7月30日 火曜日
【アメリカ】 アッシュビル
警察に叩き起こされた。
あああ(´Д` )
ゆっくり寝させてくれー………
「なんでこんなとこでテント貼ってるんだ。ホテルに行けばいいだろう。」
「旅をしてまして、お金を節約するためにキャンプしてるんです。」
お巡りさんがいつもより少し高圧的だったのは、ゆうべ夜中にテントを移動した時に、うっかりマリブの瓶をテントに入れ忘れて、外に置いたままだったからだろう。
酒飲んでキャンプしてた、というのは見た目のいいもんじゃない。
というより、アメリカでは外で酒を飲むのは違法だ。
まぁ、早くテントをたたんで立ち去りなさいという注意だけで済んでよかった。
すぐに荷物をまとめて歩いた。
さてと、このアッシュビル。
地図を見ると、広大な山脈の谷間にある大自然に包まれた場所といったところ。
どうしてこんな田舎町に来たかというと、これまでノースカロライナで出会った人たちが必ず口を揃えて、
「音楽やってるならアッシュビルに行くんだ。」
と言っていたから。
何やらたくさんのミュージシャンが住んでおり、いたるところで路上ミュージシャンが演奏し、音楽で溢れた町なのだそう。
こんな山の中の田舎が?
にわかには信じがたいが、ナッシュビルとひと文字違いというところもどこか惹かれる。
ユージン君がウィキペディアでこの町を調べている。
「えーっとねー、アッシュビルは全米で1番変人が多い町って書いてる。」
どんな統計だ(´Д` )!
どうやって調べたんだそれ?
というわけでランキングに貢献する新たな変人3人は、モールの中にあるスーパーマーケットにやってきた。
こんなにポップコーン食べられないよー………
おぇぇぇ、とか言いながらポップコーンを詰め込むユージン君。
カッピーたちは中のカフェで電池の充電。
俺はほとんど寝ておらず、あまりにも眠いので表のベンチで眠りこけた。
すると1人のおばさんが声をかけてきた。
うん……な、なんですか……?
おばさん、俺にお菓子と水を差し出してきた。
ほ、ホームレスじゃねぇ(´Д` )
ズボンの膝が破れまくりで髪長くて片目のない不気味な人形をバッグにぶら下げてるけどホームレスじゃねぇ(´Д` )
「うわ、あ、あの、僕ホームレスじゃないので受け取れません。」
「大丈夫、いいのよ。ゴッドブレスユー。」
何も言わなくていいのよ、大丈夫、みたいな全てを承知してるような笑顔で、俺の横にそっとお菓子と水を置いておばさんは去っていった。
俺そんなふうに見えてるのかな………
ズボン買わなきゃな………
まぁでも、お遍路さんへのお接待みたいなもんで、旅をしてる人に何かしてあげるという優しさはごく自然なものなのかな。
もちろんそれに期待して甘えてはいけないが。
お菓子をかじる。
甘い。
「よーし、そろそろやろうかなー。」
昼前になってお客さんが増えてきたころにカッピーたちが戻ってきた。
今日はカッピーに先手を譲ろうかな。
準備を始める2人。
さー、今日も100ドルイーチはとりたいなー。
と思ってたら、まだ音も出してないうちにお店の人から止められてしまった。
ま、マジか………
いや、これは仕方ない。
ここらは大型の店舗がいくつもあるショッピングエリアなのでやる場所ならいくらでもある。
ふた手に別れてそれぞれに場所を探す。
カッピーたちはドラッグストアー。
俺はホームセンターだ。
が、思うように稼げず、というかわずか2曲目でストップがかかってしまった。
うー………なかなか厳しいな………
あがりはたったの1ドル。
荷物を片付けていると、向こうの方からカッピーたちがやってきた。
「どうだった?」
「2ドル。ダメだ。全然入らない。」
綺麗に1ドルイーチになり、マーケット路上は諦めてダウンタウンへの市バスに乗り込んだ。
バスはどこまで乗っても1ドル。
アメリカの市バスは安いから利用しない手はないね。
アッシュビルのダウンタウンに到着。
山の中の小さな、可愛らしい町だ。
坂道が多く、旅情をかきたてられる通りにセンスのいいカフェやレストランが並んでいる。
そしてこんな小さな町なのに、ちょっと歩いただけで、鍵盤弾き、ギター弾き語り、フルセットのドラムの路上パフォーマーの姿。
さらにはそこら中のお店でライブ、生演奏をやっており、確かに町全体に音楽が溢れている。
いやっほーい
よーし、俺たちも張り切っていこうか。
カッピーたちとふた手に別れ、俺は交差点の角で路上開始。
なのだが、良いポジションには他のパフォーマーが陣取っており、ここは歩道も狭く人が足を止めにくい。
チクショウ、全然入らない。
いくら歌っても手応えが感じられず、なんだか疲れてしまってすぐにギターをしまった。
あがりはわずかに2ドル。
「おーい、どうだいー?あれ、もうやめたの?」
そこにカッピーがやってきた。
「いやー、この町いいわ!!稼げてるし。ウチに泊まりなって言ってくれる人もゲットしたから!!」
うおー!!マジか!!
