1月18日 金曜日
【キプロス】 ケリネイア
朝8時。
船から降りた。
大きな防波堤がのび、潮の匂いが鼻をくすぐる。
久しぶりの島だな。
スウェーデンのゴットランド島以来か。
ここはキプロス。
岩壁沿いに歩いていくと、カスタムがあった。
簡単すぎるほどのパスポートチェックで、すんなり建物をくぐりぬける。
まぁね、言ってもこの北キプロスはトルコエリアだからね。
同じ国内みたいなもんだから、そりゃあ簡単なのもわかるよ。
しかし、問題は…………
南キプロス。ギリシャエリア。
本土のギリシャがシェンゲン加盟国なので、おそらくここもそうだろう。
シェンゲンだったら俺は入ることができない。
すでにヨーロッパで3ヶ月使ってるからね。
ていうかオーバーステイやってるから(´Д` )
入れないということは、イスラエルへの船が出ている港町まで行くことができないということ。
つまりキプロスに来たこと自体がクソ無駄ってことになる。
なんなんだよ!!だいたいさぁ!!
キプロスって独立した国なんじゃないの!?
なんでトルコエリアとギリシャエリアに分かれてるの!!??
チンカス!!
すみません、トルコ出ましたからね、そろそろ下品なことは書かないようにしましょうね。
というわけで久しぶりのミニお国情報コーナー!!
キプロスチンチン!!!
★首都……ニコシア
★人口……87万人
★言語……ギリシャ語、トルコ語
★通貨……ユーロ、トルコリラ
★宗教……オルトドクス、イスラム教
★世界遺産……文化3件
ローマ帝国、ヴェネチア帝国の時代を経て、オスマン帝国領となるが、その後、オスマン帝国の衰退とともにイギリスがやってきて奪われる。
第二次世界大戦後、1960年に独立。キプロスという国になる。
国内に住むギリシャ派の人々はキプロスはギリシャに併合されるべきだと主張。
トルコ派の人々はトルコとギリシャで分け合いましょうよと穏やかに提案。
しかし両者の対立はどんどん深まっていき、1974年にギリシャ派がクーデターを起こし、それに呼応してトルコも軍事介入。
トルコ系住民は北に移動し、ギリシャ系住民は南に移動した。
これにより、現在の南北対立の構図が出来上がったわけだ。
現在、キプロスというと南のギリシャサイドのことを指す。
北キプロスはトルコ以外、世界中が国家として認めていないので、トルコによる占領地といった扱いみたいだ。
どっちが悪いとか言えないよな。
さて、そんな複雑な事情を持つキプロス。
ケリネイアの町はフェリーが発着する町なだけあって、それなりに栄えている。
お金はもちろんトルコリラ。
とりあえずご飯を食べようかなー、って、
物価高え(´Д` )
ご飯が普通に10トルコリラとか12トルコリラ。400~500円。
1番安いケバブでも6トルコリラはする。
トルコの田舎では2トルコリラでケバブとアイランってヨーグルトのセットが食べられたのに!!
さすがは島だな。
そしてユーロ圏であるギリシャと接しているだけある。
ぶらぶら歩いてハーバーに行ってみた。
オシャレなカフェやレストランが岩壁に並び、波止場にはたくさんのクルーザーや漁船が係留されている。
クロアチアのドブロブニクとまではもちろんいかないが、この町にも海に突き出した古い城壁がある。
潮風が故郷を思い出させると同時に、はるかに遠くの地に来たんだということをしみじみと歌ってくれる。
しばらくベンチに腰かけて潮騒を聞いていた。
さあ、国境問題で頭が痛いけど、悩んでもしょうがないのでとにかく歌おう。
路上を始める前に腹ごしらえ。
ケバブ高え(´Д` )
たったこれだけで6トルコリラ。250円。
大したことねぇやんって思うだろうけど、トルコ本土に比べたら倍以上。
よし!!!車がガンガン走っているメインストリートに場所を決め、張り切って路上開始!!!
さぁ、キプロスの人は受け入れてくれるかなー。
まあ同じトルコ人だから大丈夫だろう!!
すると1人の兄ちゃんが怪訝そうな顔で俺の前に立ち止まって、じーっと見てくる。
ニコッと笑顔をしたら、そいつ顔色を変えずに中指を立ててきた。
ので俺もニコッと笑いながら中指を立ててやった。
2mの距離で中指を立て合うトルコ人とアジア人を見て、みんなが驚いてる。
なにこれ(´Д` )
俺に視線を残しながら歩いて行った兄ちゃん。
くそー、キプロスなかなか厳しいじゃねえかと思ったら、その兄ちゃん、通り過ぎる人みんなに中指を立てて回っていた。
なんだ、ただのクレイジーか。
いきなりそんなことがあったものの、やっぱりここはトルコ。
たくさんの人が聴いてくれ、あがりは128トルコリラ。
そして、キプロスでは警察が止めてこない!!!
やったぜええ!!
歌い放題!!
これで思う存分稼げるぞコノヤロウ!!
キプロスでは歌えることが分かった今、問題はギリシャ側に入れるかどうかという一点。
とにかく調べることが最優先。
通りにあったツアー会社に入ってみた。
怖え!!!
真実を知るのが怖え!!
ダメだったらトルコに戻らないといけないんだもん!!
恐る恐る聞いてみた。
「あ、あ、あ、あの、ギリシャ側に行きたいんですけど、行けるんですか?僕日本人です。」
「どこからキプロスに入ったの?」
「あ、トルコのタシュジュからフェリーで来ました。マジ日本人です僕。紅茶とかすごい飲んでます。」
「そう………申し訳ないんだけど、トルコから入ったのなら行けないわ。ギリシャ側に行くためには、ギリシャ本土から渡らないとダメなのよ。ごめんね、馬鹿な法律で。」
はい終了。
終、了。
トルコに戻るの決定。
トルコからシリアへ突入決定。
そんなにですか。
そんなに対立してるんですか。
ていうか国境ってなんですか?
