を越えてすぐのところにある首都のマセルは、これが首都か?って驚いてしまうほど小さい。
木々に埋もれた市街地の真ん中に気持ちばかりのメインストリートがあるんだけど、これだと南アフリカでは地方の寂れた町くらいの大きさだ。
そんなマセルの町を抜け、田舎へ向けてアクセルを踏む。
今日の目的地はレソトの国土のちょうど真ん中くらいにあるなんとかって滝だ。
なにやらアフリカで1番落差のある滝らしい。
ていうことはあのビクトリアフォールズよりも高いってこと。本当か?
かなり山奥の僻地にあるらしく、地図を見るとぐにゃぐにゃの山道がどこまでも続いている。
大した距離ではないけど、こりゃ時間がかかりそうだ。
でもせっかく車で来てるんだ。
バスを探す必要なんてないんだし、僻地の僻地まで行きまくってこのレソトという国を探検したい。
そして1、2泊しながら国を横断して走り、ドラケンスバーグ山脈という大自然の先にある国境から南アフリカに抜けよう。
このドラケンスバーグ山脈というのがレソト唯一の世界遺産で、その素晴らしい景色を眺めながらドライブができるみたい。
いやー、楽しみだ。
この秘められた天空の王国でどんな景色が見られるかな。
と思っていたら、早速めっちゃレソトっぽい。
窓の外に広がるのは険しい山並みで、その中にのびる一本道をくねくねと走っていく。
山の斜面に張り付くように散らばっている民家はどれも古びた小屋みたいなもので、草で葺いた丸い家屋もある。
このとんがり帽子の丸い家屋がレソトの伝統的な民家なんだそうだ。
雨だというのに洗濯物が揺れており、それが壮大な山並みにはためいて、ここが標高の高い場所だということをイメージさせる。
放牧の牛や山羊を連れた毛布の民が、山の風を受けて遠くを眺めていた。
たまにある村の風景は、これまでのアフリカらしいボロボロの貧しいもの。
発展した先進国の南アフリカから入ったのでそのあまりの変化に驚いたけど、これはマラウィやタンザニアで見てきた光景だ。
木とトタンで立てた小屋の中で人々が生活用品を売り、道端で肉やトウモロコシを焼く煙が上がっている。
アスファルトや道の端には大きな穴が開いており、さっきの雨であちこちに茶色い水たまりができて気をつけて運転しないとタイヤをとられてしまう。
人をたくさん乗せたボロいミニバンがクラクションを鳴らしながら走り、客引きたちが大声で行き先を叫んでいる。
どこもかしこも泥まみれだ。
とりあえずご飯食べとこうかと、小さな町の食堂に入って牛肉の煮込みとライスを買った。
味はまぁ、マラウィでよく食べてたやつだ。
そんなに美味しくはない。
値段は44ランド、370円。
ローマという小さな町を抜け、そこから滝方面の道に入り、どんどん山奥に向けて走っていく。
雨は降ったり止んだりで、気温も低く、足が冷たくなるくらいなので車の暖房をかける。
風景は本当に山しかない険しいもの。
そんな山のうねりの隙間にたまに集落が見えるんだけど、あんな簡素な家ではこの寒さはかなり厳しいだろうな。
今は5月なのでここでは秋。7月の冬になったらまだまだ冷え込むはず。
毛布の民が寒そうに体に毛布を巻きつけて草原を歩いている。
露出してる顔も相当寒そうで、中には銀行強盗がかぶってる目と口だけ穴のあいたニットキャップをかぶってる人もいて、それでマントみたいな毛布を体に巻いているので、ただのルチャリブレみたいだ。
婆ちゃんちの毛布を体に巻いたルチャリブレが山岳地に散らばってる。
それからもひたすら走り続けたんだけど、道がくねくねだし坂が多くて思うように距離が伸びない。
この調子だと滝に着くのは夕方くらいになってしまうかもしれんなぁ。
滝は相当な山奥に存在する。
まぁレソトは治安のいい国だし、そんな僻地の山の中だったら人もいないだろうから車中泊しても大丈夫なはず。
焦らず行くかー、と思ってたんだけど、しばらくして道に雪が見えてき始めた。
おいおい…………さっきまであんなに暑かったのに雪て……………
レソトどうなってんだよ?
