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殺人バス

7月6日 日曜日
【ラオス】 ビエンチャン ~ パクセー






地獄の戦いだった。

過酷だった。

こんなにも過酷なバス移動が今までにあっただろうか。





パワーゲイザーという名の下痢にお尻を吹き飛ばされそうになりながら、片時も気を抜くことのできない10時間。


肩がくっつく位置で添い寝をしているラオス人の兄ちゃんの足がギターに乗っかってくるたびにギターをぶん取り、あぶら汗をかきながらノウマクサンマンダバサラダンセンダンマカロシャダと不動明王の真言を唱え続け、もう少しで悟りを開けるというところでバスはビエンチャンのバスターミナルに止まった。
朝の6時前。



バスを降りると夜明け前の白んだ空が湿り気を含んで垂れ込めている。

疲れきった体。でも気持ちはどこか落ち着いている。

そう、俺は乗り切った。

お腹が今世紀最強に崩壊して毒におかされた時の刃牙みたいになった状態で10時間の移動を耐え抜いた。

やった……俺はやったぞ………








ビシャビシャビシャ!!!!

ブピー!!シャバシャバ!!

びちょびちょびちょびちょ!!!!!






バスターミナルのトイレからふらふらと這い出る。

も、もう死ぬ………


で、でも先に進まないと…………




大丈夫……初日ほどはひどくないから………
多分なんとかなるから………





次の目的地はラオスの南部の町、パクセー。
ここから国境まではほど近いので、まずはこのパクセーに向かい、そこからカンボジアへと抜けよう。

カンちゃんの話ではこのパクセーの近くにデッド島という場所があるらしく、本当に何もない小さな島でハンモックに揺られながらのんびりするのにうってつけなんだという。

そういえば日本からカッピーが、ラオスに行くならデッド島ってとこがいいよ、というメールを送ってきていた。
いつも的確な情報を送ってくるカッピーのことだから間違いない。



そこを目指そう。
行き方は全然わからないけど、パクセーに着いてデッド島デッド島言ってたら多分たどり着けるだろう。

そしたらのんびりハンモックに揺られてこの崩壊しているお腹を治してカンちゃんと思いっきり生でプロレスしよう。今しちゃったらイク時に一緒に漏れちゃうからね!それはダメだよね!!



「変なことしてもええけど彼女にバラすでー。」



生でするっていうか生殺しっていうかトイレ行ってきます。












パクセー行きのバスが出るターミナルは違う場所らしく、仕方なくトゥクトゥクを値切って30分くらい走って南ターミナルへ。
トゥクトゥク40000キップ、500円。

photo:01




photo:02




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朝の托鉢はルアンパバーンでなくても見られるみたい。









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さすがに首都のメインターミナルなのでそれなりに大きく、人もたくさんいる。

まだ朝だけど、すでにひっきりなしにバスが出たり入ったりしていた。

photo:05






パクセー行きのバスはすぐに見つかった。
1日何本も出ていて、値段は110000キップ。1300円。

何時間かかるんですか?と聞くと10時間という。



あれ?ちょっとおかしいな。
ルアンパバーンからここビエンチャンまでで10時間かかった。

ビエンチャンからパクセーまでは、地図で見る限り軽く倍はある。

それが同じ10時間?



不思議に思って隣の窓口のスタッフにも聞いてみた。
自信満々に10時間と言う。

ふーん、たしかにルアンパバーンからの道は曲がりくねった山道が多かった。

おそらくここから先は平坦な直線道路なんだろう。

なら話もわかる。

まぁ大丈夫だろう。

photo:06













10時発のチケットを買ってひと息ついた。
これで今夜にパクセーに着いて1泊すれば明日の昼にはデッド島につけるだろう。

ゆうべの地獄の夜行バスでほぼ眠れていないので体はボロボロだけど、早くデッド島に着いてハンモックに揺られてお腹の神様の怒りを鎮めないとな。




10時まではまだ2時間あるので、ひとまず疲れた体をリラックスさせようとコーヒーでも飲むことに。

ターミナルの周りにはボロボロの地元の人たちしか来ないような屋台しかない。マクドナルドなんてもちない。

そんな中にオシャレなコーヒースタンドがあった。
メニューを見るとアメリカン、エスプレッソ、ラテ、など英語表記がしてあるので注文しやすい。
外国人相手のお店なんだろうな。

