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警察署で全裸

5月22日 水曜日
【ドイツ】 コンスタンツ
~ 【スイス】 ベルン







とんでもないことになった。


現在、頭がパニックの極みです。


これからの旅が大幅に激動してしまい、どうすればいいかわけがわからない。


そしてなぜか今、スイスの首都に向かって電車に乗ってます。



俺に何が起きているんだろう?


他人事のような気がする。


でも間違いなく、俺の問題で、俺にしか解決できない問題。



ゆっくりと思い出しながら、今日のことを書こう。

頭の整理も兼ねて。

電車の窓の外に流れる街明かり。

ここはスイス。














photo:01




朝、公園のベンチで目を覚ます。



頭上の不思議な形をした屋根に、バラバラと雨が叩きつけている。


寒くて寝袋の口を閉める。







ゆうべの空模様で雨が降るのは目に見えていたので、なんとか屋根のある場所を見つけられたのは正解だった。



目の前には湖が広がっている。

雨と雲にけむって、幽玄と静まっている。

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今思えば、この暗い風景がこの日のすべてを象徴しているみたいだった。

スイスとの国境の町、コンスタンツ。

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雨が小降りになったところで、寝袋をたたんで町に向かった。



それなりに大きめな教会が町の真ん中にあるだけで、あとはどこにでもある小さな町の光景。

photo:04




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傘をさし、カッパを着た人たちがチラホラと通りを歩いている。


こりゃあ、今日は路上できねぇなぁ。
せっかく稼げるからって聞いていたのに。

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5ユーロの美味しいランチを食べ、町の中を濡れながら歩く。

どこかいい屋根のあるポジションはないかな。



しばらく探していたら、デパートの横に軒がせり出している部分があった。

人通りもある。

申し分ないな。

photo:09






雨だし、30ユーロも稼げれば上出来だろうと路上開始。










名もなき町。

でもここで暮らし、ここが人生の全てだという人たち。


ブティックがあり、カフェがあり、八百屋さんがあり、学校があり、設計事務所があり、弁護士なんかもいるだろう。


幸せそうな家族連れ。

ヤンチャそうなスクールボーイ。

老人。


みんなここで生きている。



今日だけ、お邪魔いたしました。



photo:10




あがりは73ユーロ。













photo:11




さて、雨は相変わらず降り続いているが、スイスに行ってみようか。

濡れながら町の中を歩いて行く。






photo:12





住宅が並ぶこんな普通の道を曲がると、向こうのほうに駅が見えた。


田舎の、どこにでもある駅の姿。






しかし、その手前に有料道路の料金所みたいなゲートがある。

photo:13







あ、これが国境なのか。

ていうか同じシェンゲンなのに、ここには国境の検問があるんだな。


そこに一抹の違和感はあった。



でも、ヨーロッパのゆるい国境越えにすっかり慣れてしまっていた俺は、アホみたいにノコノコとカスタムへ向かった。





「こんにちはー。」


「おー、はいはい、パスポート見せて。お酒とタバコは持ってないねー?」



フレンドリーな雰囲気でパスポートをチェックするおじさん。





しかしすぐに顔が曇る。


そして中の誰かを呼び、数人の警官が出てきた。




「よし、ちょっと中に入って。」



まぁ見た目が見た目だからな。

軽いボディチェックされて終わりだろう。




「荷物はここ。こっち来て。」



奥の小部屋に連れていかれる。

無機質な壁と、小さなテーブル。





「ポケットの中身を全部出して。」



言われるままに全てのものをポケットから出す。

小銭や、色んな人からもらった名刺、iPhone。

ここに来るまでの電車のチケットをビニール袋に入れる屈強な警官。


「はい、じゃあ脱いで。」


上着を脱いで、シャツを脱いで、上半身裸になった。


「下もだよ。パンツも、すべてだ。」


「え?!ほんとですか!?」


「ほんとだよ。さぁ、早く脱ぐんだ。」



うす暗い部屋の中で全裸になった。

無表情のまま、俺の股間を見る2人の警官。

両手を広げ、一回転する。

お尻までしっかり見られた。






なんだこれは?

