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オンニとの再会

2016年8月11日(木曜日)
【フィンランド】 ヘルシンキ ~ ヌークシオ国立公園





郊外の住宅地の中で目を覚ました。

トイレに行きたくて車を走らせると、すぐにゴルフの打ちっ放し施設を見つけた。



駐車場に車を止めて歩いて行くと、朝からたくさんの人がパコンパコンとボールを打っており、みんな真剣な顔つきだ。






そんな中にただごとではない気合いのほとばしる1人のおじさんを発見。


おじさんがものすごい集中しながら、ボールを見つめ、何度もクラブを握りなおし、何度も足の位置を確認し、今からまさにプロゴルファー猿の旗に当てるアレくらいのスーパーショットを繰り出そうという雰囲気バリバリ。




どんなショットするのかなぁ…………




満を持しておじさんのスウィング!!





そして空振り!!






「ぶふぅっ!!おふ!!」



「ダメ!フミ君笑っちゃ!!プププ………」



「だって………ププ…………あんなに時間かけて溜めこんで、クラブとか握りなおしてめっちゃ凄そうなのに空振りて………オフゥ!!」




ちなみに僕はハーフコースを100以上で回ります。
ゴルフ無理!!



あー、朝からいい天気だし、笑わせてもらったし、さぁ、オンニに会いに行くぞ。



















やってきたのはヘルシンキの街中の、バーやクラブが固まる飲み屋街エリアだった。








ここにオンニが住んでいるはず。




ちょっと不安もある。

昨日ピーターと会って、あんな気まずいことになってしまった。


ピーターもオンニも俺にとってとても大切な友達だ。

またピーターの時みたいに、俺なんで来たんだろう?って疑心暗鬼に陥ってしまうような再会になってしまったら悲しすぎる。


つい昨日までカンちゃんの友達にあんなに素敵な時間を過ごさせてもらったのに、俺は友達にあまり迎えられない男なんじゃないかって思われるのも嫌だ。




しかし、オンニはあの頃のオンニだった。





「ヘイ、フミ、久しぶりですね。」



「あんた誰ですか?」




アパートから1人の青年が出てきた。

顔に10代らしいニキビができており、恥ずかしそうにはにかんでいる。







「てめーオンニかああああああああ!!!!!アイアンメイデンのTシャツはどうしたああああああああ!!!!」



「ははは、もう着てないよ。」




4年前、ロバニエミの路上で仲良くなった1人のヤンチャキッド、オンニ。

小ちゃくて、可愛くて、路上で歌ってると、いつもヘイフミー!ってやってきて、俺が歌える場所を探してくれたり、一緒にH&Mに買い物に行ったりもした。


自分のギターを路上に持ってきて、一緒に弾こうよ!!ってギターを交換して一緒にセッションしたりして、まるで映画の中のワンシーンみたいなその状況にとても嬉しかった。


あれから4年。オンニはもう17歳の立派な青年になっていた。




あの頃のオンニ。






「オンニ!飯食いに行こうぜ!!」



「何食べたい?ピザ?ケバブ?」



「それもいいけど、アジアンフードはどう?そこにタイフードのお店があるけど。」



「ワイノット。レッツゴー。」













チョメショップやら、どう見てもいかがわしい雰囲気バリバリのマッサージ屋さんやらが並ぶ飲み屋街の中、オンニと一緒にタイ料理屋さんでご飯を食べた。

ブュッフェで9.3ユーロ、1050円。3人分なので少し高くつくけど、ここは世界一周して戻ってきたんだ。カッコつけたいところ。












「オンニ、あれからどうだった?ヘルシンキは好き?」



「そうだね、まぁロバニエミよりはいいんじゃないかな。こっちはもっと刺激があるし。」




なかなかご飯をガツガツいかないオンニ。

それに俺が食べるのを待っていたりして、どこか遠慮気味っていうかぎこちない。


おいおい、オンニまでこんな雰囲気なのかな……………



















ご飯を終えると、ウチに来てギター弾こうよと言ってくれたオンニ。

アパートの最上階にある部屋に入ると、そこは真っ白な壁の不思議な部屋だった。





ドアがひとつもなく、空間が小さな空洞みたいになっていて、なんともアーティスティックな部屋だった。

天窓から光が差し込んで白い壁の室内はとても明るい。









室内には女の子の遊び道具やベッドがあり、ここでオンニたち家族が暮らしているようだった。


オンニのお母さんはシングルマザーだ。

美人な、まだ若いお母さん。


きっといろんな苦労がありながら、今こうしてこの大都会で暮らしているんだろうな。




「フミ!!ちょっと聞いてて!!」



するとオンニが勢いよく自分の部屋からギターを持ってきて、キッチンで弾き始めた。

フィンガリングスタイルで、アデルやワンダイレクションなんかの流行の曲を弾いている。


でもまだ17歳だ。

一生懸命テクニカルなことをしようとしながら、まだ指がついていってなくて、荒削りだ。



それがすごく心地よかった。

一生懸命なにかに打ち込んでいるオンニの成長がすごく愛らしかった。


やっぱりオンニはあの頃のままのオンニだ。
















「フミは最近どんなの弾いてるの!?ていうかこのギター覚えてる!?あの時一緒にロバニエミでセッションしたギターだよ!!お爺ちゃんがこっちに来る時に持ってきてくれたんだ!」



