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オーストラリア到着

3月27日 木曜日
【オーストラリア】 シドニー






機内のモニターが飛行機がどこを飛んでいるのか表示している。

ニュージーランドの上を通過し、オーストラリア大陸にさしかかった。




世界には6つの大陸があると言われている。

ユーラシア、アフリカ、北米、南米、オーストラリア、そして南極。


大陸か島かという基準はオーストラリアよりも大きいかどうかで決まるとどこかで聞いたことがある。


これでついに5大陸目だ。






飛行機はガタガタと揺れながら高度を下げ、滑走路に着陸した。

一気に緊張が高まる。

俺はオーストラリアに入れるのか。





オーストラリアといえばアメリカやカナダと同じような先進国。

出国チケットを持っているか、滞在に必要なお金を持っているか。

まず間違いなく確認される。

俺はどちらも持っていない。お金なんて200ドルくらいしかない。


でも電子ビザのイータスは取得している。


どうなんだろう。入れるのか………
入国拒否なんてシャレにならんぞ。








ドキドキしながら飛行機を降りて建物の中へ。
通路を進んでいくと、いきなり入国のイミグレーションカウンターが現れた。

ちょ、ちょっと待って!!
まだ心の準備が!!!




ゲロ吐きそうになりながら外国人用の通路に並ばされる。

手に持っているのはパスポートと飛行機の中で渡された入国カード。

まぁどこにでもある内容を記入するだけなんだけど、税関のチェック項目は少し多い。



食品は持ってるか、植物は持ってるか、種子を持ってるか、

30日以内に農場に行ったか、動物と触れ合ったか、大自然の中に行ったか、


などなど。


もちろん全部NOにチェックするだけど、最後の項目が、



6日以内にアフリカや南米にいたか、というもの。



Yesでしかねぇ。




まぁでもこれがダメならこの飛行機に乗ってきた人全員ダメなので大丈夫だろ。

あとチェック項目の中に、250本を超えるタバコを持ってきてないか、というものがあった。
じゃあ250本以下は持ってきていいんじゃねぇか!!!
オーストラリアのタバコ死ぬほど高いって話なのに!!アルゼンチンで1ドルのタバコしこたま買い込んでくればよかった!!!(´Д` )





とまぁそんな入国カードを手汗で濡らしながら爽やかアジアンボーイの表情で列を進む。

そしてついに俺の順番に。

ゲロ吐きそう!!





「お、お、お、オラー、じゃなかった、ハロー。」



「…………」



チラリとこちらを見るだけで何も言わない審査官のお姉さん。

パスポートをパラパラめくっている。


「6日以内に南米のどこにいたの?」


「アルゼンチンです。」


「…………」












バスン!!





はい、イミグレーション終わり。

え、あれ?出国チケット持ってるかとか聞かないの?金はいくら持ってるのかとか、早漏なのかとか。



マジ2秒。





で、でもここからだ!!
オーストラリアは税関が厳しいとの話。


荷物を全部ひっくり返されて全てくまなくチェックされるはず。
テントとか、テントについた砂とかまで厳しく追及されるみたい。

俺はそんな突っ込まれるものは持っていないはずだけど、知らないうちに変なものが混入していないといいけど………





ベルトコンベアーで荷物をピックアップし、通路を進むとチェックポイントに到着。
俺のパスポートと入国カードをしげしげと見つめる女の人。
トロールをチラリと見る。

やべ!!その汚くて気持ち悪い人形はなんだコノヤロウ!!とか言われる!!



「6番通路を進みなさい。」



目の前には1から6までの入り口が待ち構えている。

地獄の入り口じゃねぇだろうな……とドキドキしながら6番に入る。


歩きながら見ていると、他の入り口に入った人たちは厳重な荷物チェックカウンターへと続いている。

6番てゴミ回収ゲートじゃねぇのか!?
1番厳しいところじゃないのか!!??











通路を進んでいくと空港のロビーに出た。


え?あ、あれ?

ま、間違った?


