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この世の楽園に戻ってきた

2016年9月8日(木曜日)
【オーストリア】 シュピッツ






ゆうべクレムスのイタリアンレストランで、オーストリアただいま記念の宴をした。

飲み物はもちろん白ワイン。


ドナウ川沿いに広がるバッハウのぶどう畑が夜の中に横たわっている。

音もなく流れるドナウに町の明かりがうつり、そのほとりのレストランに座っていると心がとても落ち着いた。


まるで故郷に帰ってきたかのように、リラックスしていた。






























朝、車の中で目を覚まし、ゆっくりと町に歩いた。


クレムスには旧市街と新市街があり、旧市街側はレストランと教会がチラホラと並び、どの建物も1600年代のものだったりする古びたエリア。


新市街側には賑やかなショッピングストリートがある。







立派な城門をくぐって新市街の中に入ると、暖かい日差しの下をのんびりと人々が歩いている。

小さなお店が並び、カフェやレストランのテラスでエスプレッソを飲む人たち。

優雅で、とても上品な空気に満ちている。









この美しい町クレムスもまた、世界遺産、バッハウ渓谷の一部だ。















ショッピングストリートの真ん中あたりにあるマヨメっていうカフェでコーヒーを飲みながらネット作業をした。


ここ数日ずっと急いで飛ばしていたので日記やブログに手をつけられなかったのでだいぶ遅れてしまっている。


早く追いつかせてしまわないとな、と思っていたら、いきなり向こうから音楽が聞こえた。


え?なんだ?と思ったらカフェの目の前でチェロとバイオリンの3人組がモーツァルトを演奏し始めた。




目の前にはバイオリンケースが置いてあり、路上パフォーマーだ。


さすがはオーストリアだなぁ。しかも上手い。レベルが高い。



華麗なバイオリンの音色が石造りの町に反響し、朝から素敵なお茶の時間になった。



















ドナウ川沿いにのびる道をゆっくりと走っていく。





両側に山々が連なり、3キロおきくらいに小さな町がポツポツと現れてはすぐに通り過ぎていく。


どの町も小ぢんまりとして、でもとても美しい。

くすんだ石壁、そこに描かれたキリストの絵、路地裏にのびる石畳、


町の真ん中にある教会の塔に寄り添うように民家が密集している。



見上げると、山々の上には古城の廃墟が散らばっており、寂しげに青空に取り残されている。









ドナウに浮かぶ大きな神殿のような建物、中世の城壁に囲まれた村、そんな村々を囲むぶどう畑の鮮烈な緑色。





ため息が何度も何度も出てくる。
なんて寂しい美しさのある場所なんだ。


巨大な修道院があるメルクの町からクレムスへと続く40キロほどの蛇行したこのバッハウ渓谷。


世界で1番美しい場所はチェスキークルムロフだと前まで思っていたけど、今はダントツでバッハウだ。

バッハウはこの世の楽園だ。






















クレムスからメルクまでのちょうど中間にあるシュピッツの町に入った。

クレムスから20分かからないくらいだ。


シュピッツもまた、人々が全員お互いのことを知ってるような小さな田舎町で、町全体がぶどう畑に埋もれるように広がっており、無数のワイナリーやワインバーがそこらじゅうにある。


中世を舞台にした映画で、娘たちがぶどうのたくさん入った大きな樽の中で裸足で踊り、ぶどうを潰してワインの仕込みをする、あの伝統的な風景が普通に見られそうなほどにのどかで、時間の止まったような場所だ。


















そんなシュピッツの町から山側にのぼっていく道を走っていく。

両側にはワイナリーが続き、それぞれのテラスでは白ワインを傾けている人の姿が見られる。


夏の緑が輝き、程よい冷たさの風が渓谷に流れ、今まさにバッハウは最高のシーズンを迎えているようだ。
























しばらく坂を登っていくと、目的地に到着した。

車を止めると向かいの家の窓から声がした。



「フミー!ナオー!!」



イングリッドおばさん、ただいま帰ってきました!!





