1月4日 土曜日
【エクアドル】 キト
寝心地の悪いベッドで目を覚ます。
ヒッピーの溜まり場であるこの宿。
設備はまぁビビるくらいボロい。
部屋の中にシャワーとトイレがあるんだけど、建物のどこかで水を使っていると水が出なくなる。
なのでトイレが流れなくなる。
洗面所は水漏れしていて足元が水たまりになっているし、シャワーは当然冷水。
本当に寝られればOKみたいなそんな宿。
俺たちだけで部屋を占領して鍵をかけていれば盗難も心配ない。
でも明日になったらユータ君とナオコちゃんはグアヤキルに出発する。
俺1人でヒッピーたちとドミトリーか。
ちょっと嫌だけど悪い奴らではないので多分大丈夫だろう。
さてー、歌いに行くぞー。
まずは昨日エビちゃんたちと見つけたハンバーガー屋さんで腹ごしらえ。
この大きなプレートがジュース付きで1.75ドル。
しかもサラダ取り放題っていうからビックリ。
辛いサルサソースをたくさんかけて野菜を食べる。
ちなみに異常なまでに辛いものが好きなエビちゃんは、サルサソースかけすぎでスープみたいにして食べてた。
体壊さないか心配だよ(´Д` )
ギターを持って今日もいつもの旧市街へ。
土曜日の街は賑わってはいるが、閉まってるお店もポツポツあって、裏通りは人通りもまばらだった。
うーん、向こうの観光通りでやれたら余裕で100ドルいけるのになぁ。
まぁやれるだけ有難いと思わないとな。
昨日と同じスーパーマーケットの前で演奏開始。
パラパラと入っていくお金。
うん今日も悪くはない。
………と思っていたらわずか30分で警察に声をかけられてしまった。
ここでやったらいけないよって、いつもの言葉。
スペイン語なので相変わらず何言ってるかわからないが、ノーアキ?だけで充分だ。アキってのは、ここっていう意味。
ここダメなの?それだけでこと足りる。
またやれる場所がひとつ潰れてしまいゲンナリしながら片付けていると、どこからともなく日本語の声がした。
顔を上げる。
うわー、吉崎ふみだー。
ランキング上位の常連、吉崎ふみだー。
ブログのまんまの顔だー。
「は、はじめまして。うわー、金丸さんだー。よかったら路上ついて行っていいですか?」
なんとも腰の低いお兄さん。
ブログ上では変態なのでものすごい変態だったらどうしようと思っていたんだけど、ただの礼儀正しい青年ですね。
そんなふみ君と一緒に歩いて次の路上ポイントを探す。
スーパーマーケットよりもさらに観光エリアから離れたところに小さなスペースを見つけた。
はっきり言って場所的には悪いが、もう贅沢は言ってられない。
「ふみ君、今何時?」
「あ、ちょっと待ってください。」
するとなぜかふみ君は通りに背を向けて壁にくっつくようにしてコソコソとiPhoneを取り出した。
「え?も、もしかしてそれってiPhoneを周りに見せないようにしてるの?」
「もちろんですよ。キョロキョロ………街中でiPhoneを見せたりしたら、キョロキョロ………狙われますからね。」
常に周りをキョロキョロ見ているふみ君のiPhoneにはもちろん盗難防止ワイヤーがついており、バッグと繋がれている。
そして腰に巻いたポーチにはチャックというチャックに南京錠が取り付けられている。
ウケる(´Д` )
「南京錠?当たり前ですよ。基本ですよ基本。」
ご存知の方もいるかと思いますが、ふみ君はスペインのバルセロナで宿の貴重品ボックスの鍵を破壊され、中に入れてた電子機器関係、現金類を根こそぎやられた経験の持ち主。
そんな彼、今ではもはや防犯の神。
とりあえずポーチの中にはオモチャの偽札が入ってます。
「襲われた時にポーチごと渡すんです。外国人は偽札の違いはわかりませんからね。…………あ!!危ない!!…………あ、すみません、ただの風でした。(←言ってない)」
いや、でも本当にすごい防犯意識。
キョロキョロ周りを伺いながらコソコソと服のしたからカメラを取り出して、撮ったら素早くまた服の下に隠す。
うん、はたから見てたらただの盗撮魔ですね。
そんなふみ君が見守る中、いつものように路上開始。
いい場所ではないが、パラパラと人だかりも出来、お金も入っていく。
あ、警察が来た。
ヤバイ、また止められる。
と思ったらそのお巡りさん、ギターケースのお金を指差して、ポケットの中に入れとくんだと注意してきた。
ここは盗っ人が多い。見せとくお金は2~3ドルだけにしときなさいと。
そう、おととい実際にホームレスにカッパらわれたところ。
お金がたまってきたらこまめにポケットにしまわないといけない。
注意しなきゃなと思いながら歌っていると、1人のホームレスがやってきて歌を聴いてくれている人たちにお金をせびりだした。