気候変わりすぎだろ。
雪を踏まないようにハンドルを切り、奥地へと突き進んでいく。
まぁ秘境であればあるほどこちとら冒険心は膨らむけども、こいつは大丈夫かな。たどり着けるかな。
しかし地面の雪はどんどん増えていく。
道路にも、木々にも、集落の屋根にも白いものが積もりだし、ついにアスファルトが雪で覆われてしまった。
なんとか前の車のわだちを踏んで走っていくけど、少し滑ってしまう。
ちょ、マジかよこれ……………
まだ何十キロもあるのに、行けるかこれ?
「フミ君大丈夫?危なくない?」
「うーん、まだこれくらいなら大丈夫だけど。気をつけて走ってれば。」
雪景色の山々と集落の風景は確かに綺麗。
これぞ秘められた天空の王国といった景色がどこまでも続いている。
このまだまだ先の奥地に、アフリカで1番落差のある巨大な滝が待ち受けている。
そう思うと引き寄せられるように進んでしまう。
俺の悪いところ。
後先考えずにどこまでも突っ込んで行ってしまう。
が、しばらくして大きなヘアピンカーブを曲がったところで目の前に長く急な坂が現れた。
ベチャベチャの溶けかけの雪が地面を覆っており、手に汗がにじむ。
これくらいの雪はかなり危ない。
「行ける?フミ君大丈夫?」
「なんとか、もうちょっと行ってみよう。滝見たいもん。」
が、タイヤが滑る。
アクセルを回すけど、少しタイヤが空回る。
この急な坂道でもし滑って止まらなくなってしまったら…………
そう思うと鼓動が早くなる。
しかし滝が………………
往生際の悪い俺。
でもそんな俺をさすがに止めてくれるものが現れた。
思いっきりやん。
思いっきりいっちゃってるやん。
道路の横に、崖に突っ込んで大破した車が止まっていた。
相当な勢いで突っ込んだのか、崖が崩れて岩があたりに散らばっていた。
シャレになってねぇ……………
おそらく坂の上から降りてくるところでタイヤが滑りだし、止めることができずにそのまま崖に突っ込んだんだろう。
めっちゃ怖すぎる。
これがもし反対側だったらガードレールを突き破って下に落ちてる。
マジでこれはヤバすぎる。
「ダメだ!!これはダメだ。こいつはヤバい。引き返そう。多分この先もっとひどくなるはず。」
「うん、滝残念だけどやめとこうか。」
「そして多分レソトを反対側から抜けるのも無理だわ。あっちのドラケンスバーグ山脈なんか行ったら雪で道がないかもしれん。こりゃ元来た道でレソトを出たほうがいいわ。」
無念すぎる。
滝も見れてねぇし、世界遺産のドラケンスバーグ山脈にも行けない。
でもここで無理したらマジであの車と同じく崖に突っ込んで雪山の中で凍死だ。
オシッコしようと車を降りると、尋常じゃない寒さで一瞬で手足がかじかんで痛くなってきた。
来た時期が悪かったってことか………………
レソトなめてたあああああ……………
そろりそろりとバックで坂を下りていき、手に汗をかきながらUターンした。
ぐああああ…………無念…………
元来た道を戻っていく俺たちを、毛布の民のみなさんがじーっと見ている。
きっともうここに来ることはないだろうなぁ…………
彼らはこうして毛布を体に巻いて、これからも生きて行くんだなぁ。この天空の地で。
そりゃ秘められた土地だわ。
無念…………………
ぼちぼち走って国境まで戻ってきて南アフリカに出た。
レソト滞在時間、5時間。
でもこの国の厳しさだけは身にしみて体験させてもらったわ。
南アフリカに戻り、一気に天候が穏やかになった。
暖房を止め、レソトの国境沿いに走りながら右手を見てみると、遠く向こうにギザギザの山並みが見える。
こんなに暖かいのに、その山並みは雪化粧だ。
山並みの上には一面どんよりとした重い雲がかぶさっており、マジでファンタジーの世界みたいにそこだけが閉ざされている。
あの山岳地帯がレソト。
簡単には踏み入らせてくれない険しい国。
そりゃ南アフリカに囲まれながらも独自の文化を保ってるわ。
やがて夕日がレソトをピンク色に染め、不思議な色合いの中で夜に沈んでいった。
暗闇の中を走っていく。
周りに広がるのは草原だ。
ヘッドライトがわずかに照らしている。
今夜の宿はどこにしよう。
さっきまで治安のいいレソトの山奥で車中泊しようと思っていたのでまったく考えていなかった。
治安の悪い南アフリカに戻ってきた以上、車中泊は避けたい。
でも大都市じゃなくて田舎だったら大丈夫そうな気もする。
「どうしようかー。」
「そうだねー、まぁ近場の町でとりあえずホテルに行って値段聞いてみようかー。田舎だったらそんなに高くないだろうし。」
そう楽観的に話しながらしばらく走ってクロコランという町にたどり着いた。
小さな小さな町で、ささやかなメインストリートにぼんやりと外灯が光っている。
時間は18時だけどすでにほとんどの店が閉まっており、ひと気もなく閑散としている。
やはり田舎は寂れた空気が漂っている。
建物も古びており、どこか不気味な静寂だ。
メインストリートに小さなテイクアウト屋さんがあったので、フィッシュ&チップスを買った。
とりあえず晩飯は確保したけども、こんな寂れた町にホテルなんかあんのかな。
車に乗り込んであたりをウロウロしてみたんだけど、中心部を出るとすぐに真っ暗になり、ボロボロの掘っ建て小屋が並びだした。
おっと、これはヤバい地域なんじゃないか…………?
