スポンサーリンク 黄泉の国に迷い込む 2017/5/18 2017/04/24~ ナミビア, ■彼女と世界二周目■ 2017年5月2日(火曜日)【ナミビア】 セスリム ~ ヘルマリングハウセンナミビアレンタカー5日目。テントの中で目覚ましが鳴った。外はまだ真っ暗。時間は早朝5時。こんなやってらんねぇ時間に目を覚ましたのは、もちろん朝日を見に行くためだ。同じ考えの人たちがあちこちで起き出しており、車のエンジンをかける音が暗闇の色んなところから聞こえてくる。眠い目をこすってテントから出ると、満天の星空が広がっている。今回の旅に出る前、カッピーとショータ君と話している時に、これ知ってる?とカッピーが1枚の絵を見せてきた。茶色と青と黒の絶妙な色合いのバランス。アーティスティックな筆使いで、不思議な魅力のあるものだった。するとカッピーが、これ絵じゃなくて写真だよと言った。え?そう聞いてから見直しても、完全に絵にしか見えないほど現実離れしたその風景。これが写真?世の中にはまだまだすげぇ場所があるもんだなぁとロマンが膨らんだもんだった。カッピー、ショータくん、ついにあの絵の目の前まで来たぞ。このレンタカー周遊で必ず見たかった3つの場所のふたつ目、デッドフレイを見に行こう。「おはよー。」「おはようございますー。」同じタイミングでテントから出てきた木村君とそれぞれの車に乗り込んでエンジンをかけた。ヘッドライトをつけて進んでいくと、すでに第2ゲートの前には車の列ができていた。ゲートが開くのは5時15分。日の出は6時過ぎくらい。ここからデッドフレイまでは1時間くらい。つまり時間がない。なのでみんな朝日を見に行くためにこうして待っている。ちなみにキャンプ場の外にある第1ゲートが開くのは6時。つまりこのキャンプ場に泊まってなかったらデッドフレイの朝日には間に合わないってわけだ。木村君に感謝。ゲートが開くと、まるで競馬のレース開始みたいに一斉に車が国立公園の中になだれ込んだ。夜明け前の暗闇の中を、ヘッドライトをつけたジープたちが追い抜き追い越しして我先にとナミブ砂漠の奥を目指す。ゲートからデッドフレイまでは60キロくらい。その間、まさにジープたちのレース会場だ。俺たちはショボいミニカーなので大人しく抜かれまくりながらトコトコ走った。少しずつ夜の闇が薄れてきて、空が明るくなりはじめると、砂漠のなめらかな稜線が浮かび上がってくる。カーテンが風にゆれているかのような、艶かしい曲線。砂漠すげぇな。そして45分くらいで車がたくさん止まっている辺りに到着した。どうやらここが駐車場だ。しかしここで終わりではない。乗用車が走れるのはここまでで、さらに公共のジープに乗り込んで5キロほど奥地に入っていかないといけない。そのジープはここに何台も待機しているので乗りっぱぐれることはないけど、値段が1人150ドル、1250円。5キロの距離で1250円。高すぎる。四駆で来てる人たちはそのまま自分たちの車で入っていけるんだけど、俺たちみたいな小さな二駆ではここから先は入れないのでジープに乗るしかない。ていうかちょっと前の情報では100ドルだったのに、年々値上げしすぎだよ。マジでアフリカ、宿も交通機関も全て年々すごい勢いで値上げしまくっているので、10年後にはこのジープも300ドルくらいになってるかもしれないな。でもジープに乗ってみたら足元見られるのもわかった。道がめっちゃハンパじゃねぇ!!!!オフロードっていうか砂漠の中をエンジンを唸らせて突き進むジープ。マジでマリオカートのノーマルステージの2面。アレ。タイヤ滑りまくり、飛び跳ねまくり、もうこのもま赤甲羅でも飛ばしそうな勢いだ。俺たちの乗ってるジープの運転手はさすがに毎日この道を走ってるだけあって慣れてるけど、タイヤが埋もれて動けなくなってる車もいる。四駆ですら脱出できなくなるほどの砂漠の中を、何台ものジープたちがデッドフレイを目指す。朝の砂漠の風が気持ちいい。すっげぇところにあるんだなぁ。ワクワクしてくるわ!!そうして10分くらいかな。ジープは砂漠の中の駐車場に到着。やっと着いたぞーと思ったら遠くの砂丘のほうを指差すドライバーさん。