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野宿してたら砂嵐になる

10月8日 火曜日
【メキシコ】 メヒカリ







「ウチな八尾で育ったけど実家は伊勢やねん。そんでな、内宮さんの近くにな、なーんもない森がってな、そこに綺麗な湧き水が湧いとるとこがあんねん。一時期ずっと毎日そこに水汲みに行っとる時があってん。雨の日も風の日も、ずーっと。そんである日ふと思ったんや。その水はなみんなが汲みに来る。日常の生活用水に使う人、飲み水に使う人、売り物として汲みに来る人。いろーんな人がおんねん。誰でも取り放題や。そんな価値のあるもんなんや。誰も汲みに来ないときでもずーっと垂れ流しとる。爺さんのオシッコみたいに垂れ流しや。でもその水はなんも思っとらんねや。誰かに何かをしてあげてるみたいなこと何も思ってへんねん。垂れ流しやからな。その存在自体が誰かのためになってんねん。なんかな、それが愛なんかなーって教えてもらったような気がするんやわ。そうなれたらええよな。」



荷物をまとめながら話すジェニファーさん。


出会ってから2週間。
この人の口の荒さと、とてつもないぶっ飛んだ人生経験をさんざん書いてきたけれど、それ以上に、人をいたわる深い優しさや、人生に対する真摯な考えを持ってる人だった。


しかもそれが、誰かのため、というものではなく、あくまで自分のため、自分が楽しむためにやっているように俺には見えた。

自分のために、自分が楽しむためにやっていることが周りに笑顔を与えられるなんて、なんて素晴らしいことなんだろう。


生まれ持ったものなんだろうな。

人間の持つ光はそれぞれだけど、こんなに輝いてる人もなかなかいない。
エネルギーの塊みたいな人だった。



そしてこの2週間。
一度の喧嘩も、気まずさも感じず、昔からの知り合いみたいに仲良くいられたことも、きっと巡り合わせだと思える。


「ジェニファーさん、ムチョグストデコノセルテ。」


「おー!!そうや!!これからももっと勉強してスペイン語話せるようになるんやでー。」


「ジェニファーさんが教えてくれたおかげです。ありがとうございました。」


「よし、ホナ、行くな。元気でなー!!ごめんやしておくれやしてごめんやっしゃー。」

photo:01






ジェニファーさん、一緒に過ごした2週間。この旅の中で1番心安らぐ時間でした。
夢みたいな日々だったなぁ。
ほんと、夢だったんじゃないかな。




夢だったのか………な…………








photo:02




photo:03





目の前にひろがるボロボロの町と、砂埃の風………





えーっと……そうだ。
きっと夢だったんだ………






あのリゾート地の穏やかな毎日は夢だったんだ!!

だってホラ!!何この意味不明なオモチャを信号待ちの車に売りつけて回ってる人たち!!


なにこのズタボロの野良犬だらけの空き地!!



夢だったんだー、そうだー、これが現実かー、そうだよなー、ブログ見たからって言っていきなりあんな美人がやってきて一緒に2週間もレンタカー借りて旅してくれるなんてあり得ない話だったんだよな!ホント、俺ってバカなやつ!!


そうそう!!夢はもう覚めたんだもん!!
また今から1人でこのゾンビみたいな人たちがフラついてる町をさまよっていかないといけないんだよね!!







あ、す、砂が目に………

涙が……涙が……




うわあああああ!!!!!

ジェニファーさんバイバイイイイイイイイイイ!!!!!

photo:04

















しばし呆然と道ばたでポツンと立ち尽くす。
タバコをふかすと、強い風が煙を吹き飛ばす。
砂埃が、目に見えるくらいの濃さで巻き上がられていく。

photo:05





暑い………
日差しがエゲツない………

あ、あのメキシカンのとんがりコーン帽子が欲しい………いや、嘘、いらない。


こんな日差しの中、排気ガスのひどいボロ車が並ぶ交差点で、オモチャとかアクセサリーを売って回ってるオッさんたち。



どんだけ失業者が多く、どんだけホームレスたちが必死に生きてるかがこれでよく分かる。

俺がバスキングで入り込む余地なんてまったくなさそう………

photo:06









でもやるしかない。

ジェニファーさんがいなくなった今、これからガンガン進んでいくためには確実に歌って少しずつでも稼いでいかないといけない。



てなわけで、ダウンタウンは明日やることにして、今日はスーパーマーケットを攻めることに。

アメリカでは止めらることのほうが多かったスーパーマーケット路上。
でも止められなかった時の稼げ方は半端じゃなかった。

メキシコは規則がゆるい。
だいたい何しててもなんにも言われない。

きっとスーパーマーケットでも何も言われないはず。









photo:07




まずは歩いてスーパーマーケット探し。

これまでのアメリカに比べて地面がデコボコすぎて、歩きにくいことこの上ない。
ていうかジェニファーさんと会ったことで荷物が増えて、重すぎて腕が引きちぎれそうだ。






photo:08




やっとの思いで歩き続け、1時間くらいでひとつのスーパーを発見。

早速入り口の横で演奏開始。
この場所なら止められなければ500ペソはいくはず。

荷物を引っ張りすぎて力が入らなくなっている手で、ゆっくりとギターを鳴らした。

photo:09















止められない。お店の人は何も言わない。ここで歌ってもいいようだ。

人々もみんな足を止めてくれる。






のだが




お金を入れてくれない!!!

