2016年5月6日(金曜日)
【インド】 ムンバイ
バスは大都会の中に入っていく。
17時間の移動で、時計はすでに昼前の11時。
遠く川の向こうに、霞む高層ビル群が見えた。
ついにムンバイに着いたぞ。
インドの経済の中心地だ。
バスは町の中に止まって俺とカンちゃんを吐き出した。
相変わらずここでもけたたましいクラクションが道路を埋め尽くしている。
バス停にはオートリキシャーのドライバーが待ち構えており、さっき俺たちが降りる前にバスの中に入ってきて、ウェラーユーゴー!!カモン!!とか言って荷物を運ぼうとしてきたくらいアグレッシブだ。
そんな客引きたちを振り切って町の中を歩くと、あまりの都会っぷりに驚いた。
立ち並ぶビルディング、オシャレなカフェ、サリーではなく洋服を着ている女の人たちを見るとものすごい違和感だ。
今まで回ってきた地域がいかに伝統的なインドだったのかを思い知らされた。
やはりムンバイはインドでもっとも欧米化が進んでいる町みたいだ。
バンドラの駅に着いてさらに驚いた。
チケット売り場にちゃんと行列が出来ており、割り込み戦争が繰り広げられていない。
みんなちゃんと整然と列を作っており、横入りされないために前の人と密着する必要もない。
しかもなんとプラットホームへの連絡橋にエスカレーターがついている!!!
すごすぎる!!!!
いやぁ、こんなことに驚いてる自分がすごいよなぁ…………
車椅子の人なんて絶対インドは旅行できないよな。
プラットホームが多すぎてどれがどこ行きなのかひとつも分からないんだけど、そこは大都市ムンバイ。
そこら辺の人に尋ねればみんなに流暢な英語で親切に教えてくれる。
これから俺たちが向かうのはアンダリーという駅。
そこに予約してあるゲストハウスがある。
「すみません、アンダリー駅へはどうやっていけばいいですか?」
「アンダリーかい?僕も今からそっち方面に行くから着いてきて。心配しないでいいからね。」
大都市らしい人波の混雑をかきわけ、兄さんについてプラットホームへ。
そしてやってきた電車に一緒に乗り込んだ。
電車もまた新しくて綺麗!!!
電車の中で、ここぞとばかりに兄さんに色んな質問をしまくった。
「そうだね、ムンバイで人が集まる場所はまずチャーチゲートだね。そこはビーチになっていてたくさんの人が歩く。同じビーチでバンドスタンドっていうところもあるよ。ジュフビーチも人が集まるし、バーとかレストランが多いナイトスポットはバンドラ地区だね。」
たまたま声をかけたお兄さんがそうだったのか、みんなそうなのか、本当に丁寧に町のことを教えてくれた。
時間にして15分ほど。
しかしこの15分の間に貴重な情報をたくさんゲットすることができた。
やがてアンダリーの駅に着き、お兄さんにお礼を言って電車を降りた。
結構大きな駅で、人の波に乗って駅舎を出ると、目の前にとんでもないものが見えた。
「うおおおお!!マクドナルドがあるうううう!!!」
「マクドナルドだー!!」
駅前のマクドナルド。それだけで大騒ぎ。
その横にはカフェがあり、オシャレな洋服屋さんがあり、もうどっからどう見ても都会だった。
大きい荷物を抱えてキョロキョロして、自分たちがただのお上りさんにしか見えない。
ハンピとかゴカルナがインドの最先端のムンバイっ子たちからしたら、いかにど田舎なのかよくわかった。
そういえば牛がいない!!!
道を我が物顔で闊歩する牛の群れがいない!!!
あー牛ね、そういえば他の町にはいるよねクスリ、とかってムンバイっ子の余裕すら感じる!!
いやー、これもまた新しいインドの一面だなぁ……………
というわけでアンダリーの駅から歩いて宿に向かったんだけど、住所通りのところに宿が一切ない。
まったく影も形もない。
ボロい住宅地の間を歩き回るがどこにもない。
あー、面白いなぁ、どうしてホームページの住所に建物がないのかなぁ、不思議だなぁ。やっぱりインドだなぁ。
チクショウ!!どこだよコノヤロウ!!!
