7月8日 火曜日
【ラオス】 デッド島
ラオスのミニお国情報。
★首都………ビエンチャン
★人口………630万人
★言語………ラオ語
★独立………1949年にフランスから
★通貨………キップ
★レート………8000キップ=1ドル
★世界遺産………文化2件
鳥取の3分の1ほどの経済力とのこと。
1日2ドル未満で暮らす人が人口の60%を占めるらしい。
てことは月6千円か。
この島のご飯はだいたい2ドル。贅沢なリゾート地だ。
労働者の80%が農業に従事しているようで、そのため食料は豊富にありとのこと。確かに物乞いはほとんど見かけない。
貧しくても食べることには困らないというわけだ。そののんびりとした余裕が旅人に居心地の良さを与えてるのかな。
かつてはアジアの盟主として日本が東南アジア諸国に対してリーダーシップを取り、ラオスなどの貧しい国に道路や橋を作ったりしていた。
今もアジアでは日本の人気はかなり高い。
しかし最近では中国の進出が著しく、日本にかわって東南アジアに金を落としまくって好感度を上げてるとのこと。
その裏にはまだ開発されていない鉱物などの資源を狙っているという話があるが、日本だって今までやりたい放題やってきたんだろうからな。
ただ中国人は嫌われてるけど、日本人はいまだにめちゃ好かれているのはこれは完全に国民性だ。
目を開けると天井のファンが回っていた。
この島はなぜか気温がそんなに高くなく、ファンで寒くなってしまうほど。
寝袋をかぶって寝ていた。
部屋のドアを開けるとテラスのハンモックに揺られてカンちゃんが川を眺めていた。
目の前にはメコン川の茶色い水がたゆたい、生い茂った水草が動いている。
小船がモーターをトントントントン言わせながらどこかへ向かっていく。
広い空の下に散らばる中洲の島たち。
どこからかマリファナの匂いが漂ってくる。
その香ばしい匂いが静寂の中に染み渡る。
バンガローにはナチュラルドレッドをかましたヒッピーの欧米人たちがいる。
本を読んだり、音楽を聴いたり、みんなそれぞれにこの何もない時間を楽しんでいる。
ここが大騒ぎするような島ではないことを彼らもよく分かっていた。
そしてそういう奴らが世間から隠れて自分の時間を楽しむためにここに来ている。
どうしてこんな何もない中洲の島のひとつに人がくるようになったのか。
本当に何もない。
綺麗な夕日とハンモックと静寂があるのみ。
誰が目をつけて、どうやって人を呼び始めたのかわからないが、今この島は本当にゆっくりしたい奴らの隠れ家のようになっている。
余計なものは何もない。
それこそがこの島の魅力。
中洲というのが、どこか子供の頃の秘密基地を思い出させてくれる。
ラオスではゆっくりしたかったと言っていたカンちゃん。
俺の都合でいろいろと連れ出したりしていて、今回もこんなハードな移動になってしまったのに文句をひとつも言ってこない。
いつもニコニコして、俺の体調の心配をしてくれる。
大阪出身のカンちゃんはウェディングのフォトグラファーをやっていたそう。
結婚式をするカップルのための写真を撮る仕事。
今まで数え切れないほどのカップルの写真を撮ってきたみたい。
子供っぽくていつもふわふわしているけど、実はとてもしっかり者で仕事が早い。
パソコンを使わせたら何やってるのか全然分からないうちにパパッと作業を終わらせてしまう。
さらにバリに2年住んでいたみたいだし、アメリカにも住んでいたので英語はペラペラ。
1人でアフリカを旅したこともあるので、チケット取りなんかもなんでも任せられる頼もしさ。
しかも可愛くてエロいってんだから一緒にいてすごく楽しいっていうかおっぱい揉ませて!!!
