4月16日 木曜日
【スペイン】 ブルゴス ~ サン・セバスチャン
次に進むぞー!!!
パリまであと3日!!!
や、やべえ(´Д` )
結構焦ってきた(´Д` )
マジで着けるのか?
次の目的地はフランスとの国境の街、サン・セバスチャン。
ここまで行けばパリまでの何かいい交通手段があるはず。
高速バスなり夜行列車なり。
サックス吹きのカッピー、バイオリン弾きのナナちゃん。
彼らと東京タワーの打ち合わせをしたいので出来れば19日の夜にはパリに入りたい。
となると、もうそれこそ時間がない。
サン・セバスチャンまでのバスの値段は17ユーロ。
ちょっと高い。
電車だったらもう少し安いかもしれない。
重たい荷物を担いでひーこら言いながら2人で駅を目指す。
キャリーバッグのタイヤががたついていて重さが倍くらいになってやがる。
うー、重い。
iPhoneの地図を見ながら30分ほど歩き、ようやく駅に到着。
あ、あそこが入り口かな。
さー、電車だといくらでサン・セバスチャンまで行けるかな………
クソが。
クソ。
隣に誰かが、殺す、と書いています。
僕らがスプレーを持っていたら、チンカス、と書いたことでしょう。
なんだよー!!
廃墟ってどういうことだよー!!
そんなネタいらねーよー!!!
バスの時間は16時。
まだお昼。
ひとまずご飯を食べながらミユキさんと作戦会議。
「あれ、やっちゃいます?」
「えー!!怖い!!……でも、やりたい!!」
「よし!!やっちゃいましょう!!」
あれとは………
これですね。
ビビりながら親指を立てるミユキさん。
腕の曲がり具合に、恥ずかしさが表れてるね。
「もー、なんかフミ君と会ってから初めてなことばっかりだよー。なんだか夢見てるみたい。」
ヒッチハイクも、テント泊も、路上パフォーマンスも、俺にとっては日常。
彼女にとってはとても刺激的なことなんだろうな。
「やっぱり東京ラブストーリーが好きなんですか?」
「そうよぉー!!みんなカンチのこと好きだったんだから!!ワンレンボディコン爪長ハイヒール!!ロンバケもよかったなー。」
「ジャンプは何読んでました?幽遊白書とかターチャンとか。」
「あれは男の子たちのよー。私たちは別マよー。別冊マーガレットを授業中に回し読みしてたなー。」
楽しいけど止まらない。
街の真ん中でのヒッチハイクなので全然止まらない。
でもそんなお互いの時代の話をしていたらあっという間に時間は過ぎた。
むしろこのまま車が止まらないでずっと話していたいと思えるほど、居心地の良い道路脇の時間。
そうこうしていると時計はいつの間にか15時を回った。
仕方なくヒッチハイクは諦めてバスステーションに行き、17ユーロのチケットを買ってバスに乗りこんだ。
バスはのどかな草原の中を走り、山あいの道を抜けていく。
いくつもの小さな町を通り過ぎて行くが、このあたりに入ってからどこか建物の雰囲気が様変わりした。
どこかひなびた、それでいてカラフルでメルヘンチックな建物が密集する、まるで団地のような作りの町並みの集落。
おそらくバスク地方ってやつに入ったんだろう。
童話に出てくる木こりなんかが住んでいそうな、そんな木の香りのする町並みだ。
山あいを抜け、海沿いの大きな街に入った。
ここはフランスとの国境の町、サン・セバスチャン。
海に飛び出した旧市街と、そこから流れこむ川沿いに新しい近代的な街が広がっている。
小さな田舎を想像していたのに、美しい並木の通りには高級そうなブティックが立ち並び、歩いてる人たちのお上品なこと。
俺は全然知らなかったんだけど、ミユキさんが行きたがっていたこの地方をバスク地方という。
どんなとこなんだろ。
ミユキさんが言うには、自分たちをフランス人ともスペイン人とも称さず、バスク人として独立した文化を持った人たちの地方だという。
よくデモをやっているっていう話。
へー、そうなんだー、と話しながら街の中心部に歩いて行くと、早速広場でデモに遭遇。
情報通りすぎ(´Д` )
なのでとりあえず混じってビールを飲みますね。
全然デモの内容に興味ないけどね。
話聞いたら、なんか8人の若者が政治に反対してアクションを起こしたところ捕まってしまい、その彼らの裁判が今夜くだるんだそう。
若者層の声を代表した行動に出た結果なんだろうな。
だからこんなに支持されているんだろう。
別に興味ないのでビールだけ飲んだくれて、デモから離れた。
完璧な碁盤の目になっている旧市街の中は、車の入れない歩行者のためだけの地区。
この両側の建物がそそり立ち、谷底にいるかのような錯覚になる路地には…………
おびただしい数のバー。
こっちに曲がっても、あっちに曲がっても、ひたすらどこまでもバーだらけの飲み屋街。
その光景はまるで中世から何も変わっていなさそうなレトロな風情。
昔ながらな雰囲気のバーもあれば、とてもファッショナブルなお店まで、これぞヨーロッパの飲み屋街ってな感じ。
まぁ人々の楽しそうな顔を見ていると、飲みたくなること必至。
だいたいどこのバーにもイベリコ豚の足がぶら下がり、ピンチョスという揚げ物中心の一口オカズがカウンターにズラリと並んでいる。
みんなそれらをつまみながら美味そうにワイングラスを傾けている。
うーーーー、飲みてえ、混ざりてえ(´Д` )
しかし、お店で飲むほど贅沢はできない。
我慢して賑やかな旧市街の通りを抜け出した。
河口の突端に向かって歩く。
暗い路地裏に教会の塔がすっくと背伸びしている。
潮風が鼻をくすぐり、遠い故郷の風景がふと浮かんでは消える。
岸壁沿いに出て、遊歩道を進む。
ゴゴーン………
ゴゴーン………
と地鳴りのような音がして岸壁から下をのぞいたら、そこには真っ黒な海が口を開け、うねりながら防波堤を殴りつけていた。
潮騒というよりは何かのうなり声のようなその波の音を聞きながら、テントを張る。
いつの間にかテントを立てる際の俺とミユキさんの役割分担ができあがっていて、もうお互い何も言わなくてもテキパキとことが運ぶ。
荷物を入れ終えて防波堤に行き、海を眺めた。
毎日が慌ただしく過ぎていく。
どこに行っても町はあるし、人が生活している。
この暗い海の中になら、人を感じない場所があるだろうな。
深い深い海の底、光も音も何もない砂の上にゆっくり落ちていくような、自分の体をイメージする。
浮遊するゴミの中をゆっくりと。
夜の海には引き込まれるような怖さがある。
飛びこんでしまいたくなるような。
「夜風で風邪ひくよ。私寝るね。」
テントに潜って行ったミユキさん。
しばらくしてから俺もテントに戻った。