シャワー浴びられるー!!
でも悔しい………
俺は全然稼げなかった………
カッピーたちのところに行ってみると、バーやレストランが固まっている通りの角でカッコよくジャズを演奏していた。
周りのバーからお酒の入ったご機嫌なマダムやおじさんが出てきて、陽気なお金を置いていく。
やっぱりやるなー、この2人。
こうしてバスキング仲間と旅をすることはとてもいい刺激になる。
俺も負けてられないと思える。
最初は1人旅じゃなくなることで、地元の人との交流が減るかもと思ったが、単純にバスキングを2組でやるわけだからお泊まりや人と触れ合う確立だって1人よりも間違いなく上がる。
強盗なんかも手を出しづらくなるだろうし、旅のスタイルが似たメンバーで行動することはとてもいいことなんじゃないかと思える。
しばらくすると、1台の車が俺たちの横に止まった。
優しそうな笑顔の兄さんが降りてきた。
どうやらこの方が今夜の宿の提供者みたいだ。
「コンバンワー、ワタシハジェイムストイイマスカラー、ハジメマシテ!!」
文法はめちゃくちゃだけど、かなり上手な日本語を喋るジェイムスは、かつて2年ほど日本の札幌に住んでいたことがあるそう。
その時にとてもたくさんの日本人たちにお世話になったらしく、日本人にどうしても恩返しがしたいと言う。
「日本人、ミンナイイヒト。シャイダケドー、スコシビールヲノンダラ、ミンナフレンドリーノヨウニナリマスカラー。」
「札幌ならラーメンは食べましたか?」
「オーシット!!ラーメンタベスギマシタカラー!!ショウユラーメンハチョウベリーヤバイデスネ!!」
そんな日本を愛するジェイムスの車で彼の家にやってきた。
木々が生い茂る静かな住宅地の中にある一軒家。
築100年のこれぞアメリカって家だ。
「ハーイ、イラッシャイマセー。ユックリシテネー。」
家の中にはニッコニコの笑顔の奥さん、娘が2人。そして犬が3匹と猫が2匹。
もーーーー、娘のソフィアとマヤが可愛くて可愛くてたまらない!!!
モジモジしてるんだけど興味があるみたいで、挨拶すると恥ずかしそうにハローと言ってくれる。
可愛いいいい(´Д` )
そして犬も可愛いいいいい(´Д` )
奥さんも一緒に日本に住んでいたという日本大好きなご家族なので、犬の名前が、ユキとカブとユージ。
ゲロ可愛い(´Д` )
もう幸せを絵に書いたようなアメリカンファミリー。
「ヨシ、コノアタリノオイシイピザ、タベニイキマショウ!!ビールヲノメ!!」
8歳の懐っこいマヤが元気についてきて、5人で歩いて近くのピザ屋さんにやってきた。
ビールとピザ、
完璧すぎるコンビネーション。
「デモワタシハ、ホッケガアイシテマス。ホッケトサケ!!パーフェクト!!カンペキ!!ホッカイドウノタベモノガセカイイチデス!!」
家に帰り、ジェイムスがエアーベッドを用意してくれた。
「モシヨケレバアシタモトマッテクダサイ。デスカラ、ランドリーモシャワーモツカッテクダサイ。ワタシハニホンジンニオンヲカエシタイカラデス。」
今回は完全にカッピーたちのおかげだな。
野良犬なら野良犬らしく自分の食い扶持は自分で見つける。
こんなに素晴らしい出会いをもたらしてくれる野良犬仲間に感謝。