1月2日 木曜日
【エクアドル】 キト
ゆうべ歌っている時に、ある家族に声をかけられてうちに泊まりにきなさい!!と言われた。
それってただの家なの?ホテルなの?
ただの家みたいだけど、一応ホテルでもあるみたい。
なんと値段は3ドル。
異常な値段。
なんか怪しいけど、声をかけてくれたママはニコニコして優しい人だった。
今泊まってるホステルタクソは8ドル。
設備もいいしスタッフのカルロスもめちゃくちゃいいヤツなので不満はないが、3ドルとなると話は別だ。
ご飯を食べに行くついでに場所の確認だけしに行くことに。
いつものメルカドに行くと、昨日のゴーストタウンが嘘みたいに街は活気を取り戻していた。
たくさんの人が行き交い、お店はどこもオープンして音楽が流れている。
よーし、今日は路上出来るぞ。
といきたいのだけど………
なんだか昨日から鼻水とくしゃみが止まらない。
体がだるくて熱っぽい。
今日になってさらに悪化している。
頭がぼーっとする。
キトに入っていきなり気温がグンと下がって風邪引いたのかな………
高山病ではないはずだけど。
風邪なんか引いてる場合じゃねえのに。
メルカドの中の食堂街で1.75ドルのローカルご飯を食べる。
エビちゃんやナオちゃんがパクパク食べてる横で、食欲がわかなくてほとんど食べられない俺。
うー、ダルい………
ご飯を食べてからゆうべのホテルを探して歩いた。
一応住所は教えてもらったけど、看板とか出してないからと言っていた。
ほんとただの家なのかな。
道行く人に訪ねまくり、グルグル歩き回ってようやく見つけた。
こ、ここか……?
マジで看板もなにもないので、ママに誘われて無かったら100パーセント見つけられない。
呼び鈴を鳴らすとドアが開いた。
女の子がいた。
「あ、ま、ママはいる?」
「………ママー!!ママー!!」
奥からゆうべのママが出てきた。
すごい巨乳。
「オラー!!よく来たわねー!!何人泊まる!?何人でもいいわよ!!さ、こっちよ。」
玄関の横にはママの家族たちの居住スペースがある。
大きなシベリアンハスキーが飛びかかってきた。
ママと一緒に階段を上がって2階へ。
ボロボロの建物。黒ずんだ壁。
そこにはいくつかのドアがあった。
その中のひとつに入る。
とても綺麗とは言えないシーツがかけられたベッドがある。
寝タバコのせいでシーツには丸い穴がたくさんあいている。
カビくさい臭い、不衛生なキッチン、
ものすごく古びた、安宿中の安宿の雰囲気。
「今夜から泊まる?明日になったら大部屋が空くからみんなで泊まれるわよ。」
開いたドアから他の部屋の中をのぞくと、ドレッドやヒゲ、ボロい服を着たヒッピーたちがわんさかいる。
みんなバッグパッカーとは言えない。
バッグパッカーにはもう少し社会と関わっている品がある。
ここにいるヒッピーたちはマジのホームレス寸前の放浪者といった雰囲気だ。
ここはきっとあれだ、無許可の宿なんじゃないかな。
宿というか間貸と言ったほうがいいか。
本当のヒッピーたちの溜まり場だ。
もちろん俺はなんの問題もないので明日からここに移ろう。
エビちゃんとヨシコさんはもちろんここには来ない。
ユータ君は来たいと言っている。
ナオちゃんは俺たちがいるなら、ということ。
普通の女の子にはかなりきつそうなディープな宿。
ナオちゃんの旅人レベル、上がりすぎだな。
さて!!2014年、1発目の路上行ってみようか!!
治安は良くないこのエクアドル。
しかしキトは世界遺産に登録された街で、観光客でごった返す場所だ。
夜は閑散として危なくなるらしいが昼間のうちは問題ないだろう。
トロリーバスに乗って旧市街地域にやってきた。
おーおー、こりゃすごいですな。
ヨーロッパの面影を色濃く残すとは聞いていたけど、こいつはまんまヨーロッパだよ。
石造りの壮麗な建物が並び、その間をボコボコの石畳みが伸びる。
歩行者天国のショッピングストリートには人がひしめき、いたるところに古めかしい教会が時が止まったかのように立ち尽くしている。
平坦な地形ではなくアップダウンが激しいので、ほとんどの道が坂道になっており、脇道の向こうにうねる民家群が並ぶ。
こいつはすげぇ。
なんて美しい街だ。
アンティグアとか、オアハカとか、ヨーロッパの面影を残すメルヘンチックな街はたくさんあったけど、ここに極まった感じだ。
カラフルな壁のペイントと歴史をたたえた石壁の装飾が見事に調和して、芳醇な香りを湛えている。
近代的な建物はなく、マクドナルドみたいなチェーン店もない。
地元の人々が公園で憩い、坂の向こうから人々がやってくる。
こいつはいい街だ。
これで稼げたら最高の街なんだけどな。
人でごった返すホコ天のストリートが3本、この旧市街の中を通っている。
どこでやっても確実に稼げそうな、完璧な雰囲気。
静かで落ち着いており、教会が多いので演出としてもバッチリ。
観光客もめちゃくちゃ多い。
100パーセント稼げる。
のだが、こんないい通りなのに他にパフォーマーの姿はない。
どころか露店を出してる人もいないし、ゴミひとつ落ちていない。
んんん、こいつは完全に規制されているな。
少し歩いただけで街の角ごとにものすごい数の警察が立っているのを見かけた。
一瞬で止められるパターンだろうな。
まぁとりあえず街の雰囲気を掴むために1発強引にかましてみよう。
1番人通りの多いホコ天ストリートのど真ん中でギターを取り出す。
そしてまだギターを抱えてもいないのに警察登場。
早え。いい仕事してますね(´Д` )
ここでやったらいけないということですね。うん、分かってます。分かってますとも。
よーし、だったらこの3本のホコ天通りを繋いでいる横の脇道ならどうだろう。
キョロキョロしながら歩いていると、広めの歩道がある脇道を発見。
さらに目の前にはなんか古くて大きな教会。
観光客わんさか。
ここいいな。
やっちまえ。
大フィーバー。
人だかりすげぇ。お金の入り方すげぇ。
しかも街がすべて石造りのなので、ヨーロッパみたいに声が反響して喉に負担をかけずに気持ち良く歌える。
歴史的な街の中という演出もバッチリだ!!
