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ついにプロポーズの日がやってきた

2016年6月3日(金曜日)
【ブルガリア】 カザンラク





「おはよー、今日のお昼は何食べようかー。いつものドゥルムにしようかー。あれ美味しいもんねー。あれ?フミ君どうしたの?そんな楳図かずおの漫画みたいな顔して。」




「ガクガクガクガクガクガク……………はっ!!な!なんのこと言ってるのかな!?俺が神の左手悪魔の右手みたいな顔してる!?ははは!!そんなことあるわけないやん!!ところでカンちゃんはプロポ、じゃなくてハゥゥウ!!!」




「え?なに?プロ、ポ……?」




「いやー!!困るよね!!ゆまちゃんのプロポーションだけはマジで困りまするでござる!!」




「あ!グーグルアドセンス、お金入ってるよ!!すごいー、本当にちゃんとお金になるんだー!」




「え!?マジで!!………結構デカい!!これ最初にしてはかなり良い方なんじゃない!?」




「そうだよ!この調子でもっとアドセンスを充実させていこう!!」




「よおおおし!!!だったら俺もこの調子で今夜フェスティバルのステージの上でパツイチプロポーズをキメっちゃられるれるりれら!!!じゃなくてウポオオオオウウウウフウウ!!」




「え………?今夜、プロポ………なに?どういうこと?」




「膝なんだよね!!!膝!!膝が調子悪いからそろそろプロポリスかなって思ってたところなのでござりまウォオエエエ!!オエッ!!オウェッ!!」




「フミ君大丈夫!?吐きそうなの!?」






万引きする気全開でドンキホーテにいる中学生くらいのキョドリかたでカンちゃんと会話して、今日もアパートを出発。


手汗で波動拳出せるくらい緊張しながら町にやってくると、さすがに今日からローズフェスティバルの本番だ。









いつにも増してびっしりと露店が出ており、俺がこの数日歌っていた場所にも色んなお店が陣取っていて隙間が全然ない。




しかもお決まりのインディオの格好でフォルクローレをやる人たち、アコーディオン弾きのオッさん、ギターの弾き語りの人など、昨日までほとんどいなかった音楽系のパフォーマーがあちこちに出てきている。






こいつは激戦だなぁ………と思っていると、また1人、通りの真ん中でバイオリンを弾いてる男の人がいた。




スピーカーでクラシックのオケを流しながら、それに合わせて弾く主旋律をスタイルだ。





へー、なかなか上手いな、と思いながら近づいていくと、ちょっと違和感がある。



肌が黒くて、ジーパンを履いて、演奏はいいんだけどはっきり言って見た目がジプシーっぽい。



そしてどこか音に生感がない。
音楽をやってる人間ならこの生感ってのはすぐに感じるものだ。




そんでその男の人の前を通り過ぎるときに、チラッと見てみたら、なんと音に合わせてバイオリンを弾いてるフリをしてるだけだった。


おいおい、マジかよ。



それなりに練習しているのか、スピーカーから流れるバイオリンの音と手の動きを合わせてはいるんだけど、こんなの楽器をやる人間からしたら一目瞭然だ。



しかし、町の人たちは誰もそのことには気づかずに、その嘘の演奏に拍手してお金をバイオリンケースに入れていた。


嘘バイオリニストは神妙な表情で体を動かしながら、いかにも感情を込めてます、みたいな感じで指を動かし、ところどころでビブラートの動きまで取り入れている。




いやー、マジウケるー!っていいながらハーイ!!って握手求めたらどんな反応するんだろ。



頑なに演奏してるフリを続けるんだろうな。


絶対ライセンス持ってないだろうし。






とりあえず死ね。

音楽なめんな。
























お気に入りのケバブ屋さんでドゥルムを食べながらなに食わぬ顔でメールをチェックすると、ミレナからメールが入っていた。




「フミ、ケバブ屋さんの前の写真屋さんにマリアっていう女の人がいるわ。彼女は私の友達で、フェスティバルの関係者と仲がいいの。彼女に話を通してるからマリアを探して。」



「フミ君、ミレナからメールなんて来てたのー?」



「どぅふぉい!!!いやー!!アントニオ猪木の顎ってすごいわよね!!っていうメールだったよ!!いやー、確かにすごいっていうかちょっとトイレに行ってくるからカフェで作業しててよ。」



「うん、わかったー。」




ニコニコしてるカンちゃんをカフェに残してトイレに行くと見せかけてカンちゃんが視界から消えた瞬間、クラウチングスタートで向かいの写真屋さんにダッシュ。


中に飛び込むと、奥のほうに1人のおばさんがいた。




「あ、あなたがフミ?ミレナから話は聞いているわ。今フェスティバルの関係者にプロポーズができないか聞いているところだから、もう少し待っててね。また後でもう一度来て。」



「わかりました!!ドギャン!!」




猛ダッシュで人混みをかき分けてカフェに戻る!!






