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現代に生きるものの義務

10月14日 月曜日
【メキシコ】 メキシコシティー






ガヤガヤと部屋の外から声が聞こえる。

その言葉は日本語だ。



ガサゴソ


ドスドス



ベッドの横を歩く人の姿。

重くて薄いタオルケットを頭までかぶった。

ここはメキシコシティーの日本人宿、ペンションあみーご。




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連日の寝不足を敵のように眠りたおし、昼前にようやくベッドから出た。

シミで汚れた監獄のような部屋の中には4つのベッドが並んでおり、もう全員姿はなかった。





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部屋を出るとそこは吹き抜けになっており、それぞれのフロアーにボロボロのドアが並んでいる。

手すりからのぞけば1階まで見下ろせ、見上げればなんと吹き抜けは空につながっていた。

つまり建物が口の字になっており、真ん中には屋根がない。

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雨が降ったらこの建物の中、水浸しだな。

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キッチンにはすでに何人かの日本人たちがご飯を食べたり、料理を作ったりしている。
台所もまた、ど田舎の婆ちゃんの家みたいにすべてが黒ずんで古びている。

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使い古された鍋や食器がそれなりに整然と並び、いつの時代のだ?みたいな冷蔵庫には日本語で宿の注意事項が書き殴られている。


そんな台所で、旅人でございといったアジアンな服を着た人たちが、物静かに質素な料理を作っている。











ゆうべ、絶望的な状況になってから、もはやこれ以上不眠の夜を過ごしたらさすがに倒れると判断して、ついにインターネットで安宿を検索してしまった。


メキシコシティー 安宿、で検索したら、1番上に出てきたのがあの人のブログだった。


かつて、ほのぼのとしたスマイルと人とあまり絡まない我が道を行く旅のスタイルで、驚異的なポイントを叩き出してブログランキングの1位に君臨していた女王、


といえば、ほとんどの人知ってますよね。





あの節約クイーン、リリ記のリリーさん。

リリーさんが泊まっていたのがこのペンションあみーごだった。

あの節約クイーンがチョイスしたところだ。
間違いなくこの街で1番安い宿だろう、ということでやってきたわけだ。

リリーさん、ありがとうございます。



予想通り、宿の値段は1泊90ペソ、690円。2泊目以降は80ペソ、610円という安さ。

ボロくて汚いことなんて、野宿に比べたら天国だし、中東やアフリカの雰囲気を思い出して、一端の旅人になった気分。

立地もいいし、熱いシャワーも出る。
Wi-Fiももちろんあるし、俺にとっては中でタバコが吸えるのも嬉しい。


ただやっぱり日本人ってのは周りに対して壁があってなかなか打ち解けられないが、3日もすればきっと仲良くなれるだろう。












さて、そんな宿にとりあえず潜り込めた。
グッスリ眠ったので体力も戻っている。

これから何日かここを拠点に路上で稼いでいこう。
荷物を置いていけるのが何より嬉しいな。










1人ギターも持たずに宿を出る。

監獄のような宿なだけあって、重い鉄の扉をギギギギ……と開けると、メキシコシティーの騒々しい喧騒が飛び込んできた。




「あ、金丸さん、どうもどうも。」



メキシコ人たちが行き交う路上に、頭ひとつ飛び抜けた長身の男性がたっていた。

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その体格と怪しげな雰囲気、サングラス。





え、えと、どこのヤクザの方でしょうか………?



「はじめまして。ワンズワードの松岡です。」




まだロサンゼルスのビーチでせっせと稼いでいたころ。とあるメールが来た。


メキシコシティーに住む日本人の方からで、その方は世界中を飛び回る仕事をしていらっしゃるとのだった。



ま、まさか世界中を飛び回る仕事が極道のことだったとは………

でもヤクザさんだからといって一概に悪い人と決めつけてはいけない。
俺が知ってるヤクザさんたちはみんなカタギの人には危害を加えない任侠道にのっとった方たちばかりだ。


きっとこのワンズワードという会社も、企業舎弟として外貨をシノギにされてるんだろう。
今や極道の世界もグローバル化の波に乗り、積極的に後進国へのビジネスの開拓を推し進めて…………








