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パーティは橋の下

7月28日 土曜日


寒すぎるぞ………

宮崎の真冬並みの寒さの中、モゴモゴと寝袋から這い出した。

しんしんと冷たい雨が降りしきるトロムソの町。

今日もユーロスパーでお惣菜を買い、パンと一緒に食べる。
美味い。


いつもの場所で路上開始。
俺がやっている場所はちょうどメインストリートの真ん中あたりで、しかもひさしが出ていて雨の日でもやれないことはない。
こんな天気でも人出はまぁまぁ。

そしてコジキさんたちもたくましい。
雨が降ってるにもかかわらず、ひさしの下じゃなく、雨モロかぶりで地面に座って物乞いをしている。
ただでさえこんなに寒いのに死ぬぞ?

見ているとコジキさんたちにも色々種類がある。
地面に座って紙コップを前に置いているだけの人、日本にもよくいるホームレス支援の小冊子を売っている人、下手だけど楽器を奏でている人、みなノルウェーの人ではないみたいだ。
どういう風に流れてこんな最果ての町まで来たんだろうな。
人生は不思議だ。


今日も喉の調子がよく面白いようにお金が入る。
たくさんの人が話しかけてきて、ノルウェーの言葉を教えてもらったり、情報を聞いたり。

そこに1人の女の子が話しかけてきた。

女の子
「今日パーティがあるんだけど、よかったら来ない?」



きたーーーー!!!

こういうのそろそろ欲しいなと思ってたんだよー。

行くに決まってるじゃないか!!


どうやら島の反対側にかかってる橋の下で行われるらしい。
レイブ的なものかな。

何を歌おうかなー、とドキドキしていると、その女の子、エレナが仲間を連れて戻ってきた。
みんなで車に乗りこんで、いざパーティへ。


photo:01



あー、こういう感じなのね……
たどりついた大きな橋の下にはホームレスの人たちがたくさんいて、火をおこしていた。

あ!!みんな町で物乞いをしてた人たちだ!!

町ではあんなに哀れそうに寡黙にしていたみんなが、ここではとても明るく和気あいあいとしており、俺を見つけると、マイフレンド、マイフレンド、と椅子を用意してくれた。


どうやら彼らはルーマニアから来ているようで、季節ごとに金を稼げる場所に移動してはこうして共同体を作って暮らしているようだ。
そういえばフィンランドのオウルにいたアコーディオン弾きも、各都市にいた楽器弾きもみなその国の人ではなかったな。
こうした人たちのことをジープスというらしい。
ジプシーのことだな。
食い扶持を探して豊かな場所に移動する遊牧民だ。
ということは俺も同じジプシーだ。

ていうかそんな人たちのコミュニティなのにベンツがとまってるのはどういうことだろう?


photo:03



エレナたちが持ってきた食糧を切り分け、みなに配る。
ジープスの人たちもウィンナーや魚を焼いてもてなす。
ポツポツと地元の方達が食糧を持って来ては、会話を楽しんで帰っていく。
こうした支援を行う人たちがたくさんいるんだろうな。

俺もウィンナーや塩ゆでしたエビにありつく。美味い!!
ノルウェーの食べ物おいしい。

photo:02





そして焚き火を囲みながらたくさん歌った。みんな喜んでくれる。
1人の陽気な老人がハーモニカを吹いて合わせてきた。
ハーモニカのコードがCなんだけど、すべての曲にCで合わせようとしてくるから不協和音になるのだが、そんなことはお構いなし。
楽しけりゃOKなんだ。
黒ずんだ指、顔に刻まれた深いシワ。おじさんはステップを踏んだ。おどけてステップを踏んだ。
橋のしたにみんなの歌声と調子外れのハーモニカが響いていた。

photo:04




しばらく楽しんでから帰ることに。
みんなにありがとうと挨拶して回る。

文武
「ほんと、ありがとうございました。ウィンナーすごく美味しかったです。」

ジープスのおじさん
「グッド、グッド。プリーズマネー。」




金とるんかい!!
しっかりしてやがる。

まぁ彼らも国には家族がいるんだろう。
50クラウンを払うと、おじさんはウインクして親指を立てた。


みんなでアイレックの家に移動し、ティータイム。
彼らはノルウェー中から集まった有志たちで、中にはポーランドから来てる2人もいた。
またそのポーランド人の女の子が妖精みたいに可愛いんだよ。
メルアドを交換したので、ポーランド編で登場してもらうのでお楽しみに。


