スポンサーリンク モスタル、もうひとつの名所 2017/3/8 2017/02/23~ ボスニア・ヘルツェゴビナ, ■彼女と世界二周目■ 2017年2月25日(土曜日)【ボスニアヘルツェゴビナ】 モスタル朝から雨が降り続いている。風も強く、ガタガタと古い窓を震わす音が部屋に響いている。これじゃ路上は無理だ。あー………せっかく3日もボスニアに滞在していたというのに、路上できたのはわずかに30分だけか…………観光も一瞬で終わってしまったし、なんとか有意義に過ごしたかったのに天気に恵まれなかったなぁ。ボスニアは大好きな国で、特に思い入れがあるだけにもう少し滞在してもいいところなんだけど、次の目的地であるドブロブニクでは先日出会ったクレアと会う約束をしている。明日出発を変えることはできない。まぁせっかくなので昨日アレンに教えてもらったあの場所くらいはなんとか見に行ってみようか。まだ若干濡れたコートを着込み、宿を出た。ただでさえ暗い町なのに、それが雨だと救いようがないほど陰鬱だ。割れたアスファルト、道路には泥水がたまり、ボロい時代遅れな車が走っていく。風が強く、雨が横殴りに吹きつけ、結構寒い。そうして歩いていると、ある物が歩道に転がっていてウワッ!!とビックリしてしまった。子猫が道端で死んでる。雨に打たれて横たわっていた。不気味にもほどがあるよ……………テキトーにそこらへんでケバブを食べ、少し歩いて昨日の廃墟にやってきた。8階建てになるのかな。町の中心にある大きな交差点の一角にそびえる、この巨大なビルの廃墟。取り壊されることも、復旧されることもなく、ただ手つかずのまま放置されている姿はあまりにも異様だ。廃墟フェチの俺だけど、ここはさすがにちょっと怖い。でもアレンたちは友達みんなでこの廃墟に登って、よく屋上で遊んだりしているんだそう。そりゃ俺もアレンの年の頃には廃ホテルや廃病院とか行きまくってたけど、ここはなかなかレベルが違う。なんかもう言い方悪いけど、この町自体が心霊スポットみたいなもんだもん。ド級の廃墟まみれ。まぁアレンがオススメしていたことだし、頑張って登ってみるかと、廃墟の裏手に回ると、アレンが言っていた通り石が積まれており、塀を乗り越えられるようになっていた。ひょいと中に入ると、いきなりこれ。こ、怖ぇし……………建物の中にはゴミや割れたガラスが散乱しており、これ以上ないほど不気味だ。そこにおびただしいまでの落書きが壁を埋め尽くしており、不穏な空気が立ち込めている。大部屋だけじゃなく小部屋も多く、通路が長く続いており、その奥にむき出しの階段があった。手すりも壁もない階段。真横はガラ空きで、もし足を踏み外したら地面まで真っ逆さまだ。建物の上に行くにつれ風がどんどん強くなって、吹き荒れる風に体がよろめく。「カンちゃん気をつけてねー!足元確認だよー!」「はいー!!寒いー!!」雨に濡れた体に風が冷たいけど、なんとか慎重に階段を上がっていく。8階建てなので相当高く、階段の隙間から見える地面に軽くめまいがする。フロアーはかつてここがなんの建物だったかもわからないくらいにコンクリートがむき出しになっており、まるで建設途中のビルのよう。スラブも壁も、内装らしきものは跡形もない。真ん中にはエレベーターの入り口がぽっかりと口を開けているが、リフトはらしきものはなく穴だけがあいている。そうこうして階段が終わる最上階まで上がってきたらアレンが言っていた通り奥のほうへと進んでいくと、そこには錆びついた鉄梯子があった。雨に濡れながら梯子に手をかけ屋上に上がった。手すりもフェンスもない吹きっさらしの屋上。際から落ちたら真っ逆さまだ。確かに高層のビルなだけあって見晴らしがよく、この建物がモスタルでもかなり力を入れて作られたものだというのがわかった。きっとこれが建設されてオープンした頃は、モダンな建築物としてたくさんの人で賑わったことだろうな。それが今では、そのあまりのデカさゆえに放置され、見世物のように哀れな姿を晒すのみだ。雨が逆巻く屋上で、よろめきながら町を見渡す。川を挟み、クロアチア系住民地域とムスリム系住民地域が分かれ、モスクと正教会の塔がそそり立ち、それらをスープを煮込む鍋のように山々が囲っている。こんな町が世界中に存在しているんだよな。人々の対立はいつになったら終わるんだろう。世界は複雑で、シンプルで、こんなにも悲しく、愛すべきもの。さすがに濡れすぎて寒くなり、震えながらビルを脱出した。この建物が取り壊されるのはいつになるんだろうな。それからバスターミナルに明日のチケットを買いに行き、急いで宿に戻った。この雨では観光も路上も出来ないので、もはややることもなく宿でネット作業をした。さぁ、明日はドブロブニクだ。