あの砂丘の下にデッドフレイはある、あそこまでは歩きだ、と言う。結構遠い!!いやー、すげぇなぁデッドフレイ!!すでに空は明るくなっており、急いで砂漠の中を指差された方向に歩いていく。静寂の中、3人の砂を踏むかすかな音だけが聞こえてくる。周りに広がるのは寂しげな砂丘のうねり。あまりにも壮大な景色の中、数人の観光客たちが同じ方向を目指している。そして小高い斜面を超え、見晴らしのいいところまで出てきたところで目の前に変なものが見えた。あれ………か?砂丘に囲まれた谷間に、白い地面がある。そしてその白い地面の中に立ち枯れた木々が生えている。これがデッドフレイ…………この地面はかつて川の洪水によって出来上がった沼地だったらしいんだけど、それが干からびてこのような景観を作り上げたんだそう。あの立ち枯れた木々は900年も前に枯れた木々だというからすごい。900年も死んだままここに立っているのかよ。こんな砂漠の真ん中に。ドキドキしながらかつて沼地だった地面に足を踏みいれる。砂丘に囲まれて日陰になった沼地にパラパラと枯れた木々が散らばっている。観光客の姿はそんなに多くなく、数えられるくらいだ。静寂が広がっている。そんな中でなんかめっちゃ三脚を立てて、走り回りながら写真撮りまくってるカップルさんがいたんだけど、日本人だった。そこバミッて!!とか言って2人ともダッシュしており、写真に対する執念ハンパじゃねぇ。もしかしたらなんかの雑誌の人たちなのかな。誰もが写真に夢中になるこのデッドフレイ。砂漠の中に現れる沼地跡と立ち枯れの木々、これだけで確かにすごい景色ではあるんだけど、デッドフレイが一躍有名になったのはやっぱりあの写真だ。カッピーがあの時見せてくれた絵のような写真。さぁ俺たちも撮影大会スタート。これがデッドフレイだ!!!朝日の時間にだけ見ることができるデッドフレイのマジックアワー。太陽の光が背後の砂丘だけを照らし、木々はまだ日陰の中。その光の関係で木々のシルエットが砂のキャンパスに浮かび、不思議な景観を作り出す。こりゃ確かに幻想的だ。死が作り出した芸術だ。黄泉の国に迷い込んだような、変な感覚に陥ってくる。木々はうねりながら幹を伸ばし、同じ形のものはひとつもない。その姿がどこか人の動きに見えなくもない。まるでこの沼地跡が舞踏場のよう。死のダンスだ。異様な美しさに何枚も写真を撮った。まぁいっても、有名な写真の真似してるだけなんだけど。というわけで俺たちもシルエット遊び。「もうちょっと右です!!」「今です!そこでお願いします!」「よし!木村くんもやろうよ!!んー、どんなポーズがいいかな。よし!氷室いこうよ!!」「ひ、氷室!?こんなでしたっけ?!」木村君、面白すぎる!!!!なんて素敵なやつなんだ!!さすが、函館出身はビジュアル系に強い!!ひたすら写真を撮り、景色を堪能し、遊び倒していたら、やがて太陽がどんどん砂丘の上に登ってきた。光が沼地に落ちてきて、少しずつ範囲を広げていき、とうとう木々が照らし出されてしまった。こうなるともうシルエットの写真は撮れない。もちろんこれはこれで綺麗だけど、照らされるとただの枯れた木だ。いやぁ、マジックアワー堪能したぞー。カッピー、しょーた君、またひとつ行きたかった場所に行けたよ。デッドフレイを満喫してのもどり道、太陽に照らされたナミブ砂漠はため息が出るほど美しかった。人々の足跡とうろこ雲が重なり、それこそ1枚の絵のようだ。遠く見える砂丘のうねりに心があらわれる。すると先の駐車場のほうからどんどん人が歩いてきていた。ジープもひっきりなしにやってきては、大量のヨーロピアンのおじちゃんおばちゃんを下ろしていく。カッコいいアウトドアファッションに身を包んだご夫婦がワイワイと写真を撮り、みんなデッドフレイを目指して歩いている。どうやら6時になって外の第1ゲートが開き、キャンプ場に泊まっていない組が一気になだれ込んできたようだ。ものすごい勢いで観光客がピストン輸送されてやってくる。しかし残念ながらマジックアワーはもう終わっている。いやー、やっぱりキャンプ場泊まれてよかったー……………それからまたジープに乗って5キロ走り、駐車場から車を飛ばしてキャンプ場に戻ってきた。