1月18日 土曜日
【エクアドル】 キト
よおおおおおおおおし!!!!!
今日が終わったらああああああああ!!!!!!
日曜日は死ぬほど何もしないで昼からビール飲んでやる!!
ポテトチップス食べながらソファーに寝っ転がってビール飲みながら大好きなゾンビ映画を3本くらい連続で観てそのまま寝る!!
ちなみに好きなゾンビ映画はゾンビたちがすごい勢いで猛ダッシュしてくるフランスのやつ!!!
うん!!部屋超汚ぇ!!!
気合いを入れてギターを持って宿を出ていつもの中華料理店で焼き飯かきこんでバス停へ!!!
よし!!全然人いない!!
おひょおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!
新市街はビジネス街なので土曜日は仕事休みで人がいねえええええええ!!!!!!
「ケータ君、ごめんやけど今日は俺1人でやるわ。旧市街で。」
「全然いいですよ。そしたら俺バイクのオイル交換とかしてきます。」
バイクにまたがって街に消えていったケータ君を見送って俺はトロリーバスに乗って久しぶりに旧市街に向かった。
テアトロ広場はいつものように穏やかな雰囲気で人が行き交っていた。
カラフルで壮麗な建物が並び、細い坂道の向こう、丘にたくさんの家が寄り添って見える。
トロリーバスが建物の間を縫って走り、石畳みの路地裏ではインディアンのおばちゃんたちがバナナを炭で焼いて売っている。
ヨーロッパの面影を残すスペイン征服時代の街並みは中米からたくさん見てきたけど、グアテマラのアンティグアとこのキトが今のところダントツで美しく異国情緒に溢れている。
この街で長居できて、稼ぐことができて本当に嬉しい。
さぁ、今日も頑張って稼ぐぞ。
と言いたいところなんだけど、テアトロ広場の真ん中で人だかりを作ってるパフォーマーがいた。
キトにはこのパフォーマーがたくさんいるんだけど、別に音楽をやったりダンスをしたりマジックを披露しているわけではない。
何をやってるかわからないんだけど、とにかく喋りと大きな身振り手振りで観衆を集め、笑いをとっている。
そしてスピーカーから爆音を流したりするので彼らがいる時は演奏ができない。
広場の角にあるいつものカフェへ。
欧米風のオシャレなカフェで、少し高めの値段だけど、テラスで飲むコーヒーは贅沢な安堵をくれる。
「あ、あなた昨日ロンダストリートで歌ってたわね。素晴らしい声だったわ。」
白人観光客の女の子たちがネイティブな英語で声をかけてくれる。
ありがとうと返事をして、足を組んでタバコに火をつけた。
暖かい太陽の日差しは体の湿った部分を乾かしてくれる。
コーヒーを飲みながら日記を書いたり、連日のバスキングで貯まった大量のコインを紙幣に換金してもらったりしてゆったりと過ごすが、広場のパフォーマーはなかなかいなくならず、結局そのまま17時になってしまった。
もう今日はロンダストリート1本で行こう。
カフェを後にして早めにロンダに向かった。
17時のロンダは夜の顔とはうってかわって静寂が漂い、ただの路地裏の小道といった雰囲気。
ここが夜になったらあんなに変貌するんだから面白いな。
とりあえず夜に備えて、いつも店先で歌わせてもらっている食堂へ。
ズングリした可愛いおばちゃんが、あーあんたねーと、ポテトやらジュースを色々オマケしてくれた。
おばちゃんありがとうね。
よーし、まだ外は明るいし人通りも少ないけど、通りが爆音で包まれる前に早めに始めてしまおう。
いつもの盲目のフリをした女の人はだいたい20時にトンネルにやってくる。
ここは彼女の定位置だろうから、彼女が来たら譲るとして、それまで思いっきりやらせてもらおう。
少しずつ人が歩き始めたロンダの通り。
トンネルの中でギターを鳴らした。
やはりロンダはいい。
トンネルは狭いのでなかなか足をとめづらいけど、それでも絶えず人だかりができ、お金が入っていく。
本当は通りの真ん中でやりたいところだけど、このトンネルがパフォーマンスをしていい広場と、してはいけない場所の境界線。
ここしかない。
1時間もするとだんだんと周りのお店が開店し始め、クラブミュージックやフォルクローレが大音量で通りに流れ始めた。
それでもトンネルの中はまだ音が響くのでかろうじて歌うことができる。
あと1時間だけ…………
しかしあまりに人だかりが出来すぎてしまった。
それまで素通りしてくれていた警察からとうとう注意が入ってしまった。
観衆からブーイングが飛ぶ。
なんで止めるんだよー!!
