スポンサーリンク アフリカでもし最愛の人が襲われたら 2017/4/10 2017/03/27~ タンザニア, ■彼女と世界二周目■ 2017年3月30日(木曜日)【タンザニア】 イリンガ目をさますと窓から眩しい光がさしこんでいた。あ、晴れてる。天気予報では今日もずっと雨だと書いていたのに、窓の外には青空が広がっていた。「やったー、これなら今日観光行けるね!私朝ごはん作ってくる!!」今日はちょっと町から離れたところにある自然の中の観光地に行こうと思っていたので、雨だと濡れるし景色も綺麗じゃないだろうからどうしようか迷っていた。それがこんな天気ならバッチリだ。さぁ早く準備を始めよう。が、俺はバカだからタイミング悪くブログのアップ作業を始めた。カンちゃんが朝ごはんを作ってくれてる間にパパッと終わらせてしまおう、この宿のワイファイならすぐに終わらせられる、そう思ってベッドの中で集中して写真を貼り付けていく。しかし今日はちょっとワイファイの調子がイマイチで、思うように写真が入っていかない。焦っているとカンちゃんが朝ごはんできたよーと呼びに来た。うー、まだ中途半端なのになぁ、一旦中断すると続きがわかりにくくなるので一気にやってしまいたいんだよなぁ。なのでiPhoneを持ってキッチンに行き、カンちゃんが作ってくれたキノコとスクランブルエッグ、それにポテトの朝ごはんを食べながら作業を続けた。ご飯を食べながら携帯をいじくるのが悪いことなのはわかってる。でも中途半端で中断するのも嫌だ。じゃああのタイミングで作業を始めなきゃいいやんってことなんだけど、それが俺のダメなところだ。「ふみ君、早く食べないと天気が崩れたら観光ができなくなるよ。せっかく今いい天気なんだから。」「う、うん、ごめん、もうちょっとだから。」カンちゃんが急かしてくるのに焦りながら写真を貼っていくんだけど、なかなか時間がかかってしまう。「ふみ君ー、歯磨くよー。早くしよー。」「もうちょっとだから、先に磨いてて。」ご飯中に作業をしてる俺が悪いってのは分かってるんだけど、めっちゃ集中してやってる時にそう急かされると気が散ってしまう。これは2人の仕事だ。少なからずこのブログで収入が出ているんだから、作業は大事な仕事。アフリカではワイファイ環境が良くないので、やれる時にやってしまわないとどんどん溜まっていってしまう。そういうプレッシャーは常にある。なのにそれを止められてしまうと、これは俺だけのためじゃないのに、とモヤモヤしてしまう。もちろんカンちゃんもそれは分かってる。作業の時間は作業の時間でキッチリ分けないと、2人で過ごす大事な時間が乱れてしまう。旅をしているときでも、生活にメリハリがないといけない。ご飯の時なんて特にそうで、携帯いじりながらご飯なんて行儀が悪いこのこの上ない。つまり全部俺が悪い。タイミング悪くご飯前に作業を始めてしまったこと、ご飯中も作業を続けたこと、せっかく天気がいいんだから早く観光に出かけないといけないのにやり始めてしまったからと終わるまでカンちゃんを待たせたこと。全部俺のマイペースだ。なのにそのペースを乱されて勝手にモヤモヤしてる俺。モヤモヤしてるのはカンちゃんもだ。2人の時間を大事にしているカンちゃんにとって、ご飯中に作業なんてすごく嫌なこと。分かってるのにやってしまうんだよなぁ………やっとこさブログを上げ終え、ごめんごめんと大急ぎで歯を磨き、すでに準備を終えてるカンちゃんと宿を出た。不満そうな顔をしているカンちゃん。「ねぇ、ご飯中に作業するのはやめようね。」歩きながらカンちゃんが悲しそうに言ってきた。いつもこんなだ。俺がマイペースにやって、俺のペースを押しつけて、なんで分かってくれないの?ってカンちゃんを悲しませてる。作業はやらなきゃいけないことなんだから仕方ないじゃん、って言いたい気持ちもほんの少しある。でもそれを言ったらいけない。もしアホみたいにそれを言ったら2人とも余計悲しくなってしまう。言葉を飲み込み、頭を冷やし、自分の反省点を考えないと。本当にごめん、もうしないからって謝って、手をつないでバスターミナルに向かった。 ターミナルに行き、イシミラという場所行きの乗り合いバンに乗り込んだ。値段は1人1000シリング、50円。タンザニアでもやはり満席にならないと乗り合いバンは出発しないんだけど、12人乗りのバンはすでに満席。しかし出発しないどころかどんどん人が乗り込んでくる。ええ?!もう乗るとこないよ!?