そんなパーフェクトな女の子なんだけど、俺にとってパーフェクトなのはカンちゃんがどこにでもいる普通の女の子だから。
居酒屋に行ってシーザーサラダを頼んでそうな普通の女の子。
子供のころにストIIをしていたと言うし、バラエティ番組を見るし、古着を着てダイニングバーで働いていたというし、ニベアの日焼け止めを持っている。
政治のことを語ったり、博愛やボランティアについて熱弁したり、失恋して病んで手首を切ったりはしない。
高校の時にクラスの中にいた仲のいい女の子みたいなそんな子だから、ありのままで接することができる。
なんだか若い頃を思い出させてくれる。
そんなカンちゃんとの最終目的地はカンボジアのシェムリアップ。
ここにはあのアンコールワットがある。
アンコールワットを見たら俺はすぐにバンコクへ向かい、そこからインドへ飛ぶ。
カンちゃんはベトナムに行くか、しばらくカンボジアにいるか、まだ決めていないそう。
いつの間にか1ヶ月も一緒に行動していたんだな。
こんなに気を使わずに一緒に旅できた女の子いたっけか。
もうすぐ離れ離れ。
最後にカンちゃんが行きたがっていたこの島に来られてよかった。
10分もあれば見て回れるほど小さなこの中洲の島。
レストランや商店が並ぶ船着場の前を歩いていると、面白いお店を見つけた。
ビデオ屋さんだ。
しかしただのビデオ屋さんではない。
ここのサービスはDVDを貸したり売ったりするのではなく、俺たちが持っているパソコンやハードディスクに映画のデータを入れてくれるというもの。
旅の移動中や宿でののんびりとした時間のために、旅人は映画をパソコンに入れたりしているが、ここではデータでそれを販売しているのだ。
さらに電子書籍もある。
こいつはいい。
川を眺めながらビールを飲んで映画だなんて贅沢にもほどがあるぞ。
というわけで映画を5本、カンちゃんのパソコンに入れてもらった。8ドル。
イクゾー君がオススメしていたジムキャリーのイエスマンと、この前ピピ島に行ったのでもう1度見たくなったザ・ビーチ。
そして残り3本。
映画マニアの僕ですからね。ここのチョイスはカンちゃんへセンスの見せ所ですね。
デニーロにしようかなぁ、フランス映画にしようかなぁ、イタリアも捨てがたいなぁ……
よし!!これ!!
全部ゾンビもの。
「えええー………ゾンビてー………」
「カンちゃん、君はゾンビ映画の素晴らしさをわかっていない。あの噛まれたらゾンビの仲間入りをしてしまうというギリギリの状態の中で描かれる人間の心の脆さや家族愛、友情、美しく、悲しく、最後に見える希望に向かって進む姿。そして飛び散る肉片と噴き出す血と噛み砕かれる頭蓋骨から流れ出る脳髄がマジエキサイティングっていうか俺イカれてるかな?」
ゾンビものが大好きです。
ハラハラしますよね。
水戸黄門並みにどれもワンパターンですけど。
それがいいんです。
というわけで宿に戻って川を眺めながら映画鑑賞。
釘打ち機を全身に乱射して電動ナイフで腕を切り落としてチェーンソーを顔面に突き刺して頭を真っ二つにする映画を見ました。
面白かったです。
カンちゃんがげっそりしてるのでジムキャリーのイエスマンを見てほのぼのしました。
いやー、ほのぼの。
イクゾー君、面白かったよ。
今どこにいんだろ?
ハンモックに揺られてギターを弾いていると、少し強い風が吹いてきた。
中洲の草木が激しく揺れ始める。
遠くに見える黒い雲の下の部分がかすんでいる。
こいつは来るなと思って部屋に入った途端、ものすごい勢いで雨が降り出した。
風が激しく、外のハンモックがあおられてガコンガコンと壁に当たって音を立てる。
凄まじい雨音が屋根を叩いている。
一気に外が暗くなり、部屋の電気をつけた。
これではとても外には出られない。
しかしこんな中洲の島でどしゃ降り雨に閉じ込められているというのにひとつも陰鬱な気持ちにならない。
もともと誰の目にもつかないような隠れ島。
隠れるならどこまでも隠れてしまえばいい。
むしろ雨の音が心地よく感じた。
部屋の中でギターを弾く。
カンちゃんが後ろでそれを聞いている。
美しいメロディをつむぎたい。
語るように言葉を選びたい。
ギターの音、綺麗だねと言ってカンちゃんが泣き出した。
雨がうるさくて、その囁きが聞こえにくかった。