こうしてみんなで会話を楽しんでいると自分の英語力の無さが悔しくてたまらない。
なんとか簡単なことなら話せるんだが、少し難しくなるとてんで理解できない。
今一ヶ月。
三ヶ月で聞き取れるようになって、半年で結構話せるようになるっていうけど、ほんとに話せるようになるのかなぁ。焦る。


エレナが泊まるところも提供してくれ、そこに荷物を置いて町に繰り出した。
今日はエレナの23歳の誕生日。
さっき日付をまたいで彼女は新しい歳になった。

トロムソの町は相変わらず昼間のように明るいままだが、様子は一変。
いたるところからウーファーの重低音が響くクラブ街へと変貌しており、たくさんの若者たちが歩いている。
そうか、今夜は土曜日なんだな。
そしてなんとそこには、さっきまで島の反対側にいたあのジープスたちが酔客相手に安っぽい帽子を売っていた。
彼らは働き者だ。

photo:05




みんなと一緒に石造りの建物の中にあるクラブへ入った。

轟く爆音とレーザービーム。
DJがホールを盛り上げている。
入場料は60クラウン。750円くらいか。これは安い。
ビールがグラスで66クラウン。800円くらい。
わからない金額ではない。

しかしタバコを買いに外のコンビニみたいなとこに行ったんだが、これがヤバイ。
1番安いタバコが86クラウン。
1100円だと?
なめてるにもほどがある。
しょうがなく10本入りのタバコを買った。

クラブの中でアイレックと話していると、たくさんの人が、あなた昼間に通りで歌ってたでしょ、あなたの声すごいわ!と声をかけてくれる。
色んな人が酒をおごってくれた。
レーザービームの中、魚のようにゆらめく人影。それに誘われ俺も魚になった。


だいぶ酔っ払ってクラブを這い出し、やっと帰れるかなと思ったら、エレナとアイレックが家とは反対の港のほうに歩いて行く。

どこにいくんだろうと、フラフラしながらついていくと、彼らは岸壁に係留されている一隻のクルーザーの中に入っていった。

カモン、フミ!

恐る恐る船に渡り、船底への階段を降りていくと、なんとそこには高級そうなサウナルームがあり、数人の先客が裸で板張りのスペースに寝転がり、シャンパンを飲んでいた。

薄暗い明かりの中、みな平然と服を脱いで丸裸になった。乳房も股間もおしげもなくさらけだしているエレナ。
俺も裸になり、奥の扉を開けてサウナに入った。

そこはスチームサウナになっていて、薄明かりなので、ほんの50cm先も見えない。
エレナとアイレックとシャンパンを回し飲む。


なんなんだ、この一日は。
色んなことがありすぎてもう、よくわからない。
今日の出来事やここがどこなのかさえ、酒とスチームでぼやけている。


スチームの向こうからカップルが下品な行為を始め喘ぎ声が聞こえてきて、気分が悪くなったところで、エレナたちが、外に行こうと言った。


階段を上がりデッキに出た。
凍てつく朝の空気で顔が痛い。
静かな入江の海には波ひとつなく、対岸の家並みをうつしている。
北極圏の小さな町にウミネコの鳴き声が小さく聞こえた。どこにも行けない悲しみをしみじみ歌うように。

photo:06





フミ!行くよ!


エレナが船の見晴らし台みたいなところで海に飛び込もうとしていた。
おいおい、嘘だろ。気温何℃だと思ってんだ。周りの山には雪が残ってる。本気で死ぬぞ。


慌てる俺を尻目にエレナはタオルを脱ぎ捨て、白魚のような体を宙に踊らせた。

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