みんな歌を聴くだけで帰っていく。

拍手してくれる人でさえお金を入れないで帰っていく。


マジか………シビアすぎる………




もちろん入れてくれる人もいる。
でも2ペソコインとか5ペソコインばかり。

エンセナダではポケットのコインを全部ジャラジャラと入れてくれる人ばかりだった。


やっぱりエンセナダは裕福な町だったってことなのか。


観光の町と、ただの地方都市ではこれだけ差があるってわけか。

町の狙いを外さないようにしていかないとな。

あがりは180ペソ。


ただ嬉しいのは、ジェニファーさんのスペイン語講座があったおかげで、単語のつなぎあわせだけど相手に意思を伝えらること。


あのスパルタ講座は無駄じゃなかった。

photo:10




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晩飯のパン。14ペソ。100円ちょい。












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夜の町をトボトボと歩く。

ひとりぼっち、淡い街灯が道路を照らしている。

キャリーバッグのタイヤが壊れかけているのに、道路はボコボコ。


バッグについたベルがチリンチリンと音を立てる。






行くあてなんてない。
今夜をどうやってすごそう。
どうやれば今夜が終わる。


いきなり野良犬が吠えてきて、ビックリして声をあげる。

あぁ、野良犬に吠えらる感覚久しぶりだな。
ただでさえ行き場がない夜に、こいつらに吠えらるとドンドン夜の隅に追いやられてしまう。

これがアメリカなら、別にどうってことないんだけど、やっぱりメキシコでの野宿はちょっと怖い。












ひたすら歩いた。

トボトボとどこまでも。




しばらくすると、町外れの寂しい場所に廃墟があった。

大きな廃墟。

ここで寝よう。門をくぐって中にもぐりこんだ。






どうやらモーテルの建物だったみたいで、通路の両側に部屋が並んでいる。
どこで寝てもよさそうだ。

ただ少し不気味だな。
真っ暗闇の廃墟。

静寂。

割れた窓ガラスからカーテンがバタバタとはためいている。



大丈夫大丈夫、怖くなんかないさと足を進めようとした時、横の部屋の中からジャリという音がした。








緊張が走る。
すぐに息を殺して気配を消す。

誰かいるのか?

この真っ暗闇の廃墟の中に………


そんなことない。人の気配はないし、こんな郊外にはホームレスは住んではいないはず。

大丈夫、ただ何かが風で動いた音だよ、と足を進めた途端また、






ジャリ




と音がした。

完全に自分の存在を俺に知らせている音だった。

鳥肌が身体中に走り、怖気ついて走って廃墟から逃げ出した。









はぁー、怖かった…………


どうしよう。

このメヒカリは砂漠地帯の真ん中にある町。
雨が降ることはまずない。

もうどこだっていいや、と24時間営業のガソリンスタンドの横にあるベンチに寝転がった。

photo:12













ああ、疲れた………

ジェニファーさんがいなくなった瞬間これか………
まぁこれがいつもの旅だけどな。



風が強くなってきて、トタン屋根があおられてバタンバタン!!と音をたてる。

勘弁してくれよとベンチに寝転がったまま上を見上げる。


そしてなんか口の中がジャリジャリするなぁと思ったら、どうやら風に吹かれて砂が舞っていた。

photo:14









風はドンドン強くなっていった。

バタンバタン!!と吹っ飛びそうなくらいにめくれ上がるトタン屋根。

もはや濃い霧のように空気中に立ち込めている砂。

ビュー!!と吹くたびに砂嵐のように逆巻いている。

photo:15






ふと気づいたら寝袋やバッグが白くなっていた。

砂が降り積もってやがる。
パンパンはたくとブワリと舞い上がる砂。

頭を振ると、もさもさと砂煙がたった。


マジで勘弁してくれよもー!!
と寝袋を頭までかぶった。




2~3日前までリゾート地のホテルのプールサイドでテカテ飲みながらタバコふかして美女を横にはべらせていたのに、今は砂漠の真ん中で砂嵐で埋れそうになりながら野良犬に吠えられている。


そ、そうだ!!
あ、あれは夢だったんだ………


うん、明日これで目を覚ましたら、たぶんベニスビーチあたりからやり直しなんだよ。
そうだそうだ。きっとそうさ。

だいたいあんな美人が俺のとこに会いに来てくれたなんてのがおかしな話だったんだよ。

そうだよ、だから今もきっと夢だよな…………















photo:16




夢じゃねぇ(´Д` )




はぁ、寝よ寝よ………


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