8月4日 日曜日
【アメリカ】 クロスビル ~ ナッシュビル
朝、目を覚ますと8時30分だった。
ヤバイ!!急いで起き上がる!!
7時30分に起きてくれとご主人のマークに言われていたのに、1時間も寝坊してしまった。
と思ったら、なんとテネシーに入った時点で時差が発生して、今が7時30分だった。
ロサンゼルスまで行けばもっとズレるだろうな。
同じ国内でこんなに時差があるなんてロシア以来じゃないかな。
改めてアメリカはでかい。
そしてそれをヒッチハイクで横断しようとしてる俺たちも改めてアホだな。
キッチンに行くとマークおじさんが忙しそうに朝ごはんを作っていた。
「10時30分から教会のミサがあるからな。ご飯を食べたら高速道路まで送っていくよ。」
美味しいミートボールとスクランブルエッグ、そして南部の郷土料理だというこのドロドロした何かをパンにつけて食べる。
食事を終えてマークおじさんの車に乗り込んで森を走る。
そして高速道路の寂しげな乗り口に降ろしてもらった。
「元気でやりな。あ、これはサムからの預かり物だ。それじゃあグッドラック。」
南部なまりのきついダミ声でそう言ってマークおじさんはハンドルを切り、家に帰って行った。
サムからの預かり物。
それはお金だった。
なんと50ドルもあった。
なんてこった………
ヒッチハイクで乗せてくれ、寝床まで紹介してくれ、さらに現金まで………
その渡し方まで粋すぎるぜサム………
サザンホスピタリティ、心苦しくなるほどの優しさだよ。
このお金も、家に泊めてくれることも、全ては無事に旅を終えられることを願ってしてくれてること。
さぁ、先に進むぞ。
今日こそナッシュビルだ。
が、まったく止まらない。
止まらなさすぎる。
期待の1時間目。
忍耐の2時間目。
投げやりな3時間目。
最近発見したヒッチハイクマジック、待ってる時間に比例してデカイことが起きる説、のパワーゲージがドンドン溜まっていく。
ロックマンのタメ撃ちみたいに。
「あー、またこれ何か起きちゃうパターンだよー。」
「嬉しいけど、早く先に進みてぇよおおおー!!!」
3時間を過ぎると、くたびれ果ててアスファルトの上に座り込んで、体育座りのまま親指を立てるという体たらく。
やべぇ。
捕まらねぇ。
昨日乗せてくれたサムが言ってた言葉を思い出す。
「南部はメキシコ人の不法入国者を警戒してヒッチハイクに止まらない。」
でも俺たちって日本人顔だし!!
みんなの顔を見る。
伸びた髪の毛、日焼けして真っ黒な顔、ヨレヨレの服、大量の荷物。
メキシコ人に見えなくても止まらんわな………
「だいたいこんな怪しい男3人を乗せるってだけで奇跡的なことだよな。」
「家にまで泊めてくれるとか聖人でしかないよね。」
「ああ、アメリカ横断とかできるのかなー………」
あ、トラックが止まった。
「オウ!!テメーラ!!どこに行きてぇーんだ!!乗り込みやがれ!!ロックンロールで飛ばすぜ!!」
止まったあああああああ!!!!!!
赤いボロのトラックが止まったー!!
運転してるのはルー大柴よりテンションの高いおじさん!!
「ナッシュビルまで行きたいです!!」
「あああーん!?ナッシュビルだと!?カントリーなんて嫌いだ!!ロックンロールだ!!早く荷物を載せろ!!」
うおっしゃああ!!
望みは捨てた時が終わりだ!!
トラックの荷台にバッグを放り込んで飛び乗ると、オッさんは窓から手を出し空に親指を高々と突き上げ、イヤッホオオオイイ!!と勢いよくアクセルを踏んだ。
今回は助手席をカッピーに任せて俺はとユージン君が荷台に乗り込んだ。
時速120kmの高速道路は、とても爽やかな風を浴びてー、なんて気のいいものではなく、恐怖のジェットコースター気分。
それでも晴れ渡る空の下、すれ違う車の人たちに手を振られながら走っていると、映画の中のホーボーになった気分だ。
快調に走るトラックは、中間地点を通り過ぎ、ドンドン走っていく。
さっきナッシュビルまでは行かないと言っていた運転手のジョン。
でもこのままではどうやらナッシュビルまで向かいそうだ。
どうやら助手席のカッピーがいい仕事をしたようだ。
ひたすらテンションが高すぎるジョン。
中から窓をドンドン叩いてきて、俺たちにウィンクしてくる。
ラジオから流れる陽気なロックンロール。
カッピー、が、頑張れ……(´Д` )
後からカッピーから聞いた会話の内容はこんな感じ。
「な、な、なんだとおおお!!!!お前はオノというのか!!ジョンとオノが揃っちまった!!お前はヨーコの弟か!!ちょっと待て!!今娘に電話するから俺はヨーコの弟だと言ってくれ!!」
「あああ!!俺はお前らみたいな旅をしてるやつらが大好きだ!!もし俺に金があったらお前らにキャンピングカーを買ってやるのに……チキショウ!!俺には金がねぇ!!」
2時間。
テンションマックスのジョンのトークについていくのは至難の技。
カッピー、お疲れ!!
