12月25日 水曜日
【コロンビア】 メデジン
目を覚ますと枕元に何か置いてあった。
どうやら泊まってる全員の枕元に置かれていたよう。
カオリさんからのプレゼントだった。
泊めていただいてるのは俺たちなのに、こんなことをしてくれるなんて。
ありがとうございます、カオリさん。
でも俺たちもプレゼントは用意している。
目を覚ましたカオリさんがひゃー!!と声をあげた。
ケータ君たちからは美容品。
俺はこれ。
この前フリーマーケットに行った時に見つけた可愛い置物。
みんなカオリさんが大好きです、とスペイン語で書いてもらった。
カオリさん、いつもありがとうございます。
いっぱい食べて元気でいて下さいね。
よーし!!今日も歌うぞー!!
昨日見つけた注意されない通りで歌いまくってやる!!
昨日はものすごい人通りだったからな!!
今日も街はお祭り騒ぎになってるはず!!
お祭りさわひょおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
ただのゴーストタウン。
なにこれ?
延岡?
おおお………クリスマスはこうなるわけね………
家族と過ごす大事な日ってわけか………
マジですべてのお店が閉まって、露店も出ておらず、ホームレスくらいしか歩いていない。
帰るところがある人たちはみんな家で幸せな時間を過ごしている。
俺も似たようなもんだけど、俺にはカオリさんの家がある。
俺にホームレスの苦しみは分からない。
あなたに家族の温もりはなくても、平等な神の慈悲が降り注ぎますように。
街はゴーストタウンだけれども、セントロの真ん中の真ん中あたりに行ってみると、少しは人が歩いていた。
あれ、どっちがボテロ?
ふと気づいたんだけど、これだけ街の機能が停止しているなら、もしかしたらセキュリティの人たちも今日はお休みなんじゃないかな。
だとしたら俺を止める人は誰もいない。
望みをかけていつもの稼げるショッピングストリートに行ってみた。
予想的中。
いつもはそこら中で目を光らせているセキュリティの人たちが1人もいなかった。
やっしゃああああ!!!!
やりたい放題だぜコノヤロオオオオオオ!!!!!!
ほとんどのお店が閉まっている通りのど真ん中で贅沢に場所を占領して思いっきり歌を響かせた。
人は少ない。
でも静かなこの街の中で俺を止めるやつは誰もいないぞ。
あ、警察来た。
超ドキドキしながらも、何か悪いことしてますか?みたいな顔してやり続ける。
警察、お金入れてくれる。
後ろの中華料理店のスタッフさんがジュースを差し入れしてくれた。
と同時に1万ペソを置いてくれ、ウィンクしてお店に戻って行った。
散歩に来ていた幸せなそうな家族が足を止めてくれ、歌を聴いてくれる。
聴き終わるとお父さんが子供にお金を渡し、テクテクと歩いてきてポイっと入れてくれる。
膝を曲げてありがとうと言うと、子供は緊張して目を真ん丸くしてすぐにお父さんのところへ走って戻る。
普段見ないアジア人なんて妖怪みたいで怖くてしょうがないんだろうな。
そんな怖がっている子供に折り鶴を差し出す。
恐る恐る近づいてくる子供。
折り鶴を開き、尻尾を引っ張って羽をパタパタ動かして見せる。
すると子供は、パッと笑顔になった。
ただの笑顔。
でもこの笑顔にはなんの不純物もない。
愛想なんてない、純粋なもの。
世界中どこを探したってどこにも売っていない。
どんな宝石よりも美しいと思える。
メリークリスマスと言って折り鶴を渡すと嬉しそうにお父さんの元へ走って行った。
プレゼントを渡したつもりだったけど、俺の方が最高のプレゼントをもらったよ。
今日のあがりは73400ペソ。38ドル。
今日もバイクを見に行ってたケータ君。
でもやっぱりゴーストタウンなので全てのお店が閉まっててまた明日出直すそう。