はい、冗談はここまでにしとかないとマジで怒られるので、ちゃんと書きます。


ワンズワードオンライン。


オンラインによる英会話学校です。
すでにものすごくたくさんの生徒さんを抱えており、先生もかなりの数が在籍されている。

先生の質を重視しており、人間的にとても優秀な方を厳選しているとのこと。
そこが人気なのだそう。

松岡さんはこの英会話学校の経営者です。



「それじゃあ、街歩きしながらランチでもしましょうか。トラムバスに乗りましょう。」



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向かったのはインスルヘンテスという駅。

電車を降りて歩くと、そこはもうこれまで見てきたメキシコと同じ国とは思えないような、綺麗に整備されたビジネス街だった。

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マクドナルドやスターバックスなどの外資のお店が並び、頭上にはガラス張りの高層ビルが林立。
歩いてる人も、みんな高そうなスーツに身を包んだビジネスマンやファッション雑誌から出てきたようなオシャレな人たちばかり。

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他のところにはあんなにウジャウジャあった不衛生な屋台がここにはひとつもなく、どこまでも綺麗に整備されている。

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ダウンタウンのあの淀んだ空気から一変、凛と清々しい空気が流れている。



「この辺りがビジネス街で、これから行くところもずっと高級なエリアです。歩いてて気持ちいいですよね。」


そりゃそうだ、中南米において1番の経済力を誇る国が、あんなズタボロの街ばかりなわけがない。

ここがメキシコの心臓ってわけか。

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そんなビジネス街の中に韓国料理店が並ぶコリアンタウンがあり、松岡さんオススメのお店に入った。


「どうぞどうぞ、お好きなものを食べてください。ほんとちゃんと食べないとダメですよ。」


いやっほう!!!!
ありがとうございます!!!とメニュー表を開く。


そしてそっと閉じる。



0がひとつ多いような気がする。
平気で1品が2000円以上したりする。
こんなの選べない。



「この辺りはお金持ちたちの街ですからね。はっきり言って東京より高いかもしれないですね。あそこのテーブルの人たちは日本人の駐在さんですね。彼らはみんなメキシコ人たちとは無縁の生活をしていますよ。」


このメキシコ、イメージはしていたけど、とにかく貧富の差がとてつもないらしい。

金持ちはもう天井知らずに金を持っていて、まるで王様のような暮らしをしているとのこと。


それが先進国のように腕と才覚でのし上がったというお金持ちではなく、販売権の所有みたいな既得権益によるものというところがまた社会の不平等を浮き彫りにする後進国の構図のようだ。


松岡さんもそういったお金持ちのメキシコ人のご友人がたくさんいらっしゃるそうだけど、家のリビングにプールがあったりするそう。
庭じゃなくてリビングに。

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そういう一部の超金持ちが君臨し、昼間から1人でレストランでワインのボトルを開けてるような人がたくさんいるのが、このソナロサやコンデサといった地域だ。

昨日歩いたダウンタウンが同じ街とはとても思えない!!!

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「どこの国でも超優秀な人は5パーセントくらいです。その下の層の人たちの意識が国力を上げていくわけです。国のトップの人たちがどれだけその意識を引き上げらるかが大事なんですけど、まぁ南米はひどいです。みんなものすごくテキトーです。その点日本人の意識の高さはすごいですよ。」


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この松岡さん。現在はメキシコシティーに住んでいますが、ちょっと前までアルゼンチンにいたらしく、コロンビアにも住んでいたそう。

アナログな俺にはなかなかイメージのつきにくいことだけど、彼が経営しているのはオンラインの英会話教室。

つまりパソコンさえあれば世界中どこにいたって仕事ができるわけだ。

どこにいてもいい。
どこに住んでいてもいい。



自由気ままに世界中を渡り歩き、気に入った街があったらそこに長居する。
海外でなんの垣根もなく生きるそのライフスタイルに軽く頭を殴られたような衝撃を覚える。


「その国に住んで、その国の人たちと同じように暮らすんです。日本はこうだから、日本じゃ考えられない、とかそんなことを考えてる時代じゃないですよ。そうやって暮らすことでビジネスチャンスも見えてきます。国民性を見ると経済が見えてきます。経済とは法則ではなくて感情で動くものですからね。」




考え方が完全に違う次元にある。


俺の旅は非日常だ。
そりゃ歌を歌って友達を作って、なるべくその土地のことを知りたいと旅をしているが、やはりどこまでいっても俺にとっての旅は帰る場所があるから出来る事。

