10月28日 日曜日
とうとう……
きてしまった………
雪ーーーー!!!!
結構つもってやがる!!
そうだよね。自然の摂理だよね。
氷点下になったら雪が降るんだよ。
でもまだ眠れる。
-2℃ならまだ眠れる。
素足を雪まみれにしながらテントをたたむ。
指が赤く染まり感覚がなくなり、ジンジンと痛む。
これがひどくなると凍傷になるんだな。
初めての外国の雪。建物の屋根、車、木々、みんな白く染まっている。
王宮の屋根にも、石像の頭にも。
雪を見るのは、2月だったかな?長野で遭難しかけた時以来だ。
あの時も鼻水ずるずるたらしながらスリップ防止の砂を巻いて峠から脱出したよな。
しかしヤバイ!!!
もう手足や顔にヒビが入りそうなくらい冷たい!!
そしてズボンが夏用のペラッペラした薄いやつなので風さんが入りたい放題で体温が奪われる。
通り過ぎる人たちがサンダル履きを見てギョッとした顔をしている。
たまらずいつものマクドナルドに飛び込む。
即トイレに駆け込み、手を乾かすドライヤーに足をかざす。
あー、あったかーい………
そこで歯と顔を洗い、コンセントで充電をし、Wi-Fi。
しかし、もうインターネットでやることは全部やっている。
歌わないといけないんだよなー。
あと30ズウォティしかないんだよなぁ。
雪も止んでるし、人通りは多い。
でも寒いから外に出たくないんだよなぁ。
どうせクラクフあんまり稼げないしなぁ。
でも歌わないとなぁ。
夜の兄さんのプロポーズ大作戦のために声出ししとかないといけないんだよなぁ。
でも寒いからなぁ!!!
サボりたいなぁ!!!
でもやる!!!
気合いで路上開始!!
うおー!!!寒すぎる!!!
弦を押さえる指が切れそう!!
体が震えて声がうわずる!!!
しかし気合い!!!
お金が入る!!
ジンクエ バルゾ!!!
(ポーランドのありがとうございます。ジンクエだけだとありがとう。)
寒いので動きまくりながらノリノリでやってたらどんどん人が集まってきて、2時間後にはいつの間にかすごいたくさんのお金が足元にたまっていた。
やっぱり楽しそうにやらないとダメだよな。
必死です!!って雰囲気だけじゃなかなか受け入れてもらえないもんだ。
あがりは102ズウォティ。
気絶するほど悩ましい並みに寒くて気絶しそうになり、マクドナルドに避難。
またトイレのドライヤーで体を温める。
18時。
ついに時が来た。
3日間待ちに待った、トーマスのプロポーズの時!!!!!!
木曜日の夜、路上で歌ってるところにポーランド人のトーマスが声をかけてきて、日曜日に彼女にプロポーズをするから、そこで歌って欲しいというオファーをもらっていたのだが………
どんだけ待ったと思ってんだーーー!!!!
よーし、きっちりやりきるぞ。
指定された場所に移動。
やってくると、そこはシェラトンホテルの前にある河川敷の遊歩道だった。
この日のために作戦を練りに練っているトーマス。もちろん彼女にはサプライズだ。
彼が送ってくれた手作りの画像によると、19時すぎにこの遊歩道に2人が現れるので、俺は近くのベンチでスタンバイ。
ひとけがなくなったところでトーマスが彼女の前に膝をついて結婚を申し込むので、それを合図に演奏開始という流れだ。
それにしてもイカした場所だ。
静かな河川敷。夜空にそびえる王宮。朧月。そして雪。
トーマス、こんなにロマンチックなシチュエーションないぜ!って寒すぎるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉわわわわわあわわ(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )
早く来てくれトーマスーーーーー!!!!!!
指が凍りついて動かないぞ。
ギターをケースから出して待つこと30分。
あ、死ぬかもしれない、ってところで、それっぽい人影が歩いてきた。
ていうか3日前に一瞬だけ話しただけなのでトーマスの顔覚えてないんだよな(´Д` )
地図のポジション1のところで立ち止まり、なにやらモジモジしてる。あれかな。
男のほうが彼女にばれないように俺に向かって手をあげた。トーマスだ。
よし!!!
ギターを抱える。
彼らが立ってる遊歩道と、俺の立ってるベンチの距離、5m。
なんだあのギター持ったやつ?って疑われない程度のほどよい距離。
俺も不審がられないようにチラチラと彼らをうかがう。
ひと気がなくなったら始めると言っていたトーマス。
ポツポツと散歩の人が歩いており、なかなか人通りが切れない。
早くしないと体が硬直して………
あ、途切れた!!
い、今しかない!!!
トーマスいけ!!!
モジモジしてキョロキョロしてるトーマス。
いけってばーー!!!!
ほら、また人来ちゃったやんか!!!
しかし、プロポーズだもんな。
男の一世一代の大仕事。そう簡単にはできないか。
よし!!もう誰もいなくなった。
周りにもどこにもいない!!!
そしてトーマス、彼女の前に跪いた!!!