まるで凶悪犯罪者みたいだ。


俺がそんなに悪いことしたのか?

屈辱はなかった。

しかし面白い時間でもなかった。










服を着てから荷物のチェック。

すべてのポケット、すべての袋、テントの幕、汚れた靴下、

すべてを、蟻の子一匹見逃さないほどにくまなくチェックしている。






1年近く旅してるんだ。
色んなものがバッグの中にある。


「それはヨルダンでお世話になった人がくれたイスラム教の教本です。」


「それはハンガリーでもらった石鹸です。」


「それはロシアでもらったミリタリーの帽子です。」


「それは食べかけのパンです。」




やましいものは何も入っていない。
いくらでも見ればいい。





汚れ物の衣類を入れている袋を開け、臭くてゴホゴホ!!って鼻を押さえながら消臭スプレーをふきかける警官。

ちょっと傷つく。








「なんだこれは!!!!」


取り調べ官が声をあげた。

見ると、その手には大きな銃弾が握られていた。


あ、モンテネグロでお世話になったご家族がくれた弾丸だ。

戦争の象徴、カラシニコフの弾丸。





はい、もう俺ただのテロリスト状態。





「そ、そ、それはモンテネグロの人がユーゴスラビアの土産だって言ってくれ………」


「あ!!これはなんだ!!!」




さらに出てきたのは………


ブルガリアでもらった小さな香水。

彼女へのお土産よ、と言ってブルガリアの優しい家族がくれたバラの香水。


お土産物風の小さな木の容れ物に入っている。


これです。

photo:14







かぱっと真ん中から開けると、中にほんの小さな筒が入っていた。

俺も開けるのは初めて。


この写真は後から撮ったものです。この時は撮影する余裕なんてなし。

photo:15









今のこのシチュエーションで俺が持っていたら、完全に薬物にしか見えない。



「そこに置くんだ!!触るな!!」


そっと香水をテーブルに置く。


映画で見たことあるような検査キットが出てきて、慎重に香水を綿に染み込ませている。









無機質な取り調べ室の中。

さっきまで路上で平和を歌っていた旅人は、今やどこからどう見ても犯罪者でしかなかった。


でもまだこの時は自分にやましさがないことから、これ以上悪くなることはないだろうと思っていた。















荷物チェックが終わる。

香水はもちろんただの香水だった。

カラシニコフの弾丸は、まぁ覚悟したけれど没収だった。



しかし、本当の問題は別にあった。



「君はなぜここにいるんだ?君はまだシェンゲンに戻ってきてはいけないんだよ?」



頭が真っ白になった。


なんでだ?すべてキチンとやっているはずなのに。




スロバキアで受けた処分の内容を伝え、書類を見せる。


「彼らはシェンゲンを出てから3ヶ月後に戻ってきていいと言いました。この書類にそう書いています。日本語の通訳と一緒に何度も確認をしました。だから戻ってきたんです。」


「しかしシェンゲンの決まりでは、シェンゲン出国から1年間戻ってきてはいけないんだよ。」



いくら説明しようが、どうにもならない。
書類はスロバキア語。彼らはもちろん読めない。




次にシェンゲンで捕まったら大変なことになる。


何度も自分に言い聞かせ、細心の注意を払ってきた。



なのに………




あのクソスロバキアのボケ警察、テキトーなことばっかりやりやがって…………

訴訟もんだぞ、これ。




「僕は彼らが言った通りにキチンと守っています。罰金も払いました。」


なにを言っても、俺はもう不法滞在者。

さらに武器まで所持していた。




おそらく凄まじい罰金。



お金はない。



拘留?


強制送還?




