3月6日 水曜日
【エジプト】 ダハブ
寒い………
頂上に着き、日の出までは山小屋で待機できるんだけど、建物の中でも寒い。
ロシア人の団体がガヤガヤと楽しそうに笑っている。
みんな山小屋で貸し出ししている毛布に包まっているんだけど、20ポンドもする。
我慢しながらショウゴ君とオニギリをかじる。
サンレストランのママが作ってくれたお弁当だ。
35ポンド、480円で唐揚げと玉子焼きがついている。
しばらくして外に出た。
空の端がうっすらと赤くなってきている。
夜がギザギザと切り取られている。
はるかな山並みのその向こうはすでに朝なんだろう。
最後の階段を登ると、すでに日の出を拝むための場所取りでたくさんの人々が待ち構えていた。
そんな中にカッピーとナナコちゃんの姿。
「寒いねー。」
「寒いけど綺麗だね。」
崖の上に座りこんで、遠く明日を見つめる。
あの日の中に、たくさんの希望や不安がある。
望まない日なのか、待望の日なのか。
涙を乾かしてくれるか。
暗闇が薄れていく。
山の稜線が濃くなり、しだいにかすんでいく。
周囲の山も照らし出され、その壮大なひだや曲線があらわになっていく。
そして光線がほとばしりでた。
ごく当たり前の、毎日毎日繰り返されていることなのに、どうしてこんなに綺麗だと思えるんだろう。
感動していると、色っぽい顔をしたナナコちゃんが近づいてきて言った。
「フミ君、やろうか。」
ちょ、な、な、なんてことを(´Д` )
こんなとこでヤっちゃうなんて恥ずかしい!!
こ、コンドームも持ってきてないし、でも十戒のあれだから10回しないといけなばばばばばば。
というわけで、声疲れ切ってるけど、
ライブ in シナイ山山頂
こんな山、ギター持って上がるとかアホですか?
あ、アホがもう1人(´Д` )
バイオリン持って上がるナナコちゃん(´Д` )
新鮮な太陽が、荘厳な山並みを照らす。
薄くかかった雲海の向こうには神話の物語。
清浄な空気、ギターとバイオリンの音がきらめく。
ふと、トムウェイツのOl’55を歌った。
スピードを落とせば
神聖な気分
生きてるって思えたんだ
太陽が今登っていく
幸運の女神を連れて
ハイウェイの車とトラック
星が消え去り
パレードを先導するんだ
曲が終わると、人々から拍手が起こった。
ここはエジプト、シナイ山。
3200年前にモーセが神から十戒を授かった地。
生きてるって気がしたよ。
帰り道。
ゆうべは暗くてわからなかった山の形や岩肌が、朝日に照らし出されて赤く乾く。
息を飲む曲線やヒビ、ダイナミックな崖の隙間を下っていく。
この世の終わりのような、荒涼とした無機質さが美しさを放つ。
疲れきった足がピクピクと震えてしまうが、みんな早く降りてしまいたくて足取りは軽い。
1時間ほどであっという間に平坦な道に降りてきた。
ここで休憩。
鬱陶しいベドウィンたちに声をかけられながら9時のオープンを待ち、カテリーナ修道院の見学。
紀元300年ほどに作られたというこのキリスト教の修道院。
モーセはキリスト教でも、ユダヤ教でもイスラム教でも、偉大な預言者として信仰を集める存在だ。
ここまででシナイ山巡礼は終了。
ベドウィンのラクダひきにひたすら絡まれながらバス乗り場まで歩き、ゆうべと同じバスに乗ってダハブに帰る。
ガイドのお爺ちゃんは最後の最後まで見送ってくれた。
これからも毎日、世界中からやってくる人々を引き連れて山を登るんだろうな。
すごい人生だな。
ダハブに帰ってきた。
すぐに寝ようと、疲れ切った身体を引きずってサンレストランの階段を登る。
「ママ、ただいまー…………あれ?」
「飲もうよう!!美味しいビール飲もうよう!!」
暖かい日差しが踊るサンレストラン。
そこにはさっき頂上で一緒にいた、サックス吹きのカッピーがニコニコしてビールを飲んでいた。
なぜカッピーと呼ばれているかと言うと、顔がカピバラに似ているから。
なのだが、俺とショウゴ君からはパンツをいつもカピカピにさせているからカッピーなんだよね、スケベだね、と言われている。
ショウゴを起こそうということになり、やつのドミトリーへ。
勝手に中に入り、疲れてグッスリ眠っているショウゴをニヤニヤしながら取り囲む。
「……………う……うん………な、なにしてんだっぺや……」
「ねぇ、あのさ、飲もうよ。」
「寝ろよー!!ゆうべ寝てねーっぺよー!!」
「だって楽しいじゃん。ダハブだよ。恋しようよ。ほら、早く起きなよ。」
「なんなんだよー、この人たちおかしいよー、シナイ山登ったばっかりなんだからもうちょっと………シャワー浴びてくるっぺよ。」
ひたすら飲みまくり、夜はラッシュにライブを観にいき、疲れ果てて気絶したのが………
時間覚えてない。
ダハブは夢の国だ。