11月5日 月曜日
スタニスラバの朝は早い。
6時には起きて、キビキビと身支度をしている。
低血圧の俺は、ベッドで体を起こしてボーッとスタニスラバの動きを眺めていた。
7時に家を出た。
外は大雨が降っていて、うす暗い月曜日の空の下、通勤の人たちが傘をさして歩いている。
そうか、ここは首都なんだよな。
スタニスラバにバスターミナルまで送ってもらった。
決して慌てない、冷静で論理的な男。そしてとても優しかった。
再会を約束して、彼はテールライトを残して雨の街に消えて行った。
どこ行こうかなぁ。
離れたくないなぁ。
昨日のあの綺麗な日本人の女の人をデートに誘いたいなぁ。
って不法滞在者が言えるセリフじゃねぇ。そんなこと言ってないで早く進んでシェンゲンから出ないと。
二トラという町にバスが止まったのが9時。まだ朝の9時。雨は相変わらず降り続いている。この天気じゃ歌うことはできない。
んー、無駄に時間潰したくない。
こういう雨の日は移動にあてるのが1番!!
よし!スロバキア最後の目的地、バンスカースチャヴニツァにまで行ってしまおう!!
言いにくい!!!
スロバキアに行くならここは行くべきだよ、と近隣の国の人たちが言っていたんだよな。
そしてスロバキアの人たちも、みなあそこには行かないともったいないと言う。
先日のお巡りさんも、退去まで猶予あげたんだからこれでバンスカースチャヴニツァに行けるっぺ、と言っていた。
これほどまでに誰もが勧めるこの町。
どうやら世界遺産みたい。
はるか昔からの金の鉱山町として栄華を極めたところらしく、今でもその当時の名残を見ることができるだそう。
地図を見るとかなり田舎のようだが、チェコのチェスキークルムロフみたいに観光客がたくさんくる町なら稼ぐことはできる。
行っちまうかなー!!
が、バスの時刻表の見方が一切わからない(´Д` )
広いバスターミナル。30ヶ所もの乗り場があり、ひっきりなしにバスが到着しては出発している。
しかし、なぜかインフォメーションがない。自分で探し出さないといけない。
とにかく人に聞きまくる。
が、誰も英語を喋れない。
バスの運転手さんに聞いても、
「ニエ。」(Noって意味)
と冷たく言うだけで、あっちだよとも教えてくれない。
雨の中、バスからバスへたずねて回るが、みな首を振ったり、ニエと言うだけで相手にしてくれない。
無駄に時間が過ぎて行く。
時刻表の中に、かろうじてそれっぽいバスを見つけたのだが、5時間後。
イラつくなぁ………
ヒッチハイクするか?
しかしこんな雨の中、山に向かうヒッチはかなり難しい。
おとなしくバスで行こう。
時間を潰すために近くのカフェへ。
平日の昼間からダメそうなおっさんたちがあーだこーだ言いながらビールをあおっている。俺もビールを注文してダメ人間を楽しむ。
暇なので自分の写真を撮る。
中国人のチェックがくれたネックウォーマーは最近帽子の代わりになっている。暖かい。
14時になり、ようやく狙っていたバスがやってきた。
たぶんこのバスで行けるはず。
文武
「バンスカースチャヴニツァ。」
運転手のオヤジ
「ニエ。」
邪魔だからとっととあっち行って、と手で払われる。
……………くそがぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
ダメだ、チクショウ、わかんねぇ。
またその辺の人に聞きまくるが、やっぱり誰も英語喋れない。
あっちだよ。
向こうだよ。
そこだよ。
隣だよ。
2番だよ。
みたいなことをすべてスロバキア語で言ってくる。
俺が英語でお願いしますと言ってるのに、無視してスロバキア語で話し続ける。
俺が理解してるかどうかなんてまったく気にしてない。
途方に暮れる。
イラついて立ち尽くす俺をチラチラ見てくるスロバキア人。
ニヤニヤしている若者たち。
何がおかしいんだ?アジア人がそんなに笑えるのか?
イラつきをあおられる。
やってきたバスの運転手にまたたずねた。バンスカースチャヴニツァには行きますか?
「ニエ。」
冷たくそう言って追っ払われる。
ため息をつきながら、隣のバスの運転手にたずねる。
あ?バンスカースチャヴニツァ、そのバスだよ、ほら、隣の。
つい今、追っ払われたバスを指差すおっさん。
俺の発音が悪いのか?バンスカースチャヴニツァ、言いにくいんだよ。
戻ってもう一度、俺はバンスカースチャヴニツァに行きたいんだ、と言う。
「ア?違うっつってんだろ?」
ちょっと怒り気味に返された。
もう頭きた。
「あぁーー?!!そこの隣の運転手がこのバスがスチャヴニツァに行くって言ったんだよ!!何が本当なんだよ!!」
「違うって言ってんだろが?もう出発するから早く降りやがれ?」
バスはドンドン走り去っていく
それぞれの行き先へ
俺は一体どこに行きたいんだろう
町の名前は知っているけど
それが町なのかもわからない
人生は長いよな
わからないことはわからないままでいいさ
夜がきて ベッドライトが
白い息を照らした
次のバスに乗ったらどこまでいけるだろう
その後、親切なおばちゃんが俺のことを見かねて、誰か英語しゃべれる人はいないのねー!!と呼びかけてくれ、若い学生の女の子が名乗り出てくれ、バンスカースチャヴニツァ行きのバスを見つけることができた。
二トラからわずかに2時間弱の道のり。
料金はたったの4.5ユーロ。
夜8時、暗闇の山の中にバスは止まった。
ポツポツと外灯の光。
こ、ここがバンスカースチャヴニツァか…………
かなりのど田舎だな…………
岡山のばあちゃんちを思い出す。
忘れられた谷間。
この町は坂の町なんだな。平坦な道がひとつもない。すべての道がなかなかの傾斜の坂道だ。
山の斜面に広がっているのか。
バス停からしばらく歩いて坂を登っていくと、ポツポツとバーの灯りが並んでいる。
ここがメインストリートか。
人の姿は皆無。
先日、警察に捕まったときに日本語通訳をしてくれたエティさんが、バンスカースチャヴニツァに行くなら知ってるバーがあるから是非言ってみてよ、僕のツケで飲んでいいから、と言っていたんだが、そのお店の名前をまったく覚えていない。
町の規模の割にはバーがたくさんあってどれがエティさんの行きつけかなんて全然わからない。
とにかくWi-Fiを手にいれてエティさんに聞こうと、適当にその辺のバーに入ってみた。
「Welcome my friend♫」
落ち着いた雰囲気のこのお店。
とてもフレンドリーなマスターと常連さんで賑わっていた。
ピルスナーを飲みながらWi-Fiをつないでエティさんにメールをうつ。
「エティさんの行きつけのお店ってなんて名前でしたっけ?
ちなみに今アルハニエルってバーにいます。」
するとマスターのケータイ電話が鳴った。
電話を取るマスター。
そして俺にケータイを差し出した。
なんだ?と思いながらハローと言う。
「フミタケサン、ドウシテソコニイルノ?」
「へ?エティさん?なんでマスターの番号知ってるんですか?」
「ダッテソコガボクノイキツケデスカラ。」
…………奇跡ーーー!!!!
各国1回は奇跡起きてるな(^-^)/
てなわけで夜中まで常連さんたちと盛り上がって泥酔したってわけですね!!!
ここはスロバキアの山の中!!!