8月2日 金曜日
【アメリカ】 チェロキー ~ セバービル
谷の朝は寒い。
寝袋にキチンと包まって寝るとちょうど温度で快適に眠れた。
朝日とともにテントを出ると、芝生についた朝露がサンダルの足に冷たい。
「グッドモーニング。ゆっくり眠れたかい?朝ごはんができてるよ。」
スクランブルエッグとベーコンとトーストの朝食。
欧米ではベーコンをカリカリに焼くのがこっちの食べ方だ。
しょっぱい味わいが口に広がる。
デッキでロッキングチェアーに揺られながらタバコをふかす。
山々の緑が清冽に輝いている。
まだなんだか信じられないな。
昨日の出来事は夢だったんじゃないかな。
映画の中のことのようで、現実味が湧かない。
でも俺たちの首にかかっているインディアンジュエリーが現実だと物語っている。
「よし、いいとこ連れてってあげるよ。」
マークとママと5人で車に乗ってやってきたのは、綺麗なコンクリートの建物。
ここはチェロキーインディアン博物館。
入場料は10ドルか。
ちょっと高いけど仕方ないか、と思っていたら、受け付けはママの顔パス。
さ、さすがは大御所(´Д` )
博物館の内容は、インディアンの歴史、暮らし、現代での活動のパネル展示、伝統的な衣装や狩りの道具、そしてもちろんインディアンジュエリーなど、なかなか充実している。
しかしどんな展示だろうが、今のこの本物のインディアンにお世話になってる状況以上のものはない。
ていうかインディアン博物館をインディアンのガイド付きで回るって。
渋い!!
家に帰り、マークのトラックに荷物を積み込む。
俺は田舎育ちだ。
なので山や川の自然が大好き。
こんな雄大な自然に囲まれ、緩やかに暮らしている彼らがとても素敵だと思う。
いいところだなー、ここは住みたいと思える場所だ。
でも、進まなければいけない。
俺にも帰る場所と待ってる人がいる。
「ハグして。みんな元気でいるのよ。いい旅になることを願っているから。またいつか遊びに来てね。」
ママとハグ。
愛らしいぽっちゃりした身体がとても気持ちいい。
ココペリのようにユーモラスで、笑顔が絶えないママ。
素晴らしい人に出会えたな。
良い人格ってのは奇跡的な宝物だ。
「ここならすぐに捕まえられるだろう。それじゃあ元気でやるんだぜ。」
マークは森の中の一本道に俺たちを降ろして、集落に帰って行った。
マーク、ありがとう。
あなたたちとの出会いは旅の中でも特に忘れ難い尊いものになったよ。
一生輝き続ける思い出だよ。
客人をもてなす、という当たり前のことを、ここまで自然体にやってくれたチェロキー族の人々。
その血が途絶えずに、美しい心と文化を後世に伝えていけることを願います。
ありがとう!!!
さて、木漏れ日が降り注ぐこの森はアパラチア山脈のど真ん中。
グレートスモーキーマウンテンというビッグフットあたりが余裕で住んでいそうな雄大な名前の山の麓にポツリと立つ俺たち。
すぐ横に綺麗な川が流れていたので思わず足をつけてみた。
冷たい。
夏の匂いが鼻をくすぐる。
美々津が懐かしいな。
早速ヒッチハイク開始。
この山を越えれば、そこはついにあの音楽の土地テネシー。
アメリカの心と呼ばれるカウボーイとカントリーミュージックのふるさとだ。
今日中になんとかナッシュビルまで行きたいところ。
止まってくれー!!
うおー!!止まったー!!!
パークレンジャーが。
警備員だ。
「ここは国立公園の中だからヒッチハイクはしたらダメよ。チェロキーからならしていいわ。」
「わ、わかりました。チェロキーまで乗せてくれるんですか?」
「歩いて戻って。2マイルくらいだから。じゃあね。」
そう言って女性のレンジャーさんは去って行った。
ポツリと取り残される俺たち。
1マイルって1.5kmくらいだよな。
3kmか………
仕方なくトボトボと歩く。
車たちが俺たちを避けてビュンビュン走って行く。
戻りながら歩きヒッチ。
すると20分くらいで1台の車が止まった。
「山を越えた町まで行くぜー。乗ってきなー。」
車はスモーキーマウンテンの峠を越え、坂道を下って行く。
森を抜けて、しばらくすると開けた町に入った。
なんだこりゃ?
たいした町でもないのに、道路脇にものすごい観光客がひしめいていた。
ナイアガラを思い出させるど派手な看板と、アメリカっぽいアトラクションのお店の数々。
ここはガットリンバーグという町。
稼げそうだな、と路上欲が湧いたけど、いちいち止まっていたら一向に先に進まない。
目的地はあくまでナッシュビル。
カントリーの聖地。
と思ったら、後から知ったんだけど、このガットリンバーグにはあのドリー・パートンの生家があったみたい。
彼女の貧しい幼少時代を象徴するあばら家が保存されているんだそう。
ドリー・パートンも好きなシンガー。
ちょっと行きたかったな。
コートオブメニーカラーを何度も聴いたなぁ。
そうだ、ここはもうテネシーなんだ。
「ここからならノックスビルに向かう車が多いから捕まると思うよ。何かあったら電話してな。」
優しいおじさんにセバービルという町で降ろしてもらった。
さー、次々行くぞ!!
ビシッと親指を立てる。
面白いことにこのテネシー、通り過ぎる車の90パーセントの人たちが、手を振ってきたり親指を立ててきたり、何かしらの反応をしてくる。
ハアアイ!!イエーイ!!と窓から体を出してテンション高く叫んでくる若者たちも。
ヒッチハイクしてる側としてはとても楽しい反応。
しかし良い反応ばかりではなく、中指を立ててきたり親指を下に向ける奴らの数も比例して多い。
そんなのも含めて、ヒッチハイクという文化がこのアメリカ南部の大地に浸透してることが伺える。
21時の遅い夕焼けがテネシーの空を染める。
立てた親指は憧れを追いかけ続けた遠い過去への返事、
そして走り続けるための未来への約束。
そうさ、何も間違っちゃいない。
これからも、ずっとそうさ。
1台のトラックが止まった。
カッピーとユージン君が荷台に乗り込み、俺は助手席へ。
50歳くらいの口数の少ない無愛想なおじさん。
汚れた服を着てて、なかなかとっつきづらいけど、どんな人とでも新しい出会いを楽しめるようになってきたと思える。
俺も少しは成長できたかな。
アスファルトをヘッドライトが照らす。
まだ見ぬ新しい町に向かって。
おじさんがおもむろに口を開いた。
「なぁ。」
「なんですか?ニコリ。」
「お前のチンポくわえさせてくれないか?」
「…………嫌です。」
「頼むよ。くわえさせてくれよ。」
「嫌です。」
「じゃあ、後ろの2人はダメかな?」
荷台のカッピーたちを指差すオッさん。
ガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガク(´Д` )
お、お、お、落ち着け!
そ、素数を数えるんだ!!素数は1か自分の数字でしか割ることのできない孤独な数字。
私に勇気を与えてくれる。
人差し指を口に入れるジェスチャーをしてくるおじさん。
ぎゃあああああああ!!!!
新しい出会い楽しめねえええええええ!!!!!
そこから車を降りるまで無言の車内だったのは言うまでもありません。
あー、怖かった。