俺の夢のすべてを詰め込んだ世界一周の旅が終わる。



頭が蒸発しそうだ。


ただひたすら、机の前でうなだれることしかできなかった。






















どれくらい経ったかな。



混乱していて、記憶がおぼろげだ。




「じゃあ、荷物をまとめて。」



警察署にでも連れていかれるのかな…………


「こちらがスイス、向こうがドイツ。どちらでも行っていいよ。」



「………はい?」



「しかし、4日だけだ。シェンゲンを4日以内に出るんだよ。わかったね。」




ぽいと外に放り出された。










……………










えーっと…………







どうしよう。















頭が混乱している。

4日?4日でシェンゲンから出ろ?



じゃあどこに行けばいいんだ?


ここはシェンゲンエリアど真ん中のスイス。


1番近いとこでクロアチアか?

それともロンドンか。


ていうかイタリアに行けない。


ギリシャにも南フランスにも。


楽しみにしていたピザ、パスタ、ジェラート、地中海の太陽の下で飲むカプチーノ。


もう行くことができない。




コロッセオも、パルテノン神殿も、メテオラも、モンサンミッシェルも。


行くことができない。





頭がどんどん混乱していく。



半年後にまた戻ってきていい?

でもスペインのスタンプが捺されているので、そこから数えて1年なのか?

そうすると、この旅中にはもう戻れない。




いやいや、まずは今の状況をどうするかだ。


整理がつかないまま、あてもなくスイスに足を踏み入れた。












フラフラと歩く。


どうしていいかわからない。


ひとりぼっち、ヨーロッパのど真ん中、突然言い渡されたタイムリミット。



4日なんて無理だよ………




とにかく、時間がない。
早急にロンドンに行かなければいけない。



のだが、このスイスでやらなければいけないことがひとつだけある。



それは、









「おじいさん!!クララが!!クララが立ったよ!!うわあああいい!!」




というのをトロールを使って再現するということ。

嘘です。



したかったあああ(´Д` )

いろいろしたかったあああああ(´Д` )







実はブログの読者さんが、スイスの首都にある日本大使館に折り紙を送ってくれてるのだ。


30日に取りにいきますと行っているので、まだ届いてはいないはず。


4日以内に出なければいけないのなら、もはや折り紙を受け取ることはできない。



絶望。


せっかく海外まで荷物を送ってくれたというのに、破棄することになるのか?



みすみすそんなことはしないぞ。


タイムリミットが言い渡された今、何よりもまずやらなければいけないのは、スイスの首都ベルンに行き、日本大使館で送られてくる荷物への対応を相談することだ。


もし可能ならロンドンの日本大使館に転送してもらえないかお願いしよう。



でもそんなことが可能かなぁ………












車道の脇を歩いていると、車にクラクションを鳴らされまくる。


歩道がないんだから仕方ない。


とにかく駅に行こう。



フラフラと力なく歩く。



カスタムに拘束されていたので、すでに時間は20時。

日が傾きはじめた空。


クラクションに責めたてられながら歩く。






「ヘーイ!!アルプスアルプスヨーデル!!」



車のドライバーから怒鳴られてしまった。

綺麗な女の人がすごい剣幕でこちらに叫んでる。


そ、そんなに怒らなくても………


ここは歩行者禁止の道なのかな。




それでも歩き続ける。

いっそこのままヒッチハイクしようかな。




すると、さっき反対車線から怒鳴ってきたあの女の人が、わざわざUターンして戻ってきた。


また怒ってる………

なんなんだよ、この人、もう勘弁してくれよ………






「何をしてるのあなたは!!こんなとこで!!どこに行くの!!」


「わからないです………ベルンに行くんです…………」


「ベルン!?ここから2時間もかかるのよ!!わかってるのあなた!!さっきあなた轢かれそうになってたのよ!!」


「はぁ……」


「あー!!もう!!乗りなさい!!チューリヒの近くの駅まで乗せてってあげるから!!早く!!」




その女の人はアジア系の綺麗な人で、とにかく早口でまくしたてる人だった。



「はい!!これ!!チョコレート!!全部食べて!!私いらないから!!でも体には悪いけどね!!イタリアには行かないの?イタリアは人生を楽しむためにある国なのよ!!カプチーノ!!」