だいたいの目星はついてきたみたい。
うまくいけば明日には買えるかもしれないと言っている。
出発までにバイクにまたがるケータ君の姿を見たいな。
カオリさんの家に戻ると、みんながいそいそとオニギリを作っていた。
すごい数だ。
今日はクリスマス。
コロンビアでのクリスマスの過ごし方として、テルトゥーリアというものがある。
友達で集まって自分の好きな本をみんなに話して紹介するというなんとも健全な過ごし方。
今夜はカオリさんの生徒たちが集まって、みんなでこのテルトゥーリアをすることになっている。
日本人のみんなも、それぞれにネタを考えている。真面目な日本人たちは、どうしようーと悩んでいる。
夜になって生徒たちが集まってきた。
みんなそれぞれに手作りのお菓子やスィーツを持ち寄っている。
家族と過ごすクリスマスの夜に学校の先生の家に集まるなんて、俺だったら考えられんなぁ。
カオリさんがいかにみんなに慕われてるかわかるな。
さて、それじゃあテルトゥーリアの開始だ。
トップバッターは………まぁ俺ですね。
俺の発表は、日本のクリスマスソングの紹介。
日本を代表するクリスマスソングと言ったら?
もうあれしかないよね。
ハマショーのミッドナイトフライト。
マジかっけぇ。
ひーとりぼっちのクリスマスイーブ
凍えそーなーサイレントナーイト
いやー、ウルトラ名曲。
ええぇ?!知らない!?!
ハマショー、マネーしか知らない?!
クリスマスにやる曲じゃねえ(´Д` )
はい、いつかのメリークリスマスやりましたよ。
ベタですけどね、久しぶりに聞くとすごくいいですね。
「えー、詩というものはですねー、感情を直接綴るものと物語を展開していきながらその中から浮き上がらせるものとふたつの手法がありましてー、物語のほうは一見ストーリーを作ればいいだけで簡単に見えますが、その中に無駄な描写があったら表現したいことがボケてしまうし、逆に必要なさそうなことを挟むことで緩急をつけることが非常に重要になりますねー、」
生徒たちキョトン(´Д` )
歌詞の解説をしようと思ったけど断念。難しすぎるわ。
生徒たちもみんなカタコトの日本語で一生懸命、好きな本の説明をしてくれる。
みんなかわいいなぁ。
素晴らしかったのが、日本人チームのユータ君。
アメリカあいのり旅のメンバーのユータ君なんだけど、彼の趣味は星を眺めること。
しかしこれが趣味の域を超えており、子供のころに行ったプラネタリウムに心を奪われ、何度も何度も通い、その帰り道に夜空を眺めては星の世界に想いを馳せていたそう。
しかしそれだけならまだ趣味の域だけど、ユータ君はあまりにも星が好きすぎて大人になってプラネタリウムの会社に就職。
毎日星を解説する側になり、当時の自分みたいに目をキラキラさせている子供達に星の魅力を伝えていたそう。
さらにそのプラネタリウムの会社が傾き始めた頃、会社を退職。
今度は世界の星を観るために世界一周に出発。
世界中の星が美しいと言われる場所を回っているという、漫画でしか見たことないようなロマンチストだ。
食べ物とか、音楽とか、世界遺産とか、世界一周の理由はいろいろあるけど、星を見る旅ってのは初めてだな。
そして最高にいかしてるな。
そんな彼の発表内容は、今までに見た美しい星空トップ3。
ノルウェーとベネズエラ、そして1位がニュージーランドらしい。
儚い光の粒の物語、その星に人間がみた夢、果てしない宇宙。
俺も星は好きだし、誰でも好きだろうけど、彼の目にはもっともっと様々なものが見えてるんだろうな。
曇りのない目で星のことをイキイキと話す彼のことが大好きになった。
こんな話を聞けて、路上もやれて今日もいい1日だった。
毎日毎日綱渡りだけど、明日も渡り切ってやるぞ。