12月5日 水曜日
【クロアチア】 スプリット
目を覚した。
ここは電車の中。
窓の外はすっかり明るくなっていた。
寝ぼけまなこで窓の外を見た。
一瞬で眠気が吹っ飛んだ!!!
海いいいいいいいいいいいいいい
!!!!!!!!
久しぶりの海だああああああああいいいいいいあいあ!!!!!!!
デンマークぶり!!!!!!
何ヶ月ぶりだろう!!
ああああああ!!しかも連日の雨や雪が嘘みたいな快晴!!!!
ああああ、太陽の光は天からの贈り物。
晴れやかな気分!!!
しかもしかもだ、ただの海じゃない。
アドリア海なんだよおおおおあお!!!!
よくわからないけどロマンに溢れた名前!!!!
真っ青な海。海岸沿いに散らばる白と赤の町並み。
ああああああ、旅だよ。
旅を感じるこの瞬間にたまらない喜びを感じるよ。
さぁ、こんな美しすぎる海を持つクロアチア。
遅くなったけどクロアチアのミニ情報!!!
★言語……クロアチア語
★人口……450万人
★首都……ザグレブ
★独立……1991年 ユーゴスラビアから
★お金……クーナ
★レート……1ユーロ = 7.5クーナ
★人種……白人
★平均月給……7万円
★世界遺産……文化6件、自然1件
歴史としては、内陸部は中世にオスマントルコに支配され、海岸沿いのダルマチア地方はヴェネチア共和国という現在のイタリアのヴェネチアを拠点とした国に組み込まれていた。
その後はオーストリア・ハンガリー王国の領地となり、第一次世界大戦後は、ユーゴスラビアに参加。
その後は……前の日記に書いたとおり。紛争の嵐って流れ。
同じクロアチアでもザグレブを中心とした北部地域と、海岸沿いのダルマチア地方とは全然違う歴史、全然違う気候を持っているようだ。
そんなダルマチアを代表する都市がこのスプリットってわけだ。
電車を降りるとほのかに潮の香り。
さあ、どんな町かなー!!
スプリット探検開始!!
「宿あるよ、安いよ安いよ。」
お!!婆さんが話しかけてきた!!
笑顔で必要ないです、と断る。
しかし、さすがは観光地の客引き!!
簡単には引き下がらない!!
ずっと着いてきて横でひたすら、安いよ、オールドタウンからすぐ近くだよ、とまるで岸部露伴の背中に取りついたスタンドみたいに訴えかけ続けやがる。
いらないですから、ホントに、いらないんです、とちょっと冷たく断ると、やっと離れてくれた。
落ち着いたのもつかの間、間髪いれずにすぐ次のスタンドが取り憑いて来やがる。
うぜえええええええええええ!!!!!!
うぜっ!!!!
なに?!
背中見られたら死ぬの?!
ひたすら断り続ける。
「要らねえ、はいはい、要らねえって。」
「すごく安いんだよお。とてもいい部屋なんだよお。暖かいよお。」
ああああ、キレソウナほどウザい………
ほらほら、これ見てこれ見て、と何かバッグから出してきた婆さん。
見るとそれはハガキ。日本語で何か書いてある。
「私は◯◯に2日間滞在した者で。とっても優しい人たち、綺麗な部屋で素晴らしい思い出ができましたうんたらかんたら………」
ほらね、ニヤリ、みたいなドヤ顔をしてる婆さん。
だからなんだ?コノヤロウ?(´Д` )
それで親近感を持ってノコノコ着いていくと思ってんのか?日本人なめてんのか?
はいはい、頼むからもう着いてこないで、と言いながら歩き続ける。
婆さんがしつこく2人着いてくる。
観光地らしく、駅から町に向かう通りはファストフードや土産物屋さんが並んでいる。
お腹空いたのでテキトーにバーガー屋さんでハンバーガーを食べる。
15クーナ。
スロベニアからだけど、ユーゴスラビアに入ってからハンバーガーがものすごく美味くなってきたな。
肉汁がすごい!!美味しい!!
うまいなぁ、とハンバーガーを楽しんでる横で、俺が食べ終わるのを待っている婆さん。
こいつらなんでここにいるんだ?
立ち話でもしてるのか?
ハンバーガーを食べ終わって歩き始めると、見計らっていたかのように俺の前を歩く婆さん。
なんだよ、こいつ、まさかまだ諦めてねぇのか?と歩いていると、しばらくしてクルリと振り返った婆さん。
「ほら、そこがウチのホステルだよ。」
なんて高等技術を使いやがるんだ婆さん。
歩かせる手間が省けたってか?
