8月3日 土曜日
【アメリカ】 コダック ~ クロスビル
おじさんの同性愛者にチンチンくわえさせてくれとお願いされて、ガクガク震えながらのヒッチハイクでたどり着いたのは、高速道路40号線のインターチェンジ。
チンチンー!!と襲いかかってくることもなく、おじさんは残念そうに去って行った。
それから夜中の高速脇をウロつき、見つけた大きな駐車場の端っこにテントを張って眠った。
さて、ここから目指すのはテネシーの州都、ナッシュビル。
昨日のうちに着きたかったんだけど、さすがに距離がありすぎたか。
夜ヒッチしてもいいんだけど、ここは日本ではなくアメリカだ。
夜に男3人を乗せる人なんてまずいないだろうし、何より俺たちの安全も考えないといけない。
ゆうべみたいな怖い目はゴメンだ。
何もされなかったからよかったけど。
ここからならば4時間も走ればナッシュビルだ。
うまくいけば夕方から路上が出来るかもしれない。
でもナッシュビルでギター弾いて歌うなんて怖すぎるけど!!!
テントをたたんで近くのサービスエリアのマクドナルドで腹ごしらえとインターネット。
俺がチマチマと日記を書いてる横で、ユージン君は彼女と、カッピーは日本から会いに来てくれるという女子大生と楽しそうにメールをしている。
この薄情者どもめ。
「それで、その女子大生ってどんな子なの?」
「なんかNGO関係の子みたいだよ。」
「へー、中出し、ガンガン、OKって意味だっけ?」
「え?じゃあNPOはどういう意味?」
「中出し、パイ◯リ、OKじゃなかったっけ?」
「あー、なるほどね。でも中出しはダメだよね。」
「そうだよね、結婚してからじゃないとね。」
朝っぱらからマクドナルドでこんな会話をしてる僕たちは幸せです。
なので、日本で、合コン、お願いします。NGO。
カツオさん、最近下ネタ少ないですよ。
くだらねーこと言ってないで、とっととヒッチハイク始めなきゃ。
高速道路の乗り口に立ち、みんなで親指を立てる。
カッピーとユージン君ももう慣れたもんで、堂々と親指を立てている。
しかしまぁ、そう調子良く簡単には捕まらないもの。
ここで1時間以上待ち続ける。
ここ数日ヒッチハイクをしてきて気づいたことがあるんだけど、とあるパターンを発見した。
それは、捕まえるまでの時間が長いと、比例して何か大きなことが起きるってこと。
すでに1時間すぎている。
だいぶエネルギー溜まってきてる。
また何か起きてしまうかもしれない!!
1時間半経ってようやく1台のトラックが止まった。
急いで駆け寄る。
「ニホンジンデスカー!!ノッテクダサイー!!」
うおー!!日本語が喋れる兄さん!!
めちゃくちゃフレンドリーで面白くて、一瞬で仲良くなってしまった。
「東京大学ニ留学シテマシタケドー、アノ時コギャルガタクサンイマシター。イマハドウデスカー!?」
「コギャルからマンバってやつに進化しました。髪が爆発して魔女みたいなやつです。それから汚ギャルってやつにさらに進化しました。風呂に入らず不潔にするのがカッコいいというのが流行しました。今は清純派が流行りです。」
「ホントデスカー!!僕ノ彼女モコギャルデシター。」
彼の名前はサム。
これから仕事先に顔出しに行くところなんだそう。
「今カラ行クトコロハ、ナッシュビルマデノ半分クライノトコロデス。スゴクイイトコロデス。泊マッテイケバイイデスヨ。ヨシ、電話シテオネガイシテアゲマス。」
ま、また………
今日も全然進んでねぇ………
でもせっかくのご好意。
断るのは旅の流儀に反するよな。
サムの話によると、南部でのヒッチハイクはこれからもっと厳しくなっていくという。
南部にはメキシコ人の不法入国者がたくさん入り込んでおり、アメリカ人たちはとても警戒している。
しかも俺たちは男3人。
危険だと思って止まらない気持ちもわかる。
そういう映画もたくさんあるしな。
もちろん俺たち自身も気をつけないといけない。
昨日の同性愛者だってあれで済んだからよかったけど、いきなり銃を出される可能性だってあり得る。
銃の前には男3人っていうことも意味をなさないだろうけど、1人よりは遥かにマシだろう。
普通に過ごしていれば実感する機会もないが、アメリカが銃社会だということを忘れてはいけないな。
車はクロスビルという小さな町のインターチェンジで高速を降り、のどかな草原を走り、ひたすら森しかない一本道へと入っていく。
そしてさらに林道みたいな脇道に入り、ガタガタと奥へ奥へと進んでいく。
す、すごいところにあるんだな…………
しばらくすると、深い森の中にひっそりと一軒家が現れた。
「おおーい、よく来たな。まぁくつろいでくれ。」
「というわけだから。ここでゆっくりして明日ナッシュビルに向かうといいよ。ソレジャアオゲンキデ!!」
サムはそう言い残してカッコ良く森の中に消えて行った。
えーっと………
毎日毎日いろんな事ありすぎてよくわかんねー!!!
「ホラ、こいつを飲みな。晩飯までその辺でゆっくりしてな。」
巨漢にダミ声の渋すぎるおじさん、マークが入れてくれたお水を飲む。
マークの言葉は典型的な南部なまりらしく、マジで何言ってるか全然わからねぇ。
単語ひとつとっても、まるで別の単語みたい。
家の横のテラスに座る。
ヒグラシの声が森に染み渡り、清流の上を流れていく。
えーっと、それから………
これの、
これの、
これの、
これです。
もうどんな旅人よりもアメリカを深く旅してる自信あるわ。
サザンホスピタリティって言葉、なぜこういう言葉があるのか。
ようやくその意味がわかってきた。
ただのおもてなしって一言で片づけるにはあまりにも異常すぎる暖かさだからだ。
名前がなければ説明しづらいほどのオープンさ。
田舎だから、ってだけじゃここまでの優しさは説明できない。
アメリカ南部、もっともっと体全体でその理由を見つけてみたい。
虫の大合唱の中、星空を見上げる。
人間はこんなにも素晴らしい。
俺はまだまだ自分のことばかりのダメな男だけど、きっとその一員になるぞ。