2016年4月27日(水曜日)
【インド】 ティルバナンタプラム
ゆうべも暑すぎてベッドで眠れず、小さなベランダに枕を置いて夜空の下でパンツ1枚で寝た。
石の床が多少ひんやりしているので、硬いけどベッドよりはマシだ。
カンちゃんは頑張ってベッドで寝ていたけど、あまり眠れずに寝不足でカエルみたいな顔になってる。
マジで暑い。
早く北に向かおう。
宿のおじさんありがとうございました!!
ガネーシュロッジ、スタッフの人たちが素晴らしかった!!
さて、町を歩いていたら衝撃の光景を目の当たりにしました。
今までも、そしてこれからも見ることはないでしょう。
世界広しといえど、絶対に他では見られません。
ビビりすぎて二度見して、ふえええええ!!!!ってなりました。
「あ、あれ?…………今なんか見えたような…………カンちゃん、今キャベツを頭に乗せたおじさんがいなかった?」
「なにそれー?そんなのいるわけないやーん。」
「そ、そうだよね………キャベツの葉っぱを頭に乗せてる人なんかこの世に存在するわけないよね!!」
「笑かすー。ホンマにおったらウケるけどねー。」
「ちょっ!!カンちゃん!!ホラあそこ!!キャベツ頭に乗せてる!!乗せてるうううう!!!」
「またそんなこと言ってー。キャベツ頭に乗せてる人なんか西成にもおれへんよー。だいたい頭にキャベツ乗せてるってどういうことなん?いくら面白い人がたくさんいるインドでもそ、」
フィット感、バリすごい。
直射日光にはキャベツがオススメです。
テキトーにそこらへんの食堂でチキンカレーとチャパティのご飯を食べ、町中のバス停にやってきた。
俺たちが今夜乗る長距離電車は、このカニャクマリからちょっと離れたところにあるティルバナンタプラムというケララ州の都市から発車する。
まずはそこまで行かないといけないんだけど、そこは俺たち旅慣れした2人ですからね。
すでに情報は入手済みですよ。
宿の優しいおじさんから、このバス停に12時35分にティルバナンタプラム直通のバスが出ることを聞いている。
今は25分。
「いやー神田さん、ヨユー、というやつですかね。」
「いやー金丸さん、そういうことになっちゃいますかねー。」
2人でインド人たちに紛れてバスを待つ。
なんなら隣のおばちゃんと笑顔で会話するヨユーすらありますよ。
何言ってるかひとつもわからんけど。
そして12時35分をすぎる。
「いやー、こういうこともあるよねー。インドだもんねー。」
「そうそう、インドだもんねー。」
「あ、バス来た。あれかな。エクスキューズミー!!ティルバナンタプラム行きですかー!?」
首を横に振るドライバー。
バスは2分おきくらいにバンバンやってくるので、何度もティルバナンタプラム行きですかー?!と尋ねまくるがドライバーは首を横に振るのみ。
すると後ろにいたインド人の女の人が、ティルバナンタプラム行きは13時に来るから心配しないで、と笑顔で言ってきた。
なーんだ、そういうことか。困っちゃうなーインドは、ホントお茶目さん!
13時15分。
バスは来ない。
女の人を見ると、後ろのほうで、は?知らんし?みたいな顔で平然とキュウリ食ってやがる。
「いやー神田さん………さすがインドですねー。僕ちょっと不安になってきましたよ…………コルカタでもこんな感じでいつまでも来なかったんですよね…………みんな違うこと言うし……………」
「そ、そうですねー…………本当にここに来るんですかね…………」
「あ、バス来た。エクスキューズミー!!ティルバナンタプラムーー!!??」
首を横に振るオッさん。そしておばちゃんがまだ乗りこもうとしてるのにブォン!!とアクセルをふかして走り出すバス。
危な!と思った刹那、華麗にバスに乗り込むおばちゃん。
いたいちウケる。
もうなんなんだよー………ってうんざりしてたら、いきなり足元でおもむろに寝始める半裸の仙人。
その手際、我が家のごとし。
ちょ、わざわざこの混雑してるバス停の中で寝なくても……………
するとそんな俺たちを見て今度はオッさんが声をかけてきた。
「ティルバナンタプラム行きなら心配するな。ここに来る。」
「何時にですか?」
「13時45分だ。間違いない。安心しろ。」
自信満々のオッさん。
そ、そっか、これだけオッさん自信満々なんだからきっと大丈夫だろう。
本当、コルカタにしてもここにしても、インドの路線バスはメソポタミアとかの古代文字の解読くらい難解。
地元の人でもわかってねぇし。
あー、でも早めに出発してきたから時間もあるし、のんびり行きますかー。
13時55分。
バス来ない。
鬼の形相で後ろのオッさんを見ると、は?なにが?みたいな感じで鼻毛ぬきながらチャイ飲んでる。
仕方ないのでやってくるバスにひたすら声をかけまくるが、ドライバーは首を横に振るのみ。
うおおおらあああああ!!!こんなに何台もバス走ってるのに、そんなにたくさん行くとこあるの!?ねぇ!?そんなにカレー好きなの!?
キレそうになっていると、後ろの鼻ヒゲの紳士が声をかけてきた。
「ティルバナンタプラムに行くのかい?心配するな。ここにバスはやってくる。」
「よーしよし!!わかりましたよ。それは何時ですか!?」
「15時だ。」
死ね!!チクショウ!!インドの路線バス死ね!!
荷物担ぎ上げて歩き出そうとしたら、足元でスヤスヤと寝ている仙人が寝返りうって顔踏んづけそうになる。
あ、危ない!!
