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生徒を泣かしてしまった


2016年4月15日(金曜日)
【インド】 アラコナム







朝、カデルのベッドの上で目がさめる。

隣で寝ていたはずのカデルは早起きなので朝の散歩に出かけていてすでにベッドにはいなかった。




もうひとつのベッドを見ると、そこでカンちゃんが寝ていた。








ふーん………






……………え?あれ?




か、カンちゃんがいる…………?って軽く二度見。










そうだ、カンちゃんがいる。

これからずっとカンちゃんと一緒にいられるんだ。




「フミー、カンチャンー、コウチャデキマシター。」




カデルが部屋のドアを開けてニコニコしながら言った。

いつもの朝の紅茶を飲むと、カンちゃんが美味しいと笑い、カデルも笑いながらiPhoneをいじっていた。























学校の授業が始まる前にちょっと町に出かけた。








朝の慌ただしいアラコナムの町の中、やってきたのは路上の花売り場。

いつもは素通りするこの場所にやってきたのはもちろんカンちゃんのため。


タミルナドの人たちの習慣である花の髪飾りを買いに来たのだ。























「カンちゃん、どの花がいい?」



「色々あるんやね!これがいい!」





少し黄色がかった白いその花はジャスミンで、1本の紐に花が結びつけられている。


外国人がこのとても伝統的なお花を買いに来たことがよほど珍しいのか、花売りのおばさんはニコニコしながら1メートルくらいに切ってくれた。値段は40ルピー。65円。
















家に帰ってカデルママにつけてくださいとお願いすると、任せなさい!とカンちゃんの髪に飾りつけてくれた。














そして、ちょっと待ってて!と奥に行き、戻ってくると手に持っているのはサフランの粉。

それをカンちゃんのおでこに親指で押しつけた。





「ワオ!!カンちゃんがタミルの女になったね!!」




みんながニコニコしながらカンちゃんのおめかしを褒めた。

恥かしそうにするカンちゃんから清々しいジャスミンの香りが漂って、とても綺麗だった。




















あ、昨日カンちゃんに髪切ってもらいました。

こんな感じで。






牛の前。


カンちゃん髪切るの上手!!


















さぁ!!カンちゃんカンちゃんとばかり言ってる場合ではない。


今日と明日は俺も結構忙しい。




今日は前々から予定していた翼をくださいガールズたちのレコーディングの日。



そして明日は学校の卒業式で、俺が教えてきた全てのグループの歌の発表だ。




ついにこの1ヶ月半の集大成の時。

俺たちにできる最大限の発表をしなければいけない。















気合いを入れていつものAVルームに行くと、翼をくださいガールズたちもみんな集まってきた。







フミのガールフレンドはいつ来るの!?といつもキャピキャピ聞いてきていた彼女たちなので、本物のカンちゃんを見て恥ずかしそうに騒いでいる。


中学3年生という年頃の彼女たちからしたら、フミの彼女!!というだけでとても大人の世界に見えているんだろうな。















カンちゃんとのコミュニケーションはひとまず置いといて、ステージに上がり最終練習。


これまで1ヶ月半、リコーダーなんかの練習もしていたけど、歌はこの1曲だけをやってきた。


もうみんな完璧に覚えている。


カンちゃんも、すごい!と驚いている。






でも当たり前だけど俺が求めるものにはまだ遠い。

みんな音を外す。

比較的上手いほうのカニモリやニラでも音を外すし、頼りにしてるカトリーンでもたまに思いっきりフラットする。


下手な子たちにいたっては、音程ほぼ無視だ。
もはやハモりみたいになってる。



もうこれはどうしようもなかった。俺の指導技術では全員を正しい音程には導けなかった。








しかし、やっぱりここに来てみんなが音を外してしまうことが悔しかった。


なんでその音が正しい音じゃないことに気づかないんだよ、ともどかしくてたまらなくなる。



今日、これからレコーディングをするというのに、この状態かと思うとどうしてもピリピリしてしまった。









そんな俺の感情が顔に出ていたのか、みんなもまたいつにも増して真面目な表情。


普段なら冗談を言って笑いながらほがらかに授業を進めていたけど、今日ばかりはシリアスにならざるをえない。





「オーケー、ちょっと休憩しよう。」



真顔で低いトーンで俺がそう言うと、みんな控えめに喋りながらステージの端に座る。

どうやら俺が怒ってるように見えたようだ。







すると、オシャベリが泣き出した。


え?な、なんで泣いてるんだ?