近くの職員さんに6番の鬼殺しチェックカウンターはどこですか?と尋ねる。


「6番?チェックなしだよ。じゃ、バイバイ。」


ポカーンとロビーに立つ。

え?終わり?



そう終わりです。

オーストラリア入国完了。














photo:01




勝利の葉巻。

クソまずい。







やったああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!

片道入国もぎとったぞおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!







えーっと、じゃあとりあえず街の中心部へ行こう。

ここはシドニーってのは分かってるけど、空港と街がどれくらい離れてるのか皆目見当もつかない。

まぁだいたいどこも空港から街ってのはバスで2ドルくらいのもんだ。

高くても5ドルもしないだろう。



「オラー、じゃなくてハロー。街までどうやって行けばいいですか?」


「電車が17ドルよ。」


「へー安いですね!!1.7ドルですか!!オーストラリア最高!!マジカンガルーとかヤベッス。はぁあ17ドルウウウウウウウ!!!!!!!????」


頭おかしいんじゃねぇかコノヤロウ!!!

なんか時間見たら15分でセントロ、じゃなくてシティーセンターって書いてるじゃねぇか!!!

15分の距離が17ドルってカンガルーなめんなよ!!!!


「バスなら15カンガルーよ。」




へほへ……………

じ、冗談ですよね………?


たかがそこまでの移動で15カンガルーとか南米の人に謝ってもらっていいですか?



そ、そうか!!
レートだ!!

きっとレートが安くて1ドルが20円くらいなんだ!!
てことは17カンガルーで350円くらいのもんだよね!!

そっかそういうことか!!

早速そこらへんの換金所へ。





photo:03




はい、30アメリカドルで29カンガルー。
ほぼ変わらん。



オーストラリアって物価高いよとは聞いていたけどまさかここまでとは…………

震える手で15カンガルーを払って南米なら大統領が乗るようなレベルのピカピカのミニバンに乗り込んだ。










「ヘーイミスター、ここがセントラルステーションだぜー。ホテルには行かなくていいのかい?」


「あ、ここで大丈夫です。」


運転手さんが陽気に俺の荷物を降ろしてくれる。

今までラテンアメリカで英語喋ってくれよーってさんざん嘆いていたのに、いきなりネイティブな英語すぎて逆にすごく聞き取りにくい。





走り去るバンを見送る。

取り残される俺。

目の前には信じられないような巨大なビルが空をジグザグに切り取っていた。

photo:02




ひっきりなしに行き交う高級車、ブランド物で着飾ったパーティーに行くんですか?っていう人々、ゴミひとつ落ちていない道路、ショーウィンドウとカッコいい看板。

photo:04






あ、あれ?爆音で垂れ流されるラテンの音楽は?

バンパー取れかけのオンボロ車は?

ゴミだらけで野良犬が交尾してる歩道は?

俺のことをジロジロ見てジャッキーチェン!!とか言ってくる人たちは?







誰も俺を振り返らない。

当たり前だ。俺はただここに立ってるだけだもの。

でもなんで話しかけてこないんだよ?

わけわからないスペイン語でニコニコ話しかけてきて優しく肩を叩いてこないのかよ?


と、とりあえず街の中心部へ行かなきゃ。





あ、その前に何か飲み物を買おう。
喉乾いた。


photo:05




photo:06





う、嘘だろ……?

