スポンサーリンク 動物市と秘境の村 2017/3/16 2017/03/03~ アルバニア, ■彼女と世界二周目■ 2017年3月5日(日曜日)【アルバニア】 コルチャ ~ ボスコポヤ「グッドモーニングー。アルバニアルバニー。」朝、宿のママが俺たちのために朝ごはんを用意してくれた。パンとクッキーとゆで卵とチーズ、それに牛乳という簡単なものではあるけど、ママの優しい笑顔に心が和む。英語の喋れないママだけど、身振り手振りが上手で言いたいことはなんとなくわかるんだよな。今夜、もう1泊、したいです、と俺たちもボディラングエッジでママに伝えると、ママはあらまー!とニコニコして戻っていった。ストーブにあたりながら朝ごはんを食べた。コルチャは内陸で標高が高いので気温が低く、暖房設備の整っていないお婆ちゃんの家は結構冷える。でもそれがまた昔里帰りした岡山のお婆ちゃんの家を思い出させる。婆ちゃんのキンピラをちょっと思い出しながら、ゆで卵に塩をかけてかじった。さてさて、今日はコルチャに来た目的である山奥の秘境に攻め込むぞ。宿を出発して晴れ渡る空の下、町の中心部へと向かう。目的地であるボスコポヤという村へは、バスターミナルからではなく別の通りからバスが出ているみたいだ。昨日のうちに下調べは済ませているので問題なし。昨日すでに終わっていたバザールに行ってみると、朝ということもあってたくさんの屋台が出て大賑わいだった。野菜、フルーツ、魚、お肉、衣類、生活道具までなんでもありの生活感あふれるこのバザール。マーケットのことをバザールと呼ぶところからしても、もうこの辺りは中東地域に片足突っ込んでる。賑やかなマーケットの中を歩くと、誰もが、なっ!なんだあの生き物は!!といった顔で5度見してくる。どうもどうも、珍獣でございます。そんな下町風情に満ちたバザールを抜け、金物屋が並ぶ裏通りを歩いて行くと、道端でお喋りしていたオッちゃんがボスコポヤ?と声をかけてきた。そしてオッちゃんは目の前のボロい乗用車に乗り込むように言った。おお、バスとかバンとかじゃなくてただの乗用車なんだね。おそらく村に帰る人がついでに乗せてくよといった感じなのかな。確かにボスコポヤはめっちゃ山の向こうにある集落。定期便なんか出てるわけない。ボスコポヤまではコルチャの町から30分くらいの距離。値段は1人100レク。90円。オッちゃんの車はコルチャの町を出て山のほうへと走っていく。暖かい日差しが気持ちのいい、のどかな原野の中の一本道。すげぇところにいるなぁと思いながら窓の外を眺めていた時だった。向こうのほうに何かが見えた。ん……………?なんだあれ…………?原野の中に人だかりが見える。何にもない原っぱの中にすごい数の人が集まっており、人以外のものも見える。馬…………?あれ?牛?羊?ワラワラとたくさんの動物たちがいる。…………これは!!「カンちゃん!!これ動物市だ!!今日は日曜日だしきっとそうだ!!」「え!どうしよう!でもボスコポヤ行きの車がまた見つかるかわからないよね!?」「大丈夫どうにでもなる!降りよう!!」あれは南米のどっかの国だった。長距離バスに乗っている時に、田舎道で動物市に遭遇したことがある。無数の動物たちが一堂に介し、人々はそれらを売り買いし、あまりのローカル感にたまらなくそそられた。しかしこんなど田舎で長距離バスを降りたらとんでもないことになるので、あの時俺は窓からそれを眺めるだけで通り過ぎてしまった。もうやり過ごさないぞ。運転してるオッちゃんの肩を叩いて車を止めてもらった。まだボスコポヤまでの半分も来てなかったけど、当初の値段を払って車から降りた。降りた瞬間、様々な動物のいななきがひしめいていた。鞍をつけた馬、荷馬車、牛、羊、山羊、ブタ、大人の動物もいれば、まだヨチヨチの赤ちゃんもいる。手足を縛られて横たわっている羊を見ると、まさに売り物だ。おおおー!!すげーー!!めっちゃローカルすぎるーーー!!!田舎のオッちゃんたちが原っぱに動物を並べ、みんな楽しそうにお喋りしており、冗談を言ってガハガハ大笑いしている。確実にアジア人とか皆無のこんな市に迷い込んだ俺たち。そりゃもう反応すごい!!山田さん!!この生き物いくら!?誰が出品してるの!?って、もはや動物の一種くらいの感じでみんな凝視してくる。どうもどうも、アジア行ったらこんな顔の人15億人くらいいますよ。そんな視線を浴びながら広い動物市の中を見て回った。最初はみんなユーマが現れた!!みたいな雰囲気だったけど、すぐに笑顔になって、ヘーイ!!フォトフォトー!!と声をかけてくれ始める。みんなすごくフレンドリーでアットホームで、この謎の生物を暖かく迎えてくれ、好奇心の強い子供たちがキャッキャ言いながら俺たちのあとをついてきて、みんなで動物を見て回った。