この前ケープタウンで見つけた黒人居住区のスラムと雰囲気が似ており、ヘッドライトにちらほらと黒人さんが浮かび上がる。
トタンで出来た倉庫みたいなものが何かの巣みたいに密集しており、破れたフェンスやゴミの山が見える。
どうやらこうした貧民地区はどこの町にも存在するみたいだ。
ヤバいヤバいとすぐにメインストリートに戻った。
こりゃどうしようかなぁと思いつつ、さっきテイクアウト屋さんであっちにひとつベッド&ブレックファーストがあるわよと教えてもらっていた場所に行ってみた。
町外れの農地の奥に、廃墟みたいな門があり、そこに確かにB&Bの文字が書いてあった。
営業してんのか?と疑いながらインターフォンを鳴らすと、少ししておばさんの声がした。
「あ、すみませんー、部屋探してるんですけどー。」
「はいはい、1泊700ランドよ。」
700!!6000円て!!!
ちょっと待ってよ高すぎる!!
こんなど田舎の町外れにある廃墟みたいなベッド&ブレックファーストが6000円て!!
ま、マジか……………
やめときますーと車をバックさせた。
それから農地の中を町を背にして走った。
未舗装のオフロード、両側には何かの作物がしげり、あかりはどこにもない。
ただひたすら奥へ奥へと進み続けた。
そしてしばらくして細い脇道を見つけ、そこに入ってエンジンを止めた。
ヘッドライトを消すと完全に夜の闇に隠れた。
「ここで寝ようかー。」
「うん、ここならまず誰もこないよね。」
車中泊はなるべき避けたいところだけど、700ランドは高すぎる。
それにこれだけ田舎の、広大な農場の奥地ならば人がやってくることはないだろう。
万が一車が来たとしても、俺たちは脇道に隠れているので気づかれないはず。
さっきのフィッシュ&チップスと買っておいたビールを飲み、シートを倒す。
寝づらいけど、まぁそこまで辛いことでもない。
そうして日記を書いたり、カンちゃんと話をしたりして、そろそろ寝ようかーというところだった。
暗闇の中に遠く車のヘッドライトが見えた。
おい、嘘だろ、こんな時間にこんな場所を車が通るなんて。
しかし俺たちは脇道に隠れている。
大丈夫、見つからないはず。
しかし、
その車はこっちに近づいてきた。
そしてなんと俺たちのいる脇道のほうに入ってきた。
すぐにヘッドライトに照らし出される俺たちの車。
見つかってしまった。
鼓動が早まる。
どうするどうするどうするどうする。
こんな場所に来るんだから、おそらくパトロールの警察か。
それなら注意されて終わりのはず。
でももし悪い男たちだったら?
何か奪われるか?暴力を振るわれるか?
車の鍵はもちろんかけている。
俺もカンちゃんも体を下げて外から見えないように隠れている。
頼む、そのまま行ってくれ…………
そのまま通り過ぎて行ってくれ……………
が、車はどこにも行かない。
ヤバいどうする。
完全にこっちのことを伺っている。
鉄砲なんか持ってねぇだろうな……………
ビールの酔いが一気に冷めてしまっている。
すると車がゆっくりと近づいてきた!!!
ヘッドライトの明かりが車の中にまで差し込んでくる!!!
そして俺たちの車の横、運転席側の外に来て止まった!!!!