演奏開始。
曲は「Wonderful tonight」
ベタでごめん(´Д` )(´Д` )
しかしこれがめちゃピタリとハマった。
静かな雪の夜にアコースティックのギターとハーモニカ。
今夜の君は素敵だ。
通りすがりのギター弾きが2人を祝福する。
彼女が顔を抑えて涙をぬぐっているのが見えた。
抱きしめてキスをするトーマス。
大成功だ!!!
そして曲調を変えてスタンドバイミー。
ベタすぎてごめん(´Д` )(´Д` )
気持ち悪いって言うな!!!(´Д` )(´Д` )
曲を終え、笑顔で近づいて来た2人。ホントにありがとう、素晴らしい思い出になったと喜んでくれた。
笑いながら涙をふいている彼女。
そして彼らはレストランへディナーに行くと、腕を組みながら王宮のほうへ歩いていった。
じぁねー!!(^-^)/(^-^)/(^-^)/
…………………
取り残された俺に凍てつく風がふきつける。
せ、せ、せ、切なすぎる(´Д` )(´Д` )(´Д` )
3日間待ってわずか10分で終了。
…………後悔なんてしてないさ!!
あんなに喜んでもらえたんだし、涙も見せてもらえた。
こんな遠い国のカップルのビッグイベントに参加できたんだもん。旅人冥利に尽きるってもんさ!!
しかし、寒い(´Д` )(´Д` )
はぁ、彼女と寝たいなぁ。
ぷよぷよしてあったかいんだよなぁ。
とにかくミッション完了!!
やっと先に進めるぞ!!!
お金はいらないよって言ってたけど気持ちを渡してくれたトーマス。
50ズウォティ。
そのお金を握りしめてスーパーマーケットへやってきた。
そしてこのスーパーで一悶着あった。
パンを買おうと選んでいると、警備員さんが俺のことをずっと見ている。
ヨーロッパのスーパーには、どこもだいたい警備員さんが見回りをしている。
日本みたいにお客に混じってカモフラージュして見張ってるんじゃなくて、これみよがしに屈強な男がジロジロ睨んでいるわけだ。
彼らの仕事は万引きの防止なんだろうけど、俺みたいに汚い格好をしているとよく目をつけられる。まぁよくあること。
しかし、今日はいつになく俺のことを見張っている。
どこまでもついてくる。
なんだよー、雪の日にサンダル履いてることがそんなに怪しいか?
パンを持ってレジへ行くと、その警備員さん、レジを通って入口のとこに先回りした。
お会計を終えてレジを抜けたら、やっぱりきた、俺の前にゴリラが立ちはだかった。
なんだよ?なんも悪いことしてないぞ?
小学生の時に地元の釣り具屋で重りと針を万引きしたのがばれたのか?
ゴリラは俺のポケットの中のチョコレートを指差した。
昨日よそのスーパーで買ったチョコレート。
はい?
これを俺が万引きしようとしてると思ってらっしゃる?
この100円もしない板チョコを万引きするようなミザリーな放浪者に見えると?
黒い服のポケットから赤いチョコレートを派手にのぞかせながら平然とレジを通り抜け万引きをするスチューピットに見えると?
面白すぎて笑えてきたのだが、しかし、よそで買ったという証拠がない。
しかも彼らは英語が喋れない。
俺の、悪いやつじゃないですアピール全開のアジアンスマイルで丁寧に説明するが、ゴリラはこのミザリースチューピットがみたいな険しい目でちゃんとレジを通しやがれと言ってくる。
おいおい、冤罪で余分な金払わないといけないのか?
100円くらい別に構わないけど、万引き野郎のレッテルはたまらんぞ?
そんなめんどくさいやり取りをしているところに、向こうの方のレジのおばちゃんが何か言った。
なんて言ったかわからない。
けどその瞬間、ゴリラはすっと俺の前からどき、出口を指差した。
行ってよし、みたいに。
おばちゃんなんて言ったのかな?
彼、入ってくる時にそのチョコレート持ってたわよ、みたいなことだろうな。
それにしても、チョコレート万引き野郎扱いしといて、なんだその態度!!
日本だったら土下座もんだぞ?
まぁ、トーマスに免じて許してやる!!
旧市街に戻ると、この霧さえ出ている極寒の夜にもかかわらず、たくさんの人が歩いている。
火のついた棒を使ったジャグリングに人だかりができている。
あんた正直ね(^-^)/
気になっていたご飯屋さんへ入った。
100gで3ズウォティというお惣菜屋さんなんだけど、ここめちゃいいやん!!!
色んなあったかい料理を選び放題!!野菜も食べられる!!
そしてこのプレートで、14ズウォティ。安い!!!!
ミートボールの煮込みやピエロギなんかの郷土料理も食べられる。
最初からここに来とけばよかったなぁ。しょうもないアジア料理屋で焼きそばばっかり食べてたな。
あー、お店から出たくない。
出たくないよーーー!!!!
だって外は小雪の舞う-3℃の極寒地獄。
こんな夜にテント泊なんて出来るのか?
いやいや、植村直己はたぶん-40℃とかで寝てたんだよ。南極で。
これくらいいけるよな。
今日も川沿いの公園にテントを張り、霧の立つ川で手足を洗い、根性で寝袋にもぐりこんだ。