すると俺の目の前の隙間にでっぷりしたおばちゃんが体を押し込んできて、向かいの足置きみたいなところにズンと座った。近距離すぎて、おばちゃんの膝が俺の股の間に入ってきてて、完全にエロい恋人しかやらないようなポーズに。「す、すごいね……………おばちゃん超近い……………」「うん、おばちゃんと仲良いみたいだよー。」そうして最終的に25人プラス赤ん坊を4人乗せて、ようやく乗り合いバンはエンジンをかけて動き出した。すげすぎる…………黒人まみれのローカルバンの中、窓の外を流れる景色を眺める。草原が広がり、牛がまばらに散らばっている。カンちゃんはいつも俺たち2人のことを考えてくれている。俺が、これは2人のためなんだから、と考えていることの数倍、2人のことを考えてくれている。いつも俺のことを大事に思ってくれ、俺のことを何よりも優先してくれ、愛してくれている。大事な大事なカンちゃんが、俺のことを世界一大事に思ってくれている。そんなカンちゃんがこのアフリカで危険な目に遭う嫌なイメージがふと頭に浮かんだ。こんな荒野の草むらの中、複数の悪い奴らに襲われて、泣き叫ぶカンちゃんが乱暴を受け、助けようとして俺も殺されてしまう。傷ついたカンちゃんが死んだ俺の体に寄り添って、動かない俺の手を取って、いつも俺がやるように自分のほっぺたを触らせる。このほっぺたフミ君のだからね、フミ君といると楽だなぁ、なんて言いながら俺の腕まくらで可愛く丸くなり、フミ君大好きだよーって言ってくれる。草むらの中、2人きりで倒れてる。そんな想像をしたら、胸が苦しくなって涙が出てきた。あれ?え?と驚いて、止めようとするんだけど全部止まらない。涙が流れてほっぺたを伝い、手でぬぐった。「あれ?なんでフミ君泣いてるの?」カンちゃんが驚いて聞いてきた。目の前の至近距離のおばちゃんも、なんで泣いてるんだ?って不思議そうな顔をしてジッと見ている。涙が出るなんていつぶりだ?もう10年以上は泣いてなかったはず。それが一度溢れると堰を切ったように止まらなくなった。大好きな大好きなカンちゃんがそんな目に遭うことを想像しただけで悲しくてたまらない。俺が死ぬことでカンちゃんが悲しむ、ということを想像するとまた胸が痛い。俺はいつからこんなに弱くなったんだろう。いや、これは弱さなのかな。守るべきもの、失いたくないものができるということは弱くなるということなのかな。もし俺がいなくなってカンちゃんがこのアフリカにひとりぼっちで投げ出されたら…………怖がって寂しくて泣いてるカンちゃんを想像するとまた涙が出てくる。どうしたのー…………と心配しているカンちゃんを抱き寄せて頭をなで、ほっぺたをぷにぷに触る。いつも俺のことを考えてくれてありがとうね。いつもマイペースでごめん。絶対カンちゃんを残して死んだりしないから。お爺ちゃんお婆ちゃんになってもカンちゃんのほっぺたを触ってるから。乗り合いバンは何にもない一本道で急に止まった。どうやらここがイシミラらしい。周りにはただひたすらトウモロコシ畑が広がっている。ネットで見た情報では、このイシミラにはアメリカのグランドキャニオンに例えられる奇岩の渓谷が存在するらしく、さらに石器時代にまで遡る人類の生活跡が残る遺跡になっているという。それにしてもなんにもない。トウモロコシ畑の中、赤土のあぜ道が驚くほど青い空に続いている。そんな道を土を踏んで歩いた。ちらほらと農家の民家があるんだけど、どれも土壁に草で葺いた屋根という簡素なもの。ニワトリが歩いており、子供が家の中から不思議なものを見るようにこっちを見ている。たまに、真っ黒な肌の男の人が遠く向こうからやってきて、すれ違う時に、マンボ、と挨拶して去っていく。生き物の気配はそれくらいのもので、静寂だけが青空の下にあった。風が吹き、トウモロコシの高い植物が揺れカサカサと音を立てる。トウモロコシに混じって数本のヒマワリが空を向いており、鮮やかな黄色がすごく綺麗だ。こんなに綺麗な空、久しぶりだな。「カンちゃん、そこに立って。はい、じゃあなんかやって。」「なんかやってって言われても無理ー。写真撮られるの苦手なんだからー。」あぜ道の上で、2人っきりで写真をパシャパシャ撮った。そしてビデオも撮った。いつかこの写真を見て若い日を思い出そう。いつかこのビデオを見てあの頃のどんな声で話していたか聞こう。繋いだ手のぬくもりまでは残せないけど、せめて、ちょっとだけでも2人で過ごした時間を思い出せる材料を増やしておこう。そんなあぜ道を20分ほど歩いて行くと、しばらくして広場に出た。