「フミ、オシャベリは自分が上手く歌えなかったからフミが怒ってると思って泣いてるんだ。」




カデルが、仕方ないなぁと笑いながら説明してくれた。



違うよ違うよ!!とオシャベリの肩を叩いた。


オシャベリの本当の名前はオシャ。

いつもペチャクチャ喋っておどけてみんなを笑わせるマスコットキャラクターみたいな存在なので、カデルがオシャベリと名づけた。



オシャベリのおかげで場がとても明るくなるし、人気者で可愛い子だ。


そのオシャベリがいきなり泣き出して本当に驚いた。




「フミ、もうフミがいなくなったら音楽の授業はしたくないってさ。フミと一緒に歌いたいって。」





そんなこと言われると胸がしめつけられる。上手く歌えないことを泣くほど悔しがってくれるなんて、それこそ最大の上達だと思うよ。

ちょっとこだわりすぎてたかな。





「オシャベリ、大丈夫だよ。歌で大事なのは心だから。一緒に歌ってくれてありがとうね。」



黒い肌を濡らしながら泣き笑いしてるオシャベリ。

本当にありがとうね。















それにしてもさっきからニラがあからさまに不機嫌そうにしてる。


ニラは翼をくださいガールズの中でも特に俺のそばにいたがる子で、学校の中でもいつも俺のことを見つけて恥ずかしそうに笑いかけてくる。


今日はその笑顔がほとんどなくて、つまらなそうな顔をしてる。




まぁ俺もアホじゃないからニラが子供ながらに年上の男性に好意を寄せているのは気づいていたけど、カンちゃんが来たことでめっちゃ分かりやすく敵対心を燃やしているようだ。


というか俺がカンちゃんばかり構うことに妬いているのか。

プンっ!!って感じだ。




カンちゃんにそのことを言うと、青春だなぁ、そんなのあったよねぇ、と同じ女子として気持ちがわかるよう。



そんな青春の中の一員になれてることが嬉しくもあるけど、でもどうしようもない。

だからといってニラが満足するようなことはできやしないんだ。


















ランチを食べ、午後になってついにレコーディングが始まった。

カデルが用意したのはリバーブ付きで、日本でも小さなライブバーとかでよく使われるそこそこいいミキサーだ。



歌用のマイク2本、それに学校にあったアコースティックギター用の外付けのピックアップで3チャンネル。




「みんないい?レコーディングってのはミスは許されない。もし今世紀最大に超絶いい歌が歌えて、これヤバい!!やっばい!!って思いながら歌い続けて最後の最後で誰か1人が失敗したらまた最初からやり直し。わかったね。集中していこう!!」



「イエス!!」



「でも音程ばかりにとらわれたらダメだよ。気持ちをこめること。いつも目の前に千に……」



「1000人のお客さん!!」



「1000人のお客さんがいるんだよね!!」



「そうだ!!よーし、いくぞー!!」





これまで何度も言ってきた言葉をしっかり覚えてくれてるみんな。


いつも目の前に1000人のお客さんがいることを想像して歌うんだ。

気を抜かず、100パーセントの力をこめよう!















カデルがカメラを構え、しっかりケーブルを繋いで音と動画を撮っている中、ギターを鳴らす。



最初はカトリーンのソロからだ。

この最初のソロパートを誰に任せるか考えていたが、やはりカトリーンがダントツで上手かった。





ソロパートが終わり、全員が入り、コーラス。



2番ではハモりをしたかったけど無理だったので、メンバーを半分半分に分けて交互に歌う。



2番のコーラスで手拍子を入れ、さらに最後の繰り返しで転調。


これが俺にできる精一杯のアレンジだった。





















場所を変えながら5テイク。

意外に本番ではしっかりと歌ってくれ、最終的にこれがベストだろうというテイクを撮ることができた。



ナイス!!とみんなに声をかけると、グッドじゃなくてナイスかー、と俺の口からグッドが出なかったことに満足していない様子。



ここにきてみんなの向上心を見せてもらえたことが嬉しい。

そんなこと言われるともっとここに残りたくなるじゃんか。























「カンちゃん、このカレーめっちゃ美味しいよ。俺のお気に入り。」






「またまたー、そんなこと言って、どうせカレーって言っても日本のやつみたいなのじゃないから日本人の舌には合わないんだよね。それに私ってグルメっていうか美食家?みたいな?本当こんな普通のカレーで満足とかできるわけないっていうかきゃあああああああああああ!!!!!」









お決まりのやつですね。

これからはカンちゃんバージョンもお楽しみに( ^ω^ )











