4月1日 火曜日
【オーストラリア】 シドニー
イクゾウ君がアイパッドに記録している毎日の路上のあがりを見せてもらった。
5ドルとか12ドルとか、最初の方はまぁ惨憺たる内容なんだけど、日をおうごとに徐々に金額が大きくなっているのがわかる。
「あ、そうだ。この記録をダンボールに書いて路上の時に前に置いたらどうっすかね。お、あいつ昨日なかなか稼いでるな、おととい俺があげた日少ないなとか分かる感じです。毎日のちょっとした楽しみになりませんかね。」
嬉しいそうな顔をしながら話すイクゾウ君に優しく、そうだねと言って今日もモールのトイレで身だしなみを整え、コーヒーを飲み、図書館へ。
今日はイクゾウ君のオーストラリア最後の夜。
最後くらいいいもの食べてお酒いっぱい飲もうぜという話をし、お互い張り切って路上に向かう。
今日もぼちぼちのマーチンプレイスの地下道。
コインがパラパラと5ドル紙幣が数枚。
うーん、寂しい。
イクゾウ君の最後の夜だからたくさん稼いで贅沢したいところなんだけどなぁ。
そんな時、向こうからこちらをチラチラ見ている女の子発見。
ん?可愛い子だな。チューしたいなと思っていたらこっちに近づいてきた。
やったエッチするぞ!!!
「金丸さんですか!?うわー!本物だー!!私南米で金丸さんと一緒にいたナオちゃんのワーホリ時代の友達なんですよー!!」
この可愛い女の子はカナちゃん。
もちろん事前に連絡はもらっていましたよ^_^今日歌聞きに行きますって。
どうやら前から俺のブログを読んでくれてたみたいなんだけど、そこに突然友達のナオちゃんが出てきてビックリしてナオちゃんになんで金丸さんと会ってるのー!!ってメールしていたんだそう。
そういえばナオちゃんからもオーストラリアには友達いるからぎゃーって言われてた気がするな。
小柄なんだけどサーフィン好きで日焼けした肌が健康的なカナちゃん。
今日世界で1番危ない旅人とご飯食べに行くんだけど一緒に行く?と誘うと二つ返事でOKしてくれた。
今夜が楽しみ!!
可愛い女の子が聴いてくれてると思うと気合いが入る。
そして気合いが入ると急にお金の入りがよくなる。
今日も3時間ほどで切り上げたけれどあがりは62ドル。
悪くないかな。
カナちゃんと夜の賑やかな街を歩いてウールワースのイクゾウ君のところに行くと、そこにはイクゾウ君ともう1人知らないお兄さんが。
「あ、どうもはじめましてー。」
なんと世界一周をしているということお兄さん。
まさかこのシドニーでそんな人に会えるなんて!!
エイジさんという俺と同い年の方で、イクゾウ君が歌ってるところに話しかけてくれたみたい。
「え?金丸さんなんですか?うわー、ケータ君から話は聞いてます。アルゼンチンで会いましたよ。」
まさかの繋がり^_^
嬉しくって今夜飲みませんか?と誘うと二つ返事でOK。
また仲間が増えた!!
それからみんなでご飯を食べに。
現地の人から美味しくて安いお店を教えてもらったんだけど、ここがマジで大当たり。
セントラル駅の近くにあるサンタイというタイ料理屋さんで、人気店らしくたくさんの人が店の周りに溢れている。
はい、これもん。
美味え!!ビビるくらい美味い!!
脂っこくて味の濃いやつを食べたいねとイクゾウ君と話してたんだけどまさに希望通りの味!!
量も多くて、これで7.5ドル。
シドニーで7.5ドルのご飯はかなり安いほうだ。
いつもロクなものを食べていなかった俺とイクゾウ君、感動で言葉もない。
「すみませーん!!遅くなりましたー!!」
そこにやってきたのは………
アーロン!!
なんだそのデカいバッグは!?