無視して通り過ぎる。
その瞬間また違う婆さんがニヤニヤしながら近寄ってくる。
ああああああああ!!!?!
!
気が狂いそうだああああああああ!!!!!!
(海に叫ぶトロール)
「やっすいよおお。気持ちいいよおおお………あ!!」
走って逃げた。重い荷物を引きずってダッシュ。
婆さんもさすがに走ってまでは追いかけてこない。
これが有名観光地の洗礼ってわけか。アジアとかインドとかエジプトとか行ったらこれの10倍はすごいんだろうなぁ。
もっと確実に一瞬で諦めてくれる方法を編み出さないとな。
さて町ですけど…………
もう…………
たまんないよ。
これもんの
これもんの
これもん。
アドリア海って聞いてなんとくイメージする、美しい海と白と赤の町並み。
それがそのまんまここにある。
紅の豚が飛んでそうな町だよ!!
紅の豚、ちゃんと見てないけど!!
いやー、アドリア海の町って言ったらまさにここのことだよ!!
なんつー、綺麗な町なんだよ。
綺麗に整備された岸壁のハーバーには無数のカフェやバーが並び、パームツリーの間から真っ青な海が広がる。
城壁に囲まれた旧市街の中は、リアル迷路。
細い路地がこれでもかってくらい入り組んでる。
これこれ、窓の外に洗濯物ーーーーー!!!!!
これアドリア海っぽいよね。
旧市街の真ん中には、ギリシャの遺跡みたいな半分崩れた教会がある。
もともとこの旧市街というのは、城壁に囲まれた巨大な王宮であり、西暦300年代のローマ帝国の皇帝さんが彼の隠居先として建てたもの。
写真を見ると、その荘厳さにローマ帝国の力を見ることができる。
現在でも城壁や宮殿がかなり良い状態で残っており、町全体が素晴らしい遺跡となっている。
もうどこ見ても、ため息しかでない(´Д` )(´Д` )(´Д` )ハァー
観光客の姿も多い。
ここも世界遺産だよ!
でも路上パフォーマーの姿はない。独り占めってわけですか?
歩き回っていると、町の真ん中に古い門の残骸を見つけた。
ちょうど周りが囲まれ、まさに演奏をするためにあるような、おあつらえの空間。
上には屋根はなく、青空が空間を照らしている。
めっちゃいいじゃんここ?
いいかな?と思いつつ、そこで路上開始。
音が反響して気持ちいい。
そして人通りもバッチリ。
ドンドンお金が入っていき、人だかりができる。
美しいアドリア海の町で、歌声を響かせていることがたまらなく嬉しい。
「君はいいシンガーだ。私はそこでバーをやってるから夜7時に来てくれ。歌ってくれ。」
渋いおじさんが声をかけてくれた。
うおー、緊張のオファー。
でも今日の気分ならいけそうな気もする。
さらにさらに、
「素晴らしい!お腹空いてないかい?ご馳走するよ!!」
この町在住のイカしたミドルにピザ屋さんに連れて行ってもらった。
ピザを食べる時は必ずここに来るというお店。
天領うどん的存在!!
アドリア海は日本の湾と違ってとても綺麗らしく、魚がとても美味しく、みんな釣りが好きらしい。
おじさんももちろんそうで、彼は自分の船を持ってるらしく、休みの日には友達と島に出かけて釣りを楽しむらしい。
アドリア海の島でクルージング&フィッシングなんて贅沢すぎるぜ。
そんなアドリア海の海の幸たっぷりのシーフードピザをいただく。
まぁ、同じ海だし、そんなたいして変わりはないよ。
俺なんて美々津っていう浜育ちだぜ?
なめんなよ?
はっ!!!