シェンゲンに入ってからスロバキアでレンタカーをし、すぐにやってきたこのイングリッドおばさんの家。

あの時は急いでいたので2泊しかできなかったんだけど、イングリッドおばさんとレイモンドパパがくれたフライパンやお皿、ウォータータンクはこの3ヶ月間の車旅で本当に大活躍してくれた。


あれからもう3ヶ月なのか。あっという間だったなぁ。



ふくよかなイングリッドおばさんに抱きしめられると俺もカンちゃんも埋もれそうになってしまう。

相変わらず一点の曇りもない笑顔に心が安らいだ。






「ナオのフェイスブックを見ていたから2人がどこに行ってきたかは見ていたわ!!ちゃんと無事に帰ってきたわねー!!事故なんかしなかった?どうやって車の中で寝てたの?ちゃんとガスコンロは手に入れて料理した?私があげたフライパンは役にたった?」



お喋り大好きなイングリッドおばさんは英語が得意ではない。

めちゃくちゃな英語ではあるけどお互いが理解しようと思えば不思議と分かり合えるもんだ。




「ナオの荷物、届いてるわよ!何を送ってもらったの?」




オーストリアに戻ってくるのに合わせてカンちゃんが大阪の実家から荷物を送ってもらっていた。



段ボール箱を開けると、そこには新しい洋服が入っていた。


手持ちの限られた服でずっとローテーションしていたので、オシャレなカンちゃんとしてはそろそろ新しい洋服が欲しかったようだ。




箱の中には洋服のほかに日本の調味料もちょこちょこ入っていたんだけど、本当に送ってもらいたかったものはそれらではなく、11月のイベントで使う服。


箱からそれを取り出すとイングリッドおばさんが口を押さえて声をあげた。




「フオオオオオ!!!なんてことかしら!!素敵だわー!!ヒョウ!!!」




大興奮するイングリッドおばさん。

俺もそのビニールに大事に包まれたものを見てようやく実感が湧いてきた。




「レイモンドは今病院にいるのよ。」



「え!?何があったんですか!?」



「えーっと、なんて言うのかしら。ドイツ語しかわからないわー。えーっと、これなんだけど。」




何かのメモに英語の病名があったので調べてみると、急性盲腸炎と出てきた。




「昨日からお腹が痛いーって言ってて、病院に行きましょうって言うのにきかなくてねぇ。でも今は病院に行って手術もするから、多分明日には家に帰ってこられると思うわ。」




盲腸も確かに大変なことだけど、もっと深刻なことじゃなくて少しほっとした。

優しい優しいレイモンドパパに会えるのは明日になりそうだ。



好きなだけここにいていいんだからね!ここはあなたたちの家なんだから!!と言ってくれるイングリッドおばさん。

しばらくここに泊まらせていただいて色々と準備していこう。




















今日はまだ帰ってきたばかりなので路上は休むことにしてカンちゃんと2人でこれからお世話になるシュピッツの町をのんびりと散策した。


田舎なので駐車場はどこも無料で、テキトーにドナウ川沿いのパーキングに車を止めて町を歩いた。
























国道沿いにツーリスト向けのレストランが数軒あり、そこではサイクリストたちがカッコいいサイクリングウェアーを着てコーヒーを飲んでいる。


バッハウはサイクリストたちにとても人気があり、自転車で回るルートがきちんと整備されていて今まさにシーズン真っ只中って感じだ。



国道沿いから町の中に入っていくと、ささやかな町並みが広がっており、ひと気はほとんどなく、たまにサイクリストたちがヒューンと通り過ぎていくくらい。


でもあちこちにあるワインバーでは、白ワインの入ったグラスを傾ける人たちの姿が見られる。
























これ、ワインバーの前に飾ってあるものなんだけど、今日オープンしてますよー、美味しいワイン飲めますよーという目印なんだそう。

ちょっと違うけど、日本酒の杉玉みたいな感じで面白い。









建物はどれもとても古びており、坂が多いので、どこか地中海沿いの田舎町を思い出させる寂寥感がある。


町のすぐ裏山にはここにも古城の廃墟があり、静かに物言わず佇んでいる。
















坂道を登っているとうっすらと汗をかいてしまうが、冬になれば雪が谷を覆うくらい寒くなる。

そして雪解けの春になるとアプリコットの花が咲き乱れ、谷がまた純白の花びらで覆われるそう。


そのアプリコットの季節はわずかに1週間らしく、儚く散ってしまう様子はまるで日本の桜のようだ。



