6月18日 火曜日
【カナダ】 トロント
「リック、また月末に戻ってきていい?」
「もちろんさー。ベッドもそのままにしとくからいつでも戻ってくるんだよ。」
今日で長かったトロント生活を一時中断して、出稼ぎの旅に出よう。
目指すは、ナイアガラの滝。
あの超有名な、袋田の滝より、三条の滝より、称名の滝より有名な滝がすぐそこにある!!
観光客も世界中から集まってるだろうな。
稼ぎまくってやる!!!
「じゃあ、金丸さん、健闘を祈ります。これ持ってって下さい。」
男気ナオトさん。
そんなナオトさんが渡してくれたのはオニギリ。
最高の飯だ。
また戻ってくるけど、ここ数日本当にお世話になりました。
てぃちゃん、カナコちゃん、リック、ありがとう。
久しぶりにバッグを全部抱えて街に向かう。
ここトロントからナイアガラの滝までは、まぁわけわからんくらい様々な交通手段がある。
グレイハウンド、メガバス、カジノバスってやつが最安みたい。
往復で30カナダドルだったかな。
みなさん、たくさんの情報ありがとうございます!!
ものすごく参考になりました!!
というわけでヒッチハイクで行くことに。
え、ええ!?
結局ヒッチハイク!?
ごめんなさい…………
ナイアガラに行くまでにポツポツと街があるようなので、そこらで路上やりながら進みたいと思います。
まずは調べていた旅行代理店で、アメリカからグアテマラ行きの航空券を買った。
発券料を合わせて125カナダドル。
もう買ってしまった。
キャンセル返金はきかない。
もうこのやり方で行くしかない。
あとはカナダでどれだけ稼げるかだ。
さて、移動は夜にするとして、昼のうちはトロントで路上をしよう。
まずは昨日のうちに調べておいた楽器屋さんに行き、カポタストを購入。
カイザーの挟むやつが20カナダドル。
ここで壊れてるAとGのハーモニカも買おうかなと思ったけど、俺が使ってるプロハープシリーズはひとつ40カナダドルもする。
アメリカに入ってからでもいいか。
そしてベイ・キングのビジネス街の中にやってきた。
高層ビルが乱立するサラリーマンたちの地域に立つ1人のバッグパッカー。
高そうなスーツを着たエリート、エレガントなキャリアウーマンたちが闊歩する近代的なコンクリートの谷間。
目に見えない場所で凄まじい金が渦巻いているこの金融街のドン底を這いつくばるボロボロのギター。
お腹空いた。
バッグの中からナオトさんが作ってくれたオニギリを取り出した。
こんなビジネス街の中でオニギリってのがミスマッチすぎる。
かぶりついた。
う、うお、ツナマヨじゃねえか………
どんな高級レストランの料理よりも美味いよ。
そしてパワーがみなぎる。
思いっきり歌った。
あのビルの先っぽまで届きやがれ。
水を持ってくるのを忘れて、しまったなぁと思いつつもしばらく歌っていると、1台の車が目の前に止まった。
パトカーじゃない。
なんだ?
おじさんとおばさんが降りてきて、俺に話しかけてきた。
「喉乾いてる?お水もコーヒーも紅茶もあるわよ。」
「え?あ、あぁ、じゃあお水をお願いします。」
歌を聴いてくれて差し入れしてくれるのかな?と思ったら、どうやらそうではなかった。
おばさんは車からお水と、なんとスープとサンドイッチを持って戻ってきた。
「気にしないで食べて。私たちはユダヤ教の活動をしてるの。もしよかったらあなたのために祈らせて。」
そう言って2人は祈りの言葉を唱え、神からの授かり物を残して去って行った。
う、うお、なんだよ…………
こ、これは炊き出しのようなものだろう。
ここ博愛の国、カナダでは、炊き出しは特定の場所でやるのではなく、わざわざ配る側が車を運転して街中を回り、食事が必要そうな人を探しているのだ。
ヨーロッパでもたまにあった。
宗教がらみの振る舞いの食事。
しかし、ここ北米のその充実っぷりにはとことん頭が下がる。
音楽もイベントも、商業関係のプロモーションも、様々な活動が毎日どこかで繰り広げられているこのトロント。
慈善活動においても、圧倒的に他国より抜きん出ている。
人には愛が必要。
貧しい人に対する視線はシェルターでの生活によって確実に変わった。
斜めに見れば、信者を増やすための布教活動、認知度を上げるための社会貢献の一貫とも思うけど、それを宗教組織がやることに、宗教の存在意義の根本がある。
コンクリートの上に腰かけて暖かいスープをすすった。
サンドイッチはとっておこう。
暖かい気持ち。そしてこの旅で初めての看板。
あがりは66カナダドル。
さて、どこからヒッチハイクしようかな。
トロントの街を突っ切る高速道路が走るハーバー沿いをひたすら歩いた。
んー、高速道路は高架になってるし、こんな大都会の真ん中でヒッチハイクできるような場所はない。
町外れまで行かなきゃ、と重い荷物を引きずって汗をかきながら歩く。
どこまでもどこまでも。
肩に食い込む荷物。
キャリーバッグを引く左手は関節が抜けそうになる。
ギターを持つ右手は手のひらの皮がずいぶん分厚くなった。
夕闇が迫り、車のヘッドライトが走り去っていく。
湖の上にポッカリと浮かんだ月。
ひたすら、もくもくと歩いた。
町外れまでまできた頃にはもうすっかり夜になって、湖は暗闇の中だった。
今日はもう無理かな。
朝が来たらヒッチハイクしよう。
近くの公園に潜り込むと、木陰にいいベンチを見つけた。
周りに人がいないかキチンと調べ、iPhoneのライトでベンチの上が汚れていないか確認。
そしてマットを敷いて寝袋に入る。
見上げると、巨大な風力発電の風車が夜空にそびえていた。
どうやらここは風車のすぐ足元みたい。
ぶおんぶおん、と闇を切り裂きながら回っている。
久しぶりの野宿。
夜風が冷たくて気持ちいい。
いや、ちょっと寒いかな。
いや、結構寒いな。
この新しい寝袋には、頭の部分がついておらず、口を絞ることができない。
震えながら寝袋に潜り込んだ。
うー、寒い。