そこにはコンクリート平屋の建物があり、タンザニアの国旗が揺れていた。どうやらここがチケットオフィスみたい。他の観光客の姿はまったくなく、建物にも人の気配はなく、これ、閉鎖してんじゃないか?と不安になりながら正面に回ると、1人の兄さんがいた。「ウェルカム、よく来てくれました。タンザニアにようこそ。」その兄さんは英語が堪能で、いかにも教育を受けている知性があった。彼は大学生らしく、ここの管理をやっているらしい。チケットの値段を見ると外国人は20000シリングと書いてある。1000円。その横には堂々と、タンザニア人、2000シリングと書いてある。100円だ。まぁそんなもんだろうとチケット代を払うと、ガイドは必要?と聞いてきた。良さそうな感じの兄さんだし、英語も分かりやすかったのでちょっと迷ったけど、2人でゆっくり回りたかったので断った。兄さんは敷地の入り口まで案内してくれ、その間に簡単にこのイシミラヘリテイジサイトの説明をしてくれた。「ホラ、あそこに小屋があるだろ?ここでは6000年前の人類の生活跡があってね、石器なんかが見つかってるんだ。石斧や矢尻とか、スリングショットの球とか。アメリカや韓国の大学がここに研究にきて、それらをあの小屋に集めてるんだ。」かつて豊かな水があったこの地にはたくさんの動物が生息していたらしんだけど、長い年月をかけてその水が大地を削り渓谷を作り上げ、現在は水は枯れてしまっている。ただ雨季になれば水がたまり、沢を作って渓谷の中を流れるみたいだ。今は雨季だけど、まだ沢までにはなっていないよう。じゃああとは自分たちで楽しんでね、と兄さんは爽やかな笑顔を残してオフィスに帰って行った。俺たちも斜面を下って渓谷へと向かった。それにしてもこりゃ道が分かりにくい。遊歩道なんかが整備されてるわけでも、矢印の立て看板があるわけでもなく、ただひたすらの荒れ地の中をわずかに見える踏み跡を辿って行くしかないというルート。おかげで手付かずの秘境感はあるけど、確かにガイドがいないと道に迷ってしまいそうだ。こりゃ大丈夫かな………と思っていたその時だった。いきなり足元を何かがすり抜けていって驚いた。それは1匹の犬だった。あ、こいつさっきオフィスのところにいた足の悪い犬だ。え?わざわざオフィスからここまで来たのか?その足じゃ結構大変だっただろう。茶色い毛の中型犬。左後ろ足をかばってひょこひょこと歩くその犬が俺たちを追い越して数メートル先でこっちを振り返っている。まるでこっちだよと言わんばかりに立ち止まって俺たちのことを待っている。近寄って頭をなでると、またひょこひょこと歩いていき、数メートル先で立ち止まってこっちを振り返る。マジかこいつ、俺たちのことガイドしようっていうのか?まぁ、そのうち勝手に戻っていくかなと、先導してくれる犬に着いて俺たちも歩いた。真っ青な空の下に草原が広がっている。その草原の中、俺たち2人と足の悪い犬。白い雲がゆっくりと流れていく。こんなところにグランドキャニオンと評されるような渓谷があるのか?と怪しく感じながら歩くこと10分くらい。パッと高台に出た時、目の前にすごい景色が広がった。茶色い大地が深くえぐれ、その中に不思議な形の石柱が何本もそそり立っていた。おおお!!こりゃすげえ!!!頂点の部分が平らになったエリンギみたいな形の石柱がいくつも立っており、その高さは確かに統一されていて、かつてここが平らな土地だったことがイメージできる。悠久の年月をかけて水が大地を削って作り上げた渓谷はまさにグランドキャニオン。素晴らしい天気も相まってあまりにも見事で、高台に座り込んでしばらく眺めた。するとガイドの犬も俺たちの横に来てぺたんと座り、はいはいー、ここでちょっと時間取りますからどうぞゆっくり眺めてくださいねーと、まるでベテラン添乗員みたいな風格すらある。「めっちゃお利口さんやね、この犬。」「名前つけようよ。何がいいかな?」「んー…………ラーメンは?」「それはなし。」「じゃあ何がいいかなぁ。」「シンバは?ライオンキングのライオンの名前。スワヒリ語のライオン。」「あ、それめっちゃいいじゃん。ね、シンバ。」ヘッヘッヘと舌を出しているシンバが暑そうだったので、持ってきてたお水をあげようと手に注いで差し出した。水に顔を近づけてくるシンバ。でもアクビをして飲まずにまた座り込んだ。なんだよ、飲まんのかよ。しばらく高台からの景色を堪能して、さぁ出発しようかと立ち上がると、それに合わせて立ち上がり渓谷の底に降りていくシンバ。さぁ、こっちだよとまた振り返って俺たちを見てる。