「もー、フミ君どこ行ってたのー?トイレ長かったねー。」



「ハァハァ!いやー、マジでめっちゃトイレ長いやつが入っててさ!!ハァハァ!!全然出てこないから上からバケツの水ブチまけてやろうかと思ったよ!!テレペロリンコ!!ところでジョジョのエシディシについてどう思う?」




もう目がバタフライ並みに泳ぎまくりながらなんとか巧みに話をそらして、俺も席に座ってネット作業。



ふぅ………ば、バレてねぇよな……………








「カンちゃん、ちょっとタバコ吸いに行ってくるよ。」



「うんー、わかったー。」




しばらくしてからまたタバコを持って外に出て、いやー、空気が綺麗でタバコが美味いなー!みたいな顔しながらカンちゃんが視界から消えた瞬間、ダッシュで写真屋さんへ。




「マリア!!どうですか!!」



「うーん、まだ返事がないのよ。ヨーロッパの人はこういうサプライズが大好きだからきっと協力してくれるはずだけど、一応返事を待たないといけないわ。多分プロポーズの時間が取れるのは夜になると思うからそれまでこの近くにいてね。」





今日はフェスティバル本番初日。


夜のメインステージではローズクイーンのお披露目が行われるので、かなりの混雑が予想される。



ローズクィーンってのは、まぁミスカザンラクみたいなものなんだけど、もし選ばれればこのローズフェスティバルのアイコンとなってお祭り期間中だけでなく、歴代のクィーンに名を連ねることができる名誉ある賞だ。


よほど美しい人しかなれないんだろうなぁと思っていたら、地元の人いわく、あれは親が金持ちだったら誰でもなれるものらしい。


ゆ、夢が壊れる(´Д` )!!











このローズクィーンのお披露目。

3日間あるフェスティバルの中でも指折りの人気プログラムだ。




この大混雑する広場でステージに上がってカンちゃんにプロポーズ………………




ぐうぅ…………緊張で頭蓋骨が鼻の穴から飛び出しそうだ…………













と、とにかく今は路上をやらないと。


スタンドバイミーを歌いながら、ソーダーリン、ダーリン、スタンウェェエッ!!オゥエッ!!バイミー、オェッ!!ってお金を入れてくれる可愛い子供にゲロ吐きかけそうになるのを気合いでこらえて2時間。

とりあえずあがりは69レフ。4300円。



















もうプロポーズのセリフとかなんて言えばいいんだろう?って考えてしまって歌どころではないので、路上は切り上げた。




ていうかマジでセリフなんて言えばいいの!?!?

これ一生残るやつだよね!?


一生ずっと思い出に残る記念の言葉だよね!?




うわぁどうしよう!!一生、あなたの作る味噌汁が食べたいです、とかそんなやつだよね?


カッコつけてウィルユーメアリーミー?とか英語で言う?ダメだ、ミーハーすぎる!!




ここはやはり硬派でいくべきか。
俺の子を産め……!!って勇次郎的な感じで男らしさをアピールするのはどうだろう。


そこに追い打ちで、「飽き果てるまで喰らわせつつも足りぬ女であれ!!」って言ったら、素敵!!ってなるはず!!ならんか。わかります。





いやー、こうやって見るとチンチクリンだよなぁ………



















そろそろ夜になってきて広場に人が集まりだしてきた。

うーん、本当にステージの上で言えるのかな…………






















「カンちゃん、ちょっと飲み物買ってくるね。」



「うん、わかったー。今日よくどっか行くねー。」



「ばっ!!な、なに言ってるんだよ!!たまたまだよ!!本当マイッチャウナ!!じゃあ、コーラでいいね!!」





そしてカンちゃんが視界から消えた瞬間、またダッシュでマリアのところにやってきた。





「マリアさん!どんな感じですか?」



「フミ、残念なお知らせよ………オーガナイザーがダメって言うの。何人にも聞いたんだけど、彼らは協力してくれなさそうだわ………ごめんね。本当に素敵なことだと思うのに!!」






え?マジ?






…………………………?









ぐおおおおおおお!!!!!


ま、マジか…………………ここにきてダメか……………



え?じゃあどうすればいいの?

もう20時ですよ?あと4時間で今日終わっちゃいますよ?




帰り道に、誰もいない暗い夜道で僕と結婚してくださいって言う?