助手席に乗ったはいいものの、わけのわからない展開に頭がついてこない。

そんな俺をお構いなしに、バッグの中からクッキーやらチョコを取り出してくる女の人。
名前はリア。



「あーん!?シェンゲン?ヨーロッパを出なければいけない?あそう。ふーん。ところで私には日本人の彼氏がいるのよ!!カズフミっていうの!!素敵なのよー!!」


「ていうかなんで、いきなりこんなことしてくれるんですか?」


「え?知らないわよ。理由なんかないわよ。それよりベルンから南にトゥーンっていう町があってそこは最高に美しい………」







彼女の弾丸トークは絶え間無く続き、高速道路を突っ走って、チューリヒの近くの地方駅まで連れていってくれた。


「ここからベルンに行けるから!!じゃ旅を楽しんでね!!」


「ちょ!写真だけいいですか!?」


「あー!!やめて!!じゃあね!!バイバイ!!」



落ち着きのない彼女。
走って車に戻り、あっという間に去っていった。

photo:16





嵐のように現れ、嵐のように去っていったな。



とにかく、ここからベルンに行ける。

やってきた電車に乗りこんだ。















スイスは小さい。
ほんの小さな国土の中に、数カ所、町が点在しているだけ。


なので移動距離も短い。

フランスの感覚で行くと、ここからベルンまでは20ユーロくらいの距離だ。

いくら物価が高いといわれるスイスでも、フランスと比較すればそんなに違わないだろう。


やってきた車掌さんに値段をたずねる。




「49フラン。52ユーロだよ。」





信じられねえ。



嘘ついてるんじゃねえか?っていう値段。



ほんの1時間半ほどの距離。

日本なら1500円も出せばいいだろう。

それが6500円。



あの超物価高かったフランスの倍。


スイス怖え………



でもその分、稼げる………




いや、もう稼ぐとかそんなこと言ってる状況じゃないんだよ。


大使館で荷物のことを相談をしたら、すぐにバスでロンドン行きだ。














ベルンの街に到着。


ここもなにやら歴史ある古い街並みが残る美しいところだそう。


そして銀行国家スイスの心臓部。
金持ちだらけの街。






………あー、いかんいかん。

そんな余裕ないんだよ。

うずく心を抑えて、荷物をかつぐ。










近くのバーガーキングでネットにつなぎ、大使館の場所を調べた。

街から歩いて30分くらいか。








夜の街を抜け、住宅地へ。

徒歩で20分ほど進んだだけで、周りは森だらけなった。


首都といっても、ドイツ、フランスに比べたらただの小さな地方都市レベルの街だ。

世界を動かすほどのパワフルな街だが。

photo:17




















日本大使館の近くに手頃な森があって、その中に廃屋がたたずんでいた。


このところ連日の雨で、おそらく今夜も降る。

廃屋にはおあつらえの軒が出ており、その下にベンチまであった。



マットを敷いて寝袋にくるまる。



時間はすでに深夜の3時。



明日朝イチで日本大使館だな。













寝袋の中で何度も寝返りをうつ。

体は疲れ切っているのに、目が冴えて眠れない。

怒涛の1日、早く眠りの世界に逃げてしまいたいのに。



ロンドンに行く。




あ、ダメだ。

ロンドンのお金は英国ポンド。
ここはスイスフラン。




俺は今まだ大量のユーロのコインを持っている。
こいつを紙幣に換えないと、もうユーロ圏には戻ってこない。


ていうかイギリスってとんでもなく入国が厳しい国だそう。



イギリスでの滞在先のホテルをすべてブッキングしないといけない。



さらにイギリスを出国するチケットも手配しないといけない。






どうする?


どうすればいい?



あと3日。

あと3日で全てを完了させてロンドン。







やるべきことがバラバラに散らばる頭の中。

なんとか拾い集めて整理しようとするが、現実味のない事柄だらけでどうにもならない。


その度に体が熱を持って、また眠りから遠ざかる。









あああ、どうすればいいんだ。

森の中の廃屋のベンチ。


ひたすらゴロゴロと寝返りをする寝袋の中。

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