8月6日 火曜日
【アメリカ】 ナッシュビル
雨が降っている。
パタパタとテントを叩く音に起こされて目を覚まし、すぐ横の屋根つきのベンチに座った。
しんしんと降りしきる雨。
大事な人が死んだ。
ついこの間、電話ごしに顔を見て話したばかりなのに。
もう会えない。
何も伝えられない。
しかし、人はみな死ぬ。
みな死んで、事実も感情も、消え去ってしまう。
では伝えることに何か意味があるのだろうか。
どうせいっときの慰めなのに。
でもそれこそが、人の人たる感情なのかもしれないな。
雨は降りしきっている。
この雨ではヒッチハイクは出来ない。
俺は生きている。
たくましい筋肉がある。
強い精神がある。
その入れ物に、欲求をたくさん詰め込めている。
突き動くための情熱もある。
俺は生き物として、こんなに若く瑞々しい。
なんだってやれる。
灰になる前に、やることがあるはず。
日本に帰ってお墓に行く時に、一点の恥もないよう、誠実に、強く生きよう。
雨は木々と芝生を濡らし、ずっと降っている。