それともアパートに戻ってビール飲みながら、いやー!マジでウケるよね!ところで結婚してよ?っていうラフな感じでいくか?





どっちも悪くない。

でも普通すぎる。




せっかくだったら、せっかくだったら特別なシチュエーションを作ってそこでプロポーズしたいのが男のサガだ。



でもお祭りのスタッフたちにこの計画を断られてしまった今、どうしたらいいんだ。


マリアさんにお礼を言ってカフェに戻ると、ほえーってした顔でカンちゃんが待っていた。




「ハァハァ………はい、カンちゃんの好きなコーラだよ。ハァハァ………」



「どこまで買いに行ってたのー?」



「いやー、そこのお店でコーラ買おうとしてたら寄付金のおじちゃんが声かけてきてさ!!いつもおるやん!子供の写真見せてきて募金をお願いしますってカフェを回ってるあの嘘くさいおっさん!!寄付してくださいって言うからバンクアカウント教えくれって言ったら苦笑いしながらどっか行ったよ!!マジウケる!!」



「ふーん。そうなんだー。」





さすがに1日に何度も姿をくらましているので怪しんでいるカンちゃん。

全ては素敵なプロポーズのためなんだけど、このままだと中途半端なプロポーズになってしまうかもしれない。





どうしよう……………

ミレナのレストランに戻って向こうでプロポーズしようか…………



なんとか自然を装いながらカンちゃんと広場に向かった。



























今夜のプログラムであるローズクイーンのお披露目を見るために、メインステージの周りにはたくさんの人で溢れかえっていた。



「あー!フミー!ここにいたのねー!」



そんな人ゴミの中で声をかけてきたのは、ミレナの友達家族のトニーおばちゃんとイヴァンだった。


こっちに座っていいわよ!と呼んでもらい、無料の椅子席を空けてもらえた。








「フミ………!ミレナから聞いたわよ!!やるんでしょ?今夜キメるんでしょ!!うふふふ!!」



明るいトニーが興奮しながら聞いてくるので、ちょっ!ダメ!!と後ろに連れて行ってカンちゃんと距離を置く。

その様子を不思議そうに見ているカンちゃん。




わ、我ながら怪しすぎる!!





「やるんでしょフミ!!私たちも協力するからなんでも言って!!あはあああ!!楽しみすぎるわ!!」



「で、でもフェスティバルのスタッフにダメって言われたんですよ。だからどうしようかなって思ってて。」



「そうなの!?なんてこと!私がもう1回掛け合うから待っててね!!」




ぷりぷりしながらステージの裏手に歩いて行ったトニー。

イヴァンもやる気満々でデジカメを手に構えてウィンクしてくる。



ど、どうなることやら…………!!!

















フェスティバルは滞りなく進んでいく。


不思議なコンテンポラリーダンス。


お偉いさんのスピーチ。



そしてローズクイーンはやっぱり綺麗だったんだけど、それを見ながら、ローズクイーンよりも君のほうが綺麗だよ!っていうプロポーズの言葉をシミュレーションしてみる。




ぬうぅ………く、臭すぎるか………
































ローズクイーンのお披露目が終わると、盛大な花火が打ち上げられ、今度は4人組のコーラスグループによるライブが始まった。


どうやらこれが今夜のラストプログラムらしい。


これが終わったらフェスティバルの中でプロポーズするという計画は終了する。






どうする、一体どうなる。



時間はすでに22時を過ぎている。




ステージ裏に回って行ったトニーがどうにか頑張って交渉してくれているみたいなので、それがどうでるのか。



カンちゃんは、歌うまいねーって言いながらステージのライブを楽しんでいる。











するとその時、いきなりステージ上のコーラスグループたちがこう言った。




「ヘーイ!!今日のスペシャルゲストを紹介するぜー!!日本から来たフミだー!!みんな拍手でお迎えしてくれー!!フミは今夜大事な仕事があるんだよね!!?」




ええ!!マジ!?マジで!!??と焦りながらも立ち上がってステージに歩く俺。

いきなり俺が呼ばれたので、え?なに!?と驚いているカンちゃん。



そして大観衆の前で、完璧なプロポーズをして拍手喝采が………………
















という妄想をしながらノリノリのライブを見つめ続けること30分。



もちろん俺の名前が呼ばれることはない。


そして向こうからトニーが戻ってきて、こっちに手を振っている。




「フミ、やっぱりダメだわ。ステージには上がらせてもらえないみたい。本当おかしな話よ!!でもフミがやりたかったら、強引に上がってもいいと思うわ!!観衆はみんなそういったサプライズが大好きなんだもの!!」