すぐにレセプションに行き、ゆうべの宿泊代と昨日からのパーミッション代を支払い。宿代がテント泊で1人200ドル、1660円。パーミッションが1人80ドル、660円、車が10ドル、85円。なんで昨日払ってないの!?って怒られないかドキドキしてたんだけど、受付の女の人は、昨日の宿泊分ねー、と別になんてことない感じでレシートをくれた。うーん、よくあることなのかな。とにかくちゃんと払えてよかった。それから3人で朝ごはんにイングリッシュブレックファーストを食べた。本場のイングリッシュブレックファーストからするとなかなか質素だけど、でも美味しい。値段は65ドルだったかな。540円。「いやー、今日ここを出発してスワコプムントまで行って、頑張ってスケルトンコーストを北に抜けたいんですけど、どうすかね?」「うん!絶対無理!!っていうかスケルトンコーストは無理して抜けないほうがいい!!マジで危ないから!!」おとといスケルトンコーストに行ってあまりにも道が悪くて、パンクしてえらい目に遭ったという話をしてなんとか木村君を説得。木村君はゴールデンウィークの休みでナミビアに来ているので6日間のレンタカー旅だ。かなりギチギチにルートを詰め込んでおり、できることなら今日中にスケルトンコーストを抜けたいみたいなんだけど、あそこはスワコプムントから出発したとしてもかなり大変な道のりだ。セスリムから1日で抜けるのは体力的にも時間的にも至難の技。暗くなってからあの道を走るのは絶対にやめといたほうがいい。「それなら今日はスワコプムントまでにしておいて、フラミンゴとかオットセイだけ見に行くほうがいいと思うよ。」「そうですねー、わかりました!!スワコプムントに着いた時の時間と体力で考えます!!」若い!!でも本当気をつけてね。スケルトンコーストを北に抜けて民族がたくさんいるオプウォを目指す木村君、北をルートから外して南を回る予定の俺たち、ここでお別れだ。「じゃあ、日本に帰って辞めることを会社に言います!!世界一周に出発してどこかで会えるのを楽しみにしてますね!!」「うん!!俺たちも楽しみにしてるね!!運転気をつけて!!」爽やかな笑顔で車を走らせていった木村君。砂埃を巻き上げながら荒野の向こうに消えていった。木村君、昨日砂丘の上で会えて本当に良かったよ!!マジでありがとう!!必ずお互い元気で会おうね!!俺たちも車に乗り込み、ゲートでパーミッションのレシートをセキュリティの人に見せ、セスリムを後にした。昨日のデューン45と今日のデッドフレイでナミブ砂漠は完璧に大満足した俺たち。今日も太陽が照りつける下を走っていく。レンタカー周遊も終盤になり、セスリムから目指すのはナミビア南部の町、リューデリッツだ。この町の近くに必ず見たかった3つの場所の最後のひとつがある。あんまりレンタカー周遊をする日本人観光客が訪れない場所だけど、ここもまた来る前からずーーーっとめっちゃ楽しみにしていた場所。セスリムからリューデリッツはなかなかの距離があり、さらに道路は相変わらずのC道。最後のほうだけアスファルトのB道になるものの、かなりの距離があるので今日は移動だけになりそうだ。周りに広がる果てしない砂漠。その中をのびる一本道。ガタガタガタガタ!!と洗濯板の上を走るみたいに車が跳ねまくり、手に汗がにじむ。相変わらずタイヤはスペアタイヤのままだ。この辺りは本当に荒野しかなく、たまに地名のついてる場所が地図上にあったとしても、ガソリンスタンドのみの休憩ポイントなのでタイヤの交換ができない。対向車もほとんどおらず、もしこんな場所でなにかあったら大変なことになる。不毛な大地は手つかずのまま、ただただ自然の息吹に満ちている。だからこそ旅行者はアドベンチャー気分を味わえるってもんだ。パンクをしたら終わりという緊張感、石を避けないといけないガタガタのオフロード、そんな道を連日何時間も走り続けてかなり疲労がたまっている。加えて夜はいつもテント泊なのであまり疲れもとれないし、おまけに昨日から喉が少し痛いなと思っていたのが今日になって悪化して体がダルい。カンちゃんの風邪がうつったのかなぁ……………今日はカンちゃんはピンピンしている。