「あー?キングハウス?その通りを右だよ。」
「いや、そっち行きましたけどなかったんですよ。」
「いやそこじゃなくて、そこの細い通りを右。」
絶対わからん。
看板も何もない。
絶対にわからん。
ただの人の家の中。
婆さんたちが洗濯をしている横を恐る恐る入っていくと、1番奥に隠れ家感出しすぎで誰にも見つからない秘密の宿、キングハウスがあった。
あ、怪しすぎる………………
本当にこんなところにフリーワイファイがあるのか……?
でも予約サイトにはフリーワイファイって書いてたからなぁ。それで選んだようなもんだし。
「ワイファイのパスワード教えてください。」
「ノーワイファイ。」
でやがった。必殺、嘘&開き直り。
予約サイトにフリーワイファイ有りと旅行者が飛びつく決まり文句を書いといて実際客が来たら、え?ないよ?何言ってるの?通りにネットカフェあるからそこ行けば?って平然と言ってくる。
マジでひどい。
詐欺もいいとこ。
こんなんインドだから許されることだよ…………
普通こんなことやったら下手したら訴えられるよ。
もはや他の宿なんか探す気力ないので、仕方なくチェックイン。
水飲む?サービスだから!ってドヤ顔でペットボトルの水を渡してくるけど、封が切られているので注ぎ足した水。
すみません、いりません。
そしてシャワーはなく、バケツで水をかぶるパターン。
トイレはウンコまみれで世紀末状態。
お客さんがほとんどローカルのインド人なので汚し放題のゴミ撒き散らし放題。
すげーとこ来ちまったな…………と思うけど、エアコンがあるのが救いだ。
ズゴオオオオオオオ!!って轟音をたてるけど、ちゃんと冷たい風は出てくる。
これで1泊1人450円なんだから文句言ったらいけないな。
バケツシャワーを浴びて一息ついたら早速ギターを持って町に出かけた。
手持ちがかなりヤバいことになっているので、このムンバイで稼げなかったらマジで飯抜きだ。
なんとしても稼がないといけない。
そのためにさっき電車の中の兄さんに色々と教えてもらっている。
ウルトラ大都会のムンバイ。
人の集まるポイントはいくらでもあるはず。
その中からベストの路上ポイントを見つけ出すには日数が短いが、まぁなんとかなるだろう。
まず電車に乗ってやってきたのはバンドラ駅。
このバンドラの西側、バンドラウェストが若者たちが集まるエリアだと聞いている。
あてはないけど、とにかく歩き回った。
確かに若者向けの洋服屋さんや高級そうなブランド店、オシャレな雑貨屋さんなどがポツポツと点在してはいる。
でもそんなに人がいないし、ここがそうなのか?と疑わしくなる寂しさだ。
これがムンバイの全力なのか?