俺たちは後ろでノンビリ居眠り。
トラックが高速道路を降りた。
お、着いたか。
すると道路の向こうに大きなビル群が見えた。
ナッシュビルだ!!
すげー都会じゃねえか!!
街中に入っていくトラック。
うおー!!すげえ!!
町中にギターの看板がひしめいてる!!
ウエスタンハットかぶった人多すぎ!!
楽器を持って歩いてるおっさんだらけ!!
すっげえ!!なんだここ!!
興奮しているとトラックは町の中の1番賑やかな通りに止まった。
「よーし!!てめーら!!ここは音楽の町だ!!この通りがメインストリートで、店の中も路上でもどこでも音楽やってやがる。お前らもバンドやりまくりやがれ!!お!!なんだこの気持ち悪い人形は!?!こいつがベーシストか!?!」
トロールもご機嫌だ。
「俺はお前らのマネージャーだからよ!!お前らが有名になったら10パーセントはもらたいところだけど、お前ら良い奴らだから5パーセントでいいや!!せいぜい頑張りやがれ!!ロックンロール!!」
最後までテンションマックスのジョンは叫びながらトラックを運転して帰って行った。
ありがとうジョン!!
最高に楽しかったよ!!
さーて、ついにカントリーの聖地、ナッシュビルに着いちまった。
ギター弾きの本拠地、
シンガーの本丸、
嬉しいんだけど怖すぎる!!
いざメインストリートを歩く!!
もう………すげすぎ………
なんなのここ?
ほとんどの建物が、これぞ南部、これぞカウボーイの町といったレンガ作りで、そのまま映画のセットに使えそうな古めかしい町並みを残している。
マジでジョン・ウェインが歩いてても不思議じゃない。
そんな通りの両側にずらーーーーーーーーーっとど派手なお店が並んでるんだけど、これなんと、
全部ライブハウス。
開け放たれた入り口をのぞくと、すべてのお店でバンドがガンガンにライブやってる。
カントリーはもちろん、ロック、フォーク、ブルースと、俺が大好きなジャンルばっかり!!
すべてのお店がドアを開けてスピーカーから音楽を流しまくっているので、通りが音で溢れかえっている。
さらにそんな路上でいたるところで路上ミュージシャンが年季の入った楽器でパフォーマンスを繰り広げてるもんだから、もう犬も歩けば楽器に当たるような状態。
しかも、やってるやつら全員ゲロうめえええええ(´Д` )!!
マジで余裕でプロ級の人たちしかいねぇ!!
怖えええええ!!!!
音楽の町という名に偽りなし!!!
そんな凄まじいまでの音楽の町。
きっと厳しい路上の規制があるんだろうな。
と思っていたんだけどそうじゃない。
ナッシュビルの路上パフォーマンスルール。
★アンプを使ってもいいが音量に気をつける
★ドラムを叩いてもいいが音量に気をつける
★ペットを使ってお客を釣ってはいけない
★写真を撮られても断らない
ゆるっ!!(´Д` )
ルールあいまい!!(´Д` )
さすがは音楽の町と掲げてるだけある!!
ドンドンウェルカムなんだ!!
かといって、よっしゃやったるかーーー!!!とはならない。
なるわけねぇよー!!
みんなプロ級なんだもん!!
なんかすげー盛り上がってるお店があって、かなり上手いボーカリストが歌ってるのが聞こえたので覗いてみたら、ステージに立ってたの子ども。
8歳。
やる気なくす。
それでもここまで来てやらないわけにはいかない!!!!
カッピーたちはメインストリートのど真ん中でプレイ開始。
俺は生音ではとても聞こえないので、少し離れた落ち着いたレストラン街に狙いを定める。
ちなみにこのナッシュビルは、その熟成された音楽文化と南部の景観を残す町並みが観光資源となっており、ものすごいたくさんの観光客で溢れている。
もちろんこんなとこに来る人たちだから、たいがい自分たちもなにかしら楽器をやってるか、音楽好きの耳の肥えた人たちばかりだろうな。
アジア人はまったくいない。
緊張しまくりながら、意を決してギターを取り出す。
こ、怖えええ(´Д` )
歩いてる人が全員ミュージシャンにしか見えねぇ。
っていうか実際そうだろうし。
さっきの8歳の子供にしたって、地元の人は毎日繰り広げられているこの狂気のライブ三昧を365日嫌でも聴いて育ってきてるわけだ。
耳が肥えてねぇほうがおかしい。
だ、大丈夫!!
俺だってこれでもずっとこれ1本でやってきたんだ!!
捨てたもんじゃねぇって!!
思い切って歌い上げた。
振り向きもしないで歩いていく人々。
しかし、立ち止まってお金を入れてくれる人もいる。
よし、とりあえず生卵を投げつけられることはなさそう!!
