2月26日 水曜日
【ペルー】 クスコ
ストライキ2日目。
今日もやることと言えば路上で歌うことくらい。
ああ……早く進まないとマジでヤバいのに………
でもお金を稼ぐこともそれと同じくらい大事。
まずマチュピチュに1万円。
それからボリビアのウユニまでの移動費が40ドルくらいかな。
ウユニ塩湖の車チャーターがなんぼかわかんないけど30ドルくらいか。
星空は別にどうでもいいので朝焼けと青空を見られたらそれでいい。
その後ボリビアからチリに抜けてサンチアゴまでがわかんないけど50ドルくいかな?
ひたすら金がいる。
これをスーパーダッシュで移動しながらなおかつ所持金を増やしながら下っていかないといけないという、もはやディオが時を止められると分かった時のジョセフジョースターくらいの心境です。
確実!!そう風の強い日に立ちションをしたらズボンにかかるくらい確実にヤバいのにペルーはストライキ真っ只中です。
はぁ………
とにかく歌いにいかないと…………
って雨ですか。
そうですか。
うがあああ………なんも出来ねぇ………
とにかく路上ポイントへと向かう。
ゆうべブルースの家から帰っている時に見つけた12角の石垣の通りにやってきた。
クスコに来た観光客が必ず訪れるこの名所。
インカの民の石積みの技術を今に伝える場所として、クスケーニャというクスコのビールのボトルのデザインにもなっているこの石垣。
ひっきりなしに観光客がやってくるはず!!
と思っていたら雨で人通りはまばら………
日本人観光客は半端じゃなく通るけどね。
5割り日本人くらいの勢い。
なんとか軒下に入って歌ってみるが、やっぱり日本人は誰1人立ち止まらず、こちらを見もせずに通り過ぎていく。
他の白人観光客たちが立ち止まってくれるものの、インディアンの子供たちがお菓子を持って買って買ってーっと群がりすぐに彼らを追っ払ってしまう。
こりゃダメだ。
ここは彼らインディアンのテリトリー。
おとなしく場所かえよう。
それからも雨の中を歩き回ったけど、やれそうな場所が見つけられず今日はもう諦めることにした。
こいつは覚悟していたことを実行しないといけないか………
マチュピチュ登山の拠点となるアワスカリエンテという集落にギターを持って行って向こうで路上をかますこと。
2時間、山の中を歩くトレッキングにギターを持って行くのを迷っていた。
雨が降ってきたら大変なことになるし、何より体力的にきつい。
余計な荷物は持たないで身軽な格好で行きたい。
でもアワスカリエンテはマチュピチュに登る観光客たちで溢れかえっているはず。
稼げるはず。
持って行くかなぁ………
大変なトレッキングになりそうだなぁ………
用事を済ませるためにラエセンシアにやってきた。
「おー、フミよく来てくれたね!」
「パンチョ、ゴメン。このストライキでマチュピチュに行くのが遅れたから土曜日の夜に間に合わないと思う。ゴメン。」
「そうか、そうだよな、事情はわかるよ。ストライキはどうしようもない。」
土曜日の夜の20時からもう一度やらせてもらうことになっていたけど、どうやら間に合いそうにないし、予定をずらすほどの時間もない。
もう1回ここで歌いたかったな。
「そうだフミ、今夜ペルーの伝統楽器のショーがあるんだけど見に来ないか?とてもいいからさ。」
「もちろん!!見に来るよ!!」
宿に戻り、明日からの出発に備えて荷物の仕分けをした。
マチュピチュへのハイキングには出来るだけ身軽でのぞまないといけない。
着替えはいらない。
3日くらいなんともない。
ズボンはジーパンでいいか。
靴はウェスタンブーツとサンダルしかないので………まだサンダルのほうがマシか。
とにかく持って行くのは食料とギターだけ。
向こうでは全てのものが2~3倍の値段がするようなので、全食向こうで食べたら大変なことになる。
スーパーでパンとオレンジジュース、ハム、チーズ、缶詰を買った。
バスは宿のソニーが知り合いに頼んで手配してくれている。6~7時間のドライブを往復で90ソル。33ドル。
ソニーのことだからきっとかなり安いほうだと思う。
マチュピチュの入場チケットはまだ買ってないけど、アワスカリエンテでも買えるそうなので問題なし。
要らない荷物をまとめたらソニーに言って宿の倉庫に保管してもらった。
3日間のデポジット、無料。
さて、準備も整ったので1人夜の町へ出た。
ラエセンシアの階段を上がるとたくさんのお客さんでテーブルが埋まっていた。
正面には見たことのない大きな弦楽器。
ハープのような形だ。
これがペルーの伝統楽器のひとつか。
かなり人気のある奏者さんみたいで、開演時間になると店内はほぼ満席になって、みんなソワソワしながら始まるのを待っている。
そしてついに店内の電気が消える。
拍手の中、おじさんか出てきた。
軽い挨拶を終えて、おじさんは楽器をチェロのように足の間に挟み、弦を両側から触れる。
一呼吸の後、おじさんのなめらかな指が弦を弾いた。
ビックリするほど美しい音色が店内に染み渡った。
ベースとハイの倍音が幾重にも重なり、まるで空を飛ぶような開放感。
それと同時にどこか胸に触れる寂しげな音色と旋律。
まさにコンドルは飛んで行くに代表される、アンデスのフォルクローレ。
世界中の路上で南米のインディアンたちがコンドルは飛んで行くの路上パフォーマンスをしていて、いい加減聞き飽きていたんだけど、本場の楽器で聞くともうマジで心が震えた。
なんだろう、この優しくて寂しくて、人と大自然の営みが混じり合った芳醇な音は。
ポールマッカートニーのピアノも、BBキングのチョーキングも素晴らしい。
でもこんなに人間の根源的な部分をそのまま音にしたような音楽は今のところ聞いたことなかった。
あ、いや、日本の尺八もいいな。
とにかくこの夜、アンデスのフォルクローレの偉大さに打ちのめされた。
店内は拍手喝采がいつまでも鳴りやまず、感動の渦に包まれた。
クスコって本当に大きな観光地。
観光客用の見世物のショーがそこらへんのレストランでたくさんやっている。
でもこうして地元の人がお茶を飲みながらゆっくりと自分たちの文化を楽しむクリエイティブな空間も存在している。
ああ、コロンビア南部から始まったアンデスの旅。
なんて美しい場所なんだろう。
アンデスはこんなにも人間の魂を震わせるものに溢れている。
ここに来られて本当に良かった。