馬には年季の入った鞍が載せられており、こすれた背中の部分は毛がはげてなかなかみすぼらしい。日本みたいに商品として手入れの行き届いた綺麗な毛並みではないのがなんともローカル感がある。こっちでは馬は大事な仕事仲間なんだろう。荷馬車もセットで売られたりしてる。他にもエサやカウベル、植木など様々な物が売られており、町場のバザールでは絶対見ることができない動物市の様子に大興奮。うー、車降りてよかったー。オッちゃんたちが渋すぎる。そんな市の中に、美味しそうな煙をあげているところがある。あれはバーベキュー屋台だ。炭火のコンロの上でお肉が焼かれており、周りに並べられたビールケースに座ってオッちゃんたちが朝からビールを飲んでいる。あんまりいい匂いなのでそれに誘われて俺たちも軽くやってみることに。「オッちゃん!!焼き鳥とビールください!!」「お!!この未確認生物!!これ食ってオシッコ漏らしやがれ!!」とは絶対言ってない優しいおじちゃんにお金を払ったんだけど、こんな肉厚な焼き鳥がたったの80レク!!そしてビールが100レクで、なんとふたつ合わせて奇跡の160円!!!アルバニア好き!!!焼き鳥をかじると炭火の香りがフワッと鼻をぬけ、肉汁と油の旨みがジュワッと広がる。ハイパーうめぇ!!!!そして馬やら牛やらがヒヒヒーン!!モ~~~!!と叫びまくってる中、ビールをあおると、朝の日差しが気持ちよくて気持ちよくて、ああああ!!!楽しい!!!ビールケースに座って美味い美味い言ってると、周りの酔っぱらったオッちゃんたちがどんどん話しかけてくる。「ヤポニ!!ヤポニか!!これを見ろ!!」横のご機嫌さんになってるオッちゃんグループが声をかけてきて、ビニール紐を差し出してきた。どうやらこのビニール紐を引きちぎれるか?ということらしい。うん、無理です。「アルバニアルバニー!!フンッ!!」するとオッちゃんはビニール紐を思いっきり引っ張ってブチッ!と引きちぎった。どうだコノヤロウ?みたいなドヤ顔のオッちゃん。すると周りのオッちゃんたちがそんなもん誰にでも出来るわハゲが!!ビニール紐をよこせ!!と紐切り大会が勃発。ブチッ!!ブチブチッ!!とあちこちで紐を引きちぎるオッちゃんたちの中で焼き鳥を食べるアジア人2人。「お前今切り込みいれただろ!!卑怯なことすんなホーケー!!」「うるせぇ!!そんなことしてねぇわホモが!!」「ほらああああ!!!すげえだろおおおおブチブチブチイイイイイ!!!」1番引きちぎってるオッちゃんの手を見たら引きちぎりすぎて手の皮が剥けて血が出てる。なんでもねぇよこんなのー!!と笑ってるオッちゃん。タフガイが過ぎるっていうか怖い…………「よし!!ヤポニ!!お前こっち!!俺こっち!!」すると今度はオッちゃんが腕相撲をやるぞと言ってきた。やる気満々ですでに構えてるオッちゃん。こんな屈強な田舎の男と腕相撲なんかしたらフンッ!!ってやられて、リストをハズされちまった、って渋川と戦った時のオリバになるわ!!でもとりあえずやってみようと、オッちゃんの手を握ると、何したらこんななるの?ってくらい手の皮がガチガチ。カカト超えてる。働く男の手がカッケェ。「いけいけええええ!!!」「ヤポニ頑張れええええ!!!」全力を込めてみるけどももちろんこんなタフガイに勝てるはずもなく、赤い顔して踏ん張る俺の周りに軽く20人くらいの人だかりができて、うわぁアルバニアの路上で歌っても誰1人足止めてくれなかったなぁって若干切ない。そして笑顔で優しくオッちゃんに負かされて、とりあえず明日筋肉痛確定。するといきなり新しいビールが俺たちのテーブルに運ばれてきた。え?と思ったら、隣の席のオッちゃんが、俺のおごりだぜー!!とウィンク。ぐおおお!!ありがとうございます!!フェルメンデール!!(アルバニアのありがとう)。感動していたら、腕相撲のオッちゃんが、ホラ、ちゃんとあそこに行ってゴズウォーして来るんだよと言った。ゴズウォーって…………あ、乾杯だ。ちゃんと乾杯して礼を尽くすんだよってことだ。相手に対するリスペクトをキチンと表すことを重んじてるんだ。いかんいかん、俺としたことが。隣の席に行ってゴズウォーと言うと、オッちゃんは笑顔でビール瓶を合わせてくれた。「いやぁ、楽しいねぇ。」「うんー!めっちゃ楽しい!!こういうローカルの人たちとの絡みって最近あんまりなかったからめっちゃ楽しいね!!あそこで車降りるって言ってくれてありがとう!!」「前回の旅ではこういうところにガンガン飛び込んでいってたからいつもこんなだったなぁ。1人ってのも大きかっただろうけど。」「ねー。これからこういうの増えるといいね。」「そうだね!あー!今日も楽しかったー!ってまだボスコポヤ行ってねぇし!!!」