「おい、良い声してんなバディ。マジでいいぜ。」
そこに話しかけてきたのは、長い髪の毛を後ろになびかせ、ブーツカットのジーンズを履き、サングラスをかけた、コンビニに行くにもハーレー乗りますみたいなボーントゥービーワイルドのおじさん。
「俺はそこのBBキングクラブでやってんだ。次の休憩の時にまた来るからセッションしようぜバディ。」
うおぉ、やったぜ。
地元のバリバリやってる人にそう言ってもらえるなんて。
自信を持ってそれからも頑張って歌い続け、お金もちょいちょいと入っていく。
そして日が落ちた頃にさっきのボーントゥービーワイルド、ロスがやってきた。
楽器を持っていないので、どうするんだろう?と思ったら、彼は手に持ってた小さなケースから無数のハーモニカを取り出した。
彼はブルースハーピストだ。
「イエー!ナイスだぜフミ。もっと行こうもっと。次はなんのキーだ?」
ゲロうめえ!!
ただのリトルウォルターでしかねぇ。
「俺は5歳の頃からピアノを弾いてるんだ。音楽が俺の人生さ。」
「カントリーソングなんつーものはな、たいがいママのことか、犬のことか、奥さんが逃げたか、酒飲み過ぎちまった、とかそんなもんさ!!」
さすがはライブハウスでやりまくってるプレイヤー。
華麗で濃密なプレイなんだけど、シンガーの息を読んで、歌の邪魔をすることなく絶妙に入ってくれる。
マジでプロ。
ナッシュビルの町角に、アジア人と南部アメリカ人のセッションが響き渡った。
30分ほど一緒に演奏し、ロスは次のステージがあるから、と急いでクラブに戻って行った。
ナッシュビルでただ歌うだけじゃなく、地元のミュージシャンとセッションができたことが最高に嬉しかった。
2時間ちょいほどやってあがりは25ドル。
まぁ、この超ハイレベルな町でこれだけ稼げたならよしとするか。
ロス!!ありがとう!!
もうすっかり夕闇がナッシュビルの町を覆っている。
メインストリートのライブハウス群は一斉に看板に灯りをともし、ギラギラした照明や深い色のネオン管が通りにまたたいている。
夜になり、ライブの勢いや町の活気はさらに熱気を帯びている。
通りには音が溢れ、路上ミュージシャンは楽器を鳴らし、物乞いの数も多い。
たくさんの人々が楽しそうに歩いている。
どこまでもアメリカ。
そんなメインストリートの一角にカッピーたちがいた。
ユージン君のクラシックの手法のソロギターに人々が足を止める。
カッピーたちのあがりは82ドル。
完敗。
なんか変な日本人の1人旅人がいて、おごるから飲み行こうぜー!!って5回くらい言われたけど、めんどくささと怪しさの塊でしかなかったので丁重にお断りした。
しかし、どっか行ったかと思うと何度も戻ってくるこの兄さん。
しつこい。
「俺20ドルくらいあるからみんなにおごるからよー!!」
20ドルじゃおごれないから。
「金がなくなったらまた路上ライブやりゃいいじゃんか!!だいたい旅なんて野宿すればいいんだよ!!野宿したことある?俺なんかどこだって寝られるんだぜ?あとコーチサーフィンって知ってる?なんかホテルみたいなとこにタダで泊まれるやつなんだぜ。俺もやりてーと思ってるんだ!!」
知りません。
カウチサーフィンなら知ってます。
「ヨーロッパの冬とか知ってる?知らないよね。ヨーロッパの冬はマジで寒いからね。それに比べたらアメリカの野宿とか楽勝だから!!だから飲み行こうぜ!!」
マイナス15℃の東欧で野宿してました。
3人でいる俺たちに1人で旅してることのすごさを知らしめたいのか、一生懸命過酷っぷりを話していた彼は1泊30ドルのユースに泊まっていました。
「なんかアレかな?飲み行こうぜって言って、後から金がないって言って払わせるっていうパターンのやつかな。」
たしかに夜のナッシュビルは魅力的。
あのこうこうと輝くネオン管と、爆音で通りを埋め尽くすライブハウスの熱気は、金がありゃ相当楽しいはず。
でも俺たちにそんな余裕はない。
1.7ドルの市バスにゆられてやってきたのは、ナッシュビルの国際空港。
安定の空港泊。
チケットフロアーの端っこで寝袋に包まる。
地方の小さな空港は0時を回らなくても静まり返っている。
ナッシュビル。
音楽が盛んな町、ってのはたくさんあるけど、ここまで凄まじいのは初めてだったな。
今からさらにメンフィス、ニューオリンズと音楽の聖地と言われる場所が続く。
アメリカがなんでこんなに世界に音楽を発信しているかがわかるわ。
熱がまるで違う。
音楽が人生っていう人間の数がハンパじゃないんだ。
俺ももっとやらないとな。