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メキシコの本当の顔

やっとWi-Fi見つけたぞー!!!

日記行きます!!





10月7日 月曜日
【メキシコ】 エンセナダ ~ メヒカリ






「あー!!なんかもう考えるの面倒くさいわ!!ついでやからメヒカリまで行ったるわ!!そっからアメリカ入るわ。」


「やったー!!」


今日でジェニファーさんとお別れの予定だったんだけど、ティファナから国境を越えるのもメヒカリから越えるのもそこまで変わらんやろう!!ということで、もう1日一緒にドライブさせてもらえることになった。


俺が思ってるのと同じように、ジェニファーさんも俺との時間を楽しんでくれてるのが嬉しい。
あんなに怖いのに!!
ツンデレ!!


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てなわけで荷物をまとめる。
すでに我が家のごとく物を広げていた部屋のものをバッグに詰め込んでいく。

部屋の中がすっからかんになると、妙に寂しい気持ちになるもんだ。



「おばちゃーーん!!行きたないけど行くわ……ホンマありがとう!!」


「ミケ!!いつもありがとうなー!!」

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スタッフや掃除のおばちゃんと別れを惜しむジェニファーさん。
ほんと誰にでも愛される人だな。
この人に比べたら俺のコミュニケーション能力なんてフナムシ並みだよ。

photo:03












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住み慣れたホテルから車を出す。

海岸線を走れば、エンセナダの町はすぐに背後に消えた。
大好きなやつらがたくさんいる町。
絶対忘れないぜ。また会いに来るから。








ティファナに向かう道とメヒカリに向かう別れ道を、メヒカリ側に曲がる。

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すぐに人里を離れ、険しい山並みが広がる。
内陸をつらぬく高原の一本道。

砂埃と廃墟、真っ青な空と茶色い大地。

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あまりにも寂しげな光景がどこまでも続き、たまらなくなって車を止めてもらう。

倒れた有刺鉄線を越えて、丘の上に歩いた。

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ジャリジャリと乾いた砂が音をたてる。
びゅーーと吹き渡る風。

心が飛ばされてしまいそうになる。



丘の上に着くと、誰が置いたのか、こんなところにポツンとソファーが取り残されていた。

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メキシコの田舎道にはかなりゴミが捨てられているんだけど、これもそのひとつだろう。


しかしセンスのある捨て方だぜ。



黙りこくって、いつまでも。空にさらされている。

座ってみると、海を漂う小舟みたいだった。

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こんな荒野のど真ん中だというのに、たまに人が歩いてるのはどういうわけだろう。

メキシコってほんとこういう人がたまにいるんだよな。


「もー、ホンマなんでこんなとこ歩いとんねん。江戸時代か?謎すぎんでー。」


「あ、ジェニファーさん、ちょっとトイレ行きたいです。」


「ん、そうかー、お、ちょうどトイレあるで。あそこでしーや。」











………………

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メキシコ人、ウケ狙いすぎ。








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動物の胃の中みたいなとんでもない岩山の峠越えがあったり、火星見たことないけど火星みたいな大原野を染め上げる夕陽を見たりと、かなりのダイナミックな風景が続くメヒカリへの道。

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あの向こうはアメリカなんだよねと呟けば、胸がしめつけらるような旅のロマンが風に香る。

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こんな荒野に国境がひかれているなんて不思議なことだなと思った。

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「うう、ちょっと眠いです。少しだけ寝ていいですか?」


「ええでー、気にしやんて寝やー。イタズラするかもしれんけどな。」


「あ、そういうことしましたよねー。寝たやつエアガンで撃ったり。」



「そうそう、寝たやつの目にアロンアロファつけたりな。いつもそれで帰ってな。でもちゃんとまぶたに目の絵を書いとといてやんねん。いたわりの気持ちやな。でも目玉はいつもロンパリにして書くけどな。」






……………






もうこのレベルの話も慣れてきたな。










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次第に建物が多くなってくる。

暗くなった道にはたくさんの車のライトが光り、町に入ってきたようだ。

メヒカリに到着した。











するとジェニファーさんが車のすべてのドアをロックした。

なんだ?

ふと気がつくと、信号待ちをしている車の周りをゾンビみたいな男たちがわらわらとうろついていた。

photo:19





「うわぁ!!ビックリしたー。」


「一応ロックしとこうな。害はないやろうけどな。」



この光景、あのきつかった日々がブワッと脳裏によみがえる。
中東やアフリカでよく見た、貧しさの象徴。

もちろんアメリカやヨーロッパでも見てきた。

でも先進国のそれとは明らかに放つオーラが違う。

ビクッと警戒せずにはいられないあのうつろで、でもギラギラとした目。


わけのわからない小物やお菓子、そして窓拭きのオッさんたちが、信号待ちをしている車を回って、窓を覗きこんでくる。


うぅ、久しぶりのこの感覚。
いきなり息苦しくなる。








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町の中に入っていくごとに、その息苦しさはドンドン増していく。

ボロボロの廃墟みたいな住宅地。
ゴミだらけの空き地。
ひび割れて穴の開きまくった地面。
汚い服を着た人々。

そして毒々しい熱気。



マジか………

今までエンセナダで見てきたのは、ハリボテのメキシコだったんだ。

ある程度は覚悟していたけど、まさかここまでとは………

ここは国境の町。もうすぐそこは世界一の文明国アメリカ。
それなのにこの変貌ぶりはなんだ。

すぐ隣の国なのに、なぜこんなにもかけ離れている。


その地理から連想されるように、まるでメキシコはアメリカという体からの排泄物みたいじゃないか。



エンセナダのメキシカンたいみたいな陽気さが欠片も感じられない。
とても陰鬱とした、淀んだ空気。



たまらなくなって、すぐに郊外のモーテルに逃げ込んだ。










「ウチも最初はかなり凹んだんやわ。これがメキシコかって。ホームレス多すぎやろ。尋常じゃない数の人々が橋の下とかで暮らしとんねん。でもそれでもウチはメキシコを愛しとるけどな。」



こんなのきっと序の口のはず。
これから先、南米もずっとこんな風景が続くはず。
路上で稼ぐなんてとても無理な話かもしれないぞ。



俺はずっと先進国を旅してきた。
貧しいゴミゴミした国は、先進国に比べるとそこまで深入りしていない。

でも中南米は、話が違う。
逃れられない広大な土地がすべてこんな風なんじゃないのかな。
そのど真ん中を突き進んでいくしかない。

ふと震えがくる。
覚悟していたのに、これからの中南米旅の過酷なイメージが頭を支配していく。









ホテルのイスに座ってコロナビールをぐいとあおる。



「大丈夫やで。フミ君ならきっとみんなに好かれるで。なんかなぁ、ほっとけんのやわ。そんなオーラを持っとるわ。フミ君がどないな旅を南米でするか楽しみやわ。」


ジェニファーさんがピニャコラーダを自分で作りながらそう言ってくれる。

これまで楽しくメキシコにいられたのは、ジェニファーさんがスペイン語を話せたからだし、俺の代わりにみんなの相手をしてくれていたから。


明日ついに1人。

このボロボロの町に取り残される。

覚悟決めないと。




コロナビールを飲み干した。


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