7月20日 土曜日
【アメリカ】 ハートフォード ~ ニューヘブン ~ ニューヨーク
車の中、目を覚ます。
縮こまって寝ていたので身体中が痛い。
ここはどこの町だっけ?
車を出て、目の前の川を歩いた。
ベンチで寝ぼけ眼でボケーっと川を眺めているカッピーがいた。
隣に座ってボケーっと川を眺める。
ここはハートフォードという町。
ゆうべのうちにここまで走ってきてこの川沿いで車を止めた。
今日はここで稼いで、夜にニューヨークに向かわなければいけない。
ちょっとした用事が入ってる。
「よーし、今日は50イーチは稼ごうね………」
「え?そんなんでいいの?100イーチでしょ。」
「そうだね。」
「俺たちが本気出したらちょいだよ。」
「まぁ、なんとかなるさー。」
このやり取り、もう100回目くらい。
するとその時、すぐ向こうのベンチでサックスの音が響いた。
どっかのオッさんが練習で吹いている。
それが激上手い………
「上手いね………」
「うん………やっぱり30イーチかな………」
さて、みんなも起きてきたところで、早速ハートフォードのダウンタウンへ行ってみた。
ボストン~ニューヨーク間では1番か2番に大きな街だからな。
路上パフォーマンス激戦地だったらどうしようかなー…………
「えーっとねー、ハートフォードではなんとか公園ってとこが路上パフォーマーに有名なところみたい。そこに向かうね。場所ももう調べてるから。」
敏腕すぎるマネージャー、てっちゃん。
さて、町の中へ突入。
はい、人がいねえ。
人がまったく歩いてねぇ。
なにこれ?
ゴーストタウン?
ビルはある。見た目はそこそこの都会。
なのにまったく人の姿がない。
こ、これがガレージトゥガレージってやつか…………
こりゃマジでバスキングの認識入れ替えていかないといけないぞ。
アメリカでは州都レベルの大都会でしか路上はできない。
ここはヨーロッパみたいに、どんな小さな町でもショッピングストリートがあって、人がいつも歩いているような国ではない。
日本のように、郊外型大型ショッピングセンターによって街の中心部が死んで、人が歩かないシャッターストリート。
まさにそれだ。
リーマンショックからの景気の低迷はいまだ深刻に続いてるんだろうな。
世界イチの経済大国が不景気にひいひい言ってる状況が、ふと恐ろしく感じてしまう。
とか言ってる場合じゃなくて、歌わないと!!
ハートフォード無理!!
次の町!!
次にてっちゃんがかっ飛ばしてやってきたのは、ニューヘブンという町。
こ、ここならどうだ!!?
こっ……!!
寂れてるー(´Д` )
マジかよこれー………
とりあえず暑すぎるのでマクドナルドに避難。
暇そうな黒人たちがワーワー騒いでる店内で作戦会議。
危ない雰囲気だなーと思いつつ、話していていると、案の定黒人たちに絡まれる。
取り囲まれる。
めちゃくちゃテンションの高い黒人のオッさんとおばちゃんにひたすら絡まれる。
よ、陽気だな(´Д` )
30分後。
なぜか黒人たちのイベントでライブしてる俺たち。
なんだこれ?(´Д` )
「イヤッホオオオオオイイ!!!」
「フオオォォォイイイイ!!!」
めちゃくちゃ盛り上がってる黒人の皆さん。
お客さん超まばらですけどね。
あれです。
なんかイベントっていうか町内会のお祭りみたいな雰囲気。
カラオケ大会とか、バーベキューとかやってて、みんなほのぼのとベンチに座ってニコニコしてます。
子どもたちがビヨンセを一生懸命歌ったり、兄ちゃんたちがラップしたり、なんかファッションショーとかもやってます。
小さなコミュニティのようで、お客さんとか全員身内みたいな雰囲気です。
ほのぼのしてます。
そんな町内会に迷い込んだアジア人4人。
この人、マジで怖すぎ。
前歯ゴールドだし。
「お前サイコーだぜ!!」
「もっとこの町にいればいいのに!!」
音楽やってるだけで、一瞬でこんな場面に潜り込める。
音楽は最強の武器だ。