結局1時間以上バンドラウェストを歩き回ったけどそれらしい路上ポイントは見つけられず、汗だくになって終了。
ハンピという灼熱地獄からやってきたのでムンバイの気候がめっちゃ穏やかに感じるんだけど、それでも35℃くらいだ。
すでに水とコーラを何本も飲んでいる。
後ろをついてきてくれているカンちゃんに申し訳ない。
「いいんだよー。っていうかお互いのやるべきことなんだから私に謝らないで!」
優しいカンちゃんに励まされながら、次の候補地に向かった。
電車に乗って南にくだり、ムンバイのある半島の先っぽの方までやってきた。
チャーニーロードという駅で降り、線路を越えて歩いて行くと、ぱっと視界が開けてビーチが広がった。
かなり長い砂浜が弧を描いて続いており、その先には高層ビルのシルエットが見える。
さながらマンハッタンの摩天楼。
ゴミの落ちていない綺麗なウォークウェイがビーチ沿いにのびており、そこにたくさんの人たちが腰かけていた。
そして腰かけているほとんどがカップルだった。
インド人のイケてる若者カップルが肩を抱き、寄り添い、ほっぺにキスしたり、耳を噛んだりしてじゃれあっている。
マジで欧米風。
人前でそんなこと、はしたない!!みたいなインドの村で生活していたので、ムンバイの若者たちのオープンさに驚いてしまう。
さらにはジョギングしてる人までいる。
裕福の象徴、ジョギング。
カッコいいスポーツウェアを着て、ランニングシューズを履き、アイポッドかなんかで音楽を聴きながら走っている。
そんな中に犬の散歩組もいる。
痩せこけて病気で皮膚がただれて、ゴミをあさっている犬しか見たことのないこのインドで、血統書付きのビーグルやパグが歩いている。
インド人たちはだいたい野良犬を邪魔者扱いしかしないので、綺麗な飼い犬を可愛がっている様子が結構違和感がある。
ムンバイは本当に他のインドの町とは違った国のようだ。
夕日が摩天楼の向こうに沈んでいき、空が黄金色に染められるとカップルたちはさらに距離を縮めて抱き合っていた。
そんなビーチからチャーチゲートという電車の駅に続く道に、たくさんのバーやレストランが並ぶ通りがあった。
よし、やっと見つけたぞ。ここが路上スポットだ。
でも不思議なことにこの19時のディナータイムに人があまり歩いておらず、どのレストランもお客さんがほとんどいない。
おかしいなと思いながらも、ここがベストスポットだ。
レストランの前の歩道で早速ムンバイ最初の路上を開始。
他の町みたいな爆発力がないのが最初の印象。
コルカタとか他の町だったらソッコーでものすごい数の人だかりができるのがインドの路上だけど、ここではみんな足を止めて歌を聴き、サッとお金を入れてウィンクなんかして去っていく。
みんなすごく上品だ。
歌ってる最中に真横まで近づいてきて、ぬぅっと楽譜を覗き込んでくるような下品な人はここにはいない。
おかげでチップを入れてくれる人の数は多くはないけど、ただ単価が高い。
おばさんが1人で200ルピー入れてくれた時には驚いた。320円だけど、インドではかなりの金額だ。
話しかけてくる人はみんな流暢な英語を喋り、着ている服も高そうなものばかり。
こうした人たちがインドの経済を支えてるんだろうな。
そんな人たちのエリアなので、もちろん物乞いもいる。
いつものように俺の周りに集まってきて、じーっと演奏しているのを見てくる。
まだ小さな子供である彼らは、俺がコルカタで見てきたストリートチルドレンたちと同じ年恰好だった。
「音楽は好き?」
「イエース!」
「もし一緒に歌いたかったら教えるよ。」
「うーん……………いいかなー…………」
微妙な反応をする汚れた服を着た女の子。
やっぱりここでも子供たちはそこまで音楽に興味がない。
こういうこともあるだろうと、バッグの中にはリコーダーを入れてきていた。
チラッとバッグのほうを見る。
ここでこの子たちにリコーダーをあげるのは簡単だ。
きっと大喜びして笑顔になってくれるだろう。
しかしコルカタでのことがある。
あげたとしてもそれまでで、そこから練習をして一緒に演奏するところまではもっていけない。
ではいきなりあげるんじゃなくて、昼間の彼らの仕事時間以外に、彼らの住んでる場所にリコーダーを持って行って教えることはできないだろうかと考える。
しかし興味がないと言ってる子たちに無理やり教えるのも違うんじゃないかと躊躇してしまう。
それに彼女たちの手にはジャスミンの花飾りが握られていた。