マジかよこいつ。ほんもんのガイド犬だな。それからシンバに着いて渓谷の中を散策して回った。不思議な形の石柱は近くで見ると小石を含んだ砂状の地質で、どこか蟻塚みたいな質感だ。同じく石柱で有名なトルコのカッパドキアとは全然違う。渓谷は石柱だけではなく、巨大な壁や、鍾乳洞のような芸術的な石筍があり、見ていて全然飽きない。狭くなっている割れ目をくぐるポイントや、行き止まりになっている奥地など、見所が満載でアドベンチャー気分になってくる。こんなに素晴らしい自然遺産なのに、観光客は皆無。この壮大な大自然を完全に貸切状態だ。なんて贅沢なんだろ。足元は砂地になっており、わずかに水が流れている。水勢によって出来た模様が渓谷の底に模様を描いており、こりゃあ雨季に来たらそれなりの沢になるんだろうな。すでに靴は濡れてしまっているけど、今日がこの快晴で本当によかった。シンバも足を濡らしながら常に俺たちの数メートル先を歩き、こっちだよーと先導してくれる。頭をなで、写真を撮り、どこまでも渓谷の底を探検した。そんな荒々しい不思議な景観の中を歩き続けていくと、しばらくして奇岩が丸みを帯びてき始めた。どうやら渓谷がゆるやかになって、景勝地エリアを抜けたようだ。あとはぐるっと一周していけば元の場所に戻れるはず。いやぁ、有名な場所じゃないようなのであんまり期待してなかったんだけど、自然系の観光地でこんなに感動したのっていつぶりだろう。それくらい見事な造形とスケールだった。ここが有名じゃないのがおかしいくらい。いやー、すごかったねー!!大満足だねー!!とカンちゃんと手をつないで歩いていると、目の前にT字路が現れた。ん?これどっちだ?同じ大きさの道が二手に分かれており、どっちが正しいルートなのかわからない。看板も矢印もない。おいおい、普通なにかしら案内を書かないか?今までここで迷った人絶対たくさんいるはず。え?マジでどっちだ?「カンちゃん、これどっちだろ。」「うーん、なんにも目印がないね…………でもシンバはあっちで待ってるよ。」すでに1時間以上もずっと一緒に歩いてきたシンバが右方向の道の先で座り込んで俺たちのことを待っている。俺が左方向の道に歩いて行ってみても、シンバはそこから動かない。「シンバが正しいのかな。」「わかんないけど、ここまでずっと一緒だったし、シンバを信じてみる?」「………そうだね。シンバについて行ってみるか。」俺たちが右方向の道に入ると、シンバは起き上がってまた歩き出した。そうして10分くらいすると、見覚えのある風景になってきた。あ、ここって最初にスタッフの兄さんと別れたポイントだ。ぐるっと一周した戻ってきたみたい。ここまで来たら大丈夫ねーと言わんばかりに、タッタッタと階段を登ってオフィスに戻っていったシンバ。マジかよ、あいつなんて賢いやつなんだ。「シンバがいなかったらあそこ分かんなかったね。」「うん、もはやあいつにガイド代払いたいわ。」シンバ偉すぎる。オフィスに戻り、併設されてる簡単な資料館を見たらこれでイシミラヘリテイジサイトは終了。ここはマジで1000円の価値がある。タンザニアの他のところは全然知らないけど、ここに来れてもうタンザニア満足って思えるくらい素晴らしかった。オフィスの入り口にはシンバが座って、あー、ひと仕事したわーって顔で舌を出している。俺たちが帰ろうとすると、パッと起き上がってお見送りしてくれた。もう、なんて可愛いくて偉いやつなんだシンバ。これからイシミラに行くみなさん、シンバに会ったらこの賢いガイド犬に優しくしてあげてくださいね。「あー!楽しかったね!!」「うん、めっちゃよかったー!!充実した1日!!」元来たトウモロコシ畑の中をまた2人で歩いていると、突然ザッと雨が降り出した。今日の天気予報はもともと雨。なのでちゃんと傘を持ってきてたので助かった。さっきまであんな快晴で見て回れたのが奇跡だったな。「ふみ君、一緒にいてくれてありがとう。ふみ君泣かしてもうた。」「あー、神田に泣かされたー。女の子のことで泣いたことなかったのになぁ。」守るものができたら、人は弱くなるのかな。失うものがなにもないこと、それが自由ってクリスクリストファーソンは歌ってるけど、俺はもうあの頃みたいな自由ではないのかな。でもそれでもいい。世界を旅して、カンちゃんと出会えて、もうこれ以上なにが要るだろう。カンちゃん、朝はごめんね。また悲しくさせてしまったら、また上手く修復するから。トウモロコシ畑の中、雨が降るあぜ道を傘をさして2人で歩いた。