暑くて汗が出てくるほどなのでアイスのカフェラテを注文。
カンちゃんはホットのモカを注文。

ニコニコしてる若いお姉ちゃん。
まったく英語を理解してくれないので、メニューを見せながら、アイスの、カフェラテ、と指をさして注文。

まさかとは思うけどこんな暑いのにホットが出てきたらたまったもんじゃないからね。

ニコニコと何度もうなづくお姉ちゃん。






そして出てきたのは触らなくてもわかるほど熱々で湯気を立ち上らせたホットカフェラテ。

photo:07





すっごい熱々。




ふぅ………大丈夫、怒ってないよ。
下痢もまだ決壊してないよ。



メニューをもう一度持ってお姉ちゃんに、アイス、というところを指差す。

わざわざホットとアイスで値段を分けて表示している親切なメニュー表。


え?これがカフェラテよ?とキョトンとした顔でテーブルのカフェラテを指差すお姉ちゃん。


いや、だから俺が欲しいのは冷たいやつなんだよ?と優しくアイスを指差す。

するとようやくそのホットの横に書いてある少し値段が高い謎の文字の存在を理解したのか、カウンターの下から何かの紙を取り出して眺めだした。

レシピ表だ。

すると2人のスタッフのうちの1人が真剣な顔をしてお金を持ってどこかへ買い物に行った。



あ、えっと……氷買ってくるのかな………


う、うん、わかった、待ってるよ、まだバスまで1時間半もあるからね。

やっぱりこんな暑い朝は冷たいカフェラテでタバコ吸って気分転換したいよね。
ゆうべほとんど寝てないので目も覚ましたいしね。











1時間経ってもお姉ちゃん帰ってこずバスの時間に。

目の前にはすでにぬるくなったカフェラテ。

カンちゃんの分だけのお金を払うと、何か言いたげな顔をするお姉ちゃん。

大丈夫、朝からこんなしょうもない時間を過ごしてモヤモヤした気分になんてなりまくりだこの野郎!!コーヒー屋の店員がアイスわからんてどういうことだオラァあああああああああああああああああスッキリしねええええええええええええ!!!!!!!!!









photo:08




なんですかこのクソみたいなバスは?


おいおっさん、何を俺のバッグを勝手にバスの上のおっさんに渡そうとしてるんだ。
やめろ。俺は長距離バスに乗るんだ。


バスの上に物を乗せたりしたらいけないとお婆ちゃんに教わらなかったのか?うん、そこのお婆ちゃん穀物袋乗せすぎ。


ちょ、ちょっと待とうか。
今から10時間ですよね?市バスならわかるよ、いくらでもボロいのあるよ。
でも10時間だよ?東南アジアのクソ暑い日中ですよ。

なにこれ?

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あはは、ファンがついてるね、やっぱりエアコンの風より扇風機の風の方が体に良くて省エネ♫




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そのバスの通路のとこについてるつっかえ棒はなんなのかな?あー天井に物を乗せてるから補強しないと潰れちゃうってわけだね、いよっ!賢い!!


あ、そのプラスチックのイスは知ってるよ!お客さんが席に座れなくなったら真ん中の通路に椅子を並べて座らせてトイレに行く時とかおじさんの頭の上を越えないといけなくなるやつだよね!中米でよく見たよ!!
ていうかこのバス、トイレないや!!へへ!!



おいこのクソ野郎!!てめー座席全倒しにしてんじゃねぇよ!!ただでさえクソせめーのに前の席のオノレが背もたれ全倒しにしたら俺のスペースまったくねぇじゃねーかちっとは後ろこと考えろやああああん!!??




あ、シートが壊れてて勝手に倒れてしまうと、これは失礼しやした。






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ギャーギャーギャーギャー!!!!

ウオラアアアアアア!!!イヤッホオオオオオオオ!!!!!!

オオオオラアアアアアアア!!!!!

ギャアアアアアアアアアア!!!!!!!

