11月26日 火曜日
【グアテマラ】 アンディグア ~
サンクリストバル デラ フロンテーラ
思い出すだけで体温が3℃は上がるこの日の出来事。
書かないとなぁ………
チクショー…………
詳しく書いていきます。
………………………………………
「元気でやるのよ。私たちは家族なの。いつでも戻ってきてね。」
「俺たちはずっとここにいる。フミのことを待ってるよ。有名になって帰ってくるんだぜ!!」
タニアとウィンが眩しい日差しの中で笑う。
10日も滞在したこの宿ともさよならだ。
荷物をまとめて出発。
スーツケースがガリガリガリと音をたてる。
すでにタイヤは崩壊しており、完全に地面をこすりながら引きずるしかない状態。
でもそれでいい。
このボロさがちょうどいい。
なんせ今から中米全ルートローカル移動。
女子供でもさりげなく盗みを働くような場所。
ディオとツェペリ男爵の会話風に言うと、
「お前は今までに盗んだ物の数を覚えているか?」
「お前は今までに食べたパンの数を覚えているか?ウリイィィィ。」
的な連中がギラギラと旅行者を狙っている。
比較的安全であるはずの国際バスでも、降りた瞬間に強盗に遭うというケースもあるそう。
もはや飛行機でぶっ飛ばさない以外、ここを無事で乗り切るのは運でしかない。
でも自信はある。
今までも危険を回避し、ほぼ無傷でここまでやってきた。
嗅覚と目利きに関してはなかなかのもんだと思う。
渋川剛毅風に言えば、
「危険に近づけないんだよ。」
ってとこに来てる自信がある。
大丈夫、きっと何もなくあっさりクリアー出来るはず。
アンディグアのバスターミナルはまるでデコトラの会場。
旅行者の間でチキンバスと呼ばれるギラギラしたどぎつい色彩と装飾のバスがものすごい勢いで行き交っている。
そのまま日本に持って行っても、デコトラ乗りのオッさんが舌を巻くような派手さ。
そのバスの周りで、それぞれの客引きたちが怒鳴るように行き先を叫んでいるのでグアテマラシティー行きのバスはすぐに見つかる。
ちなみにナオコちゃんや他のほとんどの旅行者がアンディグアから向かうパナハッチェルという次の観光地まで、旅行代理店で手配したバンで行くと相場が80ケツァール。1000円くらい。
高いとこだと100ケツァールを超える。
しかしこのローカルのチキンバスだと16ケツァールだ。
無論、女の子1人で乗るようなものではないが。
「金丸さん、またコロンビアあたりで会いましょうね。」
「金丸さんー!!でら楽しかったぎゃー!!また南米のどこかで会うだぎゃー!!」
バスの外、見送りに来てくれたケータ君とナオコちゃんが手を振る。
ナオコちゃんはケータ君の風邪が良くなったらパナハッチェルに向かう。
本当はケータ君と一緒に行きたいところだけど、彼は風邪が治り次第、単独中米ヒッチハイク南下を開始するという。
アホすぎる(´Д` )
とてもじゃないけどそんな命知らずなことに付き合ってられないので、俺は一足先にコロンビアで待ってるぜ。
2人ともありがとう!!
最高に楽しい日々だったよ!!
外国にいることを忘れてしまいそうなほど!!
日本人とばかりいると、どうしても旅してる感が薄れる。
たまにはそれもいいと思う。
でもそればかりだと、世界を肌で感じることはとてもじゃないけど出来ないということも学ばせてもらった。
さぁ、いつもの旅に戻るぞ。
チキンバスは真っ黒な排気ガスをしこたま吐きながら走り出した。
バスは途中で客を拾い、ギチギチまで詰め込みながら走っていく。
大きなバッグは屋根の上に乗っている。
ギターは足元に立て、リュックサックは膝の上だ。
この状態で横の人がナイフでバッグを切って中身を盗むという事例があるらしいが、そんなこと信じられない。
熟睡してても気づきそうなもんだ。
でもやられる人がいるということは紛れもない事実。
常に気を張り、周りの人の手の位置や、視線に注意しながらバスに揺られた。
1時間でグアテマラシティーに到着。
到着したはいいものの、ローカルバスなのでバスターミナルだとか気の利いたところには降ろしてくれない。
その辺の道端に降ろされる。
途方に暮れるのは目に見えているので、バスの中にいる時点で、周りの人たちに次にどこに行きたいとかの情報を教えておくのが大事。
彼ら地元の人たちはとても優しいので、グアテマラシティーに着いてからどこに行くべきかを丁寧に教えてくれる。
まぁスペイン語なので95%なに言ってるかわからないけど。
このグアテマラシティーから隣の国、エルサルバドルへ行くには、当たり前だけど国境まで行かないといけない。
どうやって行くかまったくわからないけど、地元の人たちに聞きまくって国境に近づいていけば、おのずとどこに行けばいいかわかってくるはず。
というわけで、エルサルバドル?エルサルバドル?と人々に聞きまくりながら歩き、これだよ、これに乗りな、と人々が言うままに市バスに乗り、ここで降りなと言われるままに降りていたら完全に迷子になり手の施しようのない状態に陥ってマジ途方に暮れる。
はあああああ!!!!ここどこおおおおおおお!!!!!
