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この先どうなる

6月28日 土曜日
【タイ】 チェンマイ






朝、シャワーを浴びながら考えていた。

体を洗って歯を磨いて服を着たころには少し思いがまとまった気がした。




もし今日、路上で稼げなかったらインドはやめよう。


明日チェンマイを出て、ラオスに向かう。
今日がこのタイでの最後の路上。

最初のプーケット以降、まったくと言っていいほど稼げなかった。
こんな調子だったらおそらくラオスでもカンボジアでも稼げない。
そうなったら所持金が減るだけで、インドに飛ぶなんて夢物語。



頑固にならずに、今は彼女の笑顔を見るために1日も早く日本に帰る道を選ぶことが俺のやるべきことではないのかと思えた。



そう考えると、ふと気持ちが楽になった。
大事な人をまた失うのはもうごめんだ。

何かを諦めることも巡り合わせだと思わないとな。














「もう1ヶ所歌えそうな場所があるわよ。」


宿のママが朝ごはんを作ってくれながら話してくれる。


「空港の近くに大きなモールがあるわ。あそこならもしかしたら歌えるかもね。それに今日は土曜日。チェンマイで有名なサタデーマーケットがあるわ。そこでもきっと歌えるわ。」



希望は薄い。
でもやれることがあったらやらなきゃ。

トーストにバターをたっぷり塗ってかじり、苦いエスプレッソを飲み干し、今日は何も予定がないというカンちゃんと一緒にママのスクーターの荷台に乗り込んだ。









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ママにお礼を言って見送った。

かなり大きなショッピングモールの駐車場。
ものすごくたくさんの人がひっきりなしにモールと駐車場を行き来していた。

もちろん敷地内に他の屋台は出ていない。
多分歌ったらいけない。

でももう四の五の言ってる場合ではない。
ダメならインドはなしだ。



モールと駐車場をつなぐ屋根のかかった通路の下でギターを鳴らした。

気合いだぞ。性根入れて歌え。







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一瞬にしてギターケースの上が札束で埋め尽くされた。


次から次へとひっきりなしにお金が入っていく。

たくさんの人が足を止め、声をかけてくれ、拍手してくれた。

お金がどんどん増えていく。

あまりにも久しぶりの爆発に、嬉しくてバカみたいに手が震えた。
ロシアで始めて外国での路上をやってお金が入った時のあの興奮が蘇り、ギターを弾く手がいうことをきかない。

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とどまることなくお札が置かれ、そしてセキュリティの人も俺の前を何も言わずに通り過ぎた。

散歩に行ったカンちゃんが戻ってくる度にケースの中のお金が増えてるのを見て自分のことのように喜んでくれた。

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久しぶりの長時間の路上だったので3時間くらいしたところで喉が枯れてきた。

休憩入れないとヤバイなというところで、残念ながらモールのお偉いさんのような人がやってきて、ソーリーと言いながらここでは歌っちゃダメだよと言った。

すでに3時間歌わせていただいたことにありがとうございますと言い、ギターを置く。








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喉はボロボロだけど、こんなもんじゃ終わらねぇぞ。

その足で向かったのはサタデーマーケットの通り。

ママの話では18時くらいから人が出始めるとのことだったが、17時すぎのマーケット通りはすでにホコ天になっており、人で溢れかえっていた。

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通りの両側にズラリと並んだ屋台、屋台、屋台。

お土産物もあるが、ほとんどが手芸品などのアート関係のもの。

可愛らしい小物が通りを彩り、所々にタイ料理の屋台村ができており、そして歩いている人もほとんどがローカルの人たちだった。

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夕暮れ時のマーケットはとてもいい雰囲気に包まれているのだが、なんせ人と屋台が多すぎて、もはや入り込む余地なんてまったくない。


これなんだよ………
人が集まるのはいいんだけどやるスペースがないんだよ………


諦めるか……?いやこんなもんで諦めるのか……?


なんとか突破口はないのか?









