2月14日 木曜日
【イスラエル】 テルアビブ ~ エルサレム
朝テントから出ると、カオルさんが火を起こしていた。
「おはよう、コーヒーできてるよ。」
「あ、でも僕コップ持ってないです。」
「コップなんてペットボトルをカッティングすればいいじゃん。」
単純なこと。
しかしこの感覚をずいぶん忘れてしまっているな。
なければ買う、じゃなくて作るんだ。
「あ!!!」
「ワッツハップン?どうした?」
「バッテリー忘れてきた………」
やっちまった………
昨日のイブラヒム爺さんの宿にiPhoneのバッテリー関係をすべて忘れてきてしまった………
やべえ!!
どうしよう!!!
取られてないか!!?
いや、ドミトリーには日本人しかいなかったし、みんないい奴らだった。
彼らは昨日1日滞在していたのでおそらく発見してくれている。
「大丈夫大丈夫。日本人はスティールなんてしないよ。心配しなくてもいいさ。」
そう言うカオルさん。
うん、たぶん盗まれてはいない。
しかし、すでにiPhoneの電池は切れる寸前。
取りに帰らないといけない………
あああ!!!
これからイスラエルを北上してハイファやナザレに行こうと思ってたのに!!
無駄すぎる………
エルサレムに取りに戻って、またテルアビブに帰ってくるか?
バス代の無駄。
チクショウ………
もういいや。
エルサレム、いい街だし、向こうでしばらく金を作るとするか。
「そっかー。そうだな?俺ももうテルアビブ飽きたし、エルサレムにチェンジしてみようかな。」
というわけでカオルさんも一緒にエルサレムに行くことに。
ここから2人の路上パフォーマーのバスキング旅が始まった。
3週間泊まったキャンプ地を綺麗に撤去し、ゴミもちゃんとゴミ箱に捨て、バスステーションへ。
昨日と同じルートでエルサレムに戻った。
昼にイブラヒム爺さんのところに行っても、たぶん日本人のみんなは観光に出かけているだろうから夜に行くとして、俺はすぐに路上開始。
カオルさんはネタ集めをしてくると俺の横に荷物を置いてパームツリーを探しに行った。
彼のパームウィービングは元手がかからない。自然の葉っぱで作るわけだからね。
しかしその葉っぱも採る場所によって硬さや新鮮さが違うようで、カオルさんが1番使いやすいのは頂点部分の若い葉っぱなんだそう。
カオルさんがネタ集めに行ってる間、いつものトラムストリートで夜まで歌い、たくさんの人とお話しして、今日のあがりは153シェケル。
しばらくしてカオルさんが身体中に木の枝をつけて戻ってきた。
悪戦苦闘の木登りをしたんだな(^-^)/
「フミ君!!いい寝場所見つけたよ!!ここから近くて綺麗な公園で人が来ない場所!!あそこいいよ!!」
「あ、カオルさん、そこゲイが来る公園です。」
やっぱり同じ野宿旅人。
目の付け所が一緒(´Д` )
それからカオルさんは1番人出の多いマクドナルドの通りでパフォーマンスするというので、彼の横に俺の荷物を置かせてもらって、イブラヒム爺さんのとこにバッテリーを取りに行った。
いやー、2人行動だと荷物を離せるから楽だ。
治安の悪いアラブ人地区でバカなガキたちに絡まれながら歩き続け、イブラヒム爺さんのとこに到着。
「あ、フミさん、これですよね?」
大学生のカイト君が自分のベッドの下に隠して持っていてくれた。
ありがとう、カイト君!!
盗難以外で物を無くすなんて間抜けもいいとこだ。
バッテリーがなくなったらマジで途方に暮れるしかないもんな。
ほんと気をつけないと。
無事バッテリーをゲットして、夜の新市街に戻ると、ものすごい人通りで溢れていた。
今日は木曜日。
金曜日がアラブ人の休みなので彼らがわんさか歩いているし、そして今日はバレンタインデーでもある。
俺たち路上パフォーマーには稼ぎ時ってわけだ。
そんな新市街で1番の人通りがあるマクドナルドの通りは、物凄い喧騒だった。
無数の路上ミュージシャンが5mおきに楽器を鳴らしており、カフェもレストランも人でごった返している。
そんな通りの真ん中で、絶えず人だかりを作ってるパフォーマーがいた。
カオルさんだ。
楽しそうに人々とお話ししながら忙しく手を動かしている。
彼の得意な編み物は、バラ。
ただのパームツリーの葉っぱを軽快に編み込み、美しいバラを作り上げてしまう。
風船をクルクルひねって動物を作るパフォーマンスはどこでも見ることができるけど、パームウィービングなんて珍しいものなかなかお目にかかれない。
しかも自然の物ってのがまたいい。
さらに今夜はバレンタインデー。
緑色の綺麗なバラをプレゼントに添えたりしたら、オシャレだよね。
「いやー!!もうダメ!!疲れた!!いくら作っても時間が足りないよ!!」
カオルさんのパームウィービングは値段がない。
気持ちでもらっているので、2シュケルしかくれない人もいれば20シュケルをくれる人もいる。
「いやー、10歳くらいのチャイルドにちゃんと値段つけないとダメだよって言われちゃったよ。さすがユダヤ人はマネーにしっかりしてるね。」
今日のあがり勝負は軽くカオルさんの勝ち。
2人ともいい路上ができた充実感で気分よく歩き、寝床へ。
俺が前回泊まったオールドシティーの東壁ぞいにある林へ連れて行った。
「お、いいじゃんいいじゃん!!ここすごくナイスだよ。人も来ないし、民家も近いし、ほら、火を焚いた跡もある。やるねー、さすが野宿旅人!!」
ここにはブロックで囲んだ焚き火の跡があり、周りに太い木の幹が椅子のように置いてある。
すでにキャンプ地が用意されてるようなもんだ。
木の枝を集めてきて、早速そこでサラダとカオルさん特製の炊き込みご飯を作った。
水もスパイスもすべて目分量。
そしてカオルさんは野菜を切る前にはキチンと手をアルコールで消毒する。
見ていてすべてが理にかなっているから気持ちいい。
「外食でもチープなとこはチープだからそれでもいいんだけどね、やっぱり野菜を食べると美味しいし体にもいいよね。」
ああ、気持ちいい。
なんて贅沢なんだろう。
火をおこし、美味しい野菜を食べ、自然を全身で感じ、夜に抱かれて眠る。
宿では絶対に得られない感覚。
それを旅しながらやってるカオルさん。
その国、その土地の食べ物、空気を知る1番の方法だ。
エルサレムの怪しい歴史の空気をさまようように、火を囲み、時間を忘れて2人で旅の話をした。