国ってなんですか?
宗教って?人種って?
入れない。
ギリシャ側に行けない。
絶望。
マジで絶望おおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!
いーや、俺諦めねーぞ。
絶対諦めない。
こうなったら国境まで行って直談判してやる。
1番近い国境はここから島の中央に向けて走ったところにあるキプロスの首都、ニコシア。
地図を見るとニコシアの街の真ん中にボーダーラインが引かれている。
ここに行ってやる。
5トルコリラ、210円で乗り合いタクシーに乗り込み、ニコシアへ向かった。
広大な平野の中を走ること30分ほど。
乗り合いタクシーは首都のニコシアに到着した。
そこには恐怖の光景が待ち受けていました。
「ここが中心部だよ。」
いやいや、何言ってるの?
これが中心部なわけないでしょ?
お願い違うって言って………
なんなんだよこれ?
なんなんだよ、このゴミだらけの街は。
なんなんだよ、メインストリートなのに廃墟だらけって。
なんでこんなに暗いんだよ。外灯が全然ついてねえ。
これが首都、ニコシア。
ゴミの街。
やべえ。危険な臭いしかしねえ。
一体どういうことだ。
いたるところに山のようなゴミだらけ。
生ごみとか色んな臭いが鼻をつく。
フラフラと歩く人影。
戦後?
まがりなりにもここは首都だよな?
なんでこんなにボロボロなんだ?
これが政治によるものなのか?
暗い廃墟の道を1人歩いた。
嘘みたいなボロボロの街を。
路地を抜けて行くと、ほんの気持ちばかりのショッピングストリートがあった。
汚いお店にはシャッターが降り、静まり返っている。
野良犬の声が響く。
怖え、マジで怖え。
その時、ショッピングストリートの中に灯りのついたチャイ屋さんが見えた。
よし、あそこで落ち着こうと近づいていくと、
ん?チャイ屋さんじゃない。
何かの窓口が並んでいる。
警備員が立っている。
「パスポート見せて。」
マジか!!!
これが国境か!!!
頭が混乱したままパスポートを見せる。
出国のスタンプが押される。
「あ、あ、あ、あの、入っていいんですか?」
「この先にギリシャ側のゲートがある。入れるかどうかは彼らが決める。」
言われるままに、うす暗い外灯が照らす無機質な直線を歩いた。
両側には高い壁が立つ、細い一本道。
そしてギリシャ側のゲートに着いた。
パスポートを見せる。
心臓がバクバク音を立てる。
検問所の女の人がチラリとパスポートを見る。
そしてろくにチェックもせずにパスポートを返してくれた。
え?なに?終わり?
「あのー、こちら側ってシェンゲンエリアなんですか?僕日本人です。」
「シェンゲン?違うわ。EUではあるけど、まだシェンゲンではないわ。旅を楽しんで。」
整理がつかないままゲートを抜ける。
そこにはこれまた信じられない光景が広がっていた。
なんだこれ…………
マクドナルド、ケンタッキー、スターバックス、色とりどりのネオン、ゴミひとつない石畳、賑やかな喧騒、
ゲートから先には、これまで見てきた美しいヨーロッパの街並みがあった。
金曜の夜の街には、楽しそうな人々の笑い声。
オシャレでモダンなファッション。
路上でギターを弾いて歌ってる人。
ミニスカートの女の人は頭にカバーをしていない。
な、なんだこれ!?
同じ街だよな……?
同じショッピングストリートだよな?
あれ、俺どこに来たんだっけ?
頭が混乱する。
マクドナルドの前でiPhoneを開いた。
当たり前にフリーのWi-Fiが飛んでいた。
ちょ、ちょっと、なんだよこれ?
なんなんだよ、この変わり方!!?
信じられねぇ!!
なんでこんなにも違うんだ!!
頭が混乱してしょうがない!!
俺はギリシャ側に入った。
ここはシェンゲンではない。
そうだよ、これで俺は先に進める。先に行けるんだ。
嬉しくてしょうがないんだけど、
だけど、なんだこの気持ち。
同じ街の、1番賑やかな場所に国境があって、こっちと向こうでこんなにも変わるなんて。
こんな世界があっていいのか?
と、と、とにかく、めでたいんだよ!!
今、飲まずしていつ飲むんだ!!
コンビニでビール購入。
コンビニで酒が買える?
そうだよ、ここはイスラム国ではないんだ。
そしてお金もユーロになった。
綺麗に整備された公園に寝床を決め、ベンチでビールを飲んだ。
やっと落ち着けたところに、2人組の男が近寄ってきた。
「ここで何してるんだ?」
流暢な英語。
ギリシャ側の人は普通に喋れるようだ。
「どこからこのキプロスに入ったんだ?」
「タシュジュから来ました。」
「あ!?それはトルコじゃないか!!どうして今ここにいるんだ!!違法だぞ!!どうやってギリシャ側に入った!?」
いきなり不機嫌になる兄さん。
違法?どういうことだ?ちゃんとゲートをくぐってきたのに。
とにかくヤバイ。
これがギリシャ側の意識なんだ。
なんとかモメゴトにはならなかったものの、これからはトルコから来たとは迂闊に言えないぞ。
なんてこったよ。
これがキプロスの現状。
トルコ側はひたすら貧しい。
ギリシャ側は信じられないくらい先進国。
そしてお互いにいがみ合っている。
これが、これがキプロスなんだ。
ビールで少し酔っ払ってるけど、まだ気持ちの整理がつかない。
しっかり見てやる。
キプロス編、スタート。