さっきまでぎこちなかったオンニが家に帰ってきてから急に元気になって喋りまくり出した。


どうやらさっきまでは久しぶりの再会で緊張していたんだな。


4年前、13歳だったときの無邪気なオンニではないけど、オンニもそんな年上に緊張するような歳になったんだよな。




「オンニ、これ覚えてる?」



「……………もちろんだよ!!」




ハートオブゴールドのイントロを弾くとすぐに一緒に弾きだしたオンニ。

あの時、1番上手くセッションできたこの曲が、俺とオンニの友情のシンボルだ。





















しばらくギターを弾いて歌い、それからタバコを吸いながらオンニがいれてくれたチョコエスプレッソを飲んでいたら、ちょうどそこにママと妹が帰ってきた。


ハーイ!フミー!と笑顔でハグをしてくれたママは相変わらず美人だった。



「もう4年経つんですね。」



「そうよ!あー、私もそりゃ老けるわねぇ。」




そう言っておどけるママのスウェット姿がとても暖かかった。


まだこんなに小さかったっけ?という妹は小学校低学年くらいの歳で、もちろん俺のことは覚えていなくて、恥ずかしがりながら、モイー、と言って部屋に入っていった。

可愛いなぁ。










外に止めていた駐車場の時間になり、この辺で帰ることにした。


玄関まで見送ってくれたママが、ここはいつでも2人のための家だからね、とハグをしてくれた。


オンニはわざわざ外の駐車場までついてきてくれ、力強くハグした。



「オンニ、またどっかで会おうな。またギター弾こうぜ。」



「ああ、今度は俺が日本に行くよ!!何年先になるかわからないけど、必ず行くから!!」




オンニ、あの田舎町の路上で生まれた小さな出会いが、この人生で今後どんな展開を生んでいくのか、今はまだ2人とも知らない。

でも、もし何か面白いことが俺たちの先に待ってるなら素敵なことだよな。



短い間だったけど、すごくいい時間だった。


オンニありがとう!!

いい男になれよ!!俺も頑張る!!






















大好きなオンニに会えて、これでもうヘルシンキでのやるべきことは終わった。

アクセルをふかして、ぐちゃぐちゃした大都会の中をあっちに曲がりこっちに曲がり、なんとか市街地を抜け出した。




これでもう北欧4ヶ国に思い残すことはない。

中欧が待ってる。


これからトゥルクという港町に向かい、明後日のフェリーでスウェーデンに戻る。

そこからデンマークに走ってお世話になってる人たちに挨拶しながらドイツに下って行くぞ。


うー、ポーランドやチェコに行ったら物価が安くてたまらないんだろうなぁ。

バーやパブに飲みに行きまくれるぞ。


プラハ待ってろよー。








なんかへんなのいた。







ぶいーん。

















しばらくして幹線道から脇道に入り、森の中を進んでいく。

木々のトンネルをくぐり、どこまでも走っていくと、道が終わってその横に小さなパーキングスペースがあった。





車を降りると、周りには森が広がるのみで静寂だけがそこにある。

ここはヌークシオ国立公園という場所だ。


マーリットから綺麗なところだからオススメよと言われていたのだ。


今日はここで寝よう。























カンちゃんと2人、手をつないで森の中を歩いた。

一応ちょっとした遊歩道があるようなないような。道はほとんど整備されていないので、こりゃ気をつけてないと迷ってしまいそうだ。


地面は堆積した落ち葉やら朽ちた木々、苔でものすごくフカフカしており、天然の絨毯になっている。


そのあちこちに可愛らしいキノコが生えていた。















木の株や苔の上にちょこんと佇んでいる様子は何かの妖精みたいでもある。森の住人だ。












とても静かで、カンちゃんの手のひらの温もりが伝わってくる。



かなり広大なナショナルパークで、あちこちに滝とか川とか見所があるみたいだけど、そんなトレッキングをしようと思ったら数時間かかるので、早めに車に戻った。



そして車の中でカンちゃんがチーズとソーセージとタマネギの炒め物を作ってくれ、それをつまみながらビールを飲んだ。



あー、車旅って本当にいいなぁ。









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