風邪で体はキツイけどそんなの関係ない。気合いを振り絞って歌う。
しかしここで少し油断をしてしまった。
見た目はヨーロッパでも、ここは南米だった。
歌っていると、人だかりの中から出てきた汚い格好をしたホームレスが、観衆の面前で堂々とギターケースの中のコインをつかんで盗んだ。
あー!!
コラー!!
観衆たちが声を上げ、逃げようとするホームレスの前に立ちふさがってくれた。
しかしホームレスは人々をかわして悠然と歩いて行った。
追いかけて捕まえるのは簡単だけど、俺は1人。荷物を置いていけない。
おい!!こらー!!と後ろから怒鳴ったってホームレスは振り返りもしない。
バカにするように余裕シャクシャクと消えて行った。
観衆のみんなが、大丈夫か?と声をかけてくれる。
イかれてるんだよ、と頭の横で指をクルクル回して見せるおじさん。
お金は少し貯まったらポケットに入れて見えないようにしないとだめよと言ってくる。
あんなにたくさんいるのに警察は来ない。
油断していた。
汚れきった黒ずんだ顔と手と服、洗ってない髪の毛を見れば、奴が金を盗むのは予測できた。
近づいてきた時に、お金の前に立ってガードできた。
最近やられてなかったから油断していた。
まぁ盗まれたのも3~4ドルくらいのもんだろう。
ここは南米なんだ。
ただ路上やってるだけでも危ないんだ。もうちょっと気を引き締めよう。
それにしてもやべえくらい稼げる!!!
気を取り直して演奏を続けるが、それからも常に人だかりが出来続け、見に来てくれたユキンコさんにもいいとこを見せられる。
こりゃキトめちゃくちゃいい街じゃねえかー!!
と思ったら1時間半くらいで警察に止められた。
英語の喋れるお巡りさんで、彼が言うにはここらはユネスコの世界遺産に指定されている歴史地区なので、一帯すべてで演奏してはいけないとのこと。
おおお………マジですか………
せっかく最高の場所見つけたと思ったのに…………
ここら辺はダメだけど、少し離れたシアタースクエア、それとサントドミンゴ広場の2ヶ所ならやってもいいとのこと。
早速下見に行ってみる。
うーん………どっちもダメだなぁ。
だだっ広すぎて人もまばら。
ここでやっても、ポツリと立ち尽くして何やってんだあいつ?みたいな悲しいことにしかならない。
でもまぁまだ旧市街での路上は今日が初日だ。
きっといい場所があるはず。
簡単には諦められない。
だって今日のあがりは1時間半の演奏で、
45ドルだもん。
間違いなく稼げる街だ。
必ず抜け道を見つけてやる。
今日は下見までにして、トロリーバスに乗って宿に戻った。
今夜はエビちゃん、ヨシコさんと過ごす最後の夜。
2人は明日、エクアドル第3の都市であり、誰もが口を揃えて素晴らしく美しい街だとオススメしてくれるクエンカという町に移動する。
10時間ほどの移動で10ドルという安さ。
エクアドルのバスは安い。
「えー、クエンカって知らなかったなぁ。俺も行こうかなぁ。」
「グアヤキルはどうするんだぎゃー?」
「そうですよ、サンタアナの丘っていう綺麗なとこがあるんですよ。ユキンコさんたちも行くし。」
「うーん、みんなとグアヤキルか、寄り道しないでクエンカか………悩むなぁ。」
そんな話をしながらみんなで食堂でご飯を食べてる時だった。
店内のテレビからハポネスという言葉が聞こえた。
エクアドルのニュース番組なので、もちろん全てスペイン語。
何言ってるか全然分からないけどハポネスという言葉だけはわかる。
日本人という意味。
こんなエクアドルのニュースで日本人のことを取り上げるってどういうことだろう?
たいして興味もなく、チラリとテレビを見た。
再現映像みたいなもので2人の人間が倒れてるような、そんな映像が映っていた。
なにかあったのかな?と思ったけど、目の前の食事と楽しい会話でそれ以上テレビを見なかった。
そしてそんなニュースがあったことも忘れて、ご飯を終えて宿に帰りみんなで別れの晩酌をした。
またどこかで会いましょうと笑いながら。
ニュースの内容が分かったのは次の日だった。