人でごった返す通りを歩いていると、その時そんな歩道の真ん中で立ち止まってなにかやってる人がいた。

近づいてみると、それはシンガーだった。

アジアではどこにでもいる、目の見えない人がマイクを使って歌を歌ってお金をもらうあれだ。




まぁ目の見えない人の援助なら仕方ないよな、と通り過ぎて歩いて行くと、またいた。
今度はバイオリンを弾いてる女の子。その子はハンディキャップを持ってるような様子はない。

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さらに歩いて行くと、バンド、ギターの弾き語り、踊りなど、一定間隔を置いて無数のパフォーマーが歩道のど真ん中に陣取ってチップを集めていた。

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やるしかねぇ。


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人通りはさらに増し、この3メートルくらいしかない歩道はお祭り会場のような人口密度になっている。

誰かが物を買うために屋台の前で足を止めただけで人の流れがふんづまるような混雑。


こんなとこで歌うのか?

道の真ん中でギター弾いて歌うのか?

邪魔でしかねえんじゃねぇか?


やるに決まってんだろ。
遠慮してやらなかったら一生前に進めない。

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喉が限界を超えて声が力士みたいになってギターを置くと、取り囲んでいた人たちから拍手が起きた。

足元には数え切れないお札の山ができていた。

たくさんの人に写真を求められ、Facebookを交換した。

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中国人マジ可愛い。







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とても有名なマーケットなので観光客の姿もすごく多いんだけど、普段あまりお金を入れてくれない欧米人たちもガンガンお金を置いてくれた。

日本人もたくさんいたが数人声をかけてくれた。


汗だくでビショビショになってギターを片付け、そこらへんの屋台村のテーブルに座った。

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屋台のランプに照らされた人々が楽しそうに笑い、あちこちから笑い声が聞こえてくる。

トゥクトゥクが通りに列を作り車道は大混雑になり、みんなバイクの間を縫って道を渡っていく。

日本の縁日を思い出す熱気。
バンコクに比べると少し涼しくて、それが夏の終わりに似て遠い記憶を呼び覚ますよう。

焼き鳥をかじりながらビールを飲む。
疲れた体に染み渡っていく。

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宿に戻ってあがりを数えた。

今日のあがりはショッピングモールが3時間で2450バーツ。8千円。

サタデーマーケットが1時間半ほどやって940バーツと1アメリカドル。3千円。

1万超えたぞ………






そしてもう1度ジップロックの中の全財産を数えてみた。

やはり高額紙幣は全て抜かれているが、20ドル札をたくさん持っていたオーストラリアはそこそこある。


数えた結果、



タイバーツが109USドル分。
アメリカドルが33USドル分。
オーストラリアドルが504USドル分。
ニュージーランドドルが158USドル分。
ボスニアヘルツェゴビナが132USドル分。
ブルガリアが114USドル分。



合計が1050USドル。

10万円ちょいあった。



相変わらずボスニアヘルツェゴビナとブルガリアは換金できないのでただの紙くずなので実質は8万円。

もしインドに行けば6万円くらいかかるのでなんとか2万円は持って中国までの足が確保できる。その間に稼いで減らさなければだけど。




これって…………なんとかなるかもしれない。

いや、きっとなんとかなる。



ぶっ飛ばせば8月の終わりには帰れるはず。もちろん毎日確実にミスなく稼いでいかないといけないが。

インドに2週間くらいしかとれないのはもう仕方ない。行かないよりはマシ。





うおおおおおおおおおおお!!!!!気合い入ってきたぞおおおおおおおおおおお!!!!!!

っていうか誰かボスニアヘルツェゴビナ行ってえええええええええええええ!!!!!!!!


チェバブまじで美味いから!!
正教会とイスラムが混ざり合ったサラエボの町なんてマジで最高だよ!!

あそここそイスラム圏とキリスト圏の境界線としてとっても興味深くてゲロ吐くこと請け合い!!

冬に行ったら寒すぎてホステルからほぼ外に出たくなくなること請け合い!!

雪の中でキャリーバッグを引いたらバッグが雪をかき集めてやってらんなくなるのが最高に楽しい!!ヒョウ!!


誰かボスニアヘルツェゴビナ行く人連絡してええええええ!!!!!!

いいレートで替えますからあああああああ!!!!!!


ブルガリアもヨロシク。
ヨーグルトまじやばいから。
あ、俺食べてなかったてへ。





つーわけでまだ確定ではないけど、



アジア旅、きつくなりそうです。





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