もうちょっとスローペースで回ればなんてことないんだろうけど、レンタカー周遊の間は日程を詰め込んでいるので休むこともできない。走り続けないとウィントフックの返却日に間に合わない。そう思って頑張ってハンドルを握るんだけど、さすがに疲れでウトウトしてきた。今日中になんとしてもリューデリッツまで行かないと……………しかし目の前にのびるのは果てしないオフロード。大地の真ん中をどこまでも一本道がのびている。気が遠くなる…………そしてさすがに限界がきてしまい、道の脇に車を止めた。もうダメだ……………ちょっと仮眠をとろう。風邪気味の体でこの道はしんどすぎる…………今日リューデリッツにたどり着くためには仮眠をとってる時間なんてない。でももう限界。車を寄せ、エアコンをかけたままでシートを倒して目を閉じた。えー、宮崎市一番街アーケードの出口から50メートルくらい南にある赤レンガの老舗洋食屋、爛漫で、物静かな職人気質のマスターと男前の息子さん兄弟が笑顔で迎えてくれて、チキン南蛮食べながらいやー、最近ゆまちゃんのことフルネームで書いたらグーグルアドセンスから警告受けて大変なんですよね!困っちゃいますよー!!あははー!!って話をしつつトイレに行こうとして立ち上がってドアを開けたら超砂漠。い、一番街どこ…………………アーケードにあるゲーセンのUFOキャッチャーどこ……………賑やかなニシタチのネオン街どこ……………うわーい!!もうこうなったらこのままニシタチに繰り出して可愛いセクシーな夜の女の子に客引きされて、黒霧島ロックでウヒョーイ!!「ウヒョヒョー!!君可愛いねええ、どこのお店なのおおおお、俺のお仕事?お仕事なにしてると思うううう?すっごい無職だよおおおおお、あ、ダイヤモンドビルのお店で働いてるのおおお、じゃあそこ行こっかああああああ、」「フミ君!!そっちダイヤモンド鉱山跡だよ!!気を確かに持って!!」きゃああああああああああ!!!!見渡す限りの砂漠のど真ん中ああああああああああああ!!!!!1時間くらい眠って目をさまし、このままだと骸骨になってしまうので根性で運転再開。そこからもただひたすらに何にもない荒野の中のオフロードを走り抜けていったけど、パンクが怖くてスピードが出せず、リューデリッツどころかB道にたどり着く前に太陽が傾いてきてしまった。こ、こいつはもう無理だ……………17時をすぎたころにかろうじてヘルマリングハウセンという小さな小さな村にたどり着き、夕日が照らす村の中でガソリンを給油。しかしすでに商店はすべて閉まっており、なにも買うことはできなかった。スタンドの白人の兄さんに聞くと、ここからB道まではあと2時間くらい。なんとか行けるか…………?いやぁ、無理か………………頑張ってヘルマリングハウセンからまた走り、ガタガタ道を先に進んではみたけど、ちょうど真ん中あたりまで来たところで体力消滅。もう無理。今日はここで車中泊にしよう……………「ここだったら車中泊でも大丈夫そうじゃない?」「そうだね、車全然通らないし、人も誰もいないね。」車中泊大好きな俺たちだけど、このナミビアではなるべくしないようにとカンちゃんと話していた。車中泊だと強盗に襲われる可能性が増す。宿代をケチって襲われたらアホすぎる。でもこのナミビア西部の荒野の中だったら人はまったくいないし、夜に動く人はいないので車もまったく通らない。人里も遠く離れているし、襲われる危険もないだろう。ちょうど道路脇の木の下のスペースに車を止めると、わずかに誰かが木を燃やした跡があった。石で囲んだ黒ずんだ燃えかすが残っている。夕闇迫る荒野の中、2人で枯れ木を集めた。周囲には岩山が連なり、ゆるやかな坂道の下に茫洋とした大地が広がっている。霞がかった曙の色合いがその大地を静かに染めあげていた。火を起こし、静寂の中でインスタント麺を食べた。太陽は沈んで、明かりひとつない完全な暗闇の中に俺たちだけ。車は夕方に1台トラックが通っただけで、それからはもう人の気配はなくなった。ミドルオブノーウェアーってやつだ。世界の果てに2人だけ。ああ、レンタカー周遊はあと2日。もうちょっとだけ頑張るぞ。レンタカー5日目、走行距離432キロ。