9月3日 火曜日
ゆうべ、お店から帰る時、たくさんの人たちとハグをした。
日本人らしくハグには抵抗があったけど、こんなにいいものとはな。
抱きしめるたびに心から優しい気持ちになれる。
「明日船に乗るの?!ダメだよ!もうこの島に住めばいい!」
みんな別れを惜しんでくれた。
今日もモニカの家で目を覚ます。
シャワーを浴び、洗濯された服を着る。
そしてモニカに町まで送ってもらった。
「フミ、この家はあなたの家、私はゴットランドのお母さんでサディアはあなたの妹よ。必ず戻ってきてね。それまで美しくゴットランドの自然を守ってるから。」
こんなにおだやかな町。だけど、相変わらず北部の森では女傑たちによる座り込みが行われており、今日の夜か明日の朝には森林伐採用の大きな重機がこの島に船で運びこまれるらしく、反対派の人々にとっては、依然予断を許さない状況が続いている。
きっと数年で、歩み寄った妥協案と強引な工事で、森は海は汚されるんだろうな。
権力の前に民衆の声はいつだって無力だ。
美しい城壁、廃墟の教会、石畳の路地、そしてたくさんの音楽。
ゴットランドが俺を誘った理由がわかった。
毎日毎日が素晴らしかった。
俺はここに来ないといけなかった。
船に乗りこむ通路から島を振り返ると、赤い屋根の家並みが見える。
魔女の宅急便のモデルなんて今ではどうでもいい。
それをかき消すほどの出会いと風景を手に入れたから。
これからも、この広い世界にそんな場所を見つけたいな。
モニカ、ありがとう。
21時、フェリーがオスカシャムの港に入った。
チケットは271クラウン。
ニュネスハムンからゴットランドに渡ったのと同じ金額だ。
夕闇迫る見知らぬ町。
右も左もわからない。
1つわかっていることは、南に下るには海を左側に見ながら歩けばいいということ。
ひたすら歩き続けた。
ほんの小さな一歩。世界一周にとってはこの一歩なんてミジンコほどのもの。
でも間違いなく前に進んでいるんだ。
歩かなければ、辿り着かないんだ。
途中、建物の影で缶詰とパンを頬張る。アスファルトがお尻を冷やす。
サバ缶うめっ!!
でもやっぱり地べたで食事ってのはあんまりいいものじゃない。
そしてしばらくしたら、国道の立体交差点が暗闇に浮かび上がった。
よし、明日ここからヒッチハイクしよう。
立体交差点の橋の下、草に埋れて寝袋にくるまる。
蚊が多い。
そういえばゴットランドにはほとんどいなかったなぁ。
寝袋の中に入って口を全部閉めると、暑くて死にそうになるので顔だけ出していると、蚊の餌食。
あー、早急にテントが欲しい(´Д` )
上着を脱いで、顔にかぶせて目をつぶった。