日本に帰れば、日本らしい暮らしが待っている。


松岡さんはそんな考え方を完全に超越している。
この人にとっては海外も日本も、同じ舞台の上なんだ。



「僕も世界をあれこれ回ってますし、世界一周をしてる人のブログも読んだりします。思うんですけどね、世界一周をイベントとしてとらえてはいけないんです。何も特別なことではなくて、みんな地球の上で同じ釜の飯を食ってるひとつの社会です。イベントとしてとらえていたら、もったいないですよね。」








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ランチを終え、高級なビジネス街を歩き、並木の綺麗な通りでカフェをしたりしながらノンビリと散歩。

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ああ………穏やかだ………


木漏れ日が気持ちいい。
ゴチャゴチャした貧しいエリアだったら、こんなに心を落ち着かせられない。


この数日つらかったなぁ………

ろくにご飯を食べず、ろくに眠れず。

それが今、こんなカフェでエスプレッソ。

世界を舞台に活躍する起業家の方と、経済の話をしながらエスプレッソなんて飲んでると、完全に勘違いしてしまいそうだ。
俺なんて何者でもないのに。

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でもだ、その勘違いを勘違いで終わらせてはいけない。

俺は世界に出ている。その世界の動きを肌で感じることができている。

木を見て森を見ないように、世界を旅していても、いや日本にいたとしても、意識をしなければ世の中の動きというのはまったく見えてこない。



日本で暮らす人には、外国人と口論して怖くないんですか?とかおっしゃる方もいる。
幕末みたいな考えの人が今も当たり前にいる。そういう人がほとんどだと思う。

俺もきっとそうだったはず。

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海外ってのは動物園ではない。
自分と違う珍しいものをほうほうと眺めているだけでは、何にも見えてこないよな。
もっともっと視野を広げないと。

地球人にはほど遠いな…………














てわけで、地球人になるための一環として、サルサ教室にやってきました。

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ラテンアメリカで生活する上でサルサなどのダンスはコミュニケーションの大事なツールだと考えてる松岡さん。

そんな松岡さんが通っている教室にお邪魔させてもらいました。






存分に赤っ恥をかかせていただきました。

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糸の切れたマリオネット、と彼女にいつもバカにされていた僕が、サルサ教室に行くなんて針の筵です。

そんなことわかっていましたが、何事も挑戦ですよね。


ステップが出来なくて、イラつきすぎて足を切断してくれようか?ってくらいもどかしくなります。

松岡さんは軽快に踊っています。
さすが。



でも、他のメキシコ人のおじさんたちはみんななかなかの下手っぷりです。
ラテンの血が流れてるから踊れるってもんじゃないんですね。


スパルタの先生に叱られながらも、とりあえず簡単なステップくらいは覚えた。
南米にくだったら、ステップのひとつくらい出来ないと、確実に困るだろうからな。












サルサ教室を終えて、最後に松岡さんオススメの日本料理店、MOGへ。

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ダウンタウンの食事の10倍の値段はするようなオシャレで高級なレストランが並ぶ通りで、ひときわ賑わっているこのお店。

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月曜日だというのに満席、大繁盛。
メキシコでも日本料理は大人気だ。






そして人気なだけあって、なにを食べてもめちゃくちゃ美味い!!!
うわーー!!松岡さんありがとうございますーー!!!

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このビールの飲み方最高!!

レモン汁をたっぷり入れたグラスのふちに塩をつける。
爽やか!!

ミチャラダって飲み方らしい。

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お腹が破裂しそうなほど食べさせていただき、フラフラに酔っ払った。
しかもお土産に角煮まで持たせていただいて………


俺はただの旅人。
ゆうきさんは海外で暮らす起業家。

なんの接点もなくて、メールでやり取りをして、今日初めて会ったばかりなのに、こんなに素晴らしいものをご馳走になった。
これは一体どういうことだ…………



「気にしないで下さい。ブログ楽しませてもらってますから。メキシコシティーでフミさんを小太りにさせる計画なんです。南米はきっとキツイですからね。」



ご馳走だけでなく、今日はとても貴重なお話をたくさん聞かせていただいた。
海外で暮らすということ。地球を舞台に生きるということ。

もっともっと視野を広げて、この金丸文武という命が生きているのは世界なんだと認識できるようになりたいな。

そのために世界一周なんてやってるのかもしれない。
いや、それは現代に生きるものの義務なのかもしれない。



幕末に生きた志士たちが藩を超えて日本を憂いたのと同じように、時代は日本を超えて世界が舞台になっているんだ。



松岡さん、ありがとうございました!!

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あ、英会話に興味のある人は是非One’s Word Online で検索してみてくださいね^_^







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