新緑のぶどう畑、紅葉の秋、四季のはっきりしているオーストリアの気候は日本人としてとても馴染みが深い。


田舎育ちの俺からしたらたまらなく落ち着く場所だ。

石畳が太陽で照らされて光り、ドナウの水の爽やかな匂いが遠い美々津の光景を思い出させる。




古城、教会、ささやかな町、ドナウ川、ここは本当にファンタジーの世界だ。


ロールプレイングゲームの中で主人公が旅を始める最初の町のよう。























しばらく町を歩きまわってから家に帰ると、イングリッドおばさんがメルクの町に行こうと言った。

なにやらお友達に英語がペラペラのおじさんがいるらしく、今後のことも含めてキチンと通訳してもらいながら色々お話しましょうとのこと。



イングリッドおばさんの車に乗って出発すると、なかなかのスピードで走っていく。


結構飛ばしますね!と言うと、このシーズンは観光客が景色を楽しみながらゆっくりゆっくり走って地元の人は困るものなのよ!とアッハッハ!!と笑うイングリッドおばさん。




するといきなりスピードが50キロに落ちた。


どうやらメルクに向かう道のその場所だけ警察署がある集落らしく、ここだけはスピードを落とすのよと教えてくれた。

このあたりのことを熟知した地元の人とこうして走っていると、本当に故郷のことを思い出すようだった。


























丘の上にドーンとそびえる黄色い大修道院が有名なメルクに到着し、町の広場に行くと向こうのほうからテクテクと1人のおじさんが歩いてきた。

髪の毛を綺麗に整え、ヒゲがチョコっと鼻下についており、シャツをズボンに入れて、どっからどう見ても良識あるダンディーなおじさんだ。







にこやかだけど厳しさも漂わせる彼と握手をして、カフェに入ってお喋りをした。

彼の名前はアシューさん。生まれはイラクだけど、もうオーストリアに20年住んでおり、子供も3人いるそう。



4ヶ国語を喋る博識な人で、英語がペラペラな人が間にいることでイングリッドおばさんのいつものマシンガントークが止まらない。



伝えたいことがいっぱいあったんだろうな。

これから3ヶ月間、どんな感じでオーストリアで過ごすのか、11月に予定しているイベントをどう開催するのか、やっぱり言葉がキチンと理解しあえると話が早い。




「君たちは本当にラッキーだよ。オーストリア人はなかなかよそ者の外国人に対してオープンにはならない国民だ。こうして何日でも家に泊めてくれるイングリッドみたいな人は本当に珍しいから彼女に出会えて運がいいよ。」



「はい、イングリッドは本当に愛に溢れた人です。」



「彼女は英語は上手くないけど、大事なのは心だ。心を持って接すれば分かり合えるものだからね。」




アシューさんもまた素敵なおじさまだ。

俺たちの話を親身に聞いてくれ、色んなアドバイスをくれた。

これからメルクには何度も来ることになるはずなので、困った時に相談に来させてもらえたらいいな。
















1時間ほどコーヒーを飲みながらお喋りをし、それからシュピッツに戻った。


夜の闇がドナウを隠し、静寂がぶどう畑を支配している。

ところどころにある古城の廃墟がライトアップされて夜空に浮かび上がっている。














家に帰り、少しご飯を食べ、白ワインを飲んでいると、イングリッドおばさんが湯船にお湯をはってくれた。

おまけに湯船にバスオイルを入れてくれ、ロウソクに火をともして、さらに素敵な音楽をかけてくれると、ものすごくロマンチックな空間のできあがりだ。


感激しながらカンちゃんと久しぶりすぎる湯船につかると、熱めのお湯に体全体がほぐれていくようだった。

車中泊は快適だし、毎日毎日色んな町を回っているのも別に疲れるようなことではないけど、やはり少しずつ疲れはたまってるんだよな。




体の芯まで温まってベッドに入った。

暖かくてフカフカのベッドに体を横たえると、人間らしい生活のありがたみが身にしみるようだった。



棚にかけられた真っ白なドレスを見て、ゆっくり眠った。









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スペインのホテルをアゴダでとってくださったかたがいました!!


マドリードもバルセロナも行ってないんだよなぁ。また南を回るためにヨーロッパ戻って来ようかなぁ。


どうもありがとうございます!!

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