水が300円以上する………


ポケットの小銭を握りしめて店を出た。









photo:07




重たい荷物を抱えて歩く。

人通りが半端じゃなくて、誰もが足早に先を急いでいる。


iPhoneをいじりながら歩く人、イヤホンをして無表情に歩く人、


な、なんだよこれ………

なんだこの希薄な空気は。

この無機質な人工物の街の中、まるで人さえも同じビルの一部みたいに生気が感じられない。

笑って歩く人々のその笑顔も作り物のように見えてくる。



photo:08




空はどこまでもビルがそびえ、信じられないような大きさのガラスが通りに面しており、中を歩く人々を見ることができる。

ズラリと並ぶ飲食店の多さ、隙間ひとつないタイルの歩道。

アジア人、インド人、イスラムの女の人、ものすごくたくさんの人種が行き交い、何が本物なのかまったくわからないけど飛び交う言葉は流暢な英語。



たまらない。

息苦しくって俺の歩くスピードも上がっているような気がする。







カナダを思い出す。

あの芳醇な歴史をたたえたヨーロッパから北米のトロントに着いた時の変わりよう。

全てが新しく、薄っぺらく、入れ物だけはとてつもなく大きくて、そこにいる意味を見出せなくなりそうなほどだった。


少しはそんな北米に慣れたものの、すぐに中南米に入り、あのいきいきとした生気に満ちた人々の中で生きてきた。

人間臭さの塊のようなラテンアメリカの人たち。
彼らの暮らす町もまた生き物のように人々を飲み込んでいるようだった。



今、このオーストラリア、シドニーという世界屈指の大都会に立ち尽くし、虚無感だけが体全体を包む。

すげぇ、これがカルチャーショックか。

photo:09











あまりの冷たさに逃げ出したくて歩く。
こんなとこ人の住む場所じゃないとさえ思える。
魂がまったく感じられないよ。



でも………負けるわけにはいかないんだよ。

ここもまた地球の上だし、これも旅の一部。
今まで通り、旅をしていかないといけない。
こんな街の中でもやるべきことは分かっている。



マーチンプレイスっていう巨大ビルが並ぶ足元のストリートにたどり着く。

地下道を見つけ、そこに降り、きらびやかな通路でボロボロのギターを抱えた。

心細い。不安ばかりが胸に迫る。
ここはもう南米ではない。


でもやるんだ。
やらなきゃ何も始まらないぞ。











30分後。






立ち止まってくれた人、ゼロ。






拍手、もちろんゼロ。




人だかり?言うまでもなく。






足元には数枚のコイン。

しかしそれを数えてみると10ドルほどあった。

ほんの数枚なのに入れてくれる単価がでかい。





途中警備員さんに注意され、向こうの方なら自由にやっていいよと言われ場所を移動。

しばらく歌ったがここは何も言われないみたいだ。




喉の調子はいい。
綺麗に歌える。

場所も申し分ない。




しかし誰も足を止めない。

人々は何かに追われるように歩いていく。

どんなにいい声だと自分で思ってもこちらを見もしない。

通り過ぎる瞬間に真顔でコインを落として行くだけ。

ありがとうと言っても、その時にはもう歩き始めた背中しか見えない。

歌っている自分が壁の模様の一部になっているかのように思えた。




photo:10




2時間歌った。

足元には4枚の5ドル紙幣とそれなりのコイン。



ギターをしまって地下道から地上に出ると、すっかり街は夜になっていた。


アスファルトに足音を響かせながら歩く。
明かりのついたビルが空高くのびている。
その先に見える夜空には南米で見た星は欠片もない。











どこまでも歩いた。

街から逃げるように、ひと気のない暗い方へ。

そして2時間ほど歩き回ったころに、湾に面した公園を見つけた。


体を熱気が包み、汗がしたたる。
足も腕も肩も悲鳴をあげている。


音のない暗い公園の中、犬の散歩をする人の影が動く。







奥へ奥へと入っていくと公衆の水飲み場があった。

頭にかぶると火照った体が冷えていく。

そしてすぐ横にベンチを見つけてそこに荷物をドサリと置いた。








photo:11




目の前には暗い湾が広がり、そのすぐ無効に巨大なビルがそびえ立っている。

その先にはライトアップされた大きな橋と何かの変わった形の建造物が夜の中に輝いている。




ぼんやりと眺める。

胸ポケットを探るがタバコはない。

静かな公園の中、どこからかオペラの歌が聞こえ、歌が終わると拍手がしばらく鳴り止まなかった。







どこにも居場所なんてない。

まったく知らない新しい国、新しい大陸。

寄り添うものがなにもない。
心細くて周りを見回す。

お腹空いたな。






さっき稼いだコインを数えた。

56ドルある。


コインを握りしめる。

この金額だけが俺がここにいる証明。




ここはもう南米じゃない。

オーストラリア編スタートだ。

photo:12




photo:13





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