あまりの美味さに危うくビリケンさんになるところだった。
とてつもなく美味しいですよね(´Д` )
暖かい太陽、輝く海、美しい港町、このシチュエーションもあいまって喜び10倍だ。
まぁ、観光地値段ということもあって1枚1000円くらいするけどね。
クソ高い(´Д` )(´Д` )
「俺も戦争に行ったよ。でも誰も殺してはいない。セルビアはこの美しい町を手放したくなかったのさ。」
ユーゴスラビア解体へ向かう独立運動。
それを止めるために起きたユーゴスラビア紛争。
その真実はクロアチアの持つ観光資源が生み出す莫大な観光収入を手放したくないがためのマネーウォーだとおじさんは語ってくれた。
さて、おじさんに案内してもらってスプリットの町を散策した後は、演奏のオファーをもらっていたバーへ。
ああああ、緊張するなぁ。
ノルウェーの悲劇はいまだ頭にこびりついたまま。
またあんなことになったらどうしよう。
誰も聞いてくれなかったらどうしよう。
怖い。
ガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガク(´Д` )
やってきたバーの名前は、
「ノーストレス」
な、なんて空気を読まない名前なんだ(´Д` )
ストレスたまりまくりなんですけど(´Д` )(´Д` )
夜7時に始めようとマスターが言っていたんだけど、時間になってもお客さんはゼロ。
ま、まぁこのほうが俺としてはやりやすいです(´Д` )
そ、そうだ、ビールを飲みたいです。少しでもリラックスを………
1杯28クーナ。280円。
高っけ!!!
ガクガクガクガクガクガクガクガクガクガク(´Д` )
さすが観光地ですね…………
さて、ビールを飲みながらテラスの横で歌う。
お客さんゼロからのスタートだったけど、歌につられて少しずつ人が寄ってきて、ちょいと飲んでくかみたいな感じで席が埋まっていく。
1時間もしたらテラスは満席に。
ここは中央広場なので周りにはいくつもカフェやバーがあるんだけど、お客さんが入ってるのはここノーストレスだけ。
サマーシーズンだったらどこも人が溢れかえるんだろうな。
とりあえず、仕事は出来たみたいだ。よかった。
おかげでビール、そしてダルマチア地方の郷土料理にもありつけた。
しかも聴いてるお客さんたちが、曲が終わるたびにチップをくれる。
ホント、歌やっててよかったなぁ。
路上で歌うだけで酒と飯にありつけるなんて。
芸は身を助ける。
3ステージ歌い、22時を過ぎると旧市街の中は人通りもなくなる。
マスターからお金を差し出されたけど、チップで充分稼いでいるので受け取らなかった。
そしてお店を後にした。
今日の上がりは350クーナと2ユーロ。
マスターありがとうございました。
ハーバーのカフェ街は、音楽がガンガン響き渡り、たくさんの人で溢れていた。
地元の人、リゾートで来ている人、みんな、みんな、楽しそうだった。
そんな喧騒を背に、歩き続け、路地裏を抜け、山に入った。
港の突端にあるこの小高い山。
きっと頂上から素晴らしい景色が見られるはず。
そう、明日の朝のためだ。
贅沢な野宿をするために階段を登っていく。
真っ暗な山の中の階段。
白い息をつく。汗ばむ背中。荷物が重い。
静寂の向こうから、ハーバーの喧騒が遠くで聞こえる。
向こうの方では出会いに満ちた賑わい。
俺が向かうのは1人になれる山の上。
どこまでもどこまでも登っていく。
こんなに高かったっけ………
テントを張れるような芝生はいくらでもあるんだけど、どうせなら頂上まで、どうせなら頂上までと夢中で歩を進める。
頭の中に何もなくなる。
ただ登るということだけ。
向こうの木々の間から夜景が見える。
ふと思った。
美々津で育った俺がクロアチアのアドリア海に面した港町、その港町を見下ろす小高い山の階段でぜーはーぜーはー言っている。
真っ暗な夜の中で。
なんかおかしかった。
しばらくしたら暗闇の向こうから物音がした。
ピタリと立ち止まって息をひそめる。
……ザッ………ザッ……
嘘だろ、こんな夜中にこんな山の中で人がいるわけない。
なのに人の足音が森の向こうから聞こえる。
息を殺して存在を消した。
ヤバいホームレスだったらどうしよう。
やり過ごさないと。
しかし足音はやまない。
向こうもこちらの存在に気づいていて、自分のことをアピールしているのか。
いつまでもこのままではいられない。
意を決して歩を進める。
森の中の足音に神経を集中しながら。
息を切らしながら登り続け、しばらくすると古ぼけた駐車場に出た。
ここが頂上か。
そこからさらに階段がのびていた。
あの先に展望台でもあるのか。
階段に足をかける。
その時、何者かの足音が音量を上げた。
近い。かなり近い。
そうか、この上の展望台に誰かいるのか。
しかしここまで来たからには頂上まで行くぞ。
ハローと挨拶すればきっと会話に持ち込めるさ。
……ザッ………ザッ……
音はどんどん大きくなる。
覚悟を決めて階段を登った。
そして真っ暗な展望台に出た。
ああ、なんだ。
これだったのか。
そこには巨大なクロアチアの旗が風にはためいてバタバタと大きな音をたてていた。