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何かのコントですか?ってくらいすごい数の物売りがなだれ込んできて、シートによじ登って他のやつ押し飛ばして突進してきた。


い、いや、もうそれ以上乗ってきたらバスの中身動きとれなくなるんじゃないかなぁ……そんなに叫んでも何言ってるかひとつもわかんないんだよね………


密度がすごいことになっているバスの中、おっさんの脇の隙間に顔と腕をねじこんで、すごい形相で、買う?と聞いてくるおばさん。
ごめんなさい買いません。


な、何かの間違いだ、これは悪い夢を見ているんだよと思いながら、灼熱のバスは寝不足と下痢で死にそうになってる俺を乗せて走り出した。











photo:15




暑すぎる。

走っていると窓から風が吹き込むし、止まれば扇風機が作動する。

しかしそんなんで止められるほど東南アジアの汗は甘いものではない。

さらに開けた窓から砂埃や排気ガスが入ってくるので顔も体もドロドロ。

乗客は絶え間無く降りたり乗ったりしてきて、通路に置かれた俺たちのバッグは人に踏まれすぎてドロドロのゴミみたいになっている。

身動きをするスペースもほとんどないくらいの人口密度で、そこに停車場ごとに売り子がなだれ込んできて戦争が繰り広げられる。

すでに2日化粧を落とすことができていないカンちゃんはえへえへ~と精神が崩壊してきている。


俺も停車場ごとにおっさんとおばさんの体をまたぎながら外に飛びだして掘っ建て小屋みたいなトイレにダッシュする。


乗ってる間は不動明王の真言で精神統一して下痢がパワーゲイザーするのを必死にこらえる。



地獄。

マジで地獄。






休憩ごとに水を買って飲んでいたら財布の中のお金がなくなってしまった。

もう飯も食えない。

しかしもうすぐ。


ターミナルのスタッフが言っていた10時間まであと1時間。

あと1時間耐えればパクセーに着いてどこでもいいから宿に入ってシャワーを浴びてトイレで出すもん出すだけ出して泥のように眠ってやる。

もうすぐ……もうすぐだ………









しかしバスは一向にパクセーに着かない。

どこかの町のターミナルに着くたびに周りの人にパクセー?と聞くがニコニコしながら首を横に振る。

もう10時間が経過している。


遅れるのはわかる。多少の遅れは覚悟の上。

でも地図がないのでここがどのあたりなのかも見当がつかない。

バスの中は相変わらず蒸し暑く、汗が流れ落ち、気持ち悪くて仕方が無い。



ああ……もう嫌だ………

お腹痛い……トイレ行きたい………お腹空いたけどお金がない………眠い………
もう体力の限界だよ………



そういえば1番後ろの席にただ一組だけ欧米人のカップルが座っている。
昨日のルアンパバーンのバスからなぜか観光客の姿が消えて地元の人しか乗っていないんだけど、この欧米人だけはどこの国かわからないけど完全にバッグパッカー。

おそらく彼らもパクセーからのデッド島を目指しているはず。

デッド島はその存在を知ってる人は少ないが、ラオスの中では一応隠れた観光地的なところのはず。

彼らならあとどれくらいでパクセーなのか知ってるかもしれない。

話しかけてみた。



「ああ、パクセーね。俺たちもパクセーに行くところだよ。」


「そうなんだ。ところであとどれくらいでパクセーに着くかわかる?」


「だいたい6~8時間かな。」


「そうなんだ、へー、……ちょ、い、今なんて言った?」


「だいたいパクセーまでは16時間だよ。でも遅れるから18時間ってとこじゃないかな。」






あ、あへほ…………

あとまだ6時間………



てことはパクセーに着くのは夜中の2時………
もうそんな時間からトゥクトゥクで町の中まで移動して宿を探すなんてできない。

バスターミナルで夜を過ごすことになる。

早く宿に着いてシャワーを浴びてご飯を沢山食べてビールを飲んでベッドで眠るという計画がガラガラガラと崩れ去った。



ま、マジで死ぬ……っていうかあのターミナルのスタッフぶっ殺す!!!

何が10時間だこの野郎!!!
こんな殺人バスで16時間とかチクショウ!!チクショウうう………ううう………





下痢が漏れるよーーーー!!!!

photo:16







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