とかカオスな街の中で1人で叫びながらめげずに道ゆく人たちにエルサルバドル?エルサルバドル?と尋ねるが、全員が全員バラバラのことを言ってくるので頭が混乱して泣きそうになる。
な、なんでみんな違うこと言うんだよ…………
その間も重いバッグをひたすら引きずって歩き続けて、汗がぼたぼたと顎からしたたる。
仕方なく3キロくらい離れているバスターミナルまで歩くことに。
これ以上このでかい荷物を持って市バスに乗ったらどこに行っちまうかわかったもんじゃない。
本当はバスターミナルよりも、他の小さいバス会社のほうが安いはずなんだよなぁ。
肩が痛い。バッグを引きずる手が痛い。
うおぉ………アンディグア出た瞬間からいきなりハードだぜ………
汗だくになりながら、人生トップ3に入るカオスっぷりのグチャグチャの街の中を歩いていく。
ゴミと汚水にまみれた地面、喧騒と怒号とクラクションが入り乱れる市場の中を歩いていくと、ひとつのバスの発着場を見つけた。
すぐに客引きのオッさんが近づいてきて、フロンテーラフロンテーラ!?と言ってくる。
おお、よくわかってらっしゃる。
値段は50ケツァール。600円。
格段に安い。
ここに決めて、これまた派手さだけが売りのボロボロのバスの荷台にキャリーバッグを入れ、乗り込む。
ギターと貴重品を入れてるリュックサックはもちろん車内に持って入る。
いつも思うんだけど、バスの下の荷台に荷物を入れたとして、途中途中で人が降りる時に荷物を入れ換える間、バッグは完全に無防備だよな。
誰かに持って行かれたら完全に気づかない。
んなバカなってところだけど、そのバカながごく普通に起きるという認識でいかないとこれからの南米はやっていけないと思う。
なのでキャリーバッグの中には、寝袋やマット、衣類といった最悪なくなってもなんとかなる物しか入れていない。
なかなか出発しないバス。
もうこの時点で迷いすぎたせいで時間は16時。
早く進んでもらいたいところなんだけどなぁ、と思っていたら、1人のオッさんが入り口のところで何か叫んだ。
と同時に20人くらい乗っていた乗客たちがバスを降りはじめた。
どうやらこのバスが調子が悪いのか、隣のバスに乗り換えてくれとのこと。
いきなりのことで慌てて降りて、隣のバスに乗り込むと、バスはすぐにアクセルをふかして走り出した。
ふと不安になったので、ハンドルを握っているドライバーのところまで行き、たずねた。
「荷台の荷物はちゃんと移し替えましたか?」
ドライバーはうなづきながらスィーと言った。
助手のおじさんが、心配するなと笑顔で肩を叩いてきた。
そうだよな。何も俺のバッグだけ荷台に入れていたわけじゃない。
他の20人くらいの人々の荷物も入っていた。
一安心して席に戻った。
この中米南下の旅のゴールはもちろん最後の国、パナマなんだけど、まだまだそこからも船を見つけたりしないといけないので気は抜けない。
パナマを抜け、船でコロンビアに到着し、そこからメデジンという町を目指す。
そこに住んでいる日本人の方の家が本当のこのミッションのゴールだ。
そのメデジンに住んでいる日本人をかおりさんという。
ピンときた人はよほどの旅マニア。
このかおりさんという方。
メデジンで現地の学生たちに日本語を教えている女性なのだが、どういうわけか南米を旅する人々が彼女の家にお世話になるという話がある。
しかしそこはホステルではない。
ただのかおりさんの一人暮らしの部屋。
なのにそこに旅人たちが泊まるのだという。宿泊料金もなしで。
そんな素晴らしい場所だったら、もっと旅人たちの間で有名であってもいいものなのに、なぜ知る人ぞ知る場所なのか。
それはもちろん、そこがかおりさんの自宅だから。
誰でも勝手に行っていい場所ではない。当然だけど。
誰かの紹介や、かおりさん自身からのお誘いがない限り、行くことは出来ない。
ビジネスでやってる場所ではないんだから。
俺は北米に入ってからかな、かおりさんからご連絡をいただいた。
かつてブログランキングで異彩を放っていた旅人、バッカスのエビさんがこのかおりさんのところにお世話になっていた時の記事を読んでいて、きっと魅力的な人なんだろうなぁと思っていたところで、ご本人からご連絡をいただいたので、とても嬉しかった。
きっとほんわかした、柔らかい空気を持った方だと思う。
中米南下はキツイ道だと思う。
このかおりさんのご自宅こそが、このミッションのゴールであり、南米旅の始まりになる。
ゴールがあれば頑張れるもんだ。
かおりさんにお会いするまで、この中米を全身全霊で満喫してやる。
外国人なんて1人も乗っていないローカルバスはどんどんと山奥に入っていき、坂を登り、下り、今にも分解しそうなくらいにエンジンをふかし、途中途中でタクシーみたいに人を乗せては降ろしをしながら、3時間ほどで国境に到着した。
ほんの小さな山里。
一応国境なので、ささやかな屋台が並んでおり、ポツポツとお店の明かりもある。
人の姿もまばらに見られる。
外灯もほとんどない薄暗い不気味な雰囲気が漂っている。
ここでバスを降りたのは俺だけだった。
バスターミナルなんてもちろんなく、道端に止まったバスから降りた。
荷物を受け取ろうと、バスの横の荷台に回ると、助手のオッさんが困惑した顔をしている。
その困惑の理由はすぐにピンときてしまった。
荷台を覗き込む。
そこには何も入っていなかった。
そして今度はバスの後方のトランクを開けた。
やはりそこにも何も入っていなかった。
荷台の中に俺のバッグは入っていなかった。
ちょっと待て。
ちょっと待て!!!!
頭が真っ白になる。
なんで。
なんで!!!
やっぱりあの時、バスを乗り換えた時、荷台の荷物を移し替えていなかったんだ。