朝からすでにビール2本いってホロ酔いでリラックスムードになってしまってるけど、まだ今日の目的地にたどり着きもしてねぇ!!オッちゃんたちにありがとうー!!と挨拶して動物市を出発した。動物市を出て、田舎道を2人で歩いた。周りにはなーんにもなく、広大な農地の中に一本道が伸びている。遠くから馬車がやってきて、ひづめの音を立てながらゆっくり俺たちの横を過ぎて走っていった。時代が遡っていくようなその風景。とにかくまだボスコポヤは遠く、歩いて行くのは不可能なので走ってくる車に親指を上げた。ヒッチハイクが通じるかわからないけど、まぁなんとかなる。しかし思ったよりも車は止まってくれず、とぼとぼと広い空の下を歩いた。ホロ酔いが気持ちよくて、開放感に飛ばされそうになる。誰も俺たちのことを知らない。とてもとても自由で、よそ者には責任もない。果ての道で、透明人間みたいだ。俺は何から逃げてるんだろう。後ろからバンが走ってきて、手を挙げると俺たちの前に止まった。バンは小さな集落をいくつか通り過ぎ、山の上へと登っていく。クネクネのカーブの連続で、遠く向こうの尾根に小さな集落が見え隠れする。寂しげな岩山の隙間を、乾いた砂埃をあげながら走っていく。乗客は1人また1人と降りていき、最終的に俺たちだけになった。ぐんぐんと坂を登り、荒れた道を進んでいくボロいバン。一体どこまで行くんだ?というところでいくつかの民家が見えてきた。ようやくボスコポヤに着いた。ただでさえど田舎のコルチャからさらに農道みたいな道を30分も走ったところにある集落、ボスコポヤ。道はほとんど舗装されておらず、ボコボコと石が散らばり、ニワトリが歩き回っている。風が吹き渡り、民家の洗濯物が揺れ、向こうからロバを引いたお爺さんが歩いてくる。完全に昔話の世界で時が止まっている。こりゃ相当世界から取り残された集落だ。その時、前からゆっくりとトラックが走ってきたんだけど、運転しているのが7~8歳の女の子だったのにはビビった。お父さんが隣に乗ってはいたけど、女の子は自慢げな顔で大きなハンドルを握って俺たちの横を砂埃を上げながら通り過ぎていった。目当てにしていた教会はすぐに見つかった。集落の中にポツンとたっており、かなり古びて今にも崩れそうな雰囲気だ。中に入って説明を読むと、1721年に作られたものだと書いてあった。教会の外壁にはそれはそれは見事な壁画が施されていた。全然わからんけどビザンチン様式ってやつで、キリスト教の偉人たちが壁にズラリと描かれており、物語を描いたものもある。カラフルで、タッチが強く、すごく美しい。しかし壁は長年の歳月でズタボロになって、いたるところが剥げ落ち、下地のブロックがむき出しになっている。さらに落書きで壁を削って文字を書いてるやつも多くて、絵は著しく損傷していた。これほど見事な遺産だったら厳重に保護して観光地として人を集めそうなものなのに、ここアルバニアではまったくもって放置&観光客も皆無。夏のシーズンにはまだ少しは来るのかもしれないけど、今は本当に静かだ。でもそれが素晴らしかった。ヨーロッパの片隅、山奥の集落、そこにある誰の目もひかないようなボロボロの教会。時の流れが心を通り過ぎていく。ボスコポヤは本当に小さな集落だけど、こうした教会がいくつも存在する。草原の中の廃墟と化した教会、1960年に起こった地震で閉鎖された教会、柱しか残っていない荒れた教会など、廃墟フェチ&教会好きにはどれも一級品に素晴らしいものばかり。この秘境の集落というロケーションも相まって、たまらなく冒険心があおられる。このボスコポヤ以外でも、コルチャ周辺にはまだまだ秘密めいた集落が山の中に点在しており、美しいビザンチン様式の教会が放置されているんだそう。しかしそれらは未舗装のトラックロードの奥深くにあり、車があっても厳しいような場所。さすがにそこまで行ったら帰ってこられなさそうなので諦めたけど、このボスコポヤだけでも本当来て良かった。集落を歩いて5ヶ所くらいの教会を見て回った。教会の脇にあった古びたお墓には故人の写真がはめ込まれていた。白黒の老人の写真。この人たちの若い頃はアルバニアはどんなところだったんだろう。みんなこの村で生きてきたんだろうな。帰りの車が16時しかなかったのでヒッチハイクしてコルチャの町に戻り、この日はお肉に疲れたのでアルバニアの家庭料理を食べた。サラダ、チキンスープ、それにパプリカにご飯とひき肉を詰めたメイン。優しい味わいに体がホッとする。これだけ食べてビール2杯で1000円しないんだもんなぁ。食堂にあるテレビでニュースかなんかをやっている。何言ってるかひとつもわからない言葉のニュースを、地元の人たちがチラチラ眺めている。誰も俺たちのことを知らない。孤独は旅を豊かにする。今日は本当に楽しかった。