ふぅ、覚悟決めよう。
体を起こした。
隣の車の窓が開き、白人の男性が見えた。
明かりが眩しくてよく見えないけど、おそらく初老の男性。
助手席のほうから女性の声も聞こえた。
この時点でかなりホッとした。
初老の夫婦ならまず悪い人ではない。
「どうしたんだこんなとこでー。」
「あ、ここで夜を過ごそうと思ってるんですー。」
「おいおい、それはオススメできないな。君たちはどこから来てるんだい?」
「日本からです。」
「ジャパンか。南アフリカは日本みたいに安全なところではないんだよ。私の息子も襲われて怪我をしたことがある。外で寝るというのはやめたほうがいい。」
「そうですか…………」
「向こうにベッド&ブレックファーストがあるからそこに泊まればいいよ。」
ヘッドライトで男性がどんな表情をしているのかほとんど見えない。
でもその声色から、俺たちのことを心配してくれているのがわかった。
話を聞くと、この脇道の先にはご夫婦の経営する農場があるらしく、この辺り一帯全部、ご夫婦の土地なんだそうだ。
「あ、さっきそのベッド&ブレックファーストに行ったんですけど、高くてやめたんです。いつもバッグパッカー宿に泊まってるので。」
「そうか、南アフリカは宿が高いからな。バット、ユアライフイズモアザンザットだよ。」
グサッときた。
6000円は高い。でも人生はもっと価値のあるもの。
わかってる。命を失うことを考えたら6000円なんて本当に本当に本当に小さなもの。
何度も言われてきたことだけど、改めて言葉にして言われるとものすごく重かった。
そして南アフリカの現地の人の言葉はものすごく説得力があった。
「わかりました…………ホテルを探してちゃんと泊まります。すみませんでした、敷地に止めてて。」
「ホテルを探すといってもな……………」
そしておじさんは助手席にいる奥さんに何か言い、奥さんも何かを返した。
「よし、ついてきなさい。ウチに離れがあるからそこに泊まればいい。」
「えええ!!!本当ですか!?で、でも、おいくらですか?」
「いいからついてきなさい。」
そう言っておじさんの運転する大きな四駆の車は、脇道の奥に走り出した。
俺たちもUターンして車を追いかけた。
少しして暗闇の中にゲートが出てきた。
農場の敷地になっており、大きなトラクターみたいなものが見える。
おじさんの車についてゲートをくぐると、奥に民家が見えた。
戸惑いながら車を降りると大きな犬がワンワン!!と吠えながら走ってきた。
で、デケェ!!!!
俺よりもはるかにデカい犬が俺たちに警戒しながら近づいてきた。
そして大きな体をくっつけて甘えてきた。
デカいから押す力がハンパないんだけど可愛い。
「さぁ、ここで寝なさい。心配しなくていい、ここは安全だし、何かあったら彼が守ってくれるよ。」
そう言っておじさんはそのデカい犬の頭をなでた。
おじさんの名前はフィリップさん、奥さんはリアナさん。
白髪でメガネをかけていて、背は高くないけど骨太な体格。
明かりが照らす2人の顔はとてもとても優しいものだった。
俺たちを残してあっさりと家に入っていったフィリップさんとリアナさん。
与えてもらった離れのゲストハウスの中には、大きなベッドがあった。
綺麗な室内、トイレもシャワーもある。
タオルも置いてあるし、コーヒーまであるし、そこらの安宿なんかよりはるかに立派な客室だった。
テーブルや椅子などの調度品はどれも古びてはいるけど使い込まれた味わいがあり、きっと何十年もここにあるものなんだろう。
スプーンをとろうと引き出しを開けると、中に子供向けのシールが貼ってあった。
ああ、俺もこんなことしたよな。
その色あせたシールに、フィリップさん家族の幸せな風景が浮かんだ。
「なんだこれ……………」
「あんなとこにいた私たちのこと、追いはらうんじゃなくてウチに泊めてくれるなんて…………優しすぎるよ……………」
「優しすぎる…………ちょっと話しただけで、まだ俺たちのことなんにもわからないはずなのに……………」
あまりの展開に、部屋の中、2人で呆然と立ち尽くした。
さっきまでヤバいやつかもしれない、と怯えていたのに、今俺たちの前にはフカフカのベッドとコーヒーと熱いシャワーがある。
マジで優しすぎる…………
あまりにも感動してしまって泣きそうになった。
ライフイズモアザンザット。
命と比べられるものなんてないんだよな…………
なんつー日だ。
コーヒーを入れ、外に出てタバコを吸った。
すると向こうからタッタッタという音がして、あの巨大な犬が走ってきた。
俺にすり寄ってくるんだけど、力が強すぎて後ろに押されてしまう。
かわいいなぁ。
ヨダレすごいけど。
服につきまくってるやん…………
ベロベロやん……………
まぁいっか。
犬の頭をなでながらコーヒーを飲んだ。