4月14日 火曜日
【スペイン】 サンティアゴ・デ・コンポステーラ ~ ブルゴス
目を覚ましてテントをたたんでいたら、昨日差し入れでもらったチョコレートがポケットの中で溶けてベロベロのぐちょぐちょになってて俺はなんてダメなやつなんだ、と肩を落としていたら、いい匂いがしていいじゃーん、とミユキさんが濡らしたティッシュでトントン叩いてチョコを取ってくれた。
1人でいたら立ち直るのに3時間くらいかかるけど、ミユキさんのおかげで30秒。
さすが白魔法使い。
お、俺ナイト的な仕事してねぇ(´Д` )
ていうかナイトというより、運任せの風水師。
役立たねえ(´Д` )
たまにパーティに被害与えるし(´Д` )
そんな地形を利用した雑な戦いをする風水師の仕事は、路上で歌を歌うこと。
もう何日連続で歌ってるだろう。
喉は枯れて、体も疲れ切っている。
休みの日が欲しい。
しかしもうパリまで1週間を切っている。
まだかなりの距離があるので、確実に毎日バス代を稼ぎつつ進まなければいけない。
街のチョイスもミスれないし、休むことも出来ない。
1日たりとも無駄にすることはできない。
「あら?日本人?あらまぁ!!みなさーん!!こちら日本の方ですよー!!」
「なになに?!どれどれ?!」
「あらまあぁぁ!!」
そこにやってきたのは、日本人の団体旅行ご一行様ああああ!!!!!!
ボーナスステージきたあああああああああーーー!!!!!!
サンティアゴの旧市街に、上を向いて歩こうの大合唱&手拍子。
「頑張って!!」
「頑張るのよー!!」
約30人みんながバンバンお金を入れてくれ、お昼のあがりは55ユーロ!!!
おっしゃあああ!!!
上品なおじさまおばさま!!!
ありがとうございました!!!
休憩を挟んで、夕方にもう一度路上に出る。
気合いを振り絞って歌いまくる。
雨が降ってきた。
それでも屋根の下に入ってギターをかき鳴らし続ける。
根性だぞー、
俺、根性だー
しばらくすると、ギターを持った地元の兄さんがやってきて、俺いつもここで歌っててそろそろ交代しないかい?と交渉してきた。
ヨーロッパの路上パフォーマンスは場所取りが厳しい。
いい場所には必ず誰かが陣取ってやっているもの。
なのでこうした交渉というものが存在する。
だいたいヨーロッパの路上は2時間交代というのが相場。
誰も来なければいつまででもやっていいが、交代交渉がくればキチンと時間を話して譲らなければいけない。
もちろん快く了解。
あと30分だけやらせてね、とお願いし、夜のあがりは17ユーロ。
合計72ユーロ。
「君はすごいシンガーだよ。この町でそんなに稼ぐなんて。もちろん歌が素晴らしいからだけどね。」
彼の名前はマルコ。
テイラーのギターでしゃがれた声で歌う、とてもいい歌い手。
しかしお金の入りはポロポロ。
そりゃそうだ。毎日毎日ここで歌っているんだから、悪くいえばみんな飽きているだろう。
俺は日本人だ。
俺の稼ぎには、アジア人が歌っている、という物珍しさというのが多分にあるだろう。
もちろん調子の悪い時には、全然稼げない。
物珍しさだけで稼いでるわけではない。
だから路上で歌うことにある程度の覚悟と責任を持ってやっているつもりだ。
マルコの歌にもそれを感じる。
芯のあるとても強い声。
「今はまだシーズンじゃないんだ。夏になったらすごい人で溢れかえるんだぜ。」
人々の日常にほんの少しのささやかな感情を与える路上パフォーマンス。
ほんの小さな、心の中の感情の欠片に気づくためのキッカケとなる歌。
そんな感じがいい。
大げさじゃなくていい。
マルコ、いい歌をありがとう。
ミユキさんがチャリンと彼のギターケースにお金を入れた。
土砂降り雨の中、いつものカフェに行き、いつものミートソーススパゲッティ。
うまい。
ビール飲みてぇ。
でも我慢。
夜のために我慢するということを、とてもよく理解してくれる飲み助ミユキさん。
お世話になったマスターに別れを告げ、店を出た。
雨は相変わらず土砂降り。
バスステーションまでは歩くと30分かかる。
俺1人ならなんとかなるが、デカいバッグパックを担いだミユキさんもいる。
たまには贅沢。
タクシーに乗った。
バスステーションまで7ユーロ。
さて、ここからどこに向かう。
もうバルセロナは無理だ。
日程的にも金銭的にもバルセロナに行ってる暇はない。
サグラダファミリアはひとまずお預け。
行ったり来たりってのは不本意だけと、後でイタリアを回る時に足をのばすとしよう。
こっからパリまで最短距離で突っ走る。
海沿いのバスク地方からフランスに突入するしかない。
夜行バスに乗り、明日の朝にどこかの町に着けば、そのまま歌うことができる。
ほとんど眠れないだろうけどなんとかなるさ。
なんたって、今は白魔法使いと旅してるんだ。
体はきつくても、心は潤っている。
41ユーロのチケットを買い、スペイン北部の真ん中あたりにあるブルゴスという町へ向かうバスに乗り込む。
巡礼を終えて帰るピルグリムたちに混じってシートに座ると、ミユキさんがバッグの中からアレを取り出した。
「えへへへ、こっそり飲もうね、楽しいね、こういうの。」
ビール(^-^)/
走り出したバス。
車内の電気が消え、そしてビールをあおった。
アルコールが疲れ切った体に染み渡る。
さすがは白魔法使い。
最高のケアルだよ。