もう地球を救うレベルのミッションを遂行しているくらいの超真剣な表情になってるトニーおばちゃん。


イヴァンも何とか手を回そうとステージの周りを走り回っている。




ステージの上ではノリノリのライブ。


でも俺の胸の中はライブどころじゃない。



















ライブは意外にもかなり長くて、もう1曲、もう1曲といつまでも続いている。


どのタイミングでカンちゃんに告げればいいのかわからないまま夜は更けていく。




時間はすでに23時前。




ずっと外にいたので体が冷えてきて、カンちゃんがそろそろ帰りたそうにしている。


でも俺がライブを楽しんでると思ってくれているので、カンちゃんは帰ろうよーとダダをこねない。




しかしついに雨がパラついてきてしまった。

ステージ前で踊りまくっていた観客たちが一斉に散っていく。



もうダメか。


もうここを離れないといけない。




だとしたら今しかチャンスはない。早くライブ終わってくれ!!





「オーイエー!!雨だけど気合い入れていくぜー!!次の曲はカバーだぜー!!チキチーター!!」




いらねぇ!!チキチータいらねぇ!!

アバっていうかこのバカ!!






ノリノリのライブはそれからも続き、雨に濡れながらステージ横でライブを見る。


いつもならさっさと帰る俺がこんなにもライブに張り付いているのでカンちゃんもどう考えても疑っているはずだ。




「ねぇ、まだ帰らないの?誰か待ってるの?」



「い、いや!!ちょ、アレがアレでさ!!あの!!チキチータまじイカすよね!!窪塚懐かしいよね!!」



「私、寒いなぁ………」





ぐおおおおお!!!チキチータ早く終われやあああああああああああああい!!!!!!!!!









あ!!終わった!!ライブ終わった!!


全員でお辞儀をしてステージを降りていくメンバーたち。


それと同時にBGMが流れ始め、観客たちは一斉に帰りだし、スタッフたちが後片付けを始めた。





い、今しか………ないよな……………








買っておいた花冠を手に取り、カンちゃんの手を引いて誰もいなくなったステージに上がった。



え?ええ?なに!?って驚いてるカンちゃん。





ふぅ、と深呼吸。




ステージ中央に行き、カンちゃんと向き合って考えていたセリフを言った。




「これから一生、僕と一緒に旅してください。」



「きゃあああああああ!!!!なんて!!なんて言ったの!?!?なんて言ったの今ああああああああ!!!オパアアアアアア!!!」



超絶いい感じの雰囲気になってるところで、ステージにかぶりつきでその様子をビデオに撮っているトニーが興奮しまくって言ってくる。





トニー!!ビデオに今の声入りまくりだから!!

あと興奮してカメラ動かしすぎ!!絶対撮れてねぇそれ!!





「フミ!!ダメ!!もう1回!!もっとこっち側でやって!!あと膝つかないとダメよ!!プロポーズは跪くものよ!!」




トニーのおばちゃんパワー全開に振り回されながらもうワンテイク。


膝をついて同じセリフを言いなおすという状況にカンちゃんも笑いながら、はいって言ってくれた。


そしてカンちゃんの頭に花冠を載せ、キスした。





「ワフオオオオオオオウウウウウウ!!!」




「イエエエエエエエエエイイイイ!!!」



するとステージ前で撤収作業をしていた人たちが大声を出して拍手してくれた。


広場を埋める大観衆ではなかったけど、静かな広場にささやかに響くお祝いの歓声が俺たちを包んでくれた。






恥ずかし!!

プロポーズ恥ずかし!!!

カッコつけてキメのセリフ言うのとかマジキモい!!





でも大事なことなんだよなぁ。

女の子はそういうのすごく大切にするし。







あー、緊張した。











「さぁ!!フミ、ナオ、みんなのところに行ってお祝いのラキアを飲みましょう!!ワアアアアア!!!素敵よ!!素敵でしかないわ!!イヤアアアア!!!」



大興奮で笑顔がはち切れまくっているトニーと、その横でニコニコしてるイヴァン。

まじでありがとう。2人がいなかったらどんなプロポーズになっていたか。








雨の中、ミレナのレストランに戻ると、トニーが興奮しながらみんなにことの一部始終を説明している。



「ええ!!たったの15人くらいしか観客がいなかったの!?さっきまでこの店に100人くらいお客さんいたからこっちでやればよかったのに!!!でも良かったわね、フミ。素敵よ!!!」



大好きな人たちに囲まれてラキアを飲んだ。




本当に本当に、嬉しかった。













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徳島の宿をアゴダで予約してくださったかたがいました!!

どうもありがとうございます!!!

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