4月13日 日曜日
【オーストラリア】 ゴールドコースト ~ ヌーサ
「よっしゃー、ホナ行こうかー。」
ホテルから荷物を出して地下駐車場の車に積み込んだ。
チェックアウトを済ませて地上に出ると、どんよりとした雲が広がっていた。
なにやらケアンズの方に襲いかかっていたサイクロンがこちらに南下してきているんだそう。
小雨がぱらつき始めた空の下、ジェニファーさんと2人で北へ走る。
これといって行きたい場所はないというジェニファーさん。
ただゆっくり出来ればいいとのことだったのでお金持ちの保養地であるヌーサならバッチリだと思う。
ヌーサはゴールドコーストから3時間ちょいくらい北の海岸線の町。
俺もこの機会にとことんゆっくりして色々とやってしまおう。
ブリスベンにさしかかったあたりから雨が激しさを増し始め、フロントガラスを叩きだした。
道路脇の街路樹も強風にあおられてぐわんぐわんと傾いている。
暗い空下、伸びる高速道路はどこか不穏な雰囲気。
走ってるだけでもストレスが溜まる。
ブリスベン、サンシャインコーストを抜けしばらく走っていくと、看板にヌーサという文字が見えてきた。
幹線道路が整備されているような場所ではなく、木々が生い茂る田舎道を奥へ奥へと入っていく。
まるで迷路のように道が入り組んでおりどこを走っても同じような林が広がっていて近づいているのかまったくわからない。
ヌーサってこんな隠れたような場所にあるんだな。
バケツをひっくり返したような雨が森を閉ざし、アスファルトに川を作る。
ワイパーを最速にしても前が見えないほどで、どないなっとんねんーとジェニファーさんも疲れ気味だ。
さらにこんな迷路のような入り組んだ田舎道。
ようやく少し建物が見え始めた頃には夜が訪れようとしていた。
緑が多い道路脇に広々とした庭のある大きな豪邸が並んでいる。
高い建物はひとつもなく、森の中に同化するように町が形成されている。
適当に見つけたピザ屋で簡単に食事を済ませるが、ジェニファーさんは食欲がないみたいでピザに手をつけない。
いつものノンストップで喋り続けるあの大阪人丸出しのジェニファーさんが疲れ切っていた。
「なんか少しでもお腹入れるわー。」
とスープだけを飲んでいた。
早くゆっくりしようとホテルを探して走る。
お金持ちの保養地というだけあって、ホテルよりも長期滞在型のアパートメントがいくつもある。
家具も食器もなにもかも揃っておりそのまま生活が出来るようなホテル。
ゆっくりするにはもってこいなんだけど、この週末からイースター休みが始まるせいかどのホテルも満室になっており、なかなか見つからない。
雨は激しさを増しあたりも暗くなってきて、ジェニファーさんも集中力が切れて交差点で優先車の先に割り込んだりしてクラクションを鳴らされる。
早く見つけないと。
空きを尋ねながらホテルを周り、何軒目だったか。
ようやくひとつのホテルに辿り着いた。
とても静かなラグーン沿いのアパートメント。
「あの、部屋は空いてますか?」
「もちろん、なんでもOKだぜ。」
とてもフレンドリーで親切なおじさんが雨に濡れた俺たちを迎えてくれた。
何ヶ所も断られ続け、疲れ切っていたところで、この優しさにどっと脱力した。
部屋はあまりにも大きく贅沢なものだった。
ワンベッドルームでいいと伝えたところ、ツーベッドルームしか空いてなかった。
それをワンベッドの値段でいいぜと言ってくれたおじさん。
このままここで2家族くらい暮らせそうなほどの設備。
キッチンもシャワールームも洗濯機も、何もかもが揃っている。
さらにテーブルの上にはウェルカムボトルのワインが置いてあった。
「ごめんな、ちょっとだけ横になるわ。」
おでこに冷えピタシートを貼ったジェニファーさん。
少し熱があるみたいで意識が朦朧としているよう。
すぐにベッドルーム入って行った。
1人、リビングでワインを開ける。
テレビではクラシックロックのチャンネルが流れており、カーペンターズがクローストゥーユーを歌っている。
こんなに体調が悪い中でも気丈に振る舞うジェニファーさん。
俺に気を遣わせないようにしているが、元気のない表情が余計に可哀想になる。
明日あさっては何もしないでジェニファーさんと一緒にゆっくり過ごそう。
しばらくしても起きてくる気配がないのでベッドルームに入ると、弱々しく眠っていたジェニファーさん。
おでこを触るとすごく汗をかいていた。
隣のベッドの布団をはがしてジェニファーさんにかけた。
雨がバラバラと窓を叩き、風がビュービューと夜の中から聞こえてくる。
サイクロンの勢いは少しも弱まっていない。
明日も雨は止みそうにない。