インドの女の人たちが髪に飾る花だ。とてもいい匂いのする天然の香水だ。
俺も大好きで、何度もカンちゃんに買っている。
この子たちはこの子たちでちゃんと物を売ってそれを対価にして稼いでいる。
立派な商売だ。
音楽を教えるよりも、素直に彼女たちから花を買うことが1番の助けなんじゃないだろうかって思えてくる。
ウダウダ考えていたら女の子たちはキャッキャと笑いながら、また次のお客さんを探して歩いて行った。
21時を過ぎてから目の前のお店のスタッフさんがなにやら店の前に椅子を並べ始めた。
なんだ?と思ったら、次第にお客さんが集まってきて、すぐに満席になってその表の椅子に座って行列を作った。
ムンバイではどうやらディナータイムが遅いらしく、21時過ぎからが賑わう時間帯のようだった。
そんな行列を作ってる人たちが目の前に大量にいる中で歌っていると、どんどんチップが入る。
そして言葉は違うけど、タミルで覚えたネンジュックルペイディドゥムはやはりウケた。
知らない言語でもインドの歌だということは分かってもらえるようだった。
「ハーイ!!待った!?それじゃあ行きましょ!!」
21時半になってルチちゃんがやってきた。
1時間前に話しかけてきて、俺たちが旅してるということに興奮してすぐに仲良くなり、路上が終わったらご飯行きましょ!!ということになっていたのだ。
というわけで路上は2時間で終了。
あがりは1330ルピーと1ドル。計2300円。
生粋のムンバイっ子で、イケイケの23歳というルチちゃんは体のラインの出た洋服を着たオシャレさん。
お酒が大好きでクラブが大好きで、インド人ってあんまりお酒とか飲まないのかと思ったよと言うと、そんなのブルシットよ!!古臭いインドよ!!と言うようなイマドキな女の子だ。
俺が歌ってる間でもカンちゃんが相手をしてくれるのでかなり助かる。
そんなルチちゃんが連れて行ってくれたのは、ビーチにあるローカルの屋台街だった。
海の家というか、ビーチに様々な軽食の屋台がひしめいており、暗い砂浜がこうこうとライトで照らし出されていた。
さっきの優雅なレストラン通りとは違い、ミドルクラスの人たちがワイワイと夜のビーチで時間を過ごしていた。
まるで夜祭の賑わいだ。
「私は結婚はしないわ。結婚は女性にはリスクが高いわよ。子供を作って家を買って生活に追われて。私はバリバリ働いていたいわ!」
かなり先進的な考えをもったルチちゃん。でもこれもまたインドの現実の一面なんだろうな。
カデルのところのような田舎の文化とは大きく違うんだろう。日本でもそうであるように。
簡単なインディアンピザを食べ、それから波打ち際まで行って、ゴザレンタルのおじさんにゴザを敷いてもらって砂浜に座り、ルチちゃんといろんな話をした。
この弧を描くビーチの夜景は、クィーンズネックレスと言われていて、夜の闇に浮かび上がるネックレスのような光の連なりがとても綺麗だった。
潮風が気持ちいい。
すると、そこにまた花飾り売りの少女が近づいてきた。
その子は花を売るというよりも、お金を恵んでくれと言う切ない目をして俺たちの前から動かない。
ルチちゃんがムンバイの言葉で何かを言うと、少女はまたどこかへ歩いて行った。
「あの子たちはなにもしてないわ。フミはパフォーマンスをして稼いでる。お金がないからとか、お腹が空いたからというだけでは私はお金をげたくないわ。花を売るのはいい仕事だけどね。」
「そうだよね。俺、あんな子供たちのために日本から笛を持ってきたんだ。音楽をやって稼げばいいんじゃいかと思って。」
「フミ、ダメよ。彼らに笛をあげても捨てるか売るかで終わりよ。それよりも孤児院とか盲学校とかそういうところに寄付したほうがいいと思うわ。盲の子供は音楽の感覚が優れてるしね。」
きっと、どこの国でも人々は同じようなことを考えるはず。
この貧困や格差をどうすればいいのか。
どうしてもわからん。
なにが1番正しいことなんだろうな。
「あ!もうこんな時間だ!!帰らないと!!」
話し込んでいたらいつの間にか時間は24時前になっていた。
急いで駅に向かい、電車に乗り込む俺たちを最後まで見送ってくれたルチちゃん。
電車の中にはこの時間でもたくさんの人が乗っていた。
東京の最終電車のように。
ムンバイ、初日から濃いな。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
ミャンマーの宿をアゴダでとってくださったかたがいました!
素敵な旅になることを願っております!
ありがとうございます!