もう…………本当インド……………
さて、駅に行ったら30分でティルバナンタプラム直通の電車が来たので乗り込み、とても快適にティルバナンタプラムに到着です。
駅前が結構綺麗で都会っぽいな。
ここはケララ州。
ついに長かったタミルナド州から出て、インド人たちに人気の州にやってきた。
ケララといえば豊かな自然、そしてアーユルヴェーダのメッカ。
さらに女の人が綺麗なところとしても有名だとタミルナドの人たちが言っていた。
かなり面白そうなところ。
まぁ今から一瞬で出ちゃうんだけど。
またいずれゆっくり来よう。
オートリキシャーがなんかカッコいい。
夜まで駅でゆっくりして、ご飯を食べてからついに地獄の18時間電車に乗り込んだ。
チケットを買う時に、スタッフにアッパーベッドをとってくださいと伝え忘れていたことで、今回の俺たちのベッドはローワー。
このローワーベッドは周りの人たちのベンチにもなるので、全員がそれぞれのベッドに戻ってくれないと横になることができないという難点がある。
凡ミスやっちまったねぇ、とカンちゃんと話しながら自分たちの車両を探す。
せめてお隣さんたちが親切なインド人だといいんだけど………………
なんせ18時間だし………………
て…………………
あれ……………………?
だ、誰もいない………………
「嘘……………ここ誰もいないよ…………?」
「さっき席表見たけど、確かこの番号、全部空欄だったよ………?」
「……………まじで!すげえええ!!!」
「インドの長距離電車なのに快適すぎるうううううえ!!!!!」
なんと奇跡のボックス貸し切り。
俺たちで使い放題。
しかも18時間ずっと。
こんなことってあるんだ!!!!
奇跡すぎる!!!
あまりにも快適で嬉しすぎて、とりあえずチャイ売りのおじちゃんからチャイ買ってのんびりおしゃべりした。
こんなに快適だと会話も弾む。
なんせ18時間。
どんな話だってできる。
カンちゃんが生まれたのは淡路島の洲本だ。
育ったのは大阪の河内長野。
真っ黒に日焼けして遊びまわっていたようなヤンチャな女の子で、高校生の時は当時流行っていたストリートライブを男子友達がやる時に、それを見に行って夜遅くまでみんなでワイワイしていたような普通の青春時代を送っていたらしい。
その頃着てた服はいつも破れたジーパンとかの古着。
高校生の時にお父さんのススメでアメリカのオハイオにホームステイをしに行き、その経験があまりに素晴らしくて卒業後にすぐにもう一度オハイオに留学へ。
大学生活で2年間アメリカで暮らしていたそう。
お父さんはそれをとても喜んでいたみたい。
なんたってカンちゃんのお父さんは1972年に20歳の若さで海外放浪の旅に出て、ユーラシア大陸を横断、ヨーロッパを旅した後にサハラ砂漠をワーゲンバスで横断したというとんでもない旅人だった人だ。
俺の大大大先輩。
インターネットも何もない時代に、アクセサリーを作って路上で販売し、世界各国のヒッピーたちと濃厚な旅をしていたものすごいツワモノ。
帰国後に大阪でバーを始めたお父さんは、もちろん今も現役バリバリのバーテンダーさん。
この前お店に遊びに行かせてもらったけど、めっちゃ本格的な大人のバーって感じだった。
そんなカッコいいお父さんの影響もあってか、カンちゃんはアメリカから帰国後も世界中をバッグパックで旅するようになり、カメラの専門学校時代を経て、インドネシアへ移住。
2年間バリ島で暮らし、原付に乗って島の中をチョロチョロ走っていたらしく、インドネシア人の彼氏もいたみたい。
バリから帰ってからは大阪の梅田で就職し、ウェディングフォトの会社で働いていた。
カンちゃんはどこにでもいる普通の女の子。
旅好きではあるけど、ターバン巻いてオーガニックご飯を食べながら原発反対運動してるような感じではなく、いつも流行に気を使ったファッションをして友達とオシャレカフェに行ってるような普通の女の子だ。
20歳の頃には心斎橋のダイニングバーで働いていたってのも普通っぽくてすごく新鮮。
カンちゃんの趣味は旅行。
特技は、喉が痒いときにかこうとしてグアグアってアヒルみたいな声を出すこと。
癖は、いつも指輪をはめたり抜いたりして手遊びすること。
「ゲームどんなのしてた?俺はファイナルファンタジーとか格闘ゲームとかかなぁ。」
「ストツーしてた!!」
「おお。誰使ってたの?」
「ダルシム!!手が伸びるから!!」
「そうなのー。だからインドが好きなのー?」
「ヨガをマスターしたら手伸びるかなぁー。」
「読んでた漫画は?俺は普通にドラゴンボールとかターちゃんとかかなー。」
「赤ちゃんと僕、は好き!!天使なんかじゃないも面白いよー。」
「全然知らねぇし!!日本の好きな場所はどこ?俺は北海道。」
「奄美大島!!波照間も好きだなー。」
「好きな食べ物は?白ご飯とギョーザでいい?」
「その通りです。王将行きまくってました。」
「好きなブランドは?」
「別にないかなー。気に入ったのならなんでもいいー。」
「子供のころに見てたテレビは?」
「ごっつええ感じ!!」
「丸顔選手権に出たことあるのー?」
「ないし!!」
どこにでもいる普通の女の子。
でもカンちゃんにはカンちゃんのたくさんの思い出がある。俺もそうであるように。
出会うのがちょっと早くても遅くても、今こうしてインドの夜行電車で一緒に移動してはいなかっただろうな。
この旅の中で、もっともっとカンちゃんのことを知っていこう。
電気を消すと電車の中は真っ暗闇になって、窓から吹き込む風だけが動いていた。