「だっておとといは何もなかったからあそこに泊まれなかったです。今日はこれでパーフェクトです!!」
「いや、この中で1番気合い入ってるバッグパッカーみたいだから。この街住んでるのに。」
おととい俺たちの寝床に来たアーロンだけど、寝袋もなにもなかったので夜中に走って帰って行ったんだよな。
まさかこんなに本気でキャンプの用意をしてくるとは。
よほどこういう旅が大好きなんだろうな。
そんなアーロンが面白いものを見せてくれた。
古びた布をバッグパックに張り付けるとそこには文字が書かれていた。
『東京から仙台まで歩き中 ×ました』
これはアーロンがついこの間、日本を本当に歩いた時に使用していた布。
被災地の現状を見て、話を聞き、オーストラリアの人々にキチンと伝えたいと思ったんだそう。
愛と優しさに溢れたこの男が日本でどれほどたくさんの人と関わり、現地の人と密な交流をしたのか、優しさを受けたのか、簡単に想像がつく。
アーロン、嬉しいよ。お前が日本を好きになってくれて。
キッスのアイワナロックンロールオールナイトをマイクを持って全力で歌ってるかなりヤバいおじさんとか色んな変な人がいるシドニーの夜の街を5人で歩く。
話していると、いつもは長い道のりもあっという間に寝床までやってきた。
「うわ!すげえなんだここ!?」
「きゃー!!綺麗ー!!」
寝床から見晴らすシドニーの夜景のあまりの綺麗さに驚くカナちゃんとエイジさん。
俺たちの自慢の宿だよな。
多分シドニーのどの宿よりもいいスィートルームだよ。
「いやー、オーストラリアの犬って安心してなでなでできるから嬉しいわー。」
「え?なんでですか?」
「だって南米の犬とか狂犬病が怖くて触れないよ。」
「イクゾウ君は狂犬病ワクチンとか打ってきてないよね?」
「え!?狂犬病ってワクチンとかあるんすか!?」
「期待通りの答えありがとう。」
もちろん予防接種なんてなにひとつ受けてきてないイクゾウ君。
肝炎てなんですか?ってそんなこと言ってる。
「え?じゃあクレジットカードは?」
「クレジットカードに入れる金がないです。」
ここまでハイレベルな旅人見たことねぇ。
「大丈夫です。僕狂犬病の犬より多分狂ってますから。存在自体ウィルスみたいなもんです。」
「ウィルス小林だね。」
「旅してて有名になっていってウィルス小林さんですか?とか言われるようになるかもね。」
「ちょ、それダメでしょ!ウィルスさんですか?とかどんな呼び方ですか。」
大笑いの夜はふけ、カナちゃん、そしてエイジさんが帰っていく。
暗い公園の中、ポツリと光る展望小屋。
ギターを弾く。アーロンが実はめちゃくちゃギターが上手いということが発覚。
夜中になっても話は尽きず、俺とイクゾウ君とアーロンの3人、寝転がって語り合った。
「僕はもう大学に行きたくない。まったく意味がありません。すぐにでもフミさんたちみたいな旅がしたい。大学に行くのが辛いです。」
あと半年で大学のカリキュラムを修了するアーロン。
だったらあと半年、嫌でも通って卒業しなきゃもったいないじゃん、っていうのが普通の考え。
でもアーロンはすでに完全に違う方向を見ている。
ひたむきな若者にとってそれがどれほど苦痛で意味のないことと思えていることか。
少しは大人になった今なら理解してやれる。
「半年なんてすぐだよ、その後にやりたいことをやればいいんだから、とかってさ、大人は言うじゃん。分かるよ、俺もよく言われた。でも若い頃ってそんな不確かなものを信じられないよな。今やりたいことは今しかできないって思ってしまう。でも実際さ、俺もこの歳になって思う。半年ってすぐだよ。」
どうかこの純粋で賢いアーロンが後悔のない選択ができますように。
「金丸さん、俺今日の稼ぎ18ドルでした。今俺のギター1弦が切れてるんです。なのになぜか稼ぎが上がっていってるんです。弦がないほうが稼げてるって不思議です。」
イクゾウ、お前はどこまで面白いんだ。
爆笑しながら夜中まで語り合った。