まぁこれはよくあること。
しかしなんとそのホームレスはこの前俺の金をカッパらったあのボケだった。
ササッとすぐにギターケースの前に立ち、ボケを睨みつける。
へへへ~、金くれよ~と真っ黒に汚れ切った顔でニヤついてる。
ボロボロの服、何年もシャワーなんか浴びてないであろう肌の汚れと髪の毛。
もちろん誰もボケに金を渡すことはなく、ホームレスはチッと舌打ちして歩いて行った。
前回金をパクれたことで完全に味をしめてやがる。
もしまたやってきたら絶対逃がさねぇぞ。
とりあえずお巡りさんに止められる心配もなくなり心置き無く歌いまくる。
夕方になり、人通りも少なくなってきた。
歌を聴いてくれていた人たちもコインを入れて全員前からいなくなった。
よし、頃合いだな。
最後の曲にしよう。
イマジンを歌う。
周りの建物に反響して平和の歌が流れる。
貧しさも怒りもない世界を想像しよう。
ジョンのメッセージ。
その時だった。
隣の物陰からすごいスピードで何かが飛び出してきて俺に向かってきた。
すぐに分かった、さっきのホームレスだ。
ホームレスは走りながらギターケースの上に乗っているコインを掴んで逃げようとした。
その勢いでコインが飛び散る。
ダッシュで逃げようとしたホームレス。
しかしそうは問屋が卸さんよ。
すかさずホームレスをとっ捕まえた。
同じ手が2度も通用するか!!
「ウガ!!ウギガー!!ウガガガー!!」
暴れて逃げようとするホームレス。
俺はギターを抱えたまま。ホームレスの力もなかなか強い。
どうする、と思ったその時だった。
隣にいた吉崎ふみがホームレスに掴みかかり、ヘッドロックで抑え込みながら地面に引きずり倒した。
「ポリシアーー!!!ポリシアーーー!!!!」
ものすごい大声で叫ぶ吉崎ふみ。
ウガガガー!!と暴れるホームレスだが、吉崎ふみの腕力の前になすすべなし。
おお、や、やるね、ふみ君(´Д` )
九州男児2人とは相手が悪かったな。
すぐにものすごい数の野次馬が集まり俺たちを取り囲む。
観念したホームレスが握りしめていた拳を開くと、チャリチャリンと4ドルほどの小銭が出てきてアスファルトに散らばった。
警察がやってきた。スペイン語が俺よりはるかに上手なふみ君が事情を説明。
警察に取り押さえられるホームレス。
「ヒギャアアアアアアア!!!ウギ!!ウギ!!アガアアアアア!!」
暴れまわるホームレス。ズボンが脱げ、シャツがまくれ上がり、真っ黒に汚れまくった哀れな体が観衆にさらされる。
「ヒアアアアアア!!!オオオオオイイオオオアオイイ!!!アアアアアア!!!」
ついに泣き始め、地面に這いつくばりながら苦痛に顔を歪めている。
見ていられないほどの残酷さ。
しかしこいつが建物の影から走り出てきたあのスピードには、あまりにも多くの悪意があった。
卑怯で汚い行為だ。
ホームレスは捨てるものがない。
正論で怒ったところで、アウアウアー?みたいな感じで何も通じない。
厳しい罰が必要になる。
ホームレスは後ろ手に手錠をかけられパトカーの荷台に乗せられて消えて行った。
建物の間に、泣き叫ぶ声を響かせながら。
観衆のみんなが大丈夫だったかい?と声をかけてくれる。
散らばったコインを拾い集めてくれる人々。
「いやー、初対面からエキサイティングだね。」
「ふー……ふーふー……」
興奮冷めやらない吉崎ふみ。
助かったよふみ君。1人じゃ逃げられてたかもしれない。
「ここは本当にイかれたホームレスが多いの。ごめんね。でもお金を見せておくのはいけないわ。どうぞ襲ってくださいーって言ってるようなものよ。」
人々が注意してくれる。
まだまだ甘い。もっと警戒レベルを上げないといけない。
ふみ君の防犯対策をやりすぎだよーって思ってしまっているけど、本当はこれくらいしないといけないのかもしれないな。
さて、気を取り直して場所移動してもういっちょいってみよう。
この数日の路上で、現地の人から路上ポイントの情報をゲットしている。
なにやらロンダストリートという通りがいいらしい。
みんなが口を揃えてロンダでやれ、ロンダに行くんだと言っていた。
一体どんな場所なのかなー。
サントドミンゴ広場から丘のほうに坂を下って行くと………
お、
おお!!
なんだなんだ!!
こんな最高の場所があるんじゃねぇかよ!!
ヨーロッパ風の美しい建物が並ぶ細い通りにセンスのいいレストランが点在し、石畳と街灯が厳かな雰囲気を醸し出している。
その美しさからか観光客の姿が多く、細い通りを埋め尽くすような人々が楽しそうに歩いている。
うおー!!稼げる匂いしかしねぇ!!