みなさん、ありがとう。
黒人の人たちと交流していたら、あっという間に時間が経ってしまった。
みんなに手を振って会場を後にする。
「いやー、ついにフェス出ちゃったね。フェス。」
「しかもブラックミュージックの。」
「ビヨンセとかいたしね。」
「あ!!あへええ!!また路上できなかった………」
「稼げねぇよおー………」
いやー、毎日なんだかんだ起きて、ネタは尽きないんだけどなぁ。
実際ヤバイ………
結局路上をやる時間もないまま、ニューヨークに戻ってきた。
「はーい、ここがカーネギーホールですねー。それでここがブロードウェイです。あ、オフブロードウェイやってるかな?」
「もういいよー!!ニューヨーク何回目だよー!!」
「行ったり来たりしすぎ!!」
そんな行ったり来たりのニューヨーク、最後の用事は…………
これ。
トミジャズです。
ニューヨークには日本人がめちゃくちゃ住んでて、日本人向けのお店がたくさんあります。
キャバクラもめちゃあります。
「さ!!みなさん!キャバクラですけどもー、今夜はいかがですか?いい子いますよー。」
マジで客引きしてきます。
ニューヨークなのに、あの懐かしい日本のネオン街の客引きがいます。
スーツが似合わないヤンキーのチャラ男がチャラく声をかけてきます。
駐在さん狙いのお店ですね。
それは置いといて、そんな日本人街には日本人がやっているジャズバーもあります。
それがここ、トミジャズさんです。
ニューヨークで日本人がジャズバー。すごい。
有名なお店みたいで、カッピーたちは普通に知っていました。
この格好でジャズバー入れるかな……?
お店にやってきましたが、まず不思議なことが。
ドアノブがないです。
ドアが引けないから中に入れません。
これはどういうことだ?
そういう時は歩くウィキペディア、てっちゃん。
「これはね、まぁ変な奴が入ってこれないようにするってのが建前だけど、本当は摘発を1番警戒してるよね。」
なるほど、これで警察がすぐに踏み込めないってわけか。
不法就労とか不法滞在が外国人のお店ではまかり通ってるんだろう。
もちろん、トミジャズさんは何もないだろうけど。
薄暗い店内は30人でいっぱいになるくらいの狭さ。
テーブルのグラスにライトが光る。
お客さんは全員日本人。
そういえばキチンとしたジャズバーって初めてだったかな?
ドレスアップした上品そうな女の人や、お金持ってそうなおじさんたちがすましてグラスを傾けている。
ジャズなんて底辺庶民の音楽だよな。
それがオシャレな大人の教養みたいな雰囲気ってのがあまり馴染めない。
すでに満席だったので、立ったままビールで乾杯。
そしてライブが始まった。
この日のメインは、フルートのエロい女の子。
ん?と思った方。
記憶力すごい。
10日ほど前の日記に少しだけ登場したカッピーのセフレ……というのは冗談で、カッピーの音楽仲間のエリサちゃんが今夜のプレイヤーなのだ。
このエリサちゃん。
見た目はギャルギャルしてるけど、実はあのバークリー音大卒のエリートフルートプレイヤーなのだ。
今夜はウッドベースとピアノのトリオ演奏。
まぁ、カッケェ。
狭っ苦しい店内に響く、カビ臭いムード。
そして都会的な洗練したサウンド。
エリサちゃんのフルートの音色はもちろん素晴らしいけど、それを支えるピアノとベースがマジでうめえ!!
もうリズムとか、スケールでさえ取っ払ったような攻めまくりのアドリブの嵐。
感情のウネリが音になりどんどん高まっていく。
腹の探り合いの掛け合い。
完全にネジ外れてる。
ジャズやってる人ってすげえ!!
ニューヨーク、摩天楼の片隅でアメリカの心、ジャズを奏でる日本人たち。
寂しさや、楽しさや、懐古や、人生のむなしさが、音の端々に見え隠れする。
これからの南下の中で、たくさんの素晴らしい音楽に出会うだろうな。
楽しみで仕方ねぇ。
なんて忙しい国だ!!
アメリカは音楽の国。
あらゆる音楽を聞きまくってやる。