ゴータムのお腹気持ちいい。














「カンチャンー!カンちゃんのお化粧ってどうして朝から夕方まで変わらないの!!不思議すぎる!!ミステリーだ!!」




レコーディングが終わってランチを食べ、リラックスしたみんなが一斉にカンちゃんに群がって話しかけた。



ガウチョパンツに白いゆるいTシャツという西洋的なファッションに興味津々な年頃の女の子たち。


今日のカンちゃんはバレーシューズみたいな靴を履いてるんだけど、その靴下が指先とカカトしか隠れないようなやつなので、みんな、そんなソックス見たことない!!と驚いてる。








でも、みんながキャッキャとはしゃいでいる輪の外でやっぱり不機嫌そうな顔をしてるニラ。



そんなニラに、コーラムを書いてみてよとお願いすると、チョークを持って黒板に絵を描きだした。



コーラムってのは家の前の地面に描かれる模様のことで、このタミルナドではどこでも見られる伝統的な風習だ。

タミルの女の人はみんなその描き方を知っている。



迷いなく線を引き、美しいコーラムを描きあげてくれたニラにすごい!と言うと、恥ずかしそうに笑う。


その笑顔はいつものニラの可愛らしいものだった。



ニラ、みんな、明日は卒業式でいい歌を歌おうな。































「ソバアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!いやったあああああああああ!!!!!!」



晩ご飯の時間になり、カデルが興奮ぎみに家の中を歩いている。


そう、今日はカンちゃんが日本から持ってきてくれた食材を使ってカデルに日本食を作ってあげることになっている。





日本が大好きなカデル。


この前日本に来た時、最後の日に何を食べるかということで、選んだのは富士そば。



金持ちのカデルなので別になんでも選べるのに、富士そばで天ぷら蕎麦立ち食いという渋いチョイス。




「フジソバサイコウ!!チョウオイシイ!!」



そう言うカデルとショータ君、それと二日酔いで死にそうになってる俺の3人で、渋谷で富士そばを食べたのはいい思い出だ。



そんなカデルのリクエストでカンちゃんが持ってきてくれたのは蕎麦。
そしてマヨネーズ。








「アアアアアアアア!!!!ワタシハホントニマヨラー!!チョウマヨラー!!」




びっくりしたんだけど、タミルの子供たちはマヨネーズを知らなかった。

それほどまでにタミルナドはタミルナドの文化で成り立っている。



でもカデルは世界中に行ってる国際人だ。

バーガーキングを知ってるし、好きな映画も007。










というわけでカンちゃんと2人で料理開始!!

よし!!料理しにくい!!!






キッチン道具が全てカレーを前提に作られているので使いにくいことこの上ない!!




おかげで時間がかかりまくるんだけど、それを後ろにぴったりくっついて見てくるのは、




お手伝いのおばちゃん。




見ているというよりかもはや監視。
俺たちの動きを真後ろでチェックしている。





インドではある程度の立場というか身分の人は料理はしない。
カデルはまったく料理をしたことがない。

料理はヘルパーさんがするものって感じだ。



俺はこの家ではゲストなのでカデルと同じようにサーと呼ばれるんだけど、そんな俺がキッチンに立っていることがすさまじく珍しいようだ。





でもそれだけじゃなく、日本人が料理?へっ、なめんなよ!みたいな感じの対抗心がおばちゃんの目線に見え隠れしている……………



そして我慢できなくてめっちゃ手を出してくる。




ガスコンロが日本みたいに自動点火ではなくライターの火をかざしてガスに引火させないといけない旧式のタイプで、ちょっと使いかたがわからずに手間取っていると、はいはい、日本人は火もつけられやしない!!といった感じでライターを取り上げて火をつけてくれ、勝ち誇った顔をしてくる。



そしてカンちゃんが芋を茹でていたら、そろそろいいだろう、と勝手に判断して火をとめてくる……………




おばちゃん!!日本食のこと1ミリも知らんやろ!!勝手に加わってこないで!!







そんなおばちゃんのインドチェックに翻弄されながらもなんとか料理完成。







かき揚げ蕎麦とポテトサラダ!!



うん!!おばちゃんが勝手に火を止めたからポテトが固い!!







ど、どうだろう…………

カデル食べてくれるかな……………




富士そばも結構美味しいからな………………




そんな心配をよそに器を手に持ってスープを最後まで飲み干してくれたカデル。









「チョウオイシイデス!!アリガトウゴサイマスー!!ニホンサイコウ。」





あー!よかった!

ていうかカデルあと1ヶ月後に日本行くから蕎麦食べ放題だけどね!!






日本のみなさん、6月に大阪の蕎麦屋さんでインド人みかけたら十中八九カデルなので声かけてみてくださいね( ^ω^ )














さぁ、残りは明日。

明日の卒業式でこの1ヶ月半の集大成を全て出し切る。


最高の歌をみんなでこのタミルナドの地に響き渡らせるぞ。










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