気持ちが逸る!!
でも始める前に先にオシッコ行っとかないと!!
ふみ君に荷物を見てもらって走ってオシッコをしに行って、急いで戻る!!
ふみ君、荷物ありがとう!!
て、ワイヤー(´Д` )
ウケる(´Д` )
さすがは防犯の神。
うおー、ヨーロッパを思い出すこの路地裏の空気。
しかもこんな写真まで飾ってるんだもん。
古き良きマリアッチと現代のバスカーの共演だ。
もう、なんだろう。
キト好き。
通りを埋め尽くす人だかりが出来上がり、信じられんくらいお金が舞う。
淡い暖色に浮かび上がるギター弾き。気持ちのいい響き。
シチュエーション完璧。
警察が通る!!
しかし何事もないかのように通り過ぎた!!
オッシャきた!!
ここきた!!
マジでお金が絶え間無く入っていき、一瞬でギターケースを埋め尽くしていく。
まだ20時。今夜は土曜日。
人通りは増す一方。
やればやるほど稼げるぞ!!
というところで、ハーモニカが崩壊。
またですか。
しかもAとGが同時に狂うというシンクロニシティ。
おおおあああああ…………
マジかよぉ……
Gってこの前ケータ君たちに誕生日プレゼントでもらったばかりなのに………
やり続けてみるが、音が不協和音の域にまで狂い出したので、今日はここで終了。
仕方ない………また買わないと。
それなりの買ったら1個20ドルはするんだよなぁ。
ハーモニカって輸入品だから先進国でも途上国でも値段ほとんど変わらないし………
今夜は終わりにして、ふみ君と一緒に夜の街を歩く。
このキトの旧市街は夜になると人が消えて閑散となり、治安が悪くなるという話。
一直線にトロリーバス乗り場に向かわないといけない。
するとお酒屋さんの前にセキュリティのお巡りさんが立っていた。
そのお巡りさんに話しかけるふみ君。
「トロリーバス乗り場まで一緒に来てもらいましょう。何があるかわかりません。は!!危ない!!!……猫か。(←言ってない)」
お巡りさんと一緒に歩きながらも、ゴルゴ13に狙われてるかのように前後左右を見回しながら歩くふみ君。
まだ20時だから結構人歩いてるから(´Д` )
まるで強迫観念に襲われてる人みたい(´Д` )
いやー、こんなに気を張ってたら本当疲れるだろうなぁ。
命がけの路上に付き合わせてゴメンね。
それからビールを買って宿に帰り、ふみ君も一緒に部屋へ。
ふみ君もまたお酒が好きな男。
旅の話で盛り上がる。
ナオちゃんとユータ君はどこかへ出かけていて部屋にはいなかった。
ご飯でも食べに行ってるのかな、とふみ君と飲みながら待ち続ける。
しかし1時間たっても2時間たっても帰ってこない。
どうしたんだ?
ご飯を食べに行くくらいしか用事はないだろうし、晩飯にそんなに時間はかからないはず。
2人ともそれなりに危機意識のあるほうだからこんなに夜遅くまで出歩くなんて考えられない。
いつもなら、そのうち帰ってくるかー、で済ませられるけど、ここはエクアドル。
そしてあの事件があったばかり。
嫌な予感が胸の中を支配する。
何かあったんじゃないか。
襲われたんじゃないか。
23時半になった。
もうだめだ。宿のママに相談して警察に話をしてもらおう。
小さいナオちゃんが襲われるイメージが浮かんでしまう。
というところで部屋のドアが開いた。
「あ、ただいまー。早かったぎゃー。路上どうだったらー?24時くらいまでやるんじゃなかったぎゃー?」
ユータ君と2人で笑いながら帰ってきたナオちゃん。
………うん、よかった。
「ご、ゴメン……遅くなって……心配かけてごめん。」
謝ってくれるナオちゃん。
………って、は!!
ぼ、僕もいつもみなさんにご心配おかけして本当にごめんなさい………
南米さえ抜ければそこから先は平和なところばかりだと思いますので………
とにかく、今夜はかなり稼げた。
そして警察にも止められなかった。
明後日に次の街に移動しようと思っていたけど、大幅に予定を変更しよう。
1週間キトに滞在して、ここでゴッソリ稼いでやる!!
日程がずれ込んでも仕方ない。
稼げる時に稼ぐ。
中南米の鉄則。
しかも宿は3.5ドル。
ここで稼いどかなかったら、この先どこで稼げるからわからんし、そうなったらイースター島どころか南米からの脱出もできない。
というわけで今から僕はキトのヌシとなります。
これからキトに来られる方はご連絡下さると嬉しいです^_^
ひどい宿ですが、複数人ならドミを貸し切れるはずですので^_^
あ、最後に今日のあがりを書いときましょう。
昼夜合わせて、
110ドル!!!
「やったぎゃー!!」