なにがいけないんだよー!!
しかし細いトンネルの中で通行の妨げになっているのは確か。
あの盲目の女の人はいいのに、俺はダメなの?
とは言わない。
注意されたら大人しく移動しよう…………
「トンネルを出たところならいいよ。」
そうですね。うん、分かってる。
分かってます。
もはや爆音が轟く広場ではギターが何も聞こえないことくらい分かってる。
それでも歌を聴いてくれていた観衆のみんなが俺の後をぞろぞろとついて来てくれ、どこでやるんだい?と聞いてくる。
仕方なくトンネルを出たところで爆音の中、ギターを鳴らした。
声を張り上げる。
でももはや全然聞こえない。
根性で喉を振り絞るが、1人また1人と観客たちは離れて行き、前に誰もいなくなったころに別行動をしていたケータ君がやってきた。
「きつそうですねー。」
ここではもう歌えない。
すでに声の張りすぎで、喉がかなりやられている。
いつもの細い脇道に移動するしかないか。
どうせなので、人で溢れかえるロンダをギターを抱えて歩きながら歌ってみた。
ケータ君にケースを持ってもらい、ギターを弾きながら通りを歩いていく。
すぐに人目を引いてケータ君が持つギターケースにお金が入っていく。
足を止めて1曲歌うと、1曲の前半だけで5ドル以上が入った。
そしていつものように警察登場。
やっぱり厳しい。
現地の人が言うには、お前がスペイン語を喋れないからいけないんだよと言っていた。
警察には注意してくる人と、笑顔で通り過ぎてくれる人がいる。
警察によって対応が違うのだ。
ルールはもちろんあるが、個人によってそれぞれのルールがあるんだよとみんな言っていた。
もしお前がスペイン語が喋れて、キチンと交渉が出来るだけで全然変わってくるのさって。
そういうもんだというのは分かる。
でも俺はスペイン語は喋れない。
彼らからしたら、話にならない旅行者でしかない。
おとなしく路地裏に移動した。
それから2時間半ほど。
ポツポツと人だかりができては散っていき、最後にかなりの人数が集まってきたところで全力を振り絞って歌い、喉が完全にぶっ壊れたところで路上終了。
今日のあがりは87ドル。
お、終わった…………
1週間よく歌った…………
俺頑張ったぜ…………
ぐったりとしながらトロリーバスに乗って新市街に戻る。
深夜のバスの中には色んな人がいて、すぐ会話が始まる。
そんな中にインディアンのおじさんがいた。
インディアンの人たちってどこか自分たちの文化を頑なに守っている閉鎖的なところがあるように思っていたけど、なんとこのオッさん、6つの言語を操る天才で、とてもフレンドリーでラフな人だった。
「おじさん、その帽子の羽ってインディアンの人たちみんながつけてますよね。」
「そうさ、これはインディアンのシンボルなんだ。ファッキンエクセレントだろう?」
そんなおじさんに、インカ帝国時代からのインディアンたちの言語を教えてもらった。
現代では誰もがスペイン語を話すけども、もちろんスペイン時代以前からの人々は独自の言語を持っており、それは今も少ないながら受け継がれている。
ケチュア語という言葉。
ちなみに現地の人でさえ挨拶の言葉も知らない。
そんな忘れ去られようとしている言語。
「おじさん、ケチュア語でありがとうってなんていうんですか?」
「ヨパイチャイニっていうんだ。サンキューベリーマッチって意味さ。」
そんな面白い出会いもありつつ、新市街に戻ってきてからいつもの居酒屋へ。
あ、居酒屋じゃなかった。
ケバブ屋さんだった。
だってもう全員顔見知りですごい仲良し。
奥のテーブルに座ってビールで乾杯してケバブをつまんでたら、完全に居酒屋状態。
「あああ!!頑張った!!俺頑張ったーー!!!」
「俺も疲れたー!!もう明日はゆっくりする!!もう1日中ベッドでゴロゴロするー!!」
「でもあいつらがいるからなぁ………」
「そうですね………あのビッチと汚いヒッピーたちがいますもんね………」
「ああああー!!!ビール美味えええあえええああい!!!!」
「なんでここに女の子いないんだーー!!」
「よし!!ホステルガラパゴスに殴り込みにいくぞ!!」
「ご、ご、ご、合コンを!!!」
合コンしてぇよおおおおおお!!!!!
王様ゲームして、いやー俺ほんとこういうのどういう命令していいかわかんないんだよねーてへへ、とか無害な男を演じながら、最初は2番がイノキのモノマネをするとかクソどうでもいい命令から始めて、油断させたところでホッペにチューとか巧妙にそっち方面へ導いて最終的に、あれ?ケータ君とカオリちゃんどこに行った?え?タバコでも買いに行ったんじゃないの?みたいに自然な流れで1組ずつ消えていくというアレのやり方をタビジュンさんに教えてもらおう。
タビジュンさん、よろしくお願いします^_^
はい、というわけでフグタ君とマスオさんみたいに仕事帰りの一杯で気持ち良くなった男2人で悲しく宿に帰りました。
みんなと拳をコツンコツン合わせながら部屋に入ると、ヒッピーたちが誰もおらず、俺たちだけだった。
あー!!嬉しい!!あいつらいない!!
落ち着く!!
と言いたいんだけど、今夜は土曜日だから飲みに行ってるんだろうな………
つーことは夜中に帰ってくるんだろうな…………
静かに帰ってきてくれるといいんだけど。
無理だろうな………あのビッチとバカたちじゃ。
寝よ寝よ。
とにかく疲れた!!
1週間お疲れ!!俺!!ケータ君も!!
そして何時間経ったか。
予想通り、深夜のみんな寝静まった宿にバカたちがドカドカ、ギャーギャーわめきながら帰ってきた。
部屋に入ってくるなり、当たり前のように電気をつけるバカども。
もちろん一瞬で目が覚めてしまい、なんとか眠ろうとするが部屋の中でタバコやマリファナを吸いだして煙まみれになる。
ヒャッヒャッヒャー
ヒャーーッヒャッヒャー
狭いドミトリーの中で普通に騒いでるボケども。
まったく寝てるやつのことなんて考えていない。
ここだけじゃなくて、宿のみんなも寝ている時間。
時計を見ると朝4時。
おらぁぁああああ!!!今何時だと思ってんだボケども!!!
頭オカシイんじゃねぇかこのクソヒッピーどもが!!!!
とは言いませんよ…………
おとなしい日本人だからね…………
寝袋を頭にかぶって寝てるフリをして、やつらが寝てくれるのを待ちます。
我慢しなきゃ………
とかそんなことするわけねぇ。
ベッドをぶっ叩いて寝袋まくりあげて跳ね起きた。
「何時だと思ってんだコノヤロウ。おい、今何時だ?何時だって聞いてんだよ?おい。」
「…………」
「…………」
騒いでたのがシーンとなり、全員めんどくさそうな顔をしている。
あーあ、日本人がめんどくせーこと言ってやがるよってな顔。
このクソ狭い足の踏み場もないほどに散らかったドミトリーの中に他のドミトリーのやつらも合わせて10人ほどのボケどもが入り込んできていた。
「何時だって聞いてんだよ、ああ?」
「知らなーい。」
「知らね。」
「みんな寝てんだよ。静かにしろや。」
しらけちまったーみたいな感じのことを言ってるヒッピーたち。
俺のことを鬼みたいな顔で睨みつけてくるドレッドもいる。
なんだコノヤロウ?と立ち上がろうとすると、ビッチがみんなを部屋の外に押し出した。
さすがに悪いと思ったんだろうな。
やっと静かになった。
と思ったら電気を消した瞬間、ビッチとアルゼンチン男のワールドカップ第5戦がキックオフ。
ギシギシギシギシギシギシ
ぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃ
2段ベッドの上から蹴り落とされた布団が俺の顔の上に落ちてくる。
うがあああ!!
毛布を部屋の中に投げ捨てると、試合が大人しくなった。
はぁはぁ…………
こ、これくらい我慢するのがヒッピーとの共同生活かなぁ………
とにかく明日は休みだ………