11月15日 金曜日
【グアテマラ】 グアテマラシティー ~ アンティグア
僕はバスであまり眠れません。
なので長距離移動をした後はいつも疲れ果てています。
そして今回乗ったのはボロボロの2等バス。
エアコンはもちろんなしいし、シートも狭い。前のシートに膝があたって足が伸ばせないくらい狭い。
さらに道が悪すぎてガッコガコ跳ねるはウネウネ道だわで気持ち悪いことこの上ない。
極めつけが……………
明かりを消して走るバスだけれども、真夜中に途中の休憩所に到着した時、パッと電気がついた。
そしてみんなトイレに行ったりタバコを吸いに行ったりするんだけれども、俺は眠かったので車内に残っていた。
俺は通路側に座っていたんだけど、窓側の兄ちゃんも外にタバコを吸いに行っている。
ウトウトしながらシートに座っていると、視界の端で何かが動いた。
パッと窓側を見てみると…………
視界に入るだけで10匹くらいのゴキブリが………
壁やカーテン、シート、ひじ掛けを這いまわっていた。
ぬおおおううう!!!
ガタッ!!と席を立つ。
な、な、な、な、なな、なんだコノヤロウ!!
なんでバスの中にこんな大量のゴキブリがいやがるんだチクショウ!!!
よく見るとボロいひじ掛けの穴のところを出たり入ったりしている。
眠気が吹っ飛んでそのゴキブリを見ていると、俺のシートの方まで遠征してきてやがる。
あああ………なんでバスのひじ掛けにゴキブリが巣くっているんだろう………
ゴキブリの巣の横であと5時間もいたくないよ…………
するとそのゴキブリ大運動会のシートに座っていた兄ちゃんがタバコを終えて戻ってきた。
普通に席に座ろうとする兄ちゃんにゴキブリの存在を教えてあげて違う席に座ろうという作戦を試みるが、兄ちゃん、あー、彼らは友達だよニコリ、みたいな感じでひじ掛けのお友達を指でピンと弾き、シートに座って快眠開始。
あああ………やだよ…………
旅ってなんてきついんだろう………
それから5時間。
いつお友達が首にやってくるか分からずガタガタ震えながらのドライブ。
もちろん1ミリも眠れないまま、バスはグアテマラの首都、グアテマラシティーのバスターミナルに到着した。
なかなか綺麗なターミナル。
近代的な建物で、清潔に光っている。
やっぱり首都はそこそこ栄えてるんだな。
でもグアテマラシティーには用はない。
すぐにアンティグアに向かおうと、そこらへんの人にアンティグアへの行き方を尋ねる。
調べていた情報では、ここから観光客用のシャトルバスも出ているが、それだと高くつくので街の中にあるローカルバス乗り場に行き、そこから出ているチキンバスというやつに乗れば10ケツァールで行けるとのこと。
チキンバスとはアメリカとかからの払い下げのスクールバスなんかを改造したド派手なローカルバスのこと。
どうやらローカルバス乗り場はここから結構離れているらしく、タクシーで行く人が多いとのことだけど、俺は現在1人。
割り勘もできないのでタクシーは高すぎる。
重たい荷物を抱えてたくさんの人に聞きまくっていると、オッさんが市バスのバス停に連れて行ってくれる。
「グアテマラグアテマラ、ティカル?」
何言ってるかひとつもわからんくて困っていると、バス待ちをしていたお姉さんが、おいでおいでしてくるのでついて行くと、たくさんの人が並んでいるバスに列を割り込んで乗り込ませてくれた。
割り込んでいるのに、待ってる人たちも何も文句を言わない。
グアテマラの市バスは、バス内にバーがあってそれが回転して1人ずつしか入れないようなゲートが設置されており、大きな荷物を持っている俺はかなり苦労するんだけど、みんな嫌な顔ひとつせずに見ず知らずの人同士で協力して俺の荷物を持ち上げて中に入れてくれる。
さらにさらに、おいくらですか?と尋ねると、知らない人がバスカードを機械にかざして俺の分のお金を払ってくれた。
いいんだよ、とニコリと笑うお兄さん。
はい、グアテマラ好き。
どこに行きたいんだい?と聞いてきてくれるおじさんの謎の言葉をテレパシーで感じ取りながら会話し、たくさんの方に助けられながら市バスを2本乗り継いで、わけのわからない場所で降ろされる。
えー、ここはどこだろう。
グアテマラシティーのセントロは、それはそれは小さなもので、メキシコだったらどこにである田舎の地方都市レベル。
町並みも別に綺麗じゃないし、これなら立ち寄る必要もなさそうだ。
疲れ果てた体で、あっちだよとオジさんたちが指差すほうに歩いていく。
本当にこんなとこにバス乗り場なんてあるのかよ?
知らない町を心もとなく1人で歩くこの感覚。
懐かしいな、最近1人でいることが少なかったからな。
まぁ危険な中南米でなるべく単独行動を避けるというのは、親や彼女にとっては安心することではあるけども。
パレンケで崩壊したタイヤの回らないキャリーバッグをズリズリこすりながらしばらく歩いて行くと、道路沿いにたくさんのチキンバスが並んでいる場所があった。
こんなの絶対発見できねぇ(´Д` )
近づいていくと、アンティグアアンティグアアンティグアアンティグアーー!!と、ドライバーが大声で呼びかけている。
俺を見つけて寄ってきたドライバーに10ケツァールですよね?と言うと、彼は、なんだ値段知ってんのか、みたいに残念そうにそうだよと言った。
120円。
これだけ面倒なアクセスなので、普通の観光客はこれの7倍くらいの値段を払ってシャトルバスに乗るみたい。
市バスの乗り換えなど、はっきり言って大変なので、複数人でシェアして進むほうがはるかに楽だ。
ボロいチキンバスは歩道沿いを走りながらドンドンお客さんを拾っていく。
もう乗れないだろ、と思ってもドンドン拾っていく。
さすがにもう無理だろう、と思ってもドンドン拾っていく。
もう完全に乗れないのに、まだ乗せようとする。
ギュウギュウ詰めになりながら、バスはエンジン音をあげながら坂道を登っていく。
かなりの急坂を登っていくので、すぐにグアテマラシティーの町が見渡せる高さにまできた。
それでもさらに高度を上げていくバス。
アンティグアってかなり高地にある町なんだな。
山の中にポツポツと民家が現れ始め、町の中に入ってきた。
アンティグアに到着したのは11時。
フロレスを出発してちょうど12時間くらいだな。
デコトラの大会ですか?みたいなド派手なチキンバスがひしめくバスターミナルに降り立つと、すぐにインフォメーションは要るかいー?とオッさんが近づいてくる。
「コニチハー、オゲンキデスカー、はい、これがこの町の地図だよ。今いるのがここね。ところでスペイン語の勉強はするの?」
アンティグアってのは、なぜか旅行者たちがスペイン語の勉強をする場所で有名で、町の中にいくつもの教室があるみたい。
日本人たちもこぞってここに長期滞在してスペイン語を勉強するのが定番となっている。
まぁ物価の安い国だし、景色も綺麗なので長く滞在してこれからの中南米旅行に向けて少しくらいの会話は出来るようにしとこうという拠点なんだろう。
この客引きのオッさんたち、メキシコと同じでみんな丁寧だし、勉強するつもりはないですと断っても、そうかい、ホテルはどこに泊まるの?あー、そこだったらこの道を真っ直ぐだよ、ととても親切に案内をしてくれる。
そして最後にニコリと笑って、ウェルカムトゥアンティグアと言ってくれる。
グアテマラ、いや、中米最大のバッグパッカーの聖地と言われるこのアンティグア。
いきなり好印象だぞ。
オッさんに言われたとおり、町の中心部に向かって歩く。
ボロボロのアスファルトや未舗装の地面がむき出しになっており、そこに無数のお土産屋さんが並んでいる。
そしていつものようにカラフルな民族衣装を来たインディアンのおばちゃんと子供が、頭に売り物を載せてノシノシと歩いている。
世界遺産に登録されているこのアンティグアの町並みは、メキシコのサンクリストバルと同じく、背の低い建物が碁盤状に敷き詰められ、全ての建物がカラフルで可愛らしい。
ヨーロッパの趣を色濃く残しており、いたるところに壮麗で大きな教会がたっている。
そしてなんと言ってもロケーションが素晴らしい。
四方を高い山に囲まれており、清々しい高地の空気がとても気持ちがいい。
富士山のように、雄大な裾野が広がる独立峰が空を突き、このカラフルな石畳の町を見下ろしている。
あー、こりゃあいいところだわ。
そんな素晴らしく美しい町なので、観光客の数も半端じゃない。
どこもかしこも白人だらけ。
バックパッカー風の若者もいれば、お金持ちそうなツアーの団体さんもたくさんいる。
そしてそんな人たち向けの、とてつもなく高級なレストランや、欧米人向けの派手なバーが通りに並んでいるんだけど、景観の保護のために古い建物がそのまま利用されていたり、グアテマラの雰囲気を壊さないように工夫されており、とてもセンスがいい。
いやー、こりゃあ長居できそうな場所だわ。
さて、とにかく疲れ果てているので早く宿に入ろう。
ガタガタの石畳の道を、崩壊したバッグを引きずりながら歩く。
このアンティグアには有名な日本人宿、ペンション田代がある。
みんなそこに長期滞在してスペイン語を勉強するらしい。
てことは、またヌシみたいなうっとおしい奴が多そうなのでパス。
値段もドミトリー55ケツァールらしいし。660円くらい。
他に目星をつけていた宿があったので、そちらに到着。
ホステル、サンティアゴ。
ドミトリー40ケツァール、480円。
中心部に近くて、スタッフも英語あんまり喋れないけどとても気が利くし、居心地良さそう。
ただ欧米人の若者がなかなかうるさいってのと、中庭があって蚊が多いのが難点かな。
安いから我慢。
ひとまず疲れ切ってきるので荷物を置いて日記を書く。
ゆうべから何も食べてないけど、疲れてお腹も空かない。
夕方になり、ご飯を食べに散歩に出かけた。
夜の町はさらに雰囲気を増し、夕焼けが廃墟となった教会を染めている。
どこを曲がっても同じような石畳の道なので、まるで不思議な迷路に迷い込んだような怪しげな雰囲気が漂っている。
外灯が石畳を照らす。
遠く山にかかる薄雲の上に月が輝き始めた。
深い山の中に、ささやかな賑わい。
中原中也の詩が浮かぶ。
いく時代かがありまして
茶色い戦争ありました
いく時代かがありまして
夜は疾風ふきました
いく時代かがありまして
今夜ここでのひと盛り
タコスを食べて宿に戻る。
中庭に座ってタバコをふかす。
ああ、1人だな。
この孤独感、随分久しぶりだ。
ヨーロッパのあの1人の日々の感覚が少しだけ甘く蘇る。
誰も俺のことを知らない。
その世界に取り残されたような夜に、タバコの煙を吐く。
明日は歌うぞ